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第一話「雪女伝説」

「よっと!!」

「う、うまい……! さすが刃太郎さんです!! ちょっと教えただけでこんなに滑れるなんて!!」


 皆で天宮スキー場へとやってきた俺達は、各々でスキーを楽しんでいた。初めは、不安だったが今ではリリーのおかげもあってなかなかいい滑りになってきている。

 ゴーグルを外し、俺は小さく笑う。


「リリーの教え方がよかったんだよ。ありがとうな」

「い、いえいえ! 刃太郎さんのお役に立てたのなら、それだけですごく嬉しいです!! はい!!」

「そ、そうか? あ、そうだ。今から一緒に滑らないか?」

「はい! ご一緒します!!」


 有奈のほうもかなり上達しているようだ。やっぱり、元々運動神経がいいし、なんでもできるからなぁ有奈は。華燐が教えたことを、スポンジのようにどんどん吸収していく。

 それで、ロッサだけど。


「ふははははは!! 次こそは! 次こそは大回転を成功させてやるぞ!!」

「頑張れー! ロッサー!!」

「怪我だけはするんじゃないわよー」


 相変わらず、サシャーナさんがやっていたあの回転に挑戦していた。常人では不可能なほどの回転。それを空中でどれだけの回転をできるか。

 もし、空中での大回転を成功させたとしても着地がなかなかうまくいかない。

 何度も、何度も着地で失敗して顔面から雪に突っ込んでいる。

 初心者だったのに、今ではスノボーで世界を狙えんじゃないかというほどのうまさになっていたり。


「見よ! これが我の大回転だ!!!」

「おお!!」

「す、すごい回転!」


 そのまま飛んでいくんじゃないかという大回転をし、着地。


「……ふっ。さすがは我だ。不可能なことなどない!!」


 失敗に失敗を重ね、ようやく綺麗に止まることができた。

 なんだか、努力が実った! といういいシーンなんだろうけど。正直、あんなに回転する必要があったんだろうかと。

 最初にやっていた本人は、寒さのあまりコンポタージュを飲んでいるし。缶の。


「皆ー! 昼食の用意が整ったのですー!!」

「え? もうそんな時間なんだ。なんだか、あっという間だったね」


 スキー場に来たのが、大体十時だったからな。

 二時間というのは、早いものだ。

 ニィの呼びかけに、俺達はスキー場から離れ、コテージへと入っていく。外とは違い、暖房が効いていてとても暖かい。


 テーブルに用意されていたのは、どれも温かくおいしそうな料理ばかり。中でも、シチューが今の時期にはあっているだろう。

 早く体を外だけじゃなくて中も温めたい。


「ふぅ。温まりますねぇ……ふにゃぁ」


 うさぎなのに、猫という。

 昼食時はあっという間に終わり、今は休憩中。ソファーに座っている俺の膝に頭を乗せながら、サシャーナさんはあっと呟く。


「そういえば、こんな話聞いたことありますか?」

「なんですか?」

「雪女伝説ですよ。この辺りじゃ有名な話なんです」


 雪女か。季節的には、マッチするが。


「なになに。どんな話なの!」


 ぴょんっと俺の隣に座り興味津々なコトミちゃん。他にも、雪女伝説に興味があるらしく自然と耳を傾けている。


「いいでしょう! そんなに興味があるのでしたら、お話いたします!!」


 俺の膝に頭を置いたまま得意げに喋り出す。


「今から、百年ほど前の話です。当時、この辺りには奇妙な女性が居たんです。どうして奇妙なのか。それは、いつも真っ白な着物姿で、長い黒髪で素顔が見えない。しかも、雪の上を裸足で歩いていたんです」

「白装束の女性か……」

「私だったら、裸足なんて絶対無理だなぁ」


 世の中の雪女像。

 それは、真っ白な着物を着ている女性。もちろん、雪女は空想の存在。本当に存在すると言われているようだけど、実際はどうなのか。


「奇妙とはいえ、こんなところで一人で住むのは危険だし、寂しいだろうと。近くにあった村のとある男が思い切って話しかけてみたんです。あんた、こんなところで一人で寂しくないのか? と」


 だんだん怪談話でもしているかのようなトーンになっていく。

 俺の膝の上じゃなかったら、雰囲気出ていたんだろうけど。未だに、離れる気配がない。だが、有奈達はごくりと喉を鳴らし、とても真剣に聞いている。


「すると、女性はゆっくりと振り向き、こう言ったんです。寂しい、とても寂しい。もし、よろしければ一緒にお茶など如何ですか? と」

「おお、これは急展開……!」

「でも、私が知っている話だと、会話をしただけで命を奪われるとかって」

「谷に突き落とされるっていうのもあるよね」


 どれもこれも、逸話だ。俺が知っているのだと、子供抱いてくれと言われて抱くと雪に埋もれて凍死してしまうって逸話かな。

 さてはて、この雪女伝説はどうなるのか。


「男は、これは交流のチャンスだと思い。いいですよ、と答え女の住んでいる家に向かったんです。中はとても寒く、薄暗い。暖炉などもない。だから、早く男はお茶が来ないかと椅子に座ってずっと待っていました。でも……」

