第二十四話「慌しく明けまして」
百ポイントの端末を機械にはめ込み、ドアを開けた先。
そこは、モニタールームだった。
モニターそれぞれには、俺達の住んでいる街の様子が映っている。そして、椅子がひとつあり、そこに座っていたのが。
「お前が、首謀者だな?」
俺の問いかけに、椅子はくるっと回り方向転換。
座っていたのは、テレビで見たあの帽子。
見た目は、中学生ぐらいだろうか? 帽子を深く被っており、ぷくーっと風船ガムを膨らませている。
「その通り。僕が、このゲームの首謀者。【世界を喰らう者】なんて以前は言われていた」
風船が割れ、帽子のつばをくいっと上げて小さく笑う。
「僕の名は、ルーヴ。ヴィスターラを喰らおうとして返り討ちにあった負け犬。復活して、更に力を取り戻すのに数百年もかかっちゃったんだ」
ルーヴと名乗った帽子の少年? はいやぁ、長かったなぁと語り出すも、俺達はそんなものには興味が無いというのが視線でわかったのか、口を一度閉ざす。
「まあ、昔話はよしておこうか。大丈夫さ。君達が思っていることはわかる。この止まった時間のことだろ? ここに来る前に、欲望の仮面人間(時)を倒したんだったら。後三分ほどで時が動き出すはずだ」
それを聞いて、皆は安堵の声を漏らす。
しかし、そんな中俺はルーヴを睨み続けていた。
「今更、どうしてこんなことをしたんだ?」
「別に、気まぐれさ。正直、力を取り戻す間。この地球という世界で大人しく生活をしていたけど……なかなかいいところだ。世界を喰らってばかりの僕荒んだ心を洗い流してくれるぐらいに」
「だったら、どうして」
「あいつらは真面目だからな。こっちも気取られないように真面目にやっているふりをしないと」
そのせいで、こっちは多大な迷惑を被っているわけなんだが……まあ、皆を見る限りそれなりに楽しんでいたようだけど。
「それで、お前はどうするつもりなんだ? 俺達は、お前に言われたとおりポイントを稼いでお前のところまで辿り着いた。ゲームの定番なら、お前がラスボスとして戦うことになるんだが」
「いいや、僕は戦わない。このゲームは連中に気取られないように真面目にやったことなんだ。監視役でもあった連中がオージオ達にやられたんだったら、僕はもう自由だ。これからは、本当に自由気ままに生きていくことにする。あ、心配はいらない。もう地球を襲うことは無いから。本当だぞ?」
そうは言われても、簡単には信じられない。
空間の時間を止めるほどの力を持った奴だ。
今度また何をするかわかったものじゃない。
「そういうことなら、私達の監視下におくのです」
「ニィ! リフィル! もう大丈夫なのか?」
ラスボスへの道が開かれたことで、次元ホールもここまで出現することができたのだろう。ニィとリフィルが姿を現した。
「あんたねぇ! よくもやってくれたわね!!」
「おっとと。そう苛立たないでくれ。僕だって、本気でやったつもりはないんだ」
「そうだとしても、あなたはこの地球を攻撃したのです。他の神々が黙っていないのですよ」
「まあそうだろうね。そこは覚悟はしていたよ」
「というわけで、これから神々により会議を始めるのです。あなたの処遇はそこで決めるのですよ」
「……ふう。まあ、抵抗はしないよ」
両手を挙げた刹那。ニィは、光の輪でルーヴを拘束した。そこから伸びる光の縄をリフィルが持ち、俺達の方を見詰める。
「ありがとうなのです、皆。こちらの不始末を」
「別にいいって。お前達には普段から世話になっているからな。それに、俺は勇者だ。世界の危機を方っておけるはずが無い」
「そうだよ。それに、私達に世界なんだから。私達が護らないと」
「うんうん。その通りだね!」
「それに、結構楽しめていたし。気にすることは無いと思うよ」
華燐の言葉に、皆が頷く。それを聞いたニィは、安心した表情で複数の次元ホールを出現させる。
「それでは、皆元の場所に戻って」
「時が戻るまで、後五秒ー」
「え!?」
後五秒で、時が動き出すだって? ルーヴの突然の声に俺達は慌てる。もう三分経っていたのか……ええい仕方ない。
こうなったら。
「皆! ここで新年を迎えよう!!」
そう言った刹那。
あの時。時が止まった感覚と似た感覚が俺達は感じ取った。
「明けましておめでとうございます!!!」
