第十六話「知りたがる天使」
寒くなったからなのか。
中々、ネットが繋がらず大苦戦。
刃太郎達が、異世界人を回収している中。
ニィーテスタ、リフィルは次元の管理者と共に今後どうするのかを話し合っていた。そして、話し合いの結果。
「やはり、これしかないのです」
『はい。私も、それしかないとずっと思っていました』
「とはいえ、大変よ? これはあたし達だけじゃ、実現は無理ね。オージオ様の協力も必要だわ」
いつものなまけているリフィルとは違い、今は神様モード。
真面目な表情で、自分達の周りにある次元ホールの数々を見渡す。
「わかっているのです。ですが、迷っている暇は無いのです。こうしている間にも、次元はどんどん広がり、色んな世界の住人を誘おうとしているはず」
『次元ホールを感知しては、それを塞いでいますが。やはり、一人では間に合いません。なので」
「それを補うために、まずは」
「……そうね。まあ、小さいのならあたし達にも創れるでしょ」
ニィーテスタ達は、次元の修復に集中するため。それを補う空間を創ることにしたのだ。次元の穴は、数え切れないほどある。
さすがの、神様や次元の管理者でも、追いつかないときがある。
その間に、異世界から多くの者達が誘われるだろう。
それを防ぐために、一箇所に集める空間を創ろうというのだ。次元の管理者の協力の下、誘われる者達をニィーテスタ達が創った空間へと誘導させる。
これにより、地球中を回り回収をせずに済む。
だが、いくつか問題がある。
『それにしても、これだけの大掛かりな修復作業は初めてです』
「私達も協力するのです」
ボロボロになった次元の修復。これだけ大掛かりな修復は、長年次元を管理してきた彼女でも、骨が折れると言うほどだ。
いったいどれほどの月日が流れるのか予測ができない。
その間に、どれだけ異世界から誘われるか……。
「一応、百人近く収納できる空間を創るつもりなのですが」
「あたし達じゃ、それぐらいが限界よ。もっと大きくするには、創造神の力じゃないと無理よ」
ある程度の広さがある空間はニィーテスタ達だけでも創れる。しかし、それ以上のものはさすがに創造神の力なくしては不可能なのだ。
これから誘われる者達が、多くないことを願いニィーテスタ達は作業へと取り掛かった。
・・・★・・・
「まさか、三人目が日本にいるとはな」
正確には、日本に移動したが正しい。
俺達がハワイに行っている間に、移動したようだ。すぐに俺達は日本で探していた有奈、華燐と集合し、誘われた三人目の下へ来たのだが……。
「おお! これは素晴らしい建造物です!」
呑気に京都観光をしていた。
見た目だけなら外国人が日本の古き建造物を見て感動していると思われているだろうが……。実際は、少し違うのだ。
普通の人達には見えていないだろうが。
俺には見える。
いや、俺だけじゃない。神力を持った今の有奈やリリーにも見えているはずだ。
「あれって翼ですよね?」
「でも、他の人達は全然気にしていないみたいだけど……」
それもそのはずだ。
あの翼は、普通の翼ではないのだから。獣人のエリファとは違い翼の輝きが違う。そして、明らかに頭の上にはニィでもう見慣れた光の輪が浮いている。
この特徴から、彼はおそらく。
「天使か……ふん忌々しい」
そう天使だ。
魔族であるロッサが嫌がるのは無理もない。神や天使が放つ光は魔族にとってあまり良いものではないからな。ニィは、普段から押さえ込んでいるが、彼の場合は全然押さえていないのでロッサは光を避けるために、現在俺の陰に隠れている。
まあ、それでも俺は近づいていくけどな。
「すみません。少しいいですか?」
「ん? 私ですか?」
京都の金色のお寺に感動していた、金髪の男性へと話しかける俺。
これまた真っ白な服に、少し垂れた青い瞳がなんとも優しい人を表している。
「あなた方は……」
俺達を、じっと見詰めた後、表情を変える。
先ほどまで、子供のような笑顔だったのが今では引き締めた真剣な表情となっている。そして、そのまま俺の背後へ視線を向けた。
「奇妙な方々ですね。普通の人間のように見えますが。神々の力を感じます。それに、あなたの背後に隠れている少女。邪悪な気を感じますが……まさか」
「……その辺りに関しては、場所を移動して話しませんか? ここだと目立ちますから」
俺の提案に、男性は周りを見渡し、わかりましたと頷く。
こうして、俺達は、人気の無い場所へと移動した。
念のために人払いの結界をロッサに張ってもらっている。
「まずは、自己紹介を。俺は威田刃太郎って言います。そして、こっちが俺の妹の有奈。その隣が、リリー、華燐。最後に、俺の後ろにずっと隠れているのがロッサです」
「我は、バルトロッサだ。今は、ロッサと名乗っているがな。覚えておくが良い、天使よ」
「これはご丁寧に。私の名は、クルスです。……それにしてもやはり、私が天使だというのを見破っていたんですね」
本来ならな、神力は簡単には感じ取ることはできない。
だが、同じ力を持っている天使や神ならば可能だろう。
とはいえ、相当強い神力を持っている者ならば、感じさせることすらできないだろうが。
「そちらも、よく俺達が普通の人間じゃないことを見破りましたね。さすがは、天使」
「いえいえ。私など、まだまだ見習い。日々修練、勉強の日々です。今日も、いつものように先輩方に教えを請うために、張り切っていたのですが……」
「謎の黒い穴に吸い込まれた、ですか?」
有奈の言葉に、一瞬驚くもはいっと頷く。
「あなた方は、あの穴について何か知っているようですね」
「はい。実は」
説明慣れたことを、クルスさんに説明すると。
「なるほど、次元が……。ということは、これからも私のような被害に遭う人達が増える、ということですか。解決策は?」
「今、俺達と友達に神様達、それに次元の管理者が奮闘している頃です」
「神様が友達、ですか……面白い方々です。私なら、恐れ多くてそのような言葉は言えませんし。考えることなど」
それはそうか。神様は普通、崇められる存在であり、友達という親しい関係になれるような存在じゃないしな。
とはいえ、あの二柱を今更崇めるのも……ちょっと難しいよな。
「それで、どうでしょうか? 私達と一緒に来てくれますか?」
「もちろんです。断る理由もありませんから。ですが、ひとつだけお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんですか?」
俺達の視線が集まる中、クルスさんが口に出した願いとは。
「この世界にある歴史が記された書物を拝見してもよろしいでしょうか? ここが異世界だと知り、私はわくわくが止まらないのです!!」
「あ、あはは。歴史好き、なんですね」
と、これには有奈やリリー、華燐の三人は苦笑。大人しく、ふんわりとした雰囲気の人かと思いきや、という反応だ。
「ええ! 歴史もそうですが。私は自分が知らないことをどうしても知りたくなる性分でして! 異世界というのであれば尚更です!! 皆さんは、わくわくしないのですか? 未知! 自分の知らない知識、もの、景色!! 私は、想像だけでもとてもわくわくしますよ!!」
歴史オタ、というか知りたがりなんだなこの人は。
まあ、そういう人は結構いるし、別に特殊ではないかな。なにはともあれ、これで三人を無事に保護することができた。
後は、ニィ達のほうだが……どうなっているんだろうか。




