第一話「騒がしい二人に挟まれて」
「言っておくが、刃太郎を倒すのは我だ。貴様は大人しく、帰るのだな」
「何をいう! わしは、こ奴の父親に縁があるのじゃ。その父親と戦えないのならば、息子が責任を取るのが当たり前。というわけで、おぬしが帰るのじゃ」
「……どっちも帰ってくれ。邪魔だから」
「なに!?」
「なんじゃと!?」
俺の父さんに縁ある妖怪。その名を旋風丸というのだが、そいつが俺の父さんと決着をつけたいができないので、代わりに俺と戦うと言い出す。
そこへ、空気を読まず俺に何度も挑戦しては、負け続けている魔帝が登場。
軽い自己紹介と言い争いをしている最中に俺が離れたのだが。
簡単に追いつかれてしまった。
俺を真ん中にして、左がロッサで右が旋風丸。
未だに言い争いを続けている。
俺を倒すだの、なんだのと小さな娘達が叫んでいるので通行人達も自然に視線を耳を傾けてしまっている。
「さっきも言っただろ。俺はこれから買い物なんだ。勝負するつもりは無いから、二人とも帰ってくれ」
俺は、いつものスーパーへと買い物籠を持って入っていく。
「買い物程度ならば、そう時間はかかるまい」
「その通りじゃ。どれ、わしも買い物を手伝ってやろうではないか。何を買うのじゃ? ぬおっ!? な、なんじゃこれは!?」
「自動ドアだよ」
自動で開くドアに旋風丸が驚いているが、俺は軽く言葉を投げそのまま進んでいく。
「ふははは!! 自動ドアごときで驚くとはな! その調子では、先が思いやられるぞ!!」
と、ロッサが馬鹿にしている。
いや、馬鹿にするのはいいが、俺を挟んでやるのは止めてくれ。
「じ、自動ドアごとき、わしも知っておるわ! た、ただドア忘れしていただけじゃ!!」
「強がるな小娘。ならば、これは知っているか?」
そう言って、ロッサはカップラーメンを手に取る。
ちなみに、カレー味である。
「それぐらい知っておるわ! お湯を入れればできあがる面じゃろ! のう? 刃太郎!!」
「ただ入れれば言いだけではない。こいつは五分。そして、こいつは三分待たないと固麺のままなのだ」
「わしは、固麺でも余裕で食べれるがの」
「そうだったのか? てっきり歯が弱く、柔らかいものしか食べれぬかと思ったぞ」
「どういう意味じゃ?」
喋り方からそんな考え方になったんだろうな。二人のやり取りをひたすら無視しながら俺は買うべき物を籠へと入れていく。
ちなみに、周りからは小さな女の子が可愛らしい言い争いをしているようにしか見えていないだろう。おそらくだけど。
誰もこいつらが、魔族とか妖怪だとは思うまい。
「あら? 刃太郎くん」
「あ、リアスさん。そっちも買い物ですか?」
偶然にも、リリーの母親であるリアスさんと出くわす。今では怪我などは一切しておらず、買い物籠には大量の食材が詰まっていた。
本当にこれを一人で持つのか……。
「そうなのよ。本当は、リリーも一緒に連れてこようと思ったのだけれど。あたしはやることがあるから! って。そういえば、最近は部屋でよく風がーとか叫んでいたような気がしたけど……窓でも開けているのかしら」
それはおろらく、風を操る練習だろうな。
時々、ニィやリフィルに有奈と一緒に神力の使い方を教えてもらっている。そのおかげで、順調に神力は上がっていっているようだ。
今日も、一人でその練習、と言ったところだろう。でも、さすがに部屋でやるのはちょっとな……。
「ところで」
「はい?」
リアスさんは、笑顔で俺の両隣へと視線を向ける。
「その子達は、刃太郎くんの……彼女達?」
「なんでそうなるんですか!?」
「彼女ではない。敵だ」
「うむ。そうじゃ、わしもこ奴を倒す者じゃ娘よ」
「あらあら。随分と個性的な子達ね。あ、もしかして妹さん達かしら?」
「いや、ですから」
その後も、なんとか誤解を解こうと奮闘し、やっとこいつらが俺にとっては遊び相手のようなものだと言って信じてくれた。
しかし、あの微笑みは……なんだかまだ誤解していそうで怖い。
本当、おっとりとした女性ってある意味で怖いな。あれで、昔は荒れに荒れていた不良娘だって言うんだから不思議だよな。
