第七話「それが勇者の」
現在は一月三十日。
もうちょっとで二月になる。まだまだ寒い時期が続く中、俺はフェリルのところへ訪れていた。それは、俺に話があるということで、呼び出されたのだ。
俺も丁度話しておきたいことがあったので、丁度いいと。
「やあ、よく来たね」
「もしかして、その姿でずっと家にいたのか?」
天宮家のコトミちゃんの部屋に入ると、フェリルが小さい姿で寝転がっていた。
コトミちゃんやコヨミも一緒に寝転がっており、わんこ三匹が仲良くって感じだな。
「まあねー。外は寒いから。家の中はぬくぬくだし、この姿のほうが何かと便利だからねー」
「刃太郎お兄ちゃん、やっほー!」
「遅かったじゃないか。いつもの君なら、十分は早く来るのに」
「色々と事情があったんだよ……」
ここに来る途中、厄介な二人に捕まっていた。
ロッサだけでも色々と厄介なのに、今ではもう一人増えたからな……。それに、自分は遊び相手だから当然のことじゃ! とかあの時の父さんの言葉をずっと言い続けている。
めんどくさかったが、二人を同時に一通り相手をして落ち込んでいる隙にさっさと退散してきたのだ。それで約束の時間ギリギリになってしまった。
遅れずに済んだのは幸いだったな。
「ふーん。まあいいや。それよりも、座りなよ」
「ああ。そうさせてもらおうかな」
俺が胡坐をかくと、その上にフェリルが移動してくる。慣れた手つきで、頭を撫でながらそれで? と俺は切り出す。
「話っていうのは、もしかしてお前が前に言っていたこの世界に起こっている面白いことについてか?」
「さすが。察しがよくてこっちも助かるよ。そうだね。今この世界は、色々と面白いことになっているんだ。例えば、ほら? 年末のあの事件」
「あぁ、時間が停止したあれか」
「そして、君に大きく関わっている数日前の出来事」
「……知っていたのか」
「まあね。これでも、神獣だから」
ということは、仙姫の封印が早くも解けたのも地球に何らかの影響が及んでいるってことか。確かに、同じ封印の札で二十年近くしか封印できないのはおかしいとは思っていた。
いくら、父さん一人で封印したとしても、札自体は威田一族の命を想いが籠められた代物だ。そう簡単に破れるはずが無い。
ちなみに、最後の一枚は粘土の剣と扇と共に大切に保管している。あれは、俺達威田の宝物だからな。
「あ、それとね。コトミ達も、面白い出来事に出くわしたらしいよ」
「そうなのか?」
と、コトミちゃん達に問いかけると跳ねるように起き上がる。
「そうそう! あれはね、優夏ちゃんやそらちゃんと遊ぼうと思って集合場所に向かっていた時かな? あ、その時偶然サシャーナとも会ったんだよ。ね?」
「はい。私は丁度、用事を済ませた後にコトミ様を迎えに行きまして」
丁度、お茶とお菓子を持ってきたサシャーナさんが俺の隣に座り込み、コトミちゃんの話に頷く。
「その時は、商店街で食べ歩きをしていたロッサとも会ったの!」
「あいつともか。それっていつ頃の話なんだ?」
「えっとね……四日ぐらい前のお昼時だったかな?」
それって、俺が丁度、あの山に向かった時じゃないか。俺達が新幹線に乗っている間に、何が起こったって言うんだ。
・・・☆・・・
「偶然だね、サシャーナ。なにしてたの?」
友達である、優夏とそらの二人と遊ぶために集合場所である公園へと向かっていたところ、こそこそとしていたサシャーナを偶然見つけてしまった。
ちなみに、ここからでは見えないがしっかりと執事である駿がコトミのことを見守っているため、何がっても……いや、正直コトミ一人でも何があっても大丈夫だろう。
コヨミというもっとも強い護衛も常に一緒にいるため、尚更だ。
「え? あ、えーっと私はですねぇ……あ! そうです! 二月になればバレンタインというイベントがありますよね? そのための準備のためにお店を色々と回っていたというか。そんな感じです、はい」
「バレンタインって、まだ三週間ぐらいあると思うけど」
「まあまあ! 早いに越したことは無いってことで。それに、この一年はお世話になった方々が非常に多いですから」
確かにそうだ。
この一年は、もっとも出会いがあり、もっとも色んな出来事が起こり、もっとも色んな人達にお世話になった。
まず、刃太郎という師匠兼友達と出会い、コヨミという姉妹のような友達を得た。そこからは、雪崩のように色んなことが起こって……。
サシャーナの言っていることは、非常にわかる。
