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第十三話「サンタさんの苦難」

 サンタ衣装のお爺さんの傍にあったでかい袋と一緒にパーティー会場に連れてきて数分。

 意識を取り戻したようでゆっくりと瞳を開いていく。


「こ、ここは……」

「気がつきましたか? ご老人」

「温かいミルクです。お飲みになりますか?」


 駿さんとサシャーナさんが、それを知らせ、俺達はお爺さんの下へと集まっていく。お爺さんは、ミルクが入ったコップを両手で持ちながら俺達のことを一度見渡した。


「どうやら、わしはあなた方に助けられたみたいですね」

「もうびっくりしたわ。私達の娘達が、あなたを連れてきた時は」

「何か、あったのですか? それにここは」


 神が創りし空間。

 入ってくるには、一度瀬川家のマンションを経由……したとしても、ニィやリフィルの許可なしでは聖域への侵入は不可能。

 できるのは、同じ神かそれと同等の力を持った者だけ。

 卓哉さんが言葉は途中で止まり、サンタ衣装のお爺さんが答えていく。


「わしは……子供達にプレゼントを毎年配っていた」

「やっぱり本物のサンタさん!?」

「あぁ、そうだよ。お嬢ちゃん」

「千歳ちゃん! サンタさんだよ!」

「は、はい。本物を見るのは初めてです……!」


 純粋な心の持ち主であるコトミちゃんと千歳ちゃんは、本物のサンタさんに出会えて大喜びをしている。天宮夫婦、山下夫婦は自分達の娘が喜んでいる姿を見てとてもほっこりとした表情をしていた。

 むろん、サンタさんも。


「はっはっは。子供達の笑顔がわしに力をくれる。でもね……」


 一瞬笑顔になったが、サンタさんはまた暗い表情に戻ってしまった。


「わしも、年々ちょっとつらくなってきているんだよ……」

「む? それはどういうことだ」


 純粋なコトミちゃんと千歳ちゃん。それにサンタのことをよく知らないロッサは首を傾げる。だが、それ以外の人達はなんとなくだが察しがついているだろう。

 サンタさんは、傍にあった真っ白な袋に手をそっと置き語り続ける。


「子供達の笑顔のために。わしは、そう思って毎年プレゼントを運んでいた。しかし、時代が進むに連れて、子供達が求める物がハイテクになり、値段も高くなってきてしまっている。わしもかなり歳を取っているからプレゼントを勘違いしたり、お金が足りなくなってしまうことがあるんだよ……」


 ……なんていうか、うん。

 すごくリアルな事情だなって。確かに、時代が進みに連れてゲームやおもちゃなどはハイテクになっていく。そして、それらを知っている子供達は純粋に欲しいと願うが。

 やはり、ハイテクになるほど値段も高くなっていく。

 それに消費税も。


「で、でも私聞いたことがあります! サンタさんは、自分のお家でプレゼントを作ることが出来るって!」


 確かに、サンタさんはおもちゃを作るところがあってそこでプレゼントを作りトナカイと共にソリで運んでくるみたいな話がある。

 しかし、そんな質問に目の前のサンタさんは。


「あぁ、確かにあるよ。でもね、工場も今の時代の流れについていけていないんだよ。作れるのは、それほど技術がいらないおもちゃばかり……だからね、足りない分はお金で買うしかないんだけど。はあ……」


 やばい。このままでは、子供達の夢が壊れてしまう。

 でもサンタさんの言葉は、わかる。

 最近のおもちゃは本当にすごくなっているがゆえに、値段もそれなりに高い。例えば変身ヒーローのベルトなんて確か一万円を超えるものがあったっけな。

 いったい何人の子供へとプレゼントを配っているのかわからないけど。ゲーム機だった場合は、もっと値がつくだろう。


「それに、最近だとトナカイも反抗期なのか。言うことを聞かなくなってきてね。ソリに乗れなくなってしまったんだよ。だから、自分の足で」

「それで、あんなところに生き倒れに、か」


 最近のサンタさんの状況はわかった。だが、一番気になることはそこじゃない。どうやってここに入ってきたか、だ。

 とはいえ、今の状況でそれを切り出すの空気をぶち壊すことになるだろう。いや、すでに子供達の純粋な心を壊そうとしているんだけど。


「……お嬢ちゃん達。これを受け取ってくれるかな?」


 一通り話を終えると、サンタさんは袋からプレゼントを取り出す。

 それは、熊のぬいぐるみやルービックキューブ、けんだまだった。今時のおもちゃの比べればそれほど高いものではない。

 サンタさんも、経営難でもうこういうものしか買えなかったのだろう。


「……」

「……はは。やっぱり、こんな安物なんて」


 寂しそうな表情で取り出したプレゼントを下げようとしたサンタさんだったが。コトミちゃんは、熊のぬぐるみを、千歳ちゃんはルービックキューブを、コヨミはけんだまを手に取った。

