第十七話「現れた敵は」
「リリー。お? 華燐もいたのか」
「はい。さっき来たばかりです」
ニィの次元ホールでリリーと合流した俺達は、華燐とも合流することができた。
二人も剣と銃を持っており、デザインは皆統一されているようだ。
「華燐ちゃん。響くんや御夜さんは?」
「なんとか動けているけど。ちょっと戦えそうにないかも。お父さんとお母さんは、すでに敵を倒しに行っているよ」
動けるけど、戦えるにいけないのは何よりもつらいことだ。その分、動ける俺達が頑張らなくてはならない。それが動けない者達のためになる。
「それにしても、倒す敵ってどんなやつなんでしょうね? 華燐はもう会った?」
「うん、一応は」
「どんな感じの姿をしているんだ?」
「そうですね……あっ」
華燐が、倒す敵のことを説明しようとした刹那。
まるで、召喚されるかのように青白い光の粒子が複数出現。そこから現れたのは、奇妙な面を被った全身真っ黒な人型の存在。
まさか、こいつらが? と華燐に視線を送ると武器を構え頷いた。
「気をつけてください。こいつら、変な面を被っていますが、動きはかなり俊敏です。それに」
「ひゃっはー!! 女子だ!!
「へっ?」
またもや華燐が説明をしようとしたが、それを遮るように仮面達が叫びだす。
「おっぱいだー!!!」
「ミニスカートだー!!」
「捲れ捲れぇ!!!」
すごく欲丸出しの連中である。
かなり嫌らしくも滑らかな指の動きで、迫ってくる仮面達。
「頭が変なんです!!」
一番近くにいた俺のことを無視して、華燐のスカートを捲ろうと下から食い込むように攻め込んでいく。他にも、リリーや有奈の胸を揉もうとしたり……こいつら。
「俺を無視するとは、馬鹿なやつらだ!!!」
「キエエエッ!?」
「アビャアアアッ!?」
がら空きの背中を俺は切り裂く。
一気に二体の仮面を倒したことで、端末から効果音が響く。取り出すと、四ポイントと表示されていた。その横には百と書かれており、どうやらこうやって敵を倒し百ポイント溜めろ、ということのようだ。
「このっ!!」
「ありがとうございまーす!!」
最後の一体を華燐が切り裂き、出現した仮面達はいなくなる。静寂に包まれた空間で、有奈達が明らかにいやそうな顔をしている。
それはそうだ。
まさか、あんな変な奴らだとは思わないだろう。女子にとってはかなりの強敵だ……。
「あんなのが、まだまだいるんだよね……」
「で、でもこのゲームをクリアしないと新年を迎えられないから! が、頑張らないと!!」
別の意味で怖いだろうが、有奈は負けない。
頑張ろう! と二人に言い聞かせて、元気付けている。今頃、こんな奴らが街中にうじゃうじゃしているんだろうな……いや、もっと大きく。世界中かもしれない。
ともかく、このゲームを終わらせ止った時を元に戻さなければ。
「三人とも。行こう。商店街や、大きいところに行けば他の人達と合流できるかもしれない」
「そうですね。ここで、立ち止まっていたらいつまで経っても新年を迎えられませんもんね!」
「お父さんとお母さんは、多分商店街に行っているはず。一度合流しに行こう」
そうと決まれば。
また現れる仮面達。今度は、先ほどよりも数は多く。ざっと数えても十体はいるだろう。だが、こいつら一体一体が二ポイントならば、一気に稼げる!
「行くぞ!!」
・・・★・・・
「……静かだな」
こんなにも夜遅い商店街に来るのは初めてだが。それよりなによりも、敵の姿が無い。いや、まだ現れていないと言うべきか?
