第二十二話「人の話は」
「ここかぁ。私、初めて入るかも。スポーツジム」
「僕もそうかな」
次に仮面人間達が出現する場所。
スポーツジムのあるビルへとやってきたコトミとコヨミ。くじ引きの結果、獣っ娘二人と一緒に刃太郎達とは違う場所へ来たが。
「……鍵かかってる」
当たり前だ。今は十二月三十一日で日付が変わろうとしていた時間。ほとんどの店が戸締りをしている。開いているはずがない。
壊す、というのは止めた方がいい。
コトミやコヨミには、魔力で何かを直す技術は無い。刃太郎に頼めば、なんとかなるのだろうが。迷惑もかけたくない。
「よし。出番だよ、フェリル」
「まかせてー」
ショッピングモールの時もやってくれた。フェリルは、鍵穴を覗き込んだ後、神力を放出。それを鍵の形に生成。
差し込み……開錠。
「開いたよ、皆」
「ありがとうね、フェリル。それじゃ、僕達はこのジムの中で現れる仮面人間達を倒してくるから。待ってて」
「おっけー。助けたいけど、僕の体じゃここは動き難いしね」
ショッピングモールのような広々とした場所ならともかく、ここは少々狭過ぎる。とはいえ、二人には助けは必要なさそうだ。
そう思うからこそ、フェリルは信じて待っていられる。
「それで、どうしますか? お嬢様方。あたしらとここで分かれて敵を殲滅しやすか? あ! それともどっちがここで多く倒せるか競争しやすか?」
二人と一緒に行動を共にすることになった獣っ娘の一人アーヴェが言う。
ぴんっと立った猫耳にやんちゃな顔つき、戦闘を前にわくわくした表情を浮かべている。
「アーヴェ。言葉を慎みなさい。今がどんな状況なのかわかっているのですか?」
そして、もう一人の獣っ娘ティタがアーヴェの軽々しい言葉を注意する。
耳の毛がふさふさしており、アーヴェよりも若干大きい犬耳に生真面目な表情でため息を漏らす。
「わかってるって! 今は、選ばれし者達によるリアルゲームをやってるんだろ?」
「やっている、というよりもやらされているというのが正しいです。このゲームをクリアしない限り、わたくし達には新年は訪れません」
「うんうん。だから、ここに出現する仮面人間達を倒すんだよ。アーヴェ、ティタ。ここは、任せたよ」
まず辿り着いたのは、二階。
どうやら、中は開いているようだ。フェリルから、万能鍵のようなものを受け取ったのだが出番はなさそうだ。
「畏まりました。コトミ様もコヨミ様もお気をつけて。ここが終わり次第、微力ながらわたくし達が駆けつけます」
「あっという間にぶっ飛ばしてきやすから!」
「任せたよ」
次に三階へと訪れたコトミとコヨミ。
端末で確認できる限りだと、二階と三階にしか仮面人間は現れないようだ。こちらとしては、好都合ではある。
不満点と言ったら、やはりスポーツジム自体がそこまで広くないせいで、出現する仮面人間の数が少ないというところだろうか。
これでは、ポイントが多く稼げない。
「出てきたね」
「特殊個体も、出てきたね。えっと」
刃太郎に教えてもらったサーチで、出現した特殊個体の名前を確認する。名前は、欲望の仮面人間(筋肉)だった。
情報では、後ろに来る文字は一文字ということだったが。
まさか特殊個体の更に特殊な個体? 見た目は、隆々とした筋肉に股間に食い込むほどのパンツを穿いていた。
「はっはっはっは!! 少女達よ!! 鍛えているか?! 筋肉つけているか?! 俺は、毎日鍛えているぞぉ!!」
「鍛えているけど、筋肉つかないんだよなぁ」
自分の腕をぷにぷにと触りながらコトミは仮面人間の言葉へ真面目に答えていた。
「コトミは、鍛えてもあまり変わらないからね。それは、コトミの分身である僕もだけど」
「……とりあえず、倒そっか」
「うん、早く倒しちゃおう」
「はっはっはっは! 威勢のいい少女達だ! しかぁっし!! この俺の鍛えあげられた筋肉の鎧はそう簡単には」
ポーズをキメながら、説明をしている中。
コトミ達は、一目散に武器を構え駆け出す。
「そりゃあ!!」
「せい!」
「幼女ばんざーい!!」
「ありがとうございまーす!!」
次々に周りに出現していた仮面人間達を倒していき、欲望の仮面人間(筋肉)に近づいていく。そんな二人の行動に驚愕した欲望の仮面人間(筋肉)は色んなポーズを取りつつ叫ぶ。
「少女達よ! 人が喋っている時は、大人しく聞いているようにと教わらなかったのかぁ!?」
「えー? だって、私達早く新年迎えたいんだもん。早くうどん食べたいし、お餅も食べたい!!」
「そういうこと。だから、君の長話には付き合ってあげられないんだ」
あっという間に仮面人間達を倒し、残ったのは特殊固体のみ。
「よっしゃー! 倒すぞー!!」
「どっちにポイントがいっても恨みっこなしだからね」
「まったく……最近の若い者達は。鍛えていないから、そんなに落ち着きがなくなるんだ! いいか! 他事なのは鍛えること! 鍛えれば、体だけではなく考える力だって」
しかしながら、二人はそんなことを聞くはずも無く。
ハッと視線を真正面に向けた時には、同時に剣を構え襲い掛かろうとしていた場面だった。まるで、無邪気な獣が獲物を狩ろうとしている時のように。
「人の話を聞かんかー!!!」
最後の最後まで、自分の鍛え上げられた筋肉を見せつけるようにポーズを取っていた欲望の仮面人間(筋肉)だったが、相手が悪かった。
子供とは、いや若い獣とは落ち着きが無いのだ。特に今回は、楽しみにしていたものを奪われたようなもの。全力で取り戻すため、なりふり構っていられないだろう。
「お嬢様方ー。こっちは終わりやしたー……って、こっちも終わってるじゃん」
「当たり前です。コトミ様とコヨミ様にかかればこの程度の敵を倒すことなど、造作も無いことです」
二階に配置していたアーヴェとティタも終わったらしく、こっちに駆けつけてくれた。端末を確認すると天宮総合プールの反応がない。
あちらも敵を全て倒した、ということだろう。
「ねぇ、コヨミ。そっちポイントどれくらいになったぁ?」
「そうだね。僕は……うん。七十二ポイントかな。コトミは?」
「ふふん! 八十二ポイント! 後十八ポイントで百ポイントだー!!」
二人のポイントには大した差がなかったはずだが。
先ほどの特殊個体が、以外とポイントをくれたようだ。つまり、先ほどの特殊個体を倒したのはコトミと判定されたのだろう。
コヨミとしては少し残念な気持ちだが、早く百ポイントに到達しこのゲームを終わらせなければならない。とはいえ、百ポイントになって何が起こるのかはわかっていない。
ゲームの主催的な存在のあの帽子を被った人物は、ただポイントを稼ぎ自分のところへ来い、とだけしか言っていなかった。
普通に考えれば、必要ポイントを稼ぐことでその道が開かれる、のだろうが。
「あっ! お父さんとお母さんがこっちに向かってきてる」
「あっちもあっちで終わったみたいだね」
「そんじゃ、一度お二人と集合しやしょうよ」
「それを決めるのは、コトミ様とコヨミ様ですよアーヴェ」
へいへい、と軽く返事をするアーヴェ。決めるもなにも、集合するに決まっている。二人と集合した後は、残りのポイント稼ぐため駆け足で次の出現場所へと向かう。
ゲームも、後少しで終わりだ。