 サンタさんは、え? と驚いた表情で彼女達を見詰める。


「ありがとう! サンタさん! これ、大事にするね!!」

「頭を使うのに丁度いいものです。一日で全色そろえちゃいますよ!」

「一度、けんだまっていうものをやってみたかったんだ。ありがとう、サンタさん」


 あんな話をしたのに、彼女達は変わらず満面な笑顔を作っている。

 それを見た俺達も笑顔になってしまった。

 一番驚いているサンタさんは、震えた声で問いかける。


「い、いいのかい? そんな安物のプレゼントで」

「え? だって、サンタさんが私達のためにプレゼントしてくれたんだよね? だったら、大事にしないと! ね? 千歳ちゃん。コヨミ!」

「はい。サンタさんも、大変でしょうが。頑張ってください。応援していますから!」

「子供達に夢と笑顔を。ね?」

「その通りだ。サンタさん!」


 彼女達に続き、隆造さんが叫びだす。


「ささ、今日はクリスマスパーティーです。おいしい料理がたくさんありますよ」


 更に静音さんも、サンタさんをパーティーに誘っていく。


「元気が無い時は、皆でパー! と楽しむのがいい!! どうですか? 良いワインがあるんですよ」

「卓哉よ。サンタさんは、まだ子供達にプレゼントを配るという仕事があるのだ。それよりも、ソリの代わりに天宮でヘリを手配したほうがいいのではないか?」

「では、私は手配致しましょう」

「ですが、ヘリだと音がうるさくて気づかれちゃうんじゃないですか? ここは、私がサンタさんを背負って!」


 天宮家の人達もサンタさんを元気付けるため、色々と考えてくれている。そんな優しい言葉や、心に触れて自然とサンタさんも笑顔になっていく。


「そうです! 今こそ、サンタコスの御夜様が子供達にプレゼントを!!」

「ええ!? こ、この格好で!? そ、それは恥ずかしいよぉ……! じゃ、じゃあ。リフィル様も一緒に!!」

「な、なんであたしを巻き込もうとするのよ!? あたしは嫌よ。こんな格好で外を出回るなんて! 凍死しちゃうでしょ!?」


 騒がしくなってきた会場内で、コトミちゃんはサンタさんのほうへ振り返る。


「ね? サンタさん。一緒にパーティーを楽しもうよ!」


 コトミちゃんの差し伸べた小さい手。

 それを見詰めてサンタさんは、ゆっくりと目を閉ざす。

 すると。


「わわ!? さ、サンタさんの体が!?」

「光っている……それに」

「おお。天に昇っていくな」


 これには、全員が驚愕した。サンタさんの体が突如発光したと思いきや、すうっと浮いた。皆を見下ろすような形になったサンタさんは。


「ありがとう。ありがとう……皆さん。この頃、元気がなかったのですが……とても元気になりました。そして、とても満たされました」


 そんな言葉を残し、サンタさんは天井に出現した光の中へと消えていく。プレゼントが入っていた袋も消えており、最初からサンタさんなどそこにいなかったように静寂に包まれた。


「サンタさん、行っちゃった」

「やっぱりお仕事に戻られたんでしょうか?」


 しんしんっと雪が降っている外を見詰めながらコトミちゃん達は呟く。先ほどのサンタさんは、本当に何者だったのだろうか。

 そう思っていると、ニィが俺の服の袖を引っ張ってくる。


「大成功、なのです」

「まさか、さっきのはお前が用意したイベントなのか?」

「そうなのです。ただ……」


 ただ? なんなんだと首を傾げるが、ニィはえへっと笑顔で俺の手を取る。


「なんでもないのです~。それよりも、クリスマスパーティーを楽しむのです! この後は、プレゼント交換が残っているのですから! 私が用意したプレゼントはすごいのですよ~!!」


 思わせな素振りを見せたが、ニィは俺のことをテーブルへと引っ張っていく。まさかとは思うけど、さっきのサンタさんって……まさかな。

ちなみに、自分はサンタさんを信じていたのは小学校二年生までだったと記憶しています……以外と早くサンタさんはいないと思い始めた自分って、すごいリアル思考だったんですかね……。

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