第四話「恋する乙女達」
「はあ……」
「疲れているみたいだな」
「そりゃあ、そうっすよ。毎日毎日、あれに攻められ続ければ……正直、助けるんじゃなかったって思っているぐらいっすよ」
あの映像を見てから三日後。
俺は響とファミレスで待ち合わせをして出会っていた。響のほうから、話があるとのことだったので断る理由もないのでこうして会うことにした。
そして、先に来ていた俺はどっと疲れた様子の響を見てとことん付き合ってやろうと決意するのであった。
「俺も驚いたぞ。聞いていた話と違って、すごいテンションだったからな。家ではいつもあんな感じなのか?」
「はい。とはいえ、ずっとあんな感じじゃないっすね。さすがに、俺が学校に行っている時や、依頼でどこかに行く時は大人しいです。でも、それ以外は……特に最近は、学校に来て迎えにくるって行動を取ってきました」
それは大騒ぎになっただろうな。
映像で見る限り、雪音さんは結構な美人だ。しかも、白装束のままだとすると周りの中学生達は困惑するし、自然と二人に視線を集めてしまうこと間違いなし。
「あの場は、親戚だって誤魔化しましたけど。正直、次はどんなことがあるかって考えただけで頭が痛くなります……」
「……それで、今雪音さんは?」
気配を探ってみたが、俺が探れる範囲にはそれらしき気配はない。俺と会うために、なんとか振り切ってきたのだろうが。
疲れ気味の表情と声で、響はあぁ、それならっと切り出し。
「今頃、華燐姉ちゃんと霊力を抑える修行をしている頃っすよ。ああ見えて、やることはやる。真面目な性格らしいっすから。まあ、俺が真面目にやらないなら出て行けって言ったのが効いているんだと思いますけど」
「もし、霊力を完全に抑えきれるようになったら、どうなるんだ?」
「そりゃあ、こっちで住居を見つけてそっちに住まわせますよ。今までだってそうだったんすから」
正直、響にとっては今すぐそうなってほしいと思っているんだろうな。
「まあ、住居のほうは簡単に見つかると思うんで。心配はいらないんすけど。問題は、今っすよ」
「今?」
「ほら、もうちょっとでクリスマスがくるじゃないっすか? 俺のところの中学もそうっすけど。女子達は大盛り上がりっすよ。雪音も……」
そっか……そういえば、後一週間ちょっとでクリスマスイヴ、クリスマスが来るのか。一年最後のイベントのひとつ。
特に、恋人達や子供達が待ち望んでいるイベント。
早いところで、もうクリスマスへ向けて準備をしているところもあったっけ。
「絶対あいつ、クリスマスに何か仕掛けてくるつもりです。そこで、刃太郎さんに頼みがあるんです! 俺のことを護ってくれませんか!?」
「護るって……別に殺されるわけじゃないんだろ?」
「いや、もしかしたらその可能性だって! だって、あいつ俺の寝込みを襲うぐらいなんすよ! しかも自分の能力で身動きを封じて! 寝ている時に氷付けって下手したら凍死しますよ!?」
やばい、ひどく興奮している。
自然と声も大きくなっていき、周りの人達も何事だと視線を向け始めていた。
「お、落ち着けって。まあ、事情はわかった」
「じゃあ、引き受けてくれるんすね!?」
「やれるだけのことはやる。でも、いくらなんでも彼女だってその時は、普通にお前と楽しく過ごしたいって思っているんじゃないか?」
「楽しくって言っても、正直今までが今までなので俺は警戒心バリバリっすよ。素直に楽しめそうにないです」
言いたいことはわかる。でも、クリスマスは子供達や恋人、恋する者達にとっての一大イベント。雪音さんも、子孫を残したいとは思っているのはわかっている。
だが、一大イベントだからこそって可能性もあるはずだ。とはいえ、響の言うこともわからなくもない。今の時期は、雪女にとっては一番テンションがあがる時期だろうからな。
「それに、もしかしたら依頼でクリスマス自体参加できるかどうか」
「やっぱり、そういうイベントの時は悪霊達が活発化するのか?」
「いつもってわけじゃないっすけど。可能性はありますね」
「なるほど。じゃあ……ん? この気配は」
「はっ!? もうここに気づくとか、たく姉ちゃんももうちょっと引き止めてくれれば……! すんません! 俺はこれで失礼します! 後のことはこっちから連絡を入れるんで!!」
猛スピードでこっちに近づいてくる雪音の気配に、響は気づき自分と俺が頼んだ物の金を置いてトイレの方へと駆けていく。
それから一分後。
白装束、ではなく真っ白な毛糸のワンピースを着た雪音さんがファミレスに入って来た。前髪も切っているようで、顔がはっきり見える。
入って来た雪音さんに店員がお一人様ですか? と聞くが。
