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第六話「籠められた想い」

「人間が……なめた口を利いてるんじゃないわよ!!」


 もはや、恐怖と怒りが入り混じり言葉まで乱暴になってしまっている仙姫。妖力を高め、その長い髪の毛を鬣のように逆立てている。

 爪も伸び、口元など獣のようになっていた。


「それが、お前の本当の正体か」

「そうよ! この姿こそ、わらわの本当の姿! この爪で! この牙で貴様ら術士達を数え切れないほど切り裂き、噛み砕いてきたわ! さあ、貴様達もその一員になりなさい!!!」


 獲物に飛び掛らんとばかりに、突っ込んでくる仙姫。だが、俺達はいたって冷静だった。まず、有奈が俺の前に立ち、右手をかざす。


「我らを護れ。守護の鎧!!」

「ぐああ!? な、なんのよさっきからこの結界はぁ!! 霊力でもない、妖力でもない!! 精神力でもない!? このわらわが簡単に阻まれるなんてぇ!!!」


 仙姫が知らないのも無理は無い。

 神力は、誰もが持っている力ではないのだ。ましてや、感じようとしても簡単には感じ取ることができない。まったく知らない者達には、謎の強大な力としか、理解できないだろう。


「おい」

「なっ!?」


 身動きが取れなくなっていた仙姫の左横に俺は回り込み、振り向いたところへ。


「らあっ!!」

「があっ!?」


 思いっきり拳を打ちつけた。

 地面に何度も叩きつけられながら、何十メートルも先にある太い木にぶつかり止まった。仙姫は、殴られた頬を押さえながら、血反吐を吐く。

 そして、怯えた目をこちらに向けながら近づいてくる俺に語り掛けてくる。


「き、貴様。女子の顔を思いっきり殴るとは……!」

「言っておくが、お前のことは女だとは思ってない」

「な、にぃ……?」


 俺だって、本当なら女子とは戦いたくはない。だが、今目の前にいるのはもはや女子ではない。人を簡単に殺せる殺人妖怪だ。

 それも、俺達の親を……。


「有奈。トドメを刺す。お前は下がっていろ」

「うん。お願いね、お兄ちゃん。お父さん達の敵を……!」


 ああ、と力強く頷き俺は剣へと魔力に……神力を纏わせていく。神力は、人間が使えば使うほど身体に影響を及ぼしていく。

 それは、人間離れしたものへと。多少使うだけならば、同じ神々の力により体への影響を取り除くことができる。

 だが、今から使う俺の力は特別だ。魔力と神力。相対する力を使っていたことで、それは混じり合い突然変異を遂げた。

 そう……新たな力。『魔神力』へと。これは、魔力も混ざっているため普通の神力とは違い神々でもなかなか苦労するものらしい。ゆえに、体への影響も。


「こいつを使ったのは、バルトロッサ以来だ。喜べよ、化け物。人間界ではお前が最初だ!!」


 あの時は、アイオラスを使ったことで更なる絶大な力を発揮していたが、今は普通の剣。この一撃を放てば簡単に砕け散ってしまうだろう。

 それでも。


「わらわは、まだやられぬ! わらわを長年封印してきた威田に。術士達に復讐するまではぁ!!」


 窮地に立っている仙姫は、どこに隠していたのかという力を発揮する。体は、二倍にも膨れ上がりもはや女性の面影などどこにもない。

 強いて言えば、着物ぐらいだろうか。


「しゃあああ!!!」


 今度は、真正面からではなく。ジグザグに動きながらこちらへと近づいてくる。窮地に立たされて、やっと攻め方を変えてきたか。

 だけど、もう遅い。


「拘束しろ」


 刹那。刃に纏った青いも白い、光がうねるように動きだしジグザグに動いていた仙姫を追いかけ、捕らえてしまった。


「終わりだ」

「や、やめっ。わらわは、こんなところで!!」 


 しかし、無常にも俺は剣を振り下ろした。


「アァ……消えて、ゆく……」


 まるで、初めから砂でできていたかのように仙姫は崩れ落ちていく。力を使い果たした俺の手からは剣が砕け散り、ふうっと呼吸を整えたところで、正面に次元ホールが出現した。