隆造さんや静音さんの気配は、残っているが随分と薄い。
もうこの場から立ち去った後のようだ。
その代わりに……。
「誰もいませんね」
「いや、一人だけいる」
「え?」
刹那。
「ひゃあ!! 銀髪ロリだぁ!!!」
「そのツインテールしゃぶらせてくれぇ!!!」
あの変態仮面達の奇声が、響き渡る。
だが、すぐに。
「ありがとうございまーす!!」
「ごちそうさまでしたぁ!!!」
四散する姿を目の当たりにした。そして、姿を現す銀髪ツインテール。
くっくっくっと不適な笑みを浮かべながら、端末を見詰めていた。
「これで、二十ポイントが順調だな」
「随分と人気だな、ロッサ」
「やはり、貴様も動けていたから。まあ、当たり前か。それで? 貴様はどれだけのポイントを稼いだのだ?」
いきなりそういう話か。予想はしていたが……仕方ない。
俺は自分の端末を突き出し、現在のポイントを見せ付けた。
「二十六ポイントだ」
「くっ! 僅かだが我が負けているか……! だが! 六ポイント差など、大した数字ではない! すぐ追い抜いてくれる!!」
そう言って、さっさと立ち去って行ってしまう。
「よかったんですか? ロッサとも、一緒に行動したほうが」
「あいつは、あいつでこのゲームを楽しんでいるみたいだからな。それに、俺と競い合っているほうがより多くの敵を倒してくれるだろうし」
あいつの場合は、それでいいんだ。
そもそも、俺と一緒に戦うのを嫌っているからなあいつ。随分と、丸くなってきていると思うが。まだまだ魔帝としての誇りは捨てていない。
……正直、もうあいつのことを魔帝だと思っていないのはここだけの話。
「後、戦うならもうちょっと広い場所に行こう。この辺りの通りは、ちょっとだけ狭いからな」
時間が止まっているとはいえ、物は壊れる。
それはここまで来ると間に、わかったことだ。
勢いあまって、敵を吹き飛ばしたところ壁にぶつかり、壊れてしまったのだ。なんとか魔力で直すことはできたが、その辺りも考慮して闘う必要がある。
それに。
「まだ変態仮面達しか出てきていないけど」
「他の敵も出てくるかもしれない、ってことだよねお兄ちゃん」
「ああ。もし、それが大型の敵だった場合、ここじゃ動きにくい。せめて公園辺りの広さが必要だな」
「あっ!」
端末を操作していたリリーが何かに気づいたようだ。
俺達を集め、自分の端末を見せる。
どうやら、地図のようだ。そして、赤い点がいたるところに存在している。
「なるほど。この赤い点のある場所が、次にあいつらは出現する場所ってことか」
「そうだとしたら、この近くだと……ショッピングモールの中ですね」
これまためんどうなところに現れてくれるものだ。
ショッピングモールだと商店街以上に、物が多く広い。なるべく、店から遠ざけながら戦う必要があるな……。
「あ、見て。青い点がショッピングモールに近づいているよ。二つも」
なんとなく、それの青い点を押してみると名前が表示された。
コトミちゃんとコヨミの二人か。
他にも俺達がいる場所から、半径五キロメートルにいる青い点。つまりプレイヤーは……ロッサに、それにサシャーナさんか。
「天宮家の人達も、率先して戦っているみたいだね。お兄ちゃん、私達はどうする?」
「そうだな……」
ここから一番近いの公園とショッピングモールだ。
公園のほうには、ロッサが。
ショッピングモールにはコトミちゃんとコヨミが。赤い点がこれから出現する敵の数だとしたら……。
「よし、ここからは手分けして行こう。俺と有奈はショッピングモールに。華燐とリリーは公園側だ」
「援護なら任せてね、お兄ちゃん」
「おう、頼んだぞ有奈。華燐とリリーもいいか?」
「もちろんです。リリー、一緒に頑張ろうね」
「うん! 二人も頑張ってください!!」
それじゃあ、と俺は剣を掲げる。
それを見て、有奈は、華燐は、リリーは重ねるように剣を掲げた。
「ポイントを一気に稼ぐぞ!!」
《おー!!!》