「いえ、待ち合わせをしていたんですが……すみません!」
どうやら、すでにここに響はいないことに気づいたようでファミレスから去っていく。その勢いに、店員はもちろんのこと近くの席に居た客も目を丸くしていた。
クリスマス、か……。
・・・☆・・・
「うぅ……やっぱり恥ずかしいよぉ!!」
とある休みの日。
リリーは、自室のベッドの上で顔をクッションで覆いながらころころと転がっていた。その周りには、クリスマスのことや、おすすめのデートスポットなどが書かれた雑誌が数本。
「お待たせぇ、ってなにやってるの?」
「いつもみたいに、恥ずかしくなって転がっているんじゃないのかな?」
そんな時だった。
親友である有奈と華燐が姿を現す。リリーの行動に、苦笑しながらもクッションに腰を下ろし今回集まったことについて話し合う。
「それで、決まったの? 刃太郎さんとどこに行くのか」
「き、決まってない……」
未だクッションを抱きしめながらリリーは答える。
それを聞いた二人はやっぱりか……と顔を合わせながら、リリーが見ていた雑誌を手に取った。
「さっき、ニィに聞いたんだけど。ハロウィンの時のように、クリスマスにでかいパーティーを開くんだって」
と有奈がスマホを見せながら呟く。
「え? それって」
「うん。すでに、お兄ちゃんにも伝わっていると思うから。当然、お兄ちゃんは参加を決めていると思う」
「つ、つまりチャンスはクリスマスイヴしかないってこと?」
先手を取られた!? と頭を抱えるリリー。もちろん、ニィーテスタが刃太郎のことを好きなのは知っている。そして、ハロウィンのこともあったのでこういうことをするのだろうとも予想はついていた。
だが、それでもこうも早く先手を取られるなんて……。
「でも、逆に考えればクリスマスイヴは確実にデートが出来るって考えもできるよ」
「ど、どういうこと?」
華燐のフォローに、リリーは前のめりになる。
「ここ見て。クリスマスの時は、プレゼント交換をやるって書いてあるでしょ? だから、今から刃太郎さんに。それ用のプレゼントを一緒に買いに行きませんか? って誘えば」
「デートが、できる!」
そうと決まれば、さっそく連絡を! とスマホを手に取り、電話帳を開く。そこで、刃太郎の名前のところで動きが止まった。
「で、でもそれもニィに先を越されていたらどうしよう……」
「考えすぎだよ、リリー。ほら!」
迷っていたリリーの代わりに、有奈が押す。
コール音が三回ほど鳴り、繋がった。
『リリーか? どうしたんだ』
「え? あ、あのえっと……」
まだ心の準備ができていないので、言葉が簡単に出てこない。そんなリリーを有奈と華燐が無言で頑張ってと応援していた。
親友に背中を押されたリリーは、深呼吸をしてからスマホを耳に当てる。
「あの、く、クリスマスにパーティーがあることは、知っていますよね?」
『あぁ、さっきニィから連絡があった。プレゼント交換をするらしいから、どうしようかって悩んでいたところだったんだ。俺、誰かにプレゼントを渡したことなんて数え切れるほどしかないから』
「で、でしたら!」
『ん?』
慌てちゃだめだ。この様子だと、ニィーテスタから一緒にプレゼントを選ぼうと誘われていないはず。落ち着いて、一言を大事に。
「クリスマスイヴの時に、プレゼントを一緒に買いに、行きませんか?」
言った!! 有奈も華燐も緊張しているようで、互いに手を繋ぎながらじっとリリーの反応を待っている。
心臓の鼓動が激しく高鳴る。
言ったはいいけど、ここで断られたり実はすでに誰かと約束をしていたら……。
『リリーと一緒にか?』
「は、はい。やっぱり、だめ、でしょうか?」
『……いや、丁度よかった。一人じゃ自信がなかったからさ。俺のほうから頼みたいぐらいだ』
「そ、それじゃあ!?」
『ああ。クリスマスイヴだよな? プレゼント選び、手伝ってくれるか?』
その言葉に、リリーは一気にテンションが上がる。だが、あまりはしゃぐと子供っぽいと思われてしまう。ここは抑えるんだ。
一度深呼吸をして、リリーは答える。
「はい。それじゃ、集合場所とお時間なんですけど」
それからお互いに、集合場所や時間などを話し合い、通話を終える。静寂に包まれた空間の中、ぱたりとリリーが倒れてしまう。
「だ、大丈夫。リリー?」
「どうやら、成功したみたいだね」
「う、うん……はあ、でもなんだか余計に緊張してきたよぉ!」
再びクッションを抱きしめ右へ左へと体を揺らすリリー。
そんな親友を見て、まったくと苦笑する有奈と華燐。とはいえ、これで少しは前進した。このまま順調に仲が進展してほしいものだと願いながら、クリスマスイヴに向けての作戦会議を開始したのであった。