 出てきたのは、ニィとリフィル。


「あんた、あの力を使ったのね」

「まあな。別に使わなくてもよかったんだけど。俺も冷静じゃなかったんだろうな……」


 使った後で、俺はまったくと頭を抱える。

 この力がどれだけ、体に影響を及ぼすか散々教えられてきたのに。呆れながらも、リフィルは俺の体に触れる。


「気休め程度だけど、少しは取り除いてあげるわ」

「……おう、サンキュー」

「ありりんもなのです。こっちに来るのです」

「う、うん。わかった」


 その後、俺達は神様達と一緒に帰ることになったのだが。その前に、あのおじいさんが渡すものがあると自宅へと案内してくれた。

 山奥でひっそりと自給自足の暮らしをしながらも、結界の様子を伺っていたらしい。

 しばらく待っていると、じいさんが包みを持ってきて俺に渡す。

 中身は。


「扇?」


 とても古い扇だった。だが、その扇には威田と刻まれていて、不思議な力も感じ取れる。


「それは、威田一族の長が持つことを許された扇。わしが持っておったが、お前さんに渡しておく」

「それじゃあ、刃太郎が威田の長ということになるのじゃな?」


 明らかに、旋風丸の目の色が変わっている。

 これは更にうるさくなりそうだ。


「その通り。と言っても、お前さんはどうだ? もう、威田一族の術士というものに縛られることはない。自分の道を進むことだってきる」


 確かに、その通りだ。俺は、俺の道を生きることができる。皆の視線が集まる中、俺は力強くも優しく扇を握り締め、口を開いた。


「確かに受け取ったよ、じいさん。威田の生き残りとして、こいつは大切に保管しておく。そして……威田の名をできるだけ絶やさないように頑張るよ」

「……そうか。だが、無理はするな」

「もちろん。それじゃあ、俺達は行くけど。じいさんはどうするつもりなんだ? もう結界も、仙姫もなくなったけど」


 もう、結界を見守る役目はなくなったと言ってもいい。こんな山奥で暮らすことはない。


「わしは、ここに残る。役目がなくなろうと、ここはわしにとっての家だからな」

「そっか。なら、仕方ないな」

「でも、おじいさんも無理はしないでね。時々だけど、ここに遊びにくるから」

「ああ。その時は、お土産をたくさん持ってきてくれ。楽しみにしておるぞ」


 数少ない威田の一族同士これからも仲良くしていきたい。そう約束して、俺達は山を去っていく。


「……お兄ちゃん。これで、少しはお父さんとお母さんも安心してくれるかな」

「敵討ち、なんてやらなくていいとか言いそうだけど。少しは安心してくれているはずだ」


 と、俺は粘土で作った剣を取り出す。

 すると。

 じいさんから貰った扇に反応するように光り出し、俺達を包み込む。


『ねえ、あなた。これで本当にいいのかしら?」

『もちろんいいさ。これが俺の役目。威田の生き残りである俺のな。お前こそ、無理についてこなくてもいいんだぞ? 今から行く場所は危険なところだ』

『何を言っているの。もし、怪我をした時、あなただけじゃ帰ってこれないでしょ? 大丈夫。邪魔にならないように車で待っているから運転手として』

「こ、これって……」


 そこに映っていたのは、父さんと母さんだった。

 いったいなにが起こっているって言うんだ? 


「これは、おそらくその剣に籠められた想いの力が扇の力と共鳴して過去の映像を見せているんだと思うわ」


 一緒に巻き込まれたリフィルが解説してくれる。他にも、ニィや旋風丸までもが、その過去の映像を見ていた。


『あなた。もし帰ったら、子供達には説明とかするの?』

『……どうだろうな。少なくとも、子供達にも俺の。威田の血が流れている。だから、今はまだだけど。力に目覚めるかもしれない。そうなる前に、言ったほうがいいんだろうかって正直迷っているんだ。あいつらには普通に幸せになってほしいからな』


 父さん。ごめんな、俺達普通じゃなくなっちまったんだ。だけど、それでも元気に幸せに暮らしているんだ。

 車に乗りながらの映像だ。

 おそらく、俺達が向かったあの山に向かっているんだろう。


『その時は、私も協力は惜しまないわ。あなたが、術士だってわかっていて私は好きになったんですもの』

『……すまんな』


 やっぱり、母さんは父さんの正体を知っていたのか。

 だんだん映像が薄れていく。そろそろ、終わりの時が近づいてきたようだ。かなり名残惜しいが、父さん達の想いが知れて俺達は嬉しい。


『あ、そうだわ。あの子との約束は、どうするつもりなの? ほら、あなたがまだ十代の頃に戦っていたっていう』

「むっ」


 消えかかる中、母さんが出した話題。それは、間違いなく旋風丸のことだろう。当の本人は、当然のように興味津々だった。


『封印が解けたら挑んでくるって話だったけど』

『あぁ、そうだな。封印する直前で、そんなことを叫んでいたんだ。……その時は、戦い合う仲じゃなくて。普通に友達として仲良くなりたいって思っているんだ。できれば、子供達の遊び相手とか』

『あら、それはいい考えね。子供達もきっと喜んで遊んでくれるはずだわ』

『だろ? あいつの風はすごい気持ちいいんだ。もし、封印から解き放たれたら』

「あ、映像が」


 終わってしまった。まだその先があるんだろうが、剣に込められた霊力はすでに尽きている。今は、ただの粘土でできた剣でしかない。

 俺は、ちらっと旋風丸に視線を送る。

 すると、旋風丸も同時に俺に視線を向けたらしく、ぶつかり合ってしまった。


「……将棋でもするか?」

「……うむ。しかないのう。わしは、おぬし達の遊び相手らしいからのう。じゃが! ただの遊びだけではない。しっかりと、戦いという遊びもしてもら」

「さーて、今日は、疲れたなぁ。ニィ、温かい飲み物を頼む」

「はいなのですー」


 まだ言い切っていない旋風丸を放っておき、俺達は扉を開けて中へと入っていく。放置された旋風丸は、ふるふると体を震わせ。


「おぬしら!! わし、無視をするでない!!」


 外まで響くほどの大声をあげながら、追いかけてきた。

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