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第二話「飢えた雪女」

今回は、最後まで三人称です。

「ふう、それにしてもさみぃなここは。まだ十二月の上旬だってのに。これだけ雪が積もってるなんて」

「大丈夫? 響。温かい飲み物あるから。あ、それにカイロもあるよ。それと」

「華燐姉ちゃん。心配してくれるのは嬉しいけど、俺もそこまで子供じゃねぇっての。大丈夫だって。それに今は仕事中だ。仕事に支障をきたすようなことはしねぇよ」


 刃太郎達とスキーで楽しんだ後、華燐と響は場所を離れ、雪山の奥へと足を踏み入れていた。鳳堂家への依頼。今回の内容はこうだ。


 元々この雪山は、異常なまでに雪が積もっていることで有名だったが。最近になって、猛吹雪になったり、つららがいたるところに突き刺さっていたり。

 中には、うさぎや鹿などが氷像のように氷付けになっていたりしていたというのだ。

 これはこの世のものではない……そう、この辺りで有名な雪女が出たのかもしれないと近隣の村から依頼が来た。


「おぉ……これが話にあった氷付けのうさぎか。確かに、これは異常だな」


 まるで何かから逃げている時に、凍らされたかのような状態だ。響は、そのうさぎに触れる。すると、霊力を感じ取れた。


「これは、当たりかもな」

「しかも、相当暴れているみたいだね。霊力がいたるところに分散しているのを感じる」


 これでは、探すのも一苦労だ。

 とはいえ、こんなことで諦めていたら鳳堂家の名が廃る。


「それじゃ、ここからは二手に分かれようぜ。俺が東を。華燐姉ちゃんんは西を頼む」

「うん。気をつけてね」

「姉ちゃんもな」


 その後、響は暴れている者を誘き寄せるために、自分の霊力を垂れ流しにする。暴れ方から考えられる限り、何か目的があってやっているようには思えない。

 ただ何かに怯えている、焦っている? そんな気がする響。


「足跡……あっちか」


 新しくできたばかりの足跡を発見した。どうやら、こっちが当たりだったようだ。華燐を呼び出すか? 響は呼び札を手の取る。

 だがすぐに仕舞い、表情を引き締める。


「悪ぃな華燐姉ちゃん。ちょっと、一人でどれくらいできるか試させてもらうぜ」


 自分だって、鳳堂家の霊能力者。

 華燐ほどではないが、これでも強いつもりだ。そして、刃太郎という最大の目標も出来てから、より一層の努力を惜しまなかった。

 学校から帰っては、修行。

 昔は、他の霊能力者や陰陽師達との関わりを持たなかったが、今は違う。右腕をぐるぐると回しながら、標的へと近づいた。

 それは、雪女伝説の言い伝通り。

 白装束に、長い黒髪。靴を履いておらず裸足でよたよたこちらに歩いてきている。


「よう。あんたが、この辺りで有名な雪女か?」

「……若い、男?」


 響を見つけるなり、雪女は当たり前のようなことを言い出す。どう見ても、響は若い男だ。だが、それがどうしたというのだ? と響は首を傾げる。

 だが、次の瞬間。


「若い!! 男ぉッ!!!」

「おいおい! いきなりだな!!」


 まるで、獲物を発見した飢えた猛獣のように飛び掛ってくる。それに呼応するように、強烈な吹雪が響が吹き荒れ、響を襲う。

 普通の人間だったら、ここで逃げ出すところだが。


「我が身を護れ! 守護の結界!!」

「ふぎゃっ!?」


 響は、霊能力者。更に、普通の霊能力者とは違う。己の霊力を使い、悪霊の類と戦う戦士の心を持った鳳堂の霊能力者だ。

 いくら相手が強力な霊力を持っていようとも、立ち向かう。

 まずは、相手の攻撃を結界で防ぎ。


「一発、きついの行くぞ。雪女」


 右腕の袖を捲くると、全体を包帯で覆っていた。いくつもの文字が刻まれており、響は包帯の上に張られていた札をおもむろに剥がす。


「ひうっ!?」


 刹那。

 膨大な霊力が右腕から溢れ出る。そう、これは霊力を溜め込むことが出来る術を刻んだもの。まだ二日分しか溜め込んではいないが、雪女を怯ませるには十分だったようだ。

 本当はそのまま霊力により吹き飛ばそうと思っていたが、膨大な霊力を直に感じただけで戦意を喪失してしまった模様。

 目の前でカタカタと震えている彼女を見て、響はやり難くなり札を貼り直し霊力を再び封じる。


「おい。あんた、この程度で戦意を喪失するほどのやり手じゃねぇだろ? その膨大な霊力は飾りか?」


 頭を掻きながら、未だに震えている雪女に語りかける。


「ごめんなさい! ごめんなさい!! わ、私はただ子孫を残そうって思っていただけで。でも、あたしなんかと交わってくれるような男なんて絶対いないって思って、だから! だから!!」

