第十七話「次元の覇者」
「まだニィ達は戻ってきていない?」
「ええ。まだ戻ってきていないのよ」
異世界から誘われた者達を全員無事に保護した俺達は、一度マンションへと帰宅していた。しかし、肝心のニィ達がまだ戻ってきていないというのだ。
あれから、ティッタやクルスさんに捕まり、なんだかんだで一時間半ぐらいは経った。彼らの保護時間を合わせて二時間ほどだったはずだが……まだ戻ってきていない。
気になった俺は念話を繋げるも反応がない。
もしかすると、次元の狭間にいるか念話がうまく繋がらないのだろう。
かなり心配だが、こんな時の場合もちゃんとどうするのか話し合っている。
「ともかく、ニィ達が戻ってくるまではまた新たに誘われるかもしれない異世界人達を迅速に見つけ保護するのが、俺達の役目だ。頼んだぞ、皆」
「うん。任せて! って言いたいところだけど」
「あたし達、明日から学校なんだよね……サボっちゃおうかな、久しぶりに」
「だめだよ、リリー。この時期にサボるのは。受験に響く可能性があるよ?」
「うぐっ!? そう、でした……」
今日は、日曜日。休みの日にわざわざ協力してくれた高校生三人。だが、明日からは、月曜日。平日なため三人は学校へと通わなければならない。
それに、三人は今年で高校三年生。あまり、受験に響くようなことは避けなければならない。ただでさえ、よくサボっていたのだから。
それにしても、今の三人からは想像できないよな。
元不真面目な学生達だったなんて。
リリーは、母親の昔の話を聞いて試しに真似をしてみようということでやっていたらしい。だが、意外と楽しくなり、親友の華燐を巻き込んで今まで過ごしてきたらしい。
まあ、華燐も華燐で色々理由があったらしいが、親友を見捨てられないと付き合っていたとか。とはいえ、サボり始めたのは有奈と付き合うようになってかららしい。
最初は、夜遊びから初め、次第に学校をサボるようになった。それまでは、三人とも真面目な学生だったらしく先生達も、驚いていたようだ。
「大丈夫だ。ここは俺達に任せてくれ。三人は、何も心配せず学校に通ってほしい。将来のためにな」
将来、か……。
自分で言っておいて、自分が一番将来をどうしようかと悩んでいたり。いや、天宮家から誘いがあるから大丈夫なんだけど。
でも、それで良いんだろうか。これまでは、なんとかなってきたけど。もっと先のことを考えると。
「刃太郎? どうしたの?」
と、つい考え込んでしまった俺の顔を覗き込む舞香さん。
「あ、いや。なんでもない。ともかく、今日はお疲れ様。後は、帰ってゆっくり休んでくれ」
こうして付き合ってくれた皆を一度帰宅させた。
残ったのは、俺と有奈、それに舞香さん。
「……なんだか、三人になるのも久しぶりね」
しばらく静寂に包まれていた中、舞香さんが切り出した。
俺と有奈も、舞香さんの言葉に小さく笑う。
「確かに、そうだよね。ニィやリフィルさんがここに住むようになって、今まで以上に騒がしくて、すごく楽しかった」
いつも、リフィルがぐーたらしているソファーに腰掛け、有奈は呟く。ニィ達が来て、まだ一年も経っていないが。
なんだか、ずっとこのマンションで一緒に暮らしていたように感じている。
「こんな時でも、ニィちゃんは掃除も洗濯も完璧なのね」
「すっかり、あいつはここの家政婦になっているな」
「……お兄ちゃん。ニィ達、大丈夫だよね?」
静かな空間の中、有奈の問いかけに俺は。
「ああ、きっと大丈夫だ。なにせ、あいつらは神様だ。今はただ作業に没頭しているだけだろう。きっと、帰ってくる」
「そう、だよね」
帰ってくるよな。ニィ、リフィル……。
・・・☆・・・
「ふう。大体の形ができてきたのです。これは、ハロウィンやクリスマスの時と違って結構疲れるのです」
「まあ、今回はあたしも手伝ってあげているんだから。少しは、楽でしょ?」
「そういうなら、もうちょっと作業効率を上げたいのです。真面目にやっているのですか?」
