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第三話「悩み」

「あの、刃太郎さん」

「お? 今日は一人なのか、華燐」


 もうそろそろアルバイトが終わる頃。

 今日は、華燐が一人でやってきた。

 学校帰りのようで、制服姿で鞄を肩に提げている。


「えっと……」

「どうしたんだ? なにか欲しい本が?」


 何か言いにくそうな素振りだ。視線を逸らしたまま、うーんっと考えしばらく。


「……この前のこと、なんですけど」

「この前?」


 もしかして、あの屋敷で起こったことだろうか。そういえば、なにあの時も意味深な感じの反応をしていたな。


「……い、いえ。やっぱり、なんでもないです。すみません、失礼します」


 なんだったんだろうか。

 あれ? 華燐が出て行くと同時に、なにか幽霊みたいなのが追いかけていって……あ、消滅した。


「刃太郎くん。君、あの黒髪の子に何かしたの?」

「何もしていない、と思いますけど」


 だけど、気になるな。

 それに、屋敷の時とさっきの幽霊……まさか、華燐って。


「あの、絵里さん。ちょっと聞いてもいいですか?」

「なに? 恋の話?」

「違います。鳳堂って名に聞き覚えありますか?」

「鳳堂? ……なんだっけなぁ。なんか聞いたことがあるんだけど……なんだったかな? ごめんなさい。思い出せないわ」


 俺の予想が正しければ、もしかすると華燐はなにか霊に関係する一族だったりするかもしれない。


「刃太郎くん。そろそろあがってもいいよ」

「あ、はい!」


 仕事も終わりだし、ちょっと調べてみるかな。エプロンを外し、二人に挨拶をしてから俺は山下書店から離れていく。

 そしてコンビニ前で、スマホに鳳堂と打ち込み検索した。

 すると……やっぱり。


「霊能力者、か」


 鳳堂家とは、所謂古くから存在する霊能力者の家系。大昔から、数え切れないほどの幽霊や悪霊を払ってきた。

 だが、近代化が進む世の中。時代が変わっていくにつれて、霊能力が高い者が生まれなくなってきたため、今では衰退しているらしい。


「てことは、あの屋敷のことも知っていたのか」


 そして、霊能力者として幽霊を退けた俺のことが気になって。そのことを聞きに来た、ということか。

 どうしたらいいものか。

 もしかしたら、俺も霊能力があるんじゃないかって思いこんでいるのかもしれない。


「それにしても、そんなにすごい家系だったのか。あの子」


 いつも、有奈やリリーと一緒にいるどこにでもいる女子高生だと思っていたんだが。まさか、リリーも何かすごい家柄だったりしないか?

