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外伝2~誘き寄せ作戦~

 バルトロッサが関わった姉妹。

 それは、とある山奥に住んでいる隠れ民族で、大昔から邪悪な力を封印してきた。しかし、その力も徐々に力を増大させていき、一瞬の隙を狙って封印を破り外に出てしまったようなのだ。

 そもそも、封印の力を持っているのが現在では二人。

 つまり、バルトロッサが関わった姉妹だけなのだ。


「ほう。それで、貴様は封印に失敗したということか」

「し、失敗なんてしていないわ。ただ、あいつが思っていた以上に強大になっていたから……」


 傷の手当てをした封印の姉妹の姉。

 名を嵯上楓。今年で、十六歳になる時期村長候補。そして、その妹の葉月。今年で十四歳になり、家事全般をこなし動物達とはすぐ仲良くなるという特異体質を持っている。

 姉とは違い封印の術は、そこまででもないが。それ以外で姉をサポートしているようだ。


「強がるな。それでは、余計に滑稽だぞ?」

「な、なんですって!」

「お、お姉ちゃん。傷口に響いちゃうから!」


 大体の状況は把握した。

 というよりも、この地に封印されていたその邪悪な力をどうにかすればいいだけのこと。彼女達は、封印すると言っているが。

 封印を破るほどまで強大になっているということは、運良く封印できたとしてもまたすぐ破られる可能性のほうが大きい。


「それで、葉月よ。奴はまだこの森の中にいるのだな?」

「は、はい。この森には一応人払いの結界と、もしもの時の守護結界があるので。簡単には出られないはずです。もし、外に出ようとしたら結界に歪みが生じるはずなので、おそらくは」

「ふむ。姉とは違い、優秀ではないか」

「あ、あなたね。私のことを、怒らせたいの!?」


 バルトロッサの発言に、再度怒りを露にする楓だが、葉月がまあまあっとなんとか制す。


「それにしても、バルトロッサさんはその……すごいですね。二重の結界があるから人も悪しき存在も簡単には入って凝れないはずなんですが」

「我をそこらの連中と一緒にするな。我は魔帝!! 魔族の頂点!! まあ、今はこんな体になり専らこの世界で食べ歩きをしているのだがな」

「この世界って……あなた、別世界の住民とか言い出すんじゃないでしょうね?」

「そうだが?」


 迷い無き即答っぷりに、楓と葉月はきょとんっとしてしまう。確かに、この世界にも魔族という存在はいるようだ。

 だが、それは人々の中では空想。またはひっそりとどこかに隠れている。

 ヴィスターラや魔界での魔族とは違い、影の存在となってしまっているのだ。


「べ、別世界の魔族がどうして地球に? まさか、世界侵略でも考えているんじゃ……!」


 と、警戒心を高める楓だが。


「そんなものは考えていない。そもそも、我はそれをしようとしてもできぬのだ。現状はな」

「どういうことですか?」

「約束、というのか。いや、束縛か? うむ、そんな感じだ。我は、勇者に勝てぬ限りこの世界では大人しくロッサという存在として暮らしていかねばならぬのだ」

「勇者ってことは、あんたを倒した人ってことよね?」

「ああ、そうだ。我は、日夜奴を倒すため奮闘している。だが、一向に勝てない。エアホッケー、格ゲー、我慢大会、テニス……もうどれだけの勝負を挑んだことか。その全てで、我は奴に負け続けている」


 バルトロッサの話を聞いて、顔を見合わせながらそれは勝負、なのか? とどうしても、遊んでいるようにしか思えない。

 エアホッケーにしても、格ゲーにしても、テニスにしても。

 いや、格ゲーやテニスは勝負事に入るのだろうか? 