「やってるわよ。ただ、空間生成なんてほとんどやったことがないから不慣れなだけよ」
一時的な異世界人達の保護場所を創ると決め、作業すること一時間半。
今までやってきた空間生成とは違い、ほとんど小さな世界を創るようなもの。創造神オージオの力をいくらか受け継いでいるとはいえ、やはり難しい。
今までは、そこまで長い時間存在するものではなく、更に時間もあり楽しく創っていた。しかし、今回は全然違う。
かなり長い時間存在し続けるため、耐久力も本格的に上げ、更にあまり時間も無いし、楽しむことなど微塵も感じることは許されない。
「オージオ様とグリッドくんは、今なにを?」
「確か、ヴィスターラのほうにも次元の歪みがいくつかあったらしくて、そっちを片付けてからこっちに来るって」
それまで、二柱でなんとかしなければならない。
「そろそろ二時間が経とうとしているのです。刃くん達も、無事保護を終えて帰っている頃。こっちも早く終わらせるのです」
「そうね。さっさと終わらせて、やり残したイベントをやらないと」
大体の形はできてきている。
後は、細かい作業を片付ければ。ニィーテスタとリフィルは、やろう! と気合いを入れ、神力を高め目の前に真っ白な球体に手をかざす。
が、そんな時だった。
『お二方!! そこから離れてください!!!』
突然、次元の管理者の焦りの叫びが聞こえる。
「もう遅い」
とても、とてもドスの効いた声が聞こえたと思いきや、次元ホールがニィーテスタ達の背後に開く。
そこから現れたのは、漆黒の鎧。まるで、次元を引き裂いているかのように次元ホールを広げ、その巨体を露にする。
「何なのですか、あなたは」
「まあ、十中八九次元ホールから誘われた奴。そして、敵でしょうね。もう、雰囲気からして味方じゃないわ:
「その通りだ。異界の神々よ。我は、次元の狭間を行き来し、様々な世界を滅ぼしてきた次元の覇者シュバイトである」
どこからともなく、身の丈よりも長い大剣を手に取り軽く振るう。すると、空間が切り裂かれてしまった。
『あなたのことは、知っています。数々の次元を身勝手に破壊している厄介者だと』
「ちょっと、あんた。怪我してるじゃない」
後から会われた次元の管理者の腕から血が流れていた。どうやら、目の前にシュバイトという次元の覇者にやられたのだろう。
「……あなた。神なのですね」
「ほう、さすがであるな」
「神様が、世界を破壊して次元を回っているっていうの? なによそれ。あんた! 何がしたいのよ!」
「簡単なこと。必要のない世界を破壊するのだ。次元を安定させるためにな」
「どういうことよ」
リフィルの問いに、治療を受けた次元の管理者が口を開く。
『……今も尚、世界は増え続けています。そして、増え続ける度に次元に影響を及ぼしているんです』
「そうだ。このまま世界が無駄に増え続ければ、次元は崩壊する。そうならないように、我が無駄な世界を破壊し、バランスを調整しているのである」
バランスの調整。
本当にそうなのか? ニィーテスタ達は、シュバイトの言葉に疑問を浮かべる。
「本当に、バランス調整のために、なのですか?」
「そうだと言っている」
「じゃあ、なに? あんたがここに来たってこと」
「そうである。この次元の世界。つまり、地球は愚かな世界だと認定された。バランス調整のために破壊する」
大剣を振りかぶり、シュバイトは宣言した。だが、そんなことニィーテスタ達が許すはずが無い。神力を最大限にまで高めた彼の前に立ちはだかる。
「させないのです、そんなこと!!」
「そうよ!! あんたの身勝手な考えで、破壊なんてさせないわ!!」
「愚かな神々よ。邪魔をするならば、お前達も……破壊するっ!」
押さえ込んでいた力が、爆発するように解放される。
押し寄せるこの威圧。
同じ神々とはいえ、桁が違う。だが、ここで引くわけにはいかない。何がなんでも、地球は……破壊させない。