 い、一応調べてみるか。


「あら? バイトの帰り?」

「あ、舞香さん」


 リリーのことも調べようとしたところで、会社帰りの舞香さんと遭遇。

 食材を買ってあり、両手が塞がっている。


「持つよ」

「いいの? ありがとう」


 重そうなので、俺は両手にある袋を舞香さんから受け取る。まあ、リリーのことについては後で調べるとするか。

 どうせ、急ぎじゃないし。


「さっき、何を調べてたの?」

「あーっと……華燐のことについて」

「あら? 刃太郎の本命は、華燐ちゃんだったの?」

「ち、違うって!!」


 慌てる俺を見て、舞香さんはふふっと笑う。まったく、どうして女の人ってすぐそっち方面の話をしてくるのか……。


「……舞香さん。華燐が霊能力者の家系って知ってた?」

「あー……うん、知ってた」

「てことは、有奈も?」

「知ってると思うわ。でも、華燐ちゃん本人はそっち方面の話は嫌がっているって言っていたわね」


 そうなのか? なにか訳ありってことなのかな。


「あ、そうそう。今日は、刃太郎が大好きなハンバーグよ!」

「好き、だけど……あ、あんまり大きな声で言わない欲しいんだけど」


 他にも、カレーライスとかもスパゲティも好きかな。

 あーでも、子供みたいなものばかりが好きなわけじゃないんだ。ちゃんと、大人が好きそうなものだって……あぁでも、どろっとしたものは好きじゃないなぁ。


「ふふ。いいじゃない。別にハンバーグが好きでも。私だって好きよ? もちろん有奈も」

「うーん、そうだけどさぁ」


 やっぱり、この歳にもなってそういうものを好きだって言われるのは……ちょっと恥ずかしいっていうかね。

 まあ、それでもおいしくは食べるけど。




・・・☆・・・




「……はあ、もうちょっと勇気があったら言えたのに。でも、勘違いだったら変なことを聞いたことになっちゃうし。迷惑だろうし……」


 鳳堂華燐。

 大昔から、強力な霊能力者の家系として時代を生きてきた鳳堂家の子。時代の流れは、残酷だ。時代の流れが、鳳堂家の力を弱めていってしまっていた。


 確かに霊能力はあるが、そのほとんどが弱いものばかり。

 霊は、人々が知らないだけで、色んなところに存在し、悪事を働いている。それを、祓うのが鳳堂家の役目。

 それがもうできなくなってしまう。

 そんな危機感の中、生まれたのが華燐だ。


 華燐は、奇跡の存在と呼ばれている。

 その理由は、歴代鳳堂の中で誰よりも霊能力が強く、才能に溢れていたからだ。これで、鳳堂家は安泰だ! と喜んでいたのだが。


 本人は、そっち方面にはやる気がなく、ただ今の時代で気ままに生きていきたいと思っている。

 ただ、華燐の力は強力ゆえに、周りから頼られたり、ただ歩いているだけでも霊を呼び込んでしまう。

 その度に、めんどくさいが祓っているのだ。

 先日も、刃太郎の下へ赴いた際に、霊を呼び込んでしまった。

 気づかれないように、祓ったつもりだったが。


「もし、刃太郎さんにも霊能力があったら……見えていたよね」


 でも、一日中考えた。

 やっぱり話してみよう。もし、自分と同じ存在だったとしたら少しでも話し合って、仲良く……。


「仲良く……なれるのかな」

『ひゃっはー!! 僕は自由だ! 女子のスカートを捲っても! 着替えを覗いても誰も止める奴はいない!! お? あそこに美少女発見! なんて短いスカートなんだ……捲ってやるー!!』


 考え事をしていると、背後からやかましいほどの大きな声を上げている下級霊がいた。歩いている華燐目掛けて、いやスカート目掛けて急接近。


「邪魔」


 が、華燐は振り向くことなくただ一言発しただけで。


『ぎゃあああっ!?』


 下級霊は、簡単に祓われてしまった。


「今日もお店にいるかな……」




・・・★・・・




 今日は、アルバイトが休みだ。

 なので、有奈を更生させるための作戦会議をリビングで行っている。


「さて。ロッサ。有奈はどんな感じだった?」

「うむ。いたって普通だ。普通に学校に通って、普通に授業を受けて、普通に帰っている。教師や生徒からの評価も高い」


 あの時の提案通り、ロッサには幻術を使って笠名に潜入させ、有奈を監視させていた。その結果報告を、時々休みの日にこうして集まって聞いている。

 ちなみに、ロッサのことは有奈や舞香さんには内緒だ。


「別に更生させなくともいいのではないか? あれはもう立派な優等生だ」


 と、シフォンケーキを頬張りながら頷く。

 確かに、有奈は根っから悪い子にはなれていないようだ。俺の前などで、無理に悪い子になっているということ。

 だが、そんな有奈もありだ。


「貴様が押し押しでいけば、あの妹だ。すぐに堕ちるのではないか?」

「いや、堕ちたら余計に悪い方向にいっちゃうだろ」

「もっと貪欲にいったほうが我は良いと思うのだがな……あ、おかわりを貰おう」


 貪欲に、か。 

 それもありなのかもしれないな……俺が有奈に甘いせいで、有奈は一向に悪い子を演じ続けている。しかし、貪欲にとはどうすればいいのか。


「あ、つーかそれ! 俺の分だぞ!」

「もう食べてしまった」

「はえーよ!! はあ……なんか他にあったかな」


 俺の分のシフォンケーキまでを食べてしまった食べ盛りなロッサ。俺は、ため息を漏らしながら他に何かないか棚の中を探す。


「我にも頼む。あ、後何か飲み物も頼む」

「くつろぎ過ぎだ」


 あ、煎餅があった。ついでに緑茶でも入れるか。シフォンケーキの後じゃ、あれだけど。やっぱり、煎餅には緑茶だよな。

 あーでも、意外と炭酸もいいんだよな。

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