プロローグ
第七章開幕ー。
「ふぅ……十二月になって一際寒くなってきたな。まあ、氷山地帯よりはまだマシだけど」
季節は冬。
まだ雪は降っていないけど、秋よりもかなりの冷え込みだ。あっちの世界で、極寒を体験しているから俺はそこまで寒いとは感じていないけど、人々はすでに完全防寒をしている者達がちらほらと。
「いらっしゃいませぇ」
アルバイトの帰り道。
俺はコンビニに寄っている。堪えれるほどの寒さとはいえ、寒くないわけじゃない。仕事の、そしてこういう寒い時にだからこそ飲むのがおいしいコーヒーを買うために立ち寄ったのだ。
すると。
「店員よ。スペシャル肉まんを三つくれ。それとピザまんを二つだ」
「はい。スペシャル肉まん三つに、ピザまん二つですね。少々お待ちください」
のん気に中華まんを買っている魔帝ちゃんがいた。
紺色のコートに赤いマフラーを巻き、下は黒のタイツを穿いている。さすがの魔帝も寒さには普通に弱いということか。
「む? 刃太郎か。まさか、貴様も中華まんを買いに来たのか? ならば、残念だったな。先ほどの残りを全部我が購入したところだ。諦めるのだな」
などと言ってくるが、俺は最初から買うつもりはなかったので無視をして缶コーヒーのコーナーへと行く。丁度レジの近くなので、ブレンドコーヒーを選びロッサの後ろに並ぶ。
「お待ちのお客様。こちらのレジにどうぞ」
が、すぐに他の店員が出てきて空いていたレジへと案内される。
俺は金を払い缶コーヒーを持ってコンビニから出て行く。ロッサのほうはまだ時間がかかるようなのでこのまま帰ろう。
「おい、待て」
「……なんだよ。ひとつくれるのか?」
肉まんをすでにひとつ平らげていたロッサに服を引っ張られ止められる。
「やらん。これは我が買ったものだからな」
「だったら何の用事だよ」
とりあえず歩きながら話せばいいだろうと俺は再び歩き出した。
「地球では、クリスマスというイベントがあると聞いた」
「まあ、そうだな」
ちなみに、クリスマスイブとクリスマスがあるけど。俺は対して変わらないと思っている。そういえば、中にはクリスマスイヴの前をイヴイヴとか言っている人もいるって聞くなぁ。
つまり、人によっては三日間がイベントになるわけだ。
「我なりに調べてみたが、クリスマスとは家族や恋人同士で過ごす日なのだな」
「まあ、中には友人同士で過ごし人達もいるけどな」
「まあ、我には家族も恋人もいないからどうでもいいことなのだが」
だったらなんで話題に出したんだよ……いや、こいつのことだから。
「それで? 貴様のことだ。また、どでかいイベントを計画しているのだろう?」
ほらやっぱりこれだ。
前回のハロウィンのこともあるから、こいつはどこからパーティーでも開くんじゃないかと思っているらしい。
どうせ狙いはそこに出てくる料理なんだろう。
まったく食い意地の張った奴だ。すでに、スペシャル肉まんを全て平らげ、ピザまんに手を出しているし。スペシャル肉まんは、通常の肉まんよるも具の量が倍になっているのに、こいつにかかれば普通の肉まんと変わらないようだな。ちなみにちょっとぴり辛である。
「そんなものねぇよ」
「なに? 隠しているのではないだろうな」
疑り深い奴だな。
「隠してない。そもそも、そう毎度毎度パーティーの予定なんてないっての」
「しかし、クリスマス直前になればできるのであろう?」
「……さあな」
一瞬、そうかもしれないと思ってしまった自分がいた。昔の俺だったらともかくとして。今だと、マジでできるんじゃないかと。
「それじゃ、俺はこっちだから。お前も寄り道せずさっさと帰れよ」
分かれ道に差し掛かり、俺はロッサと別れる。
まだ何か言いたそうな顔をしていたが、俺は無視した。あと二週間ほどで、クリスマスイブとクリスマスか……。
有奈達も終業式を迎えて冬休みに入るだろうし。
また、大きなイベントが起こる、のかもな。
・・・★・・・
うーむ。何かが起こるとは思っていたけど。
「うわぁ!! すごい雪の滑り台!!」
「くぅ!! 今からここで、雪だまになって転がり落ちるんですね!!」
「え!? そ、そうだったんですか!?」
サシャーナさんの冗談に、驚いているリリー。それを悪乗りして、こうこうこうすれば意外と楽しいなどと更に嘘を吹き込んでいくサシャーナさん。
現在、俺達は天宮家が所有しているスキー場へとやってきている。
遊園地と同じで、天宮スキー場というかなり有名なところだ。そこの一角。貸切のように誰一人もいないスキー場に俺達は居る。
あれは、突然だった。
ロッサにイベントがあるのだろう? と言われた次の日。サシャーナさんが。
『スキーしてみませんか?』
と言ってきて、更に次の日の土曜日に俺達は見知ったメンバーと共に遊びにきたというわけだ。
「ふっ。まさか、こうも早くイベントのひとつが来るとはな。期待を裏切らぬ奴よ」
「なんでお前も普通にいるんだよ……」
「コトミに誘われたからだ」
やっぱりそうか。ちびっ子達は、仲のいいことで。
「ん? なんだ」
「いや、別に。ほら、あっちでコトミちゃん達が待ってるぞ」
「待っていろ! 完璧な滑りを覚え、貴様に挑戦してやるぞ!!」
「はいはい」
捨て台詞を俺の言い、ロッサはコトミちゃん、コヨミ、優夏ちゃん、そらちゃんのところへとスキーセットを持って走っていく。
正直、俺は初心者だ。
スケートならやったことがあるんだが、スキーは一回もやったことがない。なので、勝負をしろと言われてもうまく滑れるかどうかも不安だ。
「刃太郎さん! あの、一緒に滑りませんか?」
どうしようかなっと悩んでいたところに、リリーが話しかけてくる。有奈や華燐も一緒だ。
更に遠くを見ると、響が初心者の御夜さんに滑り方を教えていた。すごく内股にして恐る恐るといった感じだな。
「ああ、いいぞ。でも、俺スキー初心者なんだよな。うまく滑れるかどうか」
「そ、それじゃあ! あたしが教えます!!」
「リリーはスキー得意なのか?」
「はい! めちゃくちゃうまい! てわけじゃないんですけど。子供の頃から結構滑っていました」
そうだったのか。経験者がいるなら、なんとかなりそうだな。
「じゃあ、頼むよ」
「わかりました!」
「ふふっ。それじゃ、私は華燐にでも教えてもらおうかなぁ」
「うん、いいよ」
「いやっほー!!!」
さっそく教えてもらおうっと思っていた刹那。
サシャーナさんが、叫びながら空中で回転していた。いったいどんな回転をかけたらあんなに回るんだというほどに。
そして、そのまま着地しても回り続け、派手に転んだ。
「サシャーナ! 大丈夫ぅ?」
「顔面から言ったわね」
「だが、あの回転。なかなか面白そうだったな。よし! 我もやってみるか!!」
「あ、危ないよ。ロッサちゃん」
「よーし、それじゃ僕も付き合うよ」
「そうか。ならば、続け!! あの回転を極めてやるぞ!!」
あっちはあっちで楽しそうな、うん。俺達は、普通に滑るけど。