やっぱり、人間恋をすれば変わるものなんだろう。
・・・★・・・
「それで、そのまま連れてきてしまったということなのです?」
「違う。勝手についてきたんだ。玄関先で放置しても、うるさく叫ぶだろうから。近所迷惑も考えて入れてやったんだ」
「これが世に言うツンデレというやつなのじゃな」
「なんで、自動ドアのことを知らずにツンデレを知っているんだよ……」
「我が教えてやった」
「お前かよ……」
というか、俺はツンデレじゃない。買い物後、後は帰るだけだったのだが。ご覧の通り、二人ともついてきてしまった。
「あんた。また厄介ごとを連れてきたわね」
「またってなんだよ」
「それで? そっちののじゃロリは何者なのよ? どうやら、魔力とも霊力とも違う力を持っているみたいだけど」
体力的には、まだ余裕あるが精神的に少し疲れたのでソファーに腰を下ろすとリフィルが慣れたようにポッキーを俺に渡してくる。
俺はそれを受け取り齧りながら語っていく。
「そいつは、俺の父さんが昔封印していた妖怪みたいなんだ。それが、今なぜか封印が解けて俺を父さんだと間違って話しかけてきた、て感じだ」
「へぇ。あんたの父親って術士かなんかだったんだ」
「そうじゃ。刀児は、わしに一人で挑み、辛くも封印した威田家の術士! じゃが、わしが封印から解き放たれたこの世には威田の血を受け継いでいるのはこ奴だけだったのじゃ……」
なぜか、ニィはおもてなしモードに入っており旋風丸に温かいミルクを振舞っていた。旋風丸もそれを疑いも無く口にし語っている。
ロッサもロッサで、慣れたように人ん家の棚を勝手に漁っているし。
「俺だけじゃないぞ。妹もいる」
「なんと!? そうだったのか」
「……なあ、威田家って一体何者だったんだ? ただの術士の家系なのか?」
もうこの際、こいつに洗いざらい知っていることを教えてもらおう。そう思った俺は、ニィが用意してくれたホットミルクを手に旋風丸へと問いかける。
「ただの術士の家系じゃ。他の術士の家系に比べれば大した功績は挙げておらず、数もそこまで多くなかった。じゃが、それでもあ奴らは必死にわしら妖怪と戦っておった……」
懐かしむように、旋風丸は語っていく。
俺が知らない、父さん達の過去を。
「等々、威田の術士が刀児とその親だけになった頃。わしは、刀児にちょっかいを出しに言ったのじゃ。わしら妖怪に歯向かう弱小術士の生き残りがーっとな」
「どこぞの誰かさんみたいね」
「まさか、我のことを言っているのではないだろうな? 言っておくが、我は刃太郎を弱者だとは思っておらんぞ。なにせ、我を倒し続けている奴だからな!」
はいはい。お前は、大人しく棚から勝手に取った羊羹を食べていろ。
「じゃが、刀児は最後の術士としてわしに真っ向から立ち向かってきよった。わしも、その姿に本気でぶつかり」
「封印されたと。父さんは、そんなに強かったのか?」
「うむ。少なくとも、わしは強いと感じたな。じゃから、完全に封印される前に言ってやったのじゃ。わしはすぐ封印を時、おぬしに会いに行く。その時が、完全決着だ! とな。それなのに……やっと封印から解かれたと思えば、刀児は死しており、息子には無下にされる始末。やれやれ、人間達はいつからこんなにも強くなったのじゃ?」
「刃くんは特別なのですよー」
「そうね。ある意味特別よね」
神様達に、そう言われるとは光栄ですねうん。
ずっと封印されていた旋風丸にとって、今の妖怪達を見て、どう思うんだろうな。すっかり、毒気が抜かれたように人間達と共存している。
人間を襲おうとも、優秀な霊能力者達や陰陽師達。そして、俺達も微力ながら倒しに行く。
「ところで、お前。これからどうするつもりだ?」
「それはもう決めておる。おぬしを倒すため」
「却下だ」
「なぜじゃ!?」
これ以上、面倒な奴はごめんなんで。こいつの身柄は……鳳堂家か幽場館辺りにどうにかしてもらおう。さすがに、俺のところで面倒を見るのは毎日がうるさそうだからな。
そんなこんなで、さっそく俺は華燐の携帯に電話をかけることにした。




