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第二話「その後の日常」

「刃太郎! 今日こそ勝負なのじゃ!!」

「無理」

「なぜじゃ!?」

「見ればわかるだろ……仕事中ですよ、お客様」


 旋風丸は、あれから鳳堂家でお世話になることになったらしい。そういえば、最近では雪音さんは鳳堂家の繋がりでアルバイトを始めたらしい。

 やはり、いつまでも養ってもらうのはだめだ。

 私は響くんを養うほうなの!! と。

 アルバイト先の店長は、昔鳳堂家で修行をしていた人らしくその辺の事情はしっかりとわかっているとのこと。ちなみに、スーパーの店員である。


 気立てもよく、働き者で美人。

 見た目よりも力持ちで、重い荷物もどんとこい。一緒に働いているおばちゃん達や学生さん達からも絶大な人気を誇っている。

 まあ、響が関わるとあれなんだけどな……。やっと、居候が一人働き始めたところにこいつだ。正直、申し訳ない気持ちだったが、鳳堂家の人達は快く引き取ってくれた。


「あら、旋風ちゃん。今日も元気いいわねぇ」

「わしは、風邪など一回も引いたことが無いから。風を司る妖怪たるわしが風邪を引いてしまってはことじゃからなの!! はっはっはっは!!」

「お客様ー、店内ではお静かにお願いします」


 こいつも一週間で、ここまで慣れてしまうとは。

 服装も、すっかり人間のそれ。

 元の巫女装束より目立たず、真っ白な毛糸のセーターにスカート。そして、黒いタイツを穿き真新しい赤い靴を履いている。

 見た目はもう普通の少女。しかし、烏帽子は常備装着。これだけは、わしらの証なのじゃ! と断固として外さない模様。


「うむ」

「なにしているんだ」


 勝手に椅子を用意して、俺の隣に座り込む旋風丸。


「おぬしの働きっぷりをここで見てやろうと言うのじゃ。わしのことは気にせず、ほれ。客が来たぞ」

「……いらっしゃいませぇ!」


 それからは、しばらく旋風丸というマスコットを隣に置き、俺は接客を続けた。そして、小休憩の時間になり、レジを絵美さんに任せ俺は控え室へと向かった。


「ふう……やはり緑茶はいいのぉ。お? 茶請けに煎餅か」

「自由だな、お前」


 片手でずずっと緑茶を飲みながら俺は煎餅をバリバリ食べている旋風丸を見詰める。ロッサは今頃、食べ歩きをしている頃だろうが。

 こいつは今のところ楽しみというものがないようで。

 いつもではないが、暇があれば俺のところへ来る。まるで、最初の頃のロッサのようだ。最初は、毎日とも思えるほど頻繁に俺のところに現れては勝負を仕掛けてきたからなぁ。


 今では、他に楽しみができて、色々と常識を学び、最初の頃よりはエンカウント率が下がったほうか。それでも、よく勝負を仕掛けてくるんだけど。

 そうしたら、今年になって新しい厄介者の登場ときた。

 ロッサと同時に現れた時は、勝手に二人で勝負をしてくれたおかげで、俺は逃げれることができたけど。こいつは、いつ大人しくなるのかな。


「わしは、風じゃからな。自由を志しておる」

「天狗なんだっけ?」

「そうじゃ。わしは、旋風天狗一族。他の天狗達と比べて人間どもからは知られてはいないだろうが」


 確かに、聞いたことが無い天狗だ。

 定番な天狗と言えば、烏天狗とか木の葉天狗とかその辺だろうけど。天狗って、確か神様として崇められているのもいるんだったよな。

 こいつは……そうは見えないな、うん。

 目の前で、子供のように煎餅をおいしそうに食べている天狗は神様なわけ。


「いや、似たような見た目の神様もいるし。可能性はあるか」

「なんじゃ? 可能性とは」

「お前ってさ、神様だったりする?」

「それは、ないの。確かに、神々に匹敵する天狗はいる。じゃが、わしはちょっと強い天狗に過ぎぬ」


 やっぱり違ったか。


「ところで、おかわりはあるかの?」

「もう全部食べたんかい」






・・・★・・・






「大丈夫か? リリー。緊張しているみたいだけど」

「は、はい。刃太郎さんに、見せるのはやっぱり恥ずかしくて……」

「心配するな。俺がしっかり教えてやるから」

「よ、よろしくお願いします!! では」


 気合いと共に、リリーは手をかざす。

 そして。


「えい!!」


