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外伝3~魔帝バルトロッサ~

「ほ、本当に大丈夫なんでしょうか? 村長」

「わからぬ。だが、あの娘からは、普通ではない雰囲気を感じる。それに、なぜか葉月が信じてみたいと言い出しているんだ」

「葉月ちゃんが?」


 歪巳を誘き寄せるため、村の結界を消した。

 こうすることで、早く外に出たい歪巳はこの村にある守護陣を消し去りにくるだろう。自分で、結界を破壊するよりもそれが一番手っ取り早い方法だ。


 結界を作っている守護陣は、村長宅にある。

 その正面には、バルトロッサが仁王立ちしていた。

 念のため後ろには、楓と葉月を配置してある。


「来たか」


 しかし、相手は思っているよりも単純だった。真正面から突っ込んできたのだ。


「き、来た! 歪巳だ!!」


 ものすごい勢いでこちらへと近づいてくる歪巳に、村人達は怯えている。その姿は、巨大な蛇だ。しかし、頭に二本の枝のような角が生えていた。

 蛇というよりも龍に近いか? 

 だが、地面を這いずるように近づいてくる様は、蛇そのもの。

 全長は、およそ十四メートルほどと言ったところか。太さは、一メートルと少し。周りの木の太さほどはあるだろう。

 ひょろひょろと口の中から、細く長い舌を出し入れしながら村長宅の目にいるバルトロッサを睨んだ。


『貴様、何者だ』

「貴様を葬る者だ。名は、我が貴様を認めた場合に言ってやる」

『認めるだと? ふざけたことを。どうやら、人間ではないようだが……ふん、その程度で私の進行の邪魔をするというのか?』


 見た目と今感じられる魔力だけで、バルトロッサを馬鹿にするように笑う歪巳。その後、近くにいた村人達を見詰め、叫んだ。


『私は、ここから解き放たれ、人間どもへ復讐をする! どうだ? 貴様も、私と一緒に人間どもを殺し回らぬか? 貴様も、好きで人間を助けているのではないのだろう?』


 歪巳の誘いに、村人達はもちろんのこと楓や葉月も騒ぎ出す。

 もし、バルトロッサが歪巳の誘いに乗ったら……。


「貴様は勘違いをしているから、教えてやろう」

『なに?』

「言っておくが、我は人間を助けている覚えは無い。我は、貴様と戦うためにこうして人間どもに協力をさせてやっているのだ」

『ほう……ならば、好きなだけ戦ってやろう。この地から離れた後でな』

「いや、今すぐ戦え。そろそろ、我は刃太郎のところに行かねばならん。今日は、クレーンゲームでどちらが多く取れるかという勝負をする予定なのだ。ほれ、さっさとかかってくるがいい」


 クレーンゲーム? 急いでいる理由を聞き、楓達は唖然としていた。目の前には、強大な力を持った化け物がいるというのに、遊ぶことを考えているなど……。

 予想通り、歪巳は機嫌を損ねたようだ。

 内にある霊力を極限まで高め、真っ白な体に黒い文様が浮き出てくる。


『そんなに死にたいと言うのなら、望み通りにしてやろう!!』


 鋭い牙を露にし、人間など丸呑みできるほどの大口でバルトロッサへと襲い掛かっていく。

 危ない!

 誰もがそう思った。


「この程度か?」


 ただ短く一言呟き、小さな人差し指で軽く弾く。

 すると、人間の腕ほどある牙が一本簡単に砕け散ったではないか。


『ぐぎゃあああっ!? わ、私の牙がぁッ!?』


 予想外の衝撃に、歪巳は悶える。

 その滑稽とも言える姿を見て、バルトロッサは葉月から貰ったおにぎり(鮭)をのん気の頬張る。


「おい、その程度で騒ぐな。出し惜しみはいい、さっさと本気を出してみよ」

『な、なにぃっ?』


 口いっぱいにおにぎりを詰めている姿はとても可愛らしい。だが、歪巳やその場にいた楓達にも、見た目とは反した強さに、体中へと恐怖心で震えてしまっている。


『い、いいだろう。貴様は、殺す。毒を注入し、絞め殺し、ゆっくりと私の体内で消化してくれるわぁっ!!!』


 更に、力を増大させる歪巳。

 草木は、家は揺れだし、歪巳自身の体も大きく変化した。先ほどまでは、黒い文様だったのがそれが全身に広がり、完全なる黒へと。

 もはや、元の真っ白な体はどこへいったのか。


「ほう、それが貴様の全力か?」

『今更、頭を垂れようとも遅い!! 貴様はもう生かしておかぬ! 貴様を殺した後は、そこにいる人間どもも皆殺しだ!!』

「ひっ!?」

「そ、村長。今のうちに逃げたほうが……」

「うむ……だが」

「大丈夫、だと思います」

「葉月?」


 怯える村人達の視線は、葉月へと集中した。だが、当の葉月もどうしてそんなことを言ったのか完全に理解していない。

 いや、もしかしたら理解しているのかもしれない。

 今、目の前にいる自分と同じぐらい小さい背中が、見た目以上に……頼りになるものだと。だからこそ、迷いなく言えたのだ。


「……つまらん」

『なに?』


 刹那。

 バルトロッサの魔力は爆発した。その衝撃により、家の屋根は半壊し、村人達も吹き飛ばされてしまう。土だらけになった村人達は何が起こったんだ? ともう一度バルトロッサを見詰める。