「で、でも?」

「どきどき」


 すっかり、皆雪女伝説の話に夢中である。そんな中、俺はこう思ってしまった。なんだか、本当に雪女とか居そうだなぁっと。

 もしかすると、普通に会えるんじゃね? とかも思っている。吸血鬼や河童も居るぐらいだしな。


「お茶が出てくるどころか、女性が出てこない。いったいどうしたんだろう? と寒さと戦いながら、男は女性を探しに行こうとしました。でも、そんなことをする必要はなかったんです。なぜって? それは……すでに女性は男の背後に居たからです」

「ひっ!?」

「それから、他の村民達がいつまで経っても男が帰ってこないのを奇妙に思い、数人で男が行ったはずの女性の家へと向かいました」


 そろそろ話もクライマックスかな? そのため自然と少女達は体を震わせながら、互いに身を寄せ合っている。いつでも、脅かされてもいいように。


「到着すると、家のドアは全開しており、冷たい風と雪が入り放題。何があってもいいように、桑やスコップなどを手に村民達は家への中へと入り覗くと……ミイラのように干からびた男性が雪に埋もれていたのです」


 これがこの辺りで伝わっている雪女伝説か。

 今、ネットで調べたけど。

 精をも吸い取ることもあるのか……それじゃ、その雪女はそっちの類か? 


「というか、駿さんもノリノリですね。わざわざ映像を用意するなんて。元から、この話をするつもりだったんですか?」


 そう、彼女達がかなり怖がっていたのは駿さんが用意した映像のせい。それのせいもあって、怖さが倍増したのだ。


「私、怖い話が大好きですから」

「ま、まあでもこんなの作り話でしょ? ちょ、ちょっと怖かったけど」


 その証拠に、優夏ちゃんの体は小刻みに震えていた。そらちゃんも、優夏ちゃんにくっつきあわあわ言っている。

 コトミちゃんやコヨミは全然怖がっている様子がなく、面白かったねーっと笑顔になっていた。


「いや、そうでもねぇぞ」

「え?」


 喋りだしたのは、響だった。

 怖がっている御夜さんを宥めながら、真剣な表情で語っていく。


「俺の親父がこっちに行く前に、話してくれたんだ。ここには昔からそういうよくねぇ者達が存在しているってな」

「ほ、鳳堂家の人が言うってことは……や、やっぱり雪女伝説は本当に!?」

「そ、そそそんな信じないわよ。あたし、幽霊だって信じてないから!!」

「まあ、そう思うならそれでいいぜ」


 隆造さんが言うなら、そうなのかもな。

 響も、こっちに来たのは依頼でって言っていたし。今回の依頼は、華燐と響の二人でやるらしい。御夜さんは、本当に遊びに来ただけ。

 おそらく、この後に雪山のほうへと調査に行くつもりなんだろう。


「さっ! 皆さん! 十分な休憩も取りましたので、もう一度滑りに行きましょう!! 暗くなっていては楽しめませんよ!!」

「あなたが言うんですか、それを……」


 とはいえ、話を聞いたのは俺達の意思。

 ある意味では自業自得と言ってもいいだろう。それに、外で滑っていればそのうち、皆も忘れるかもしれない。


「そうね! 子供は、家に篭っているよりも外で遊ぶのがいいわ!!」

「よーし! 今度は私も回転ジャンプに挑戦するぞー!!」

「いいだろう。我を超えてみせるがいい、コトミよ!!」

「ま、待ってー!」


 そんなこんなで、子供達は一目散に外へと駆けていく。その後、有奈達も怖かったねぇっと喋りながら続いて出て行き、残った俺は響に言う。


「それで、さっきの話だが。信憑性はどれくらいなんだ?」

「そうっすね……俺が集めた情報では、かなり信じてもいいと思うっす。まあ大丈夫ですよ! 華燐姉ちゃんも居ますし、俺だってあれからもっと強くなったんすから!! 刃太郎さんは、何も気にせず遊んでいてください!!」

「わかった。でも、何かあった時は俺を呼んでくれ。真っ先に助けに行くからな」

「了解っす!」」


 響達が調査に向かうのは、今から二時間後。

 何もなければ良いんだがな。

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