第三話「アルバムの中から」
「……」
その日は、丁度アルバイトへと向かう前。
俺はふと、昔のアルバムを見たくなった。
その中には、まだ生きていた頃の父さんと母さん、小さかった頃の俺と有奈が映っている。父さんは、俺をそのまま大人にした感じ。
身長はそこまで高くなかったらしく、百六十八センチメートルだったと聞いている。そして、その隣で微笑んでいる茶髪の女性。
俺達の母さん。名前は、威田愛香。舞香さんのお姉さんであるため、かなり似ている。舞香さんがびしっとした大人だとすると、母さんはおっとりな雰囲気がある。
ぺらぺらっと、父さん達との思い出を眺め続ける。
一緒にプールに行ったり、山に行ったり、動物園に行ったり……どれも俺達は笑顔を作っていた。この時は本当に楽しかったな。
「っと、そろそろ行かなくちゃな」
アルバイトへ行かなくちゃいけない時間がきた。
そして、アルバムを閉じようと思ったのだが……。
「ん? なにか」
写真の後ろから何かがはみ出ていた。
俺は、気になりそれを取り出す。
出てきたのは、地図と封印の札のようだ。
周りは森で、そこをしばらく進んでいき、バツ印のところには封印と書かれていた。まさか、ここって旋風丸を封印した場所、なのか?
だけど、なんでそんな地図がアルバムの中に。すごく気になるけど、もしこれが旋風丸の封印されていた場所だったらもう関係ない。
あいつはすでに封印から解き放たれてしまったからな。でも、それでも気になるので一応取っておくか。俺は地図と札をポケットに突っ込み、アルバムを仕舞う。
「刃くーん。そろそろお時間なのですよー」
「ああ! 今行く!!」
ニィの声に俺は返事をし、部屋を後にした。
・・・★・・・
「なかなかやるではないか! だが、我にはまだ敵うまい!」
「な、なんじゃと! わしとて、無駄に過ごしていたわけではないわ!!」
「あいつ毎日なにやってたんだ?」
「え、えーと……」
俺の問いかけに、少し口ごもる華燐。
次の日。
俺はアルバムから出てきた地図と札のことを気になり、詳しそうな鳳堂家へと訪れていた。そして、華燐に広間へと案内されたのだが。
そこで、ロッサと旋風丸が将棋で勝負をしていた。更に、周りには色んな娯楽の数々。
とにかく、充実してそうでなによりだ。
「おお! 小僧か。どうした? こんな朝早くに」
「お久しぶりです。実は」
静音さんと一緒に現れた華燐のおばあさんである千代子さんに俺はアルバムから見つけたものを渡し説明をする。
すると、真剣な表情でその札を見詰めた。
「やはり、威田とはあの威田だったのか。奴らは、我ら鳳堂家のような大きな力はなかったが。それでも、悪しき者から人々を護るという信念はとてつもないものだった……」
「そこで、将棋をしている旋風丸も俺の父さんが封印した妖怪だけど。これは、それと関係があると思うんですが」
ふむっと頷きもう一度地図と札を見詰めた。
と、そこで静音さんの目が反応する。
「お母さん。この札、もしかしたら次元封印の札ではありませんか?」
「なに? 次元封印だと? 何を言うておる。あれは……いや、お前の目が反応したということは」
「お母さん。その次元封印っていうのは?」
どうやら、華燐も聞いたことが無い名前のようだ。名前の響きから考えると、次元へと封印するためのものだと思うが。
「大昔に、とある一族が新たな封印術の開発のため大勢の術者達を犠牲にしそれを作り上げたのです。それは多くの術者の犠牲により、悪しき者でも恐れるほどのものとなりました」
「それが、次元封印の札」
もしこれが本物であるなら、父さんはどうしてそんなものを? ……いや、まさか。その大勢の術者を犠牲にした一族って。
「小僧よ。おぬしの考えている通りだ」
「え?」
「威田一族は、とある妖怪を封印するために多くの術者の命と引き換えにこの封印札を完成させた。それも三枚。おそらく、そこにおる旋風丸はその内の一枚で封印されたのだろう」
やっぱり、そうだったのか。だから、威田一族は数が少なかった。人々を護るために、自らの命と引き換えに……だけど、待てよ。
「じゃあ、もう一枚はどこに?」
封印の札は三枚作られた。
その内の一枚は旋風丸に。もう一枚はここに。最後の一枚は?
「封印の札が作られたのは、今から二百年前。その頃に、威田一族の里に我ら鳳堂家で封印していた悪鬼に匹敵する者が現れたのだ」
「じゃあ、最後の一枚はそいつを封印するためにってことか……」
てことは、この地図の記すバツ印のところにはそいつがいるのか。嫌な予感がするな。旋風丸の封印が解けたってことは、同じ封印札で封印されたそいつも。
けど、旋風丸が封印されたのは二十年ほど前。
対して、そいつは二百年前だ。先に旋風丸の封印が解かれたのには、何か理由があるのか? それとも単純にそいつの封印がかなり強固なのか。
「千代子さん。その地図が示すところがどこなのか、わかりますか?」
「……やはり、気になるようだな」
「もし、旋風丸のように封印が解けるのなら、そいつは絶対封印した威田一族に。いや、人間に復讐をすると思います。誰かを襲う前に」
俺が、なんとかしてみせる。
威田一族の覚悟。
人々を護りたいという信念を無駄にしないためにも。生き残った威田一族である俺が、そいつを。
「うむ。おぬしの覚悟はわかった。こちらでも、この地図の場所を探して見る。なにせ、二百年前だからのう。古い書物を引っ張りだして調べぬことには」
「いえ。俺のほうこそすみません。場所がわかり次第、連絡をお願いします」
「よかろう。おぬしにはいつも助けられているからの。我らも、協力は惜しまぬ。静音! そして、華燐。今から、書庫へと向かうぞ」
「はい、わかりましたお母さん」
「それじゃ、私は刃太郎さんを見送ってから行くね」
こうして、千代子さんと静音さんは地図を持って広間から去っていく。残った俺も、華燐と一緒に出て行こうとしたのだが。
「待つのじゃ! おぬし、そこでぼけーっと突っ立っていないで、こっちのこい! こ奴には負けたが、おぬしには負けぬぞ!!」
「弱い犬ほど、よく吼えるとはよく言ったものだ」
「い、犬ではない! わしは天狗じゃあ!! さあ、刃太郎! かかってくるのじゃ!!」
まったくこいつらは、シリアスがとことんに似合わない奴らだな……。
「はあ……わかったよ。一回だけだぞ」
「おお!! さあ、こっちにこい! 勝負じゃ! 勝負!!」
子供のような笑顔で、手招きしてくる旋風丸の姿を見て、こいつが威田一族の命と引き換えに作った封印札で封印された奴だとは思えなくなってきた。
こいつだけ、普通の封印術で封印されたんじゃないか?
そうだとしたら、先にこいつの封印が解けたのに納得がいくし。
「本当に一回だけだからな」
「わかっておる! ふっ、じゃが。今のわしは感度がビンビンなのじゃ! そう簡単には負けぬぞ!!」
「はいはい、そうですか」
そう軽く返事をして、俺は駒を動かした。