「まったくもって、つまらん。少しは期待をしていたのだが……貴様。大人しくここで眠っていろ。貴様程度がこの地から出たところで、容易にやられるのがオチだ」

『なん、だと……貴様……!』


 歪巳の声が上ずっている。明らかに、怯えているがわかるほどに。それもそのはずだ。いったいどこにそれほどの力を隠していたんだ。

 そんなにも、今のバルトロッサの力は強大で計り知れないもの。

 一歩、また一歩と近づく度に風が巻き起こり、歪巳は後ろへと下がっていく。


「それと、貴様。我に対して殺すと言ったな。その言葉を口にしたからには……覚悟は当然できているのだろうな?」


 まだ上がる。上がっていく……いったいどこまで。

 もはや、見た目以上に大きい存在に見えてしまっている。幻覚だ。幻覚に決まっている。だが、それでも目の前にいる小さな存在が自分よりも大きく見えてしまう。


『う、うわあああああっ!!!』


 もはや、さっきまでの偉そうな態度をとっていた歪巳はいない。ただ、目の前の強大な力に恐怖し、自棄になり突っ込んでくる弱者。


「ふははははは!!! まさに滑稽!! 滑稽極まりないぞ!!!」


 それは一瞬の出来事。

 恐怖に負け、自棄になり突っ込んでいった歪巳は、バルトロッサの攻撃により蒸発するように消えてしまったのだ。

 残ったのは、大きなクレーターだけ。

 静寂に包まれた森で、バルトロッサは葉月から貰ったもうひとつのおにぎり(梅)を頬張り呟く。


「つまらん。暇つぶしにもならなかった」

「や」

「やったあ!!!」

「あの歪巳を倒したぞ!」

「こ、これで村は。いいえ! 日本は救われたのね!!」


 歪巳の消滅により、歓喜する村人達。

 だが、そんな中バルトロッサは次元ホールを作り出しさっさと帰ろうとする。


「ま、待ってください!」

「なんだ? 我は、もう帰る。ここにはもう用は無いからな」


 本当につまらなさそうに、吐き捨てる。

 先ほどの戦いを見て、本当はバルトロッサへの恐怖がある。それでも、これだけは言いたい。楓も葉月の隣に並び、頷く。


「あ、ありがとうございました!!」

「本当に、ありがとう。あなたがいなかったらどうなっていたことか……」

「なぜ礼など言う? 我は、貴様らを助けたわけではない。ただ暇つぶしになると思って戦っただけだ」

「それでも、よ。ねえ、あなた。本当に人間を滅ぼしたりはしないのよね?」


 あれだけの力があるのなら、人間なんて簡単にと楓は思っているのだろう。それは葉月も、村人達も気になっていることだ。


「そうだ。それに、我は今刃太郎を倒すことに忙しい。奴に勝たぬ限り、我は前には進めぬからな。……安心するがいい。貴様らなどに、興味はないわ」


 そう言っておにぎりを平らげ、バルトロッサは次元ホールへと入っていく。

 帰る先は、もちろん刃太郎が住んでいる部屋の前。

 まだ刃太郎は、この中にいる。

 今日は、アルバイトがないことは調査済みだ。軽いウォーミングアップも済んだ。


「……なにしてんだよ」


 突撃しようとしたが、相手から出向いてくれたようだ。

 その間抜けな顔を見た瞬間、バルトロッサは声を跳ねる。


「出迎えご苦労!! さあ、勝負だ! 刃太郎よ!!」

「いやだ」

「なにっ!?」


 ただ一言で即答し、さっさとバルトロッサから離れていく。


「貴様! 少しは考えるということをせぬか!」

「したくない。今日は、自由に街を歩き回りたい気分なんだよ。お前は、どっかで何か食べてろ」

「ならば、敗者が勝者に何かを奢るというのはどうだ?」

「いやだ」

「なにぃっ!?」


 勝負を仕掛けては、即答で断られるを繰り返し、それはゲームセンター前に行くまで続いた。

 そして、周りの視線が気になって仕方ない刃太郎はついに折れ、バルトロッサと勝負をし。


「はい、俺勝ち」

「なぜだああっ!?」


 刃太郎の圧勝に終わり、バルトロッサは彼に巨大クレープを奢ったのだった。

そんなこんなで、外伝は終わり。

次回からは、最終章へと突入となります。最終章というだけあって、いつも以上に不安でいっぱいですが、最後まで頑張りたいと思います!

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