「あっ」

「うむ」

「……近いわね」


 そんな会話をしていると、気配を感じ取った。しかし、相手側もすぐこちらの気配を感じ取ったのか、すぐ暗ましてしまう。


「逃げ足だけは速いようだな」

「そりゃ、何百年ぶりの外だもの。全力で逃げているんでしょうね。……ともかく、ここからだと村は近いわ。まずは、村に行きましょう」

「ふむ。その村に向かった可能性は、あるのか?」

「あると、思います。森を覆っている守護結界は、村長の家。つまり私達の実家にある守護陣を破壊しない限り、簡単には破れませんから」


 そうか、と短く頷き、村まで案内するように指示をする。

 現在地から、一分半ほどで嵯上姉妹の住んでいる村へと到着した。目に見える限りでは、家の数は七軒ほど。

 ほんとうに小さな村のようだ。


「皆! 楓達が帰ってきたぞ!」

「おお! 無事だったか!」

「そ、それであいつは……歪巳は封印できたのかい?」


 二人の帰還を、全村民で出迎える。

 人数は、十数人ほど。

 その中から、杖を持ち腰が曲がった老人とそれを支える女性が近づいてくる。他の者達とは違い、微かにだが女性から力を感じ取ったバルトロッサ。

 おそらく。


「おじいちゃん! お母さん、ごめんなさい。歪巳はまだ……」


 楓の本当に申し訳ない表情を見た後、女性は腕の傷を見詰め優しい表情で宥める。


「いいのよ。あいつは、昔よりも強大になっている。いくら、あなたが封印の力を持っていても簡単にはいかないわ」

「で、でも私は……!」

「お、お姉ちゃんのせいじゃないの! 私が、足を引っ張ったせいで……」


 姉のせいではないと庇うように消えそうな声を振り絞り、叫ぶ葉月。その姉妹の絆を見て、老人は首を横に振った。


「いいんだ、二人とも。歪巳は、我々の手ではもう……」


 老人の言葉に、他の村民達は拳を握り締め、絶望の色に染まっていた。しかし、そんな空気をぶち壊すようにバルトロッサが声を上げる。


「おい、そういう話はいい。ここには、その歪巳とやらは来ていないのか?」

「えっと、あなたは?」


 やっと、バルトロッサの存在に気づいた村民達。


「我が名はバルトロッサ。言っておくが、我は人間ではないぞ」


 人間ではない。その言葉に、全員がざわつく。

 しかし、バルトロッサはすぐこう付け加えた。


「安心するがいい。貴様らに危害を加えるつもりは無い。それよりも、我は聞いた。その歪巳とやらは、ここには来ていないのか?」

「……ええ。まだ来ていないわ」

「だが、奴も早くこんな場所からは出たいはず。だから」


 結界を壊すために、守護陣を消し去りに来る。

 そういうことなら、とバルトロッサはにやっと笑う。


「ならば、その守護結界を餌とし、奴を誘き寄せるとしよう。こちらから探しにいくよりも手っ取り早い」

「な、なにを言っているんだ! そんなことをしたら!」

「騒ぐな、小僧」


 明らかに、見た目はバルトロッサのほうが若い。しかし、バルトロッサの一言に三十代の男性はぐっと黙り込んでしまう。

 その一言で、周りの空気も張り詰めている。

 村民達は、知ったのだ。彼女が、本当に人ではないということを。


「黙って、我の言うとおりにしろ。おい、葉月」

「は、はい!」

「この村の周りにも、微かにだが結界が張られているようだな」


 何もない空間を見詰めると、薄い膜のようなものが目に見えた。村に入る時も、肌を刺す嫌な感じがしたことから、察してはいた。


「はい。確かに、結界が張られていますが……」

「ならば、それも取っ払え」

「はあっ!? あなた、なにを」

「そうでなければ、歪巳が力を消費してしまうだろう? 結界を割るために。それでは、面白くない」


 いったい、何をしようとしているんだ? と楓を含め村民達は、不気味に笑うバルトロッサに恐怖を覚えてしまう。

 だが、葉月は不思議と彼女なら……と。

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