外伝3~俺の戦いはまだ続くようです~
もしもシリーズ第三弾。
今回は、もし帰還した地球が異世界と融合していたら? という話です。
あ、それとひとつ質問なのですが。
……刃太郎の過去話。つまり、異世界での話に興味ありますか?
「おいおい。どうなってるんだこれは」
異世界召喚で、俺は勇者として召喚され、その使命を果たし、無事元の世界へと帰って来た。これで、俺は妹の有奈に、俺達を育ててくれた舞香さんに再会できる。
そう思っていた。
しかし……帰還した俺が見たのは。
「なんで、地球に獣人が、エルフがいるんだ?」
本来、地球にいるはずがない。空想の存在である獣人やエルフなどが普通に街中を歩いているではないか。しかも、他の人間達はその存在を受け入れれているかのように、楽しそうに会話をしていたり、中には子供まで連れている家族もいる。
コスプレをしているようには見えない。
それに、魔力だって普通に感じられる。それとも、俺はまた別世界に来てしまったのか? ここは地球とよく似た異世界、とか。
いや、まさかそんなこと! 俺は街の様子に圧倒されながらも自分が育ったマンションへと走り出す。エレベーターを使わずに階段を一気に駆け上がり、とあるドアの前に辿り着いた。
そこは俺が育った瀬川舞香さんが住んでいるところ。
よかった……ここは変わっていない。あの時のままだ。
安堵しドアノブに手を伸ばす。
「誰だ!」
こちらを見つめる気配に気づき、俺は構える。しばらくすると、階段がある入り口からゆっくりとその姿を現す。
長く黒い髪の毛の少女。同じく黒い衣に身を包んでおり、右腕には包帯のようなものを巻いており、右腕全てが包まれていた。
きりっとした鋭い目つきは、ただただ俺のことをじっと見詰めている。見た限り、武器のようなものは装備していないが。
この世界は、普通じゃないからな。油断はできない。
「……」
少女は、無言で俺のほうへと近づいてくる。敵意がないようだが……俺との距離が二メートルほどのところで少女は立ち止まり、口を開いた。
「お兄ちゃん、だよね?」
「え? お兄ちゃんって……ま、まさかお前。有奈、なのか?」
名を呼ぶと、少女は一変。にっこりと笑顔を作り、首を縦に振る。俺は、思わず少女を……有奈を抱き寄せた。
全然わからなかった。まさかこんなにも成長して、こんなにも変わっているなんて。身長だって、十センチほどしか違わないんじゃないか?
「ごめんな、有奈。いきなり消えちまって。一年間も……ごめん!」
「ううん、大丈夫だよお兄ちゃん。正直、寂しかったけど。絶対お兄ちゃんは生きているって信じていたから……あ、それと」
「なんだ?」
抱き合ったまま、有奈は俺の耳元で呟く。
「一年じゃなくて、四年だよ」
「な、なんだって!?」
俺は有奈から離れ、まっすぐ目を見詰める。
「もうお兄ちゃんがいなくなってから、四年が経っているの。その間に……世界は変わっちゃった。見ての通り、人間以外の種族が普通に過ごしているような」
「俺がいない間に何があったんだ? 地球に」
一緒に街の様子を眺めながら、有奈は説明してくれる。俺が居なくなった後のことを。どうして地球がこうなってしまったのかを。
有奈が今、何をやっているのかを。
「あれは、三年前。突然起こったんだ。眩い光が世界中を包み込んだと思いきや、ないはずの大陸がいつの間にかできていたの。調査隊がそこへと乗り込んだら、人間ではない者達。つまり、獣人やエルフ、それに魔物達が存在した」
「つまり、その謎の光の影響で地球とどこかの異世界が融合した、ってことか?」
「そんな感じ。やっぱり、お兄ちゃんは異世界に行っていたんだね」
どうやら、有奈は俺が異世界に行っていたんだと思っていたようだ。まあ、それにこんな世界になってしまったんだ。
頭の固い連中も異世界の存在を認めるしかない状況だろう。
「それで、今の状況を見る限り。もしかして和平を結べた、のか?」
「うん。好戦的な人達も居たけど。ちゃんと話のわかる人達もいたんだ」
「言葉とかは普通に通じたのか?」
「それが不思議と。そのおかげもあって、スムーズに和平を結ぶことができたんだよ」
俺が異世界に行った時同じような現象だろうか。異世界に行ったら、俺は言葉も文字も普通に理解していた。所謂異世界補正ってやつだ。
それが地球でも起こった。世界が融合することで、共通言語となったとかかな。
「まあ、それはわかったけど。有奈の格好。それに、お前から感じられる魔力。平和そのものってわけじゃないさそうだな」
「やっぱりお兄ちゃんはすごいね。……その通りだよ。和平を結んだと言っても、それは一部の大陸と。他の大陸は、今でも世界中で普通に戦争を起こしていたりしている。それに、世界が融合した影響なんだろうね。ダンジョンってものが、いつの間にか生成されちゃって」
やれやれとため息を漏らしながら、有奈はとある場所を指差す。そこは、俺も知っている洋服店だった。しかし、そこに入っていく連中は誰もが武装をしている物騒な雰囲気を出している。
「突然できるの。ダンジョンボスを倒すと消滅するようになっているみたいだけど。それまでは、あそこのお店は営業停止。民家で出現したら、しばらく借りの住居に移住って感じかな。数も多いから、冒険者システムっていうものを地球側の人達にも利用できるようにしてもらっているの。その結果、私も冒険者になってこんなにも強くなっちゃった」
そう言って、あっちの世界でも見たような。いや、ちょっとハイテクになっているギルドカードを俺に見せてくる。
威田有奈。レベル九十。冒険者ランク……S。
「えへへ。最高ランクなんだよSって」
「す、すごいな。さすが俺の妹だ! っと、言いたいところだけど。お前が冒険者になることはなかったんじゃないか? 舞香さんだって絶対心配するはずだ」
そのことは、有奈もわかっているはずだ。
しかし、有奈は実はねと切り出しドアを見詰めた。
「二年前にね、私達の居場所がダンジョンになっちゃったんだ」
有奈の言葉に、俺はドアを見詰めた。そうだったのか。と言うことは、有奈は。
「その時、私は決意したの。冒険者になるって。お兄ちゃんが帰ってくる場所を。三人で暮らす場所を取り戻すために。それで、取り戻してからもずっと冒険者を続けていたらいつの間にか最高ランクになっちゃったの。まあでも、稼ぎもいいし、舞香さんにも恩返しができるから。それに、今はお兄ちゃんもいるしね」
「ああ、その通りだ。俺が帰ってきたからには、もっと稼げるぞ! なにせ、俺は世界を救った勇者だっからな! Sランク冒険者と異世界を救った勇者が組めばどんな敵とだって戦える!!」
そんなことを言っていると、洋服屋に入っていった冒険者達がボロボロになって出てくる。どうやら、攻略に失敗したようだな。
俺は、有奈のほうを見て小さく笑う。
どうやら、二人とも考えていることは同じようだな。
「相当強い敵がいるダンジョンみたいだな。いくか? 有奈」
「もちろんだよ、お兄ちゃん。