第十二話「誘われる異世界の者達」
二月もそろそろ中旬だ。
三月になれば、春の兆しが見えてくる。そして、そのまま四月になれば学生達は、社会人は新たな生活が始まる。有奈達も、四月になれば高校三年生だ。
高校生でいられるのも、あと一年。
進路を決めておかなくちゃいけない時期だ。とはいえ、今のところは三人仲良く一緒の大学に行くつもりだと言っている。
大学は御夜さんも通っている大学で、御夜さんは仲良しの三人が入ってくれるならすごく嬉しいと喜んでいたっけな。
そして、俺だが……結局学生に戻ることは無かったな。
まあ、正直今更って感じもするし、周りからはもう二十歳だと思われているし。でもまあ、学校か。今でも青春はしているほうだと思うけど、こうして考えると懐かしいっていうか恋しくなるって言うか。
「ん? あれは」
アルバイトの帰り道に、そんなことを考えながらふと公園を見ると奇妙な子が視界に入る。
明らかに、周りの人とは容姿が違う。
頭には獣耳を生やし、尻尾まで生えている。なによりも、服装がまだ寒い時期だというのに薄く、しかもボロボロだ。
髪の毛の色も緑とかなり目立っている。
通行人達も、ちらちらっと見詰めていたり立ち止まっては話しかけていくが、首を傾げている。どうやら、言葉が通じていないようだ。
しかも、怖がっているように見える。
俺も、気になりその小さな女の子へと声をかけた。
「どうしたんだ? こんな寒い時期に。寒くないか?」
まず、マフラーを取り俺は女の子へと巻いてやる。
最初は不思議そうにマフラーを触ったり、見回していたが温かいと感じたのか笑顔を浮かべた。
「―――!!」
やっぱり何を言っているのかわからない。だが、確実にありがとうと言っているのだろう。
更に、手袋に上着も着せてやり、これで寒さ対策は万全。
俺は、火属性の魔法で体を覆えばそれほど寒くは無い。とりあえず、ここだと目立つし……そう思った俺は女の子に背を向ける。
すると、笑顔で俺の背に抱きつく。
そのまま移動しつつ、俺は念話でニィへと連絡をとる。
『はいなのです。念話ということは、緊急事態ということなのですね?』
『さすがニィだ。実は、この世界の住人じゃないと思う子を保護したんだ。言葉が通じないから、ヴィスターラの住人じゃないのは確かなんだ』
もしヴィスターラの住人ならば、俺は会話できるはず。
それができないということは、ヴィスターラではない世界の住人になる。ただの外人なのかもしれないが、明らかにこの耳は作り物じゃない。
尻尾も、普通に生きているように動いている。
『了解なのです。今そちらに行くのですよ。あっ! リフィル! つまみ食いはだめなのですよ!!』
『えー、だってお腹減ったんだもん。少しぐらいいいじゃなーい』
『だめなのです! これは心配なので、リフィルもついてくるのですよ!』
『やだー、こんな寒い時期に出るなんて無理っすわー』
『行くのですよ』
『……はい』
やはり、リフィルはニィには敵わないようだ。その後、俺は集合場所を指定し、そこへと向かう。
集合場所は、天宮家が経営している飲食店。
ここなら事情を話せば、なんとか取り合えってくれるはずだ。店員に事情を話すと、奥の部屋を使ってくださいと許可してくれた。
俺と女の子がその部屋に入ると、すぐに。
「お待たせなのです」
「あー、よかった温かいところで」
ニィとリフィルが次元ホールを使って現れる。女の子は、突然現れた二人にびっくりして俺に抱きつくも、頭を撫でることで落ち着かせた。
「その子が、問題の言葉は通じない子なのですね?」
「……確かに、地球ともヴィスターラとも違うマナの流れを感じるわね」
「さすが、一応神様」
「一応ってどういうことよ!」
「―――!?」
「こらこら。あんまり怒鳴るなって、怖がってるだろ」
ぐぬぬ、と口を閉ざすリフィルを退かしニィが女の子に近づいていく。だが、現れ方があれだったのでまだ怖がっているらしくしがみ付く力が強くなっている。
「大丈夫なのですよ。あなたに危害を加えるつもりは無いのです」
そう宥めながら、ニィは手をかざす。
青白い波動が女の子を包み、ニィが手を離す。
「これで通じるのか?」
「はいなのです。言葉の境界線をちょちょっといじったのです」
「境界線?」
ニィの言葉に、女の子が反応した。よかった、言葉がわかる。
「初めまして、俺は刃太郎っていうんだ。よかったら、君の名前。教えてくるか?」
「てぃ、ティッタ」
「ティッタ。困惑していると思うけど、君の話を聞きたいんだ。いくつか質問するけど、いいか?」
俺の問いかけに、小さくだが首を縦に振る。
とはいえ、まだ俺から離れてくれない。
「ありがとう。それじゃ、まず君の世界はなんていうか知っているか?」
「リブラナ」
やはり、聞いたことが無い。
「それじゃあ、次にティッタはどうしてあんなのところにいたんだ?」
「森をお散歩していたら、突然く、黒い渦が出てきてそこに吸い込まれちゃったの……」
黒い渦……おそらく次元ホールだろうな。コトミちゃん達が見つけた時は、まだ繋がっていなかったようだがこの子は。
ティッタは、吸い込まれてしまい地球に迷い込んだ、ということだな。
「……」
最後に、お父さんやお母さんは近くにいなかったのか? とかそういうことを聞こうとしたが。そこはあえて聞かないようにした。
彼女のボロボロで薄い布一枚だけの服。
それに、首元にある何かをつけられていたような痕。靴も履いておらず、必死に逃げてきたかのように傷ついていた。
おそらくティッタは……。
嫌な方向へと考えてしまっている時、リフィルは傷ついた足を見て無言で手をかざす。
「あ、ありがとう」
「別に気にすることは無いわ。それよりも、刃太郎。この子、どうするつもり?」
「うーん……」
おそらく、簡単に元の世界に帰すことはできないだろう。それに、この子をこのまま元の世界に帰していいものだろうか。
もし、帰っても……ん? 電話。リリーからか。
「もしもし? どうしたんだ」
『じ、刃太郎さん! 大変です! は、翼が生えた子供を見つけちゃったんですが。ど、どうしたらいいでしょうか!?』
「翼が生えた、子供?」
リリーの緊急の連絡を聞き、俺達はすぐにリリーがいる場所へと移動をする。そこは、橋の下。そこには、リリーだけではなく有奈や華燐もいた。
そして、その陰に隠れていたのが。
「その子が話にあった?」
「う、うん。三人で、コンビニに寄った帰りにね。偶然この橋の下でうろうろしているこの子を見つけたの。それで、どうしたんだろうって話しかけたんだけど」
「―――?」
なるほど、この子も言葉が通じないのか。
有奈達が見つけた子は、青い髪の毛に白い翼を生やし、俺が見つけたティッタよりは少し年上だろうか? ティッタもその子が気になったようで俺の陰に隠れながら見詰めている。
「ニィ、頼む」
「はいなのです」
ティッタにやったように、言葉の境界線をいじる。
「言葉、わかるか?」
「あ、はい。わかります」
「俺は、刃太郎っていうんだ。君の名前は?」
「エリファと言います。あの、ここはどこなのでしょうか? 突然、黒い渦が目の前に現れたと思ったらそれに吸い込まれてしまって……」
やっぱり、この子もそうだったのか。
色んな世界に次元ホールが出現し、地球へと導かれる。いったい、何が起こっているって言うんだ?