「さすが、サシャーナだね! じゃあ、私もお世話になった人達に手作りチョコを作らないと!」
「それと、あの英雄さんには特別大きなチョコを作らないと、だね」
現れたコヨミの一言に、コトミはうん! と元気よく頷いた。とはいえ、今から作っても三週間は先だ。とりあえず今は、下準備。
心構えをしっかりしておいたほうがいいだろう。
「ふぃ……なんとか誤魔化せました」
「え?」
「あ! いえいえ! なんでもありませんよー。そ、それよりもコトミ様はお時間よろしいのですか? 今日は、優夏様にそら様と遊ぶ予定だったのでは?」
「そうだった! このままじゃ遅れちゃう! いっそげぇ!!」
スマホを取り出し、時間を確認した後、走り出すコトミだったが。すぐ、止まってしまう。
「……コヨミ」
「うん。サシャーナも、感じてるよね」
「はい。もちろんですとも。この気配は……あっちですね」
この賑わっている商店街の中に、異質な空気を感じ取った三人。駿も、三人の異変に気づき姿を現した。
「お前達、揃って何をしているんだ?」
「あ、ロッサ!」
そこへ更に現れたのは、商店街でいつもの買い食いをしているバルトロッサだった。今はたいやきをもぐもぐと食べている模様。
「もしや、この異様な空気の正体がどこから来ているのか、探っているのか?」
「ロッサにはわかる?」
「ふむ……あっちだな」
しばらく、周りを見渡し、指差した方向は小さな路地。
そこへのマンホールの下。つまり下水道から異質な空気が漂っているのだ。ただ、下水の臭いというわけではない。
これは、普通の人間では感じ取れないもの。
「この下ですか。いかにもってところからですね」
「とりあえず、我が先に行こう。ちょっと持っていてくれ」
たいやきが入った袋を駿に預け、まずバルトロッサから下水道の中へと入っていく。それに続き、コトミ、コヨミ、サシャーナと続き、駿はたいやきを持ったまま誰か来ないか警戒する。
「ほう。これは」
「これって、ロッサがよく使っている次元ホールだよね?」
下りてすぐのところにあったのは、次元ホール。
だが、当然のようにバルトロッサは使っていない。では、誰が? まさか、ニィーテスタが? と考えたがおそらくそれもないだろう。
こんなところに作る理由がない。
「……」
バルトロッサが謎の次元ホールに近づき、触れる。
「だ、大丈夫なんですか?」
「どうやら、まだ繋がりきれていないようだな。めんどくさいが、我が閉じてやるか」
そう言って、次元ホールに陣を描き消滅させてしまった。
「なんだったんだろうね、さっきの次元ホール」
・・・★・・・
「っと、言うことがあったの」
「謎の次元ホールか……」
次元ホールは、誰でも作れるものではない。なにせ、一瞬にして他の場所へと移動できるものだからな。使えるのは本当に限られた者達だけ。
例えば、ロッサやニィ。
それにオージオも使えるな。
いや、だけど可能性があるとしたら。
「おそらく、君が考えている通りかもね」
フェリルが俺のことを見上げる。
「じゃあ、やっぱり自然にできたっていうのか? 確か、お前も自然にできた次元ホールでこっちに来たんだったよな?」
「そだよー」
その次元ホールもそのまま放置していたらどこかの世界に繋がっていたっていうことか。これに関しては、ロッサの迅速な判断に助けられたな。
「まあ、この他にもこの地球では色んなことが起こっている。それは……君が帰ってきてから頻繁に」
「おい、まさか俺が原因だって言いたいのか?」
いや、まあ完全否定はできないけどさ。
考えてみれば、俺が異世界へと行く前から少しは非現実なことはあったんだろうけど。俺が異世界から帰ってきてからは、更に非現実離れなことが起こっている。
しかも、アイオラスを二回も抜いてしまったし……二回目はなんとか俺の体に全て降りかかる形で治まったけど。
「別に、そうは言っていないよー。でも、これからも色んなことが起こるから気をつけてねーって」
「それは十分にわかっているって。すでに色んなことを体験してきたからな」
とはいえ、これから地球はどうなっていくんだ……。まだ日本だけでしか異変は起こっていないけど。違うか。年末の時のあれは、日本以外のところでも起こっていた。
もしかしたら、これからも。
「……休む暇がないな、これは」
「君は、勇者だからねぇ。ちゃんと世界を救いなよー?」
「一度救っただけじゃ、だめってことか?」
「それが勇者になった者の宿命ってやつさ」
大変だな、勇者って。