俺の若干焦った感じの新年の挨拶に続き、皆が一斉に挨拶を返してくれた。
《明けましておめでとうございます!!!》
なんというか、とんでもない新年の迎え方をしてしまった。
・・・★・・・
「本当にびっくりしたわ。気づいたら、誰もいないんだもの」
「ごめん、舞香さん。色々あってさ……」
新年を迎えた昼時。
皆で、熱々のお雑煮や御節を食べながら実はこんなことがあったんだと話していた。
「くっ! 俺も戦えていれば!」
「そんなことないわ。響くんが動けなかった間、すごくすごく……うふふ」
「もう、あんなの勘弁だぜ……」
どうやら、響と雪音さんは、お互いに見詰めあったまま倒れていたらしい。雪音さんは、動けない間ずっと響の顔を見詰めていられて幸せだったとか。
「くっ! すみません! バルトロッサ様! 俺は何もできず!!」
「気にすることは無い。貴様はいまや、普通の人間。動けないのが当たり前なのだ。それより、おかわりだ」
「は、はい!」
舞香さんや光太のような普通の人間はあの力によって完全に時が止まっていた。後で、わかったことなのだがこんなことが世界中で起こっていたらしい。
以前出会った退魔士の少女キャロルが、そのことを教えてくれた。
とはいえ、力がある者だけが動けてそれ以外は時間停止。動ける者達が教えない限るニュースになるはずもなく。
そもそも、せっかくの新年なのだから観る番組も多い。ニュースなんかで潰されたくない。
「ところで、ルーヴでしたっけ? あの帽子の子はどうなったんですか?」
と、リリーが問いかけてきたので俺は一度箸を置いて語りだした。
「処遇は決まったようだ。確かに世界へ攻撃をしたが、違いはそこまででもない。それに、神々の中には楽しめた者達も居たらしく今後何もしないようにこっちで監視しろ、だそうだ」
確かに、時を止めて動ける俺達を仮面人間達と戦わせた。
しかし、それ以上のことはしていない。
俺達プレイヤーは全員生きており、プレイヤー達自身もなんだかんだで楽しめていた。そこも考慮しての処遇なのだろう。
「なるほど。あ、じゃあルーヴは今どこに?」
「さあな。それは俺にもわからない。ニィとリフィルなら知っていると思うけど」
リフィルはあんな奴のことなんて知らないわ、とそっぽを向かれ。ニィは、今はお正月を楽しむのですーと一切ルーヴのことに触れない。
まあ、今は監視されているってことだし。また何かをしようとしたら俺達がまた止めれば……。
「と、ところで刃太郎さん。あのお見せしたいものがあるのですが」
「ん? なんだ?」
えへへ、と恥ずかしそうに掌をテーブルの上に出し力を込める。
すると、小さな風の渦が掌に現れたではないか。
「これって」
「今は、ここまでですが。神力を操れるようになってきたんです」
「実は私も。昨日のゲームで、レベルアップしたのかな? 神力をちょっとだけど操れるようになってきたの」
そう言って、有奈は掌に光の球体を出現させる。それぞれ、影響を与えた属性を操るか。リリーは風神の腕輪だから風を。
有奈は聖鎧の指輪だから光属性を、てところか。
「それはよかった、と言いたいところだが。神力は、普通の力とは違う。だから、ちゃんと使い方をそこに居る神様達に習っておくように。俺も、できる限りは教えるから」
「はい! さあ! そのためにもいっぱい食べて体力をつけませんと!!」
「リリーはちょっと食べすぎだよ? 去年みたいにふと」
「だ、大丈夫だよ! 特訓をすれば、すぐ減るもん!!」
去年からはまさか有奈やその友人が神力を得るなんて思わなかった。けど、こうなってしまったからには俺も責任を取らないといけない。
さてはて、今年はいったいどんなことが起こるんだろうか。
というわけで、第七章完結! そして……そして!! 次章で最終章となります。
……はい、最終章です。
今までのような、中途半端な終わりではなく。ちゃんとした本当の完結。まあこういう作品はどこかで終わりを考えないと永遠に続きそうな感じなので。
とはいえ、次はちょっと外伝をはさみます。
外伝の主人公は刃太郎から代わり、バルトロッサになります。数話程度の短いストーリーですが、またちょっとした小休憩のようなものです。
この作品ももう少しで完結……皆さん、最後までお楽しみください! 自分も最後まで頑張りますので!! では!!