 神力を高め、風を巻き起こした。


「おおー。これは、すごいな。この短い期間でよくここまでの風を出せるようになったな」

「えへへ。いっぱい練習しましたから」


 現在俺達は、ニィ達が作った空間にいる。

 そこでは、神力を手に入れた有奈やリリーがしっかりとそれを使いこなし、暴走しないように時々だがニィ達と一緒に特訓をしている。

 リリーの場合、エネルギーが神力ではあるが、使う術は風だ。

 それならば、俺でも教えることができる。

 使うエネルギーの種類が違えど。


 しかし、有奈の場合はちょっと違う。

 有奈は、光の魔法と防御術。

 聖鎧の指輪の影響を受けているため、有奈は光属性や護りに特化しているようだ。そこに関しては、俺も教える自信が無い。

 なので、専門家に任せているのだ。


「いいですか、ありりん。光属性とは、闇属性と同じでかなり特殊な属性なのです。なので、取り扱いが結構難しいのですよ」

「あ、ありりんって……」


 また新しい呼び方か。うん、可愛いなありりん。俺も呼んでみようかな……。

 っと、余所見はいかんな。

 俺も教える立場としてしっかりやらねば。


「今の最大出力はどれくらいなんだ?」

「そうですね……あまり試してはいませんが、頑張れば竜巻を起こせそう! と自分では思っています」

「なるほど。それじゃ、試しに最大出力で風を起こしてみてくれないか?」

「わかりました!!」


 何があっても、この空間ならば問題は無い。

 壊れるものもなく、迷惑をかける人達もいない。

 先ほどよりも、神力を全力で練り上げているリリーを見詰め、俺はへえっと思わず声を漏らす。三週間前は、本当に弱々しかったのに。

 今では、魔力で言えば中級……いや、もしかしたら上級魔法も扱えるほどまで成長している。有奈も、かなり成長しているようだし。

 二人とも才能があったのか、それともそれ以上に努力をした成果なのか。


「いきます!! 巻き起これ、風よ!!」


 思いっきりの風。

 巻き起こったのは、予想以上の竜巻だった。遠くで特訓をしている有奈達のほうまで、風が届いてしまっている。

 これは。


「……よし。もういいぞ」

「は、はいぃ。……ふう」

「さすがに全力だと疲れるか?」


 真っ白なタオルと飲み物を渡し、俺は問いかける。


「さすがに、ちょっと。でも、いつしか、大災害を起こせるような風を起こして見せます!!」

「いや、それは止めてくれ。大騒ぎになるから」

「えへへ。冗談ですよー」


 明らかに本気の目だったと思うんだが。それからは、休憩を挟みつつ、俺の全力の風魔法をぶつけ合いながら特訓を積み重ねていった。

 そんな時間が二時間続き。


「も、もうだめですぅ……!」

「わ、私も」


 二人は、体力的にも神力の残量的にも限界にきた。


「じゃあ、そろそろ終わりにするか」

「そうですね。そろそろ、お昼ご飯の準備をしなくちゃなのです」

「さ、さすがに二人は余裕そうですね……」

「あれだけ動いたのに、すごいなぁ」


 疲れていないわけじゃない。特訓相手は、神の力。さすがの俺でも、ちょっとは疲れている。だけど、教える身としては教え子よりも疲れていたら、情けないからな。


「おーい。お腹減ったわよー。早くお昼の準備してー」

「まったく。リフィルも、少しは手伝ってほしいのです」

「だって、あたしは空間の維持で忙しいんだもーん。あんた達の暴れっぷりに負けないように維持するのってすっごい大変なのよー、マジで」


 確かに、今日はいつも以上に暴れてしまったな。いくら神様が作った空間とはいえ、あれだけ暴れて壊れないはずがない。

 それをリフィルが、ずっと維持し続けていた。

 そこは感謝しないとな。それをちゃんとわかっているニィは、仕方ないのですと呟く。


「今日は、リフィルの好きなものを作ってあげるのですよ」

「いえーい」


 喜んでいるようだが、疲れているため声にそこまで元気が無い。


「二人は、しばらく休んでてくれ。あ、ちゃんと夕飯前に汗を流しておくんだぞ」

「はーい」

「わかりましたー」


 コトミちゃんの時以来だからな。なんだか、俺も少し張り切ってしまったかな。

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