表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/214

第七話「服の好み」

「つ、ついに残り三日……」


 リリーは、部屋に張られているカレンダーを見詰め気合を入れるが、自分の部屋を見て深いため息が漏れる。決まらないのだ。

 今から三日後のクリスマスイヴ。その日に着ていく服が。

 これは今年最初にして、最後のデートになる。

 それもクリスマスイヴだ。

 恋する女子にとっては気合の入り方が一段と違う。


「やっぱり、大人っぽいものがいいのかな。でも、高校生らしくちょっときちんとした服装のほうが……でもでも、案外子供っぽいほうが刃太郎さんは好きだったり」


 おそらく、刃太郎にとってはただ次の日のクリスマスパーティーへ向けてのプレゼント選びだと思っているだろう。

 だけど、リリーにとっては二人だけの買い物。

 二人だけの。男子と女子のデートなのだ。ここで、一気に距離を縮めて、いつかは……そう思いながら昨日から服を選んでいる。


 大人っぽいものから子供っぽいものまで。

 デートのために、新しい服を買った。

 元々、異性とのデートのために服など買ったことがなかったリリーは、大慌て。漫画や雑誌、そしてネットで集めた情報を元にこんなものがいいんじゃないか? と。

 友達である有奈や華燐も、買い物に付き合ってくれた。有奈からは、妹として兄はこんな感じなのが好きなんじゃないか? と血の繋がった妹として感性で、華燐からは恋愛ゲームで得た知識を元に選んでもらった。


 しかし、三人は気づいたのだ。

 本当にこれでいいのか? 正直、三人とも異性とデートをしたことがないので周りの情報に頼るほかなかった。

 有奈は、何度か刃太郎と買い物を一緒にしていたがそれは妹として。華燐も弟の響と買い物をしたことがあるが、それも弟として。

 漫画やアニメ、ゲーム、ネットのなどの情報を元に選ぶ自分達に少し自信がなくなっていた。


(だから、お母さん達に頼ったんだけど……)


 そう、ここはやっぱり経験者から助力を得たほうがいい。三人はすぐ、静音やリアス、それにイズミなどすでに結婚をしている経験豊富であろう人物を尋ねた。

 その結果。


『そうね。私の場合は、隆造さんを力づくで落としたからしら。デート? あぁ、そうね。一番最初のデートは三メートルぐらいあった悪霊の討伐だったかしら。あれはとても激しいものだったわ。付き合い始めて最初の二人の共同作業だったから、すごく張り切っちゃったわねぇ』


 明らかに、参考にできない。

 しかも、服の話が一向出てこなかったのだ。華燐は、これは絶対長くなると言って途中で退散してきた。

 続いて、リリーの母親リアスの場合。


『あの頃の私は、あなたみたいに悩んだものよ。だって、あの頃の私は女の子らしいお洋服を一切持っていなかったもの。だから、必死に考えた。でも、お父さんはこう言ったの。無理に悩むことなんてない。君らしい格好が一番だって』


 意外と参考になった。

 娘であるリリーが一番驚いていたほどだ。静音の時のように、昔話が始まるのだろうと予想していたから余計に。

 やはり、自分の娘の恋愛。ふざけられないと思っていたのだろうか。

 最後に、異世界代表のイズミからは。


『デートか。私は、ずっと異性と付き合うことなどないものだと思っていた。私の使命は、皆のため剣として生きることだと。だが、あいつがそんな私を変えてくれた。女の子としての人生を与えてくれたのだ。そんな私が最初にデートをした時の話だが……うむ、正直に言うと甲冑でデートをしたな。だが、そのデートであいつと一緒に洋服をいくつか選び購入したな』


 つまり、デートをする異性と一緒に選ぶ。もしくは、どんなものなのかを直接聞くという意見だった。

 こうして、三人の既婚者の意見を元に、再度リリーは考えた。

 それでも、やはり決まらない。

 友達と一緒に遊びに行く時は、こんなにも悩まないのに。


「だめだめ!! もう三日しかないんだもん。こんな時は……!」


 本棚に並んでいる何十タイトルもの恋愛漫画。

 それを一気に引っ張り出し、睨みつけるように読み始めた。参考になるものなら、漫画だろうとアニメだろうと。

 女の子としての、最大のイベント。良い思い出にしたい。これからの人生にだって繋がるかもしれないのだから。






・・・★・・・






 それは、リフィルと一緒に狩りゲーで協力をしていた時のことだった。


「え? 服の好み?」

「うん。お兄ちゃんって、どんな服が好きなのかなぁって」


 突然、有奈が俺の服の好みを聞いてきた。

 どうしたんだろうか。

 まさか、可愛い服を着て俺に見せびらかすつもりで? 確かに、昔はどんな服がいい? と一緒に買い物をしていたことがあった。

 その時は、ほとんど可愛い服を選んでいたが。今の有奈は、すっかり大人に成長してしまっている。


 いや、それでも可愛い服は似合うに決まっている。

 だが、ここで選択肢を間違えればどうなるか。

 ここは、慎重に考えてから答えるべきだ。


「ちょっとー、動きが止まってるわよー。せっかく落とし穴に落としたんですがー」

「あー、ちょっと一人で頑張っててくれ。考え事するから」

「……たく、しょうがないわね」


 ゲーム機から手を放し俺は真剣に考えた。

 服の好みか。

 そんなこと考えたこともなかったな。だが、女の子にとってはとても重要なことだろう。うーん、でもなぁ。やっぱりそういうことに関しては、疎いっていうか……。

 やっぱり、実際この目で見ないとなんとも言えない。

 しかし、強いて言うならやっぱり。


「可愛い系、かな」

「可愛い系?」

「やっぱり、大人っぽいよりは俺は可愛い系が好きかな。と言っても、やっぱり本人が着たいって思ったものが一番良いんじゃないか? 無理に着飾ることなんて俺はないと思う」


 無理に大人びたものを着たり、人気モデルの着ているものを真似たり。それも確かに、いいのかもしれない。でも、俺は本人がこれがいいと思ったものを着たほうが良いと思っている。

 とはいえ、女の子は簡単には決められないんだろうけど……。


「無理に着飾ることはない、か」

「ごめん。あんまり参考にならなかったか?」

「う、ううん。そんなことないよ。ありがとうね。それとごめんね、突然こんな質問しちゃって」

「いや、気にするな。そういえば、そろそろクリスマスだもんな。パーティーに来ていく服で悩んでいるんだろ?」


 と、俺が言うとえ? と一瞬反応するが、すぐに笑顔になり。


「うん! そうなんだぁ。やっぱり、パーティーだからさ。皆すごい衣装を着てくるんだろうなぁって」

「だろうな。ハロウィンの時もすごかったからなぁ。特に天宮家の皆は。でも、有奈は何を着ても可愛いから自信を持て! 兄である俺が保障する!!」

「ありがとう、お兄ちゃん。それじゃ、私これからリリーちゃん達と待ち合わせしているから」

「おう。気をつけてな」


 前からなんだろうけど、ここ最近はリリーや華燐と一緒に出かけることが多いような気がする。やっぱり、クリスマスに向けての準備とかなのかな。


「ちょっとー、もうクエスト終わっちゃったんですけどー。早く、次のクエストに行きたいんですけどー」

「はいはい。もうこのクエストはいいのか?」


 待たせていたリフィルは、こんこんっと俺の頭を自分の頭で突いてくる。ちなみに、今は背中合わせの状態でゲームをしている。


「そんなわけないでしょ。宝玉がまったくでないのよ。同じクエストよ」

「そっか。まあ、俺も必要だから……あっ、すまん。俺は手に入れていたわ」


 剥ぎ取り時間ぎりぎりでなんとか二回ほど剥ぎ取ったところ。

 必要だった素材が普通に手に入った。

 それを伝えると、リフィルはぐるっと振り返り俺の画面を覗き込む。


「はあっ!? なんであんたのほうに!? 途中から放置していたのにぃ!!」

「これは仕方ないことだ。確立ってやつだから」

「こんなの寄生よ! 寄生プレイよ!! このハイエナめ!!」


 胸座を掴みぐわんぐわんっと俺を揺らすリフィル。

 確かに、途中から放置していた俺に必要な素材があっさりくるって言うのは真面目に狩りをしていたこいつにとっては怒りたくもなるよな。


「悪かったって。ほら、次行こうぜ? 出るまで付き合うから」

「……覚悟することね。マジで、出るまで付き合ってもらうから」

「はいはい」


 どれだけ付き合わされるのか、と思いながらプレイしていたところ。あっさりと、次のクエストで手に入れてしまった。

 リフィルは素直に喜びつつも、これならいけるわ! と次なるクエストで必要な素材を狙いにいくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