第二十話「天宮総合プールへ」
「それで、卓哉さん達は?」
「お父さん達は、天宮遊園地のほうに向かったよ。僕達の遊園地を護る! って」
「サシャーナは、動ける人達と一緒に各地を回っていると思うよ。あっ、噂をすれば」
俺が教えたサーチ機能を使っていたところ、サシャーナさんが近づいているのが見えた。
「コトミ様! コヨミ様! サシャーナ隊、現在出現している変態仮面達を殲滅して参りました! 現在のポイントは、私が一番で。五十四ポイントになります!! って、刃太郎様! それに有奈様も!?」
俺がいる以上に有奈がいることに驚いているサシャーナさん。
その後ろには、三名ほどの獣っ娘達が待機していた。内、二人は山下書店にアルバイトへ来てくれている子達だ。
「まあその辺りは、今から説明しようって思っていたんだ。と言っても、俺も今回のことで気づかされたばかりなんだけど……有奈はな。神力を保持しているんだ。だから、こうやって動けている」
「神力って」
「神様の力を持っているってこと!? すごい! 有奈お姉ちゃん神様になっちゃったんだ!!」
「ち、違うよコトミちゃん。ただ、神様の力がちょっとあるってだけだから。それに、私だけじゃなくてリリーもそうなんだよ」
それを聞いたコトミちゃん達は更に驚く。
当たり前か。
今まで、普通に仲良くしてくれていた人達がいつの間にか神様の力を持っていた、なんて聞かされたらな。
「では、リリー様もこのゲームに?」
「はい。今は、華燐と一緒に公園で……いや、もう終わっているみたいだな」
端末を確認すると、二人が公園から動いているのがわかる。どうやら、そのままロッサについて行っているようだ。
このまま三人が進めば次に行くのは……。
「三人とも、橋のほうに向かっているみたいだな」
「おお? そんな機能があったんですね」
ぐいっとすごい距離で俺の端末を確認するサシャーナさん。相変わらず、距離感が近すぎる人だな。俺はそのまま端末を操作し、俺達が次に向かうべきところを探す。
このショッピングモールから一番近くて、敵が多く出現するのは。
「ここからだと、天宮総合プールとスポーツジムの二つだな」
数は、やはり広さで圧倒的な天宮総合プール。
スポーツジムは、四階建てで広いと言えば広いのでここもなかなかだ。
「ふむふむ。では、ここからも手分けして敵の殲滅をしましょう! チーム分けはこれで!!」
取り出したのは人数分のある割り箸である。
いったいいつの間に作ったんだ。
「えいりゃ!」
「じゃあ、僕も」
さっそくコトミちゃんとコヨミが何の疑いも無く真っ先に引いてしまう。獣っ娘達も、次々に引いていくついに俺と有奈を残すのみとなった。
皆の視線から、仕方ないなぁっと引く。
「じゃあ、私はこれ」
「では、皆さん引き終わりましたね? 割り箸の先端には番号が書かれてあります! その番号がチームとなりまーす! ちなみに私は一番です!」
俺は……どうやらサシャーナさんと一緒のようだな。
それで、有奈は。
「私も一番だよ、お兄ちゃん」
よかった。有奈とも同じチームか。コトミちゃんとコヨミは二番で、獣っ娘の一人がこっちに。他二名はコトミちゃん達のチームに。
「では、次にこれから向かうところですが」
まさか、まだ準備しているのか? 皆が注目する中、サシャーナさんが取り出したのは。
「表か裏、どっちか決めてください!」
コイントスであった。
その後、俺達が表を選択。コトミちゃん達が裏を選択し、結果は表。そこで、俺達に選択権きて、プール側を選択。
コトミちゃんはちょっと不満そうにしていたが、スポーツジム側へと向かってくれた。
「……さて」
すでに、仮面人間達は出現している。端末でサーチしたところ、ざっと確認できるだけで三十体は確認できるな。
俺の現在のポイントはここまで来る時に倒したのを加えて、六十四ポイント。もし、ここにいる奴らを倒せば一気に百ポイントまで到達することができる。
そして何よりも、ここにはでかいのが二体もいるようだ。
「この一際大きいのが、特殊個体ってやつですか?」
「はい。俺が戦ったのは、強者と戦う欲を持った奴。コトミちゃんとコヨミが戦ったのは、知りたいという欲を持った奴でしたね」
「特殊個体は、他の仮面達とは違って違う欲を持っている、ということですか?」
おそらくそうでしょう、と頷き総合プールの地理を確認したところ。一体は、流れるプール付近に。もう一体は温水プールのところにいるみたいだな。
「では、流れるプールのほうは私達にお任せください。やれますよね? ミミ」
「は、はい! やってやります! です」
ミミという名前の子は、俺もそれほど会ったことがない。普段は天宮家の厨房を任されており、サシャーナさんの妹だという衝撃的な事実が発覚。
まさか、サシャーナさんに妹が居ただなんて。
出会って半年が経とうとしているのに、俺はもちろんのこと有奈も知らなかった。サシャーナさんと同じで髪の毛はピンクで、ツインテールに束ねている。
他の獣っ娘達と同じメイド服を身につけており、目は若干垂れていた。
「わかりました。じゃあ、俺達は温水のほうに行きます。やるぞ? 有奈」
「うん。ミミちゃん、頑張ってね!」
「が、頑張りますです!! はい!!」
お互い妹同士、仲良くしたい。有奈はそう思っているようだ。ちなみに、ミミちゃんはこっちの世界に来た時はまだ一歳だったらしく、天宮のメイドの中では一番年下でサシャーナさんの妹でもあるが、皆の妹のような存在だとか。
「それにしても、このゲームを始めたあの帽子はどこにいるんでしょうね?」
あの帽子か。
俺もずっと気になってはいる。ニィとリフィルは言うには、一度オージオに負けている別世界の住人だとか。
しかし、その詳細な情報は聞いていない。
けど、時間を止め、これだけのことをやってのける奴だ。神様レベルだと考えていいだろう。
「どこからで、俺達の行動を監視しているんでしょうね、おそらく」
「そういうことでしたら、見せ付けてやりましょう! 私達の実力というものを!!」
「ですね。じゃあ、行きますよ!」
「はい! 行きます!!」
サシャーナさん達と分かれた俺達は、真っ直ぐ温水プールのエリアへと向かっていく。そこは、とてもゆったりとできる空間で、この寒い時期にはかなり賑わっているようだ。
「お兄ちゃん! さっそく来たよ!」
「ああ! 有奈、疲れたら無理するなよ?」
「大丈夫だよ。これでも、体力には自信あるんだから! それに」
一目散の飛び出し、銃で一体を倒し、剣で一閃。
「神力のおかげかな。身体能力も上がっているんだ」
「それは頼もしいな。じゃあ、俺も負けてられない!」
「男はお呼びじゃねぇんだよー!!」
「邪魔だ邪魔だぁ!!」
「お前達が邪魔だぁ!!」
有奈へと近づいていく仮面人間達を次々に倒していき、でかい奴のところまで一直線に突き進んでいく。大きい奴は、この奥。
端末を見る限り、一歩も動いていない。
まさか、俺達を待っているのか?
「いた……!」
辿り着いた先には、どっかりと椅子に座り込んでいる仮面人間が一人。
名前を確認すると。
「欲望の仮面人間(温)か」
「いったい、どんな欲を持っているんだろうね」
「……私は」
俺達の登場に欲望の仮面人間(温)はゆっくりと立ち上がる。他数人の仮面人間を取り巻きに叫ぶ。
「温もりが欲しい!! 特に、肌と肌で取る温もりを!!!」