「お、おい。落ち着けって。もう何もしねぇから。な?」

「ごめんなさい!! ごめんなさい!!! ごめんなさい!!!」


 これは、相当弱っている。

 継ぎ接ぎだったが、さっきの彼女の言葉でなんとなくわかった。彼女は、子孫を残そうと思っていた。でも、自分が普通じゃない。

 雪女だから、誰も自分と交わってくれないと思い込み、絶望。しかし、それでも子孫を残したい。残さないと……と焦りに焦って、暴走した。

 そこへ、響が現れ飢えた猛獣のように襲い掛かった。


「……華燐姉ちゃん。今すぐこっちに来てくれ。雪女を見つけて、確保した」


 呼び札で、華燐に連絡をし、再度震えている雪女を見詰める。


『うん、了解。すぐそっちに行くから。もうちょっと待ってて』

「はいよ。……さて」


 未だに、ごめんなさいと謝り続けている雪女。

 このまま放置していても、話が進まない。

 それに正当防衛だったとはいえ、こうしてしまったのは自分の霊力を浴びさせてしまったせいだ。少しばかり責任を感じている響は、雪女の肩に手を置く。

 大きく体が跳ねるが、響は気にせず喋りだす。


「安心してくれ。もう危害を加えるようなことがしねぇよ。それに、人間に危害を加えなければ、俺達はそれ相応の対応をする」


 事実、人間に危害を加えないと約束をしている者達には、霊力を封じる術や悩み相談なども請け負っている。

 本来、この世ならざる者達から人間を護る存在である霊能力者がこんなことをするなどありえない! という者達も少なくはない。

 しかし、ただただ倒すだけでは何も変わらない。それは、今までの歴史を辿ってもわかることだ。


「ほ、本当?」

「本当だ。俺は、鳳堂響。この近くにある村から最近異常なことが起こっているって依頼を受けて来たんだ。別にあんたを倒せだなんてことは言われてねぇから」

「……ほっ」


 どうやら、落ち着いてくれたようだ。

 響は、一息ついたところで手を差し伸べ雪女を立たせようとする。が、雪女は手を取ろうとしない。


「ほら」

「あわわっ!?」


 いつまでも、掴まないのでこちらからと掴んだところ。

 ……冷たい。

 まるで、氷を掴んでいるみたいだ。おそらく、雪女は自分の手を掴んで冷たい思いをさせてしまうだろうと考えて、掴まなかったんだろう。


「つ、冷たくなかった?」


 こうして並ぶと響よりも、雪女のほうが大きいのがわかる。響は、同年代の中では少し低いほうだが。雪女も雪女で高身長である。

 確実に、百七十センチメートル近くはあるだろう。


「別に、冷たくねぇよ。それよりも、あんた。名前とかあるなら教えてくれねぇか? いつまでもあんただの雪女だのってのもいやだろ?」

「名前、かぁ……」

「ん? なんだ、まさかないのか?」


 今まで、会ってきた天狗や河童などの妖怪達は、確かに名前がない者も居た。目の前の雪女もそうなのだろうか。


「ううん、違うの。なんだか、誰かに自分の名前を言うのが、すごく久しぶりだなぁって。軽く見積もっても六十年以上はあるかな……」


 やはり、彼女は普通ではない。

 彼女の見た目は、どう考えても二十代ぐらい。全然六十年以上も生きている者には見えない。そもそも、雪女伝説はそれ以上前の話のために、目の前の雪女が伝説に出てきた雪女であるならばもっと歳を取っていることになる。


「それじゃ、久しぶりにあんたの名前を聞く者の第一号になるってことか。ちなみに、最後に自己紹介をした相手とか覚えてるのか?」

「……うさぎさん」

「動物かよ!!」

「だ、だってこんな山奥に人なんてそう簡単に来ないから……」


 それもそうか。とはいえ、うさぎの次というのは響にとっては、なんとも言えない気持ちになる。本当はどうでもいいことなのだろうが。


「まあいいや。んで? 名前は」

「雪音。ただの雪音。苗字はない」


 その後、すぐに華燐が合流しこれからのことについて話し合うことにした。

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