第八話「なんでも雪合戦開催」
「雪合戦なのです!!!」
いつものニィの思いつきというか、一言でイベントは始まる。
それは、二月初旬の昼時。
昼食を食べて、食休みをするかーっと思ったところで、ニィが言い出したのだ。
「そういえば、雪合戦をしていなかったのです。雪が溶けない内にやっておきたいところなのですが……」
と、俺のことをちらっちらっと見てきたのだ。
そう言われると、色々とばたばたしていて雪合戦という定番の遊びなんてやっていなかったな。あの空間でも、結局やろうと思ったけどやっていなかったし。
そんなこんなで、皆を集めて。
「雪合戦かぁ。あの時はやれなかったけど、今日は思いっきりやろうかな!」
集まったのは、有奈、リリー、華燐の高校生三人に加え。コトミちゃん、コヨミ、ロッサ、旋風丸の小さい組。
更に、サシャーナさん、響、御夜さん、雪音さん、光太も参加。
駿さんやミミ、舞香さんもいるのだがそっちは雪合戦が終わった後の温かい食べ物の準備をするとかで。現在の時刻は十四時ジャスト。
まあ、終わる頃にはおやつの時間になるだろう。
「ふん。この前は、不完全燃焼だったからな。今日は、思いっきりやらせてもらうぞ!!」
「負けないよぉ! 私達も学校で思いっきり練習してきたんだから!」
「あれはコトミの一方的な乱投だったように見えたけど……」
そういえば、優夏ちゃんやそらちゃんは呼ばなかったんだな。
……なんだか嫌な予感がする。
今か今かと待っていると、ニィが雪で作った台座に立ち語りだす。
「ルールは簡単なのです! この辺りにある雪を使って、雪玉を作り、相手にぶつける! ちなみにサバイバル戦!! 最後の一人になるまで、投げて! 投げて!! 投げまくるのです!!」
「ただ当てればいいの?」
有奈が、問いかけると。
「参加者には、それぞれライフポイントがあるのです。ライフポイントは五! そして、雪玉ひとつ当たればライフポイントはひとつ減るのです。いいですか? 雪玉なのです! ただの雪や、砕けた欠片ではだめのです!! あ、魔法などの攻撃も無効なのですよー」
「ということは、雪玉以外の攻撃はいくら当ててもライフポイントを減らすことはできない、ということか……」
「ねーねー! 魔法による防御もいいんだよね?」
「はいなのです! なので、こう覚えておくのです! とにかく雪玉を当てる以外はなんでもオッケー!!」
やっぱりかー。まあ、予想はしていたけど。優夏ちゃんやそらちゃんのような一般人がいないからわかっていたことだけど。
……光太、死ぬなよ。
この中では、唯一の一般人である光太を俺は純粋に心配していた。あいつのことだ。普通にロッサの盾になろうとするだろうし。
意外と早く脱落して、怪我を負うことはないだろう。たぶん、うん。
「わしからもいいか? ライフポイントと言ったが、雪玉が当たっても当たってないと公言すれば、なんとでもなるのではないか?」
旋風丸の言うことはもっともだ。
ライフポイントと言っても、あの年末の時のように目に見えるわけではない。なので、もし当たったとしても自分が当たっていないと思えば当たっていないことになるだろう。
まあ、ニィのことだからその辺りに関しては考えていそうだけど。
「その辺に関しては、問題なのです!!」
パチン! と指を擦ると、頭上には年末の時と同じようなライフゲージが現れた。
「わー、懐かしいね。このライフゲージ」
「まだ一ヶ月しか経っていないけどね」
とはいえ、これでお互いのライフポイントがわかる。
「さあ、準備も整ったので。さっそくはじめるのです! 今から、各々この広大なフィールドを二分まで自由に動くのです!」
つまり、始まるまでの行動時間。
それに雪玉を作る時間ってことか。二分間でどれだけ、フィールドを把握しつつ雪玉を作れるか。今、俺達がいるのは天宮家の敷地内。
それをニィがちょっと広げたのだ。空間を歪めることで。
雪合戦をするために、空間を歪め広げるなんて神様のやることは本当に壮大すぎる。参加していないリフィルも周囲に音が漏れないように、結界を張ってくれている。
「さて……やるなら、障害物があるところのほうがいいよな」
各々、バラバラに散開した。
俺がいるのは、木々が多いところ。
投げられるのは、雪玉だ。それを避けるためには、岩や木などの障害物に隠れるのがいい。とはいえ、今回の雪合戦はなんでもあり。
雪玉以外のものが確実に飛んでくるだろう。
そのことも考慮して、防壁を張ることも忘れずにってな。
(そろそろ二分か。雪玉は、十分作って魔力空間に収納しておいたし。後は)
刹那。
大音量の開始の合図が響き渡った。と、同時にいきなり戦地にいるかのような音が鳴り響いてきた。どこかの馬鹿達がいきなりおっぱじめたんだろうな。
俺は、純粋に雪合戦を楽しみたいところだけど。
「見つけましたよ! 刃太郎様!!」
「っと、最初の相手はサシャーナさんか」
わかっていたことだ。だって、あの人ずっと俺の後をついてきていたんだもの。右手には雪玉を。左手には……なんだあれ。
なにやら、フォッフォッフォッと言いそうな某星人のハサミみたいなものを持っている。
「そいやぁ!!」
「おっと。言っておきますけど、そう簡単には当たってあげませんよ」
「ふっふっふ。私とて、簡単に倒せるとは思っておりませんとも。ですが、せっかく作った新兵器を試したくてしょうがないんです!!」
子供のように弾ける笑顔で、左手に持っていた新兵器とやらを使う。
「これは、一瞬で雪玉を作る道具! こうやって雪玉を掬うと!」
足元にある雪を掬い青いボタンを押すと、ぽん! と音を鳴らしそれもう丸い雪玉が完成した。
「いつの間にそんなものを」
「いつか皆さんと遊びたくて作っていたんです! ちなみに、雪玉を弾薬として補充することも可能なんです!!」
何度もその場の雪を掬いつつ赤いボタンを押す。
すると、腰元にあった透明なチューブのようなところに雪玉が補充された。無駄に高性能だな、雪合戦のためにそんなものを……正直すごいの一言。
というか、機械を作ることもできたんですか、あなたは。
「さあ、お覚悟を!」
「ようやく見つけたのじゃ!!」
あーあ、また厄介な奴が。
なにやつ! とサシャーナさんは大げさに驚き、声がする木に視線を向ける。そこにいたのは、当然旋風丸であった。
雪玉を両手に持ち、不適に笑顔を浮かべている。
「どうやら、わしが一番乗りではなかったようじゃが。そんなことは関係ない! おい、そこのうさぎ!! そ奴はわしの獲物じゃ!! おぬしは退くのじゃ!!」
「そうは行きません! 最近刃太郎様と遊べていなかったので私はもう最高にテンションを高めまくっているのです! あなたこそ、邪魔をしないで頂けますか!」
「いや、どっちでもいいから早く」
雪合戦を始めようっと言いかけたところで、またもや厄介な奴の気配を感じ取る。
「ふははははは!! 我、参上!!!」
旋風丸とは逆側の木の上に雪玉を持って現れる魔帝。
開始早々、三人に囲まれてしまった。
わー、美少女に囲まれてうれしいなー……なんてな。さてさて、どうしたものか。




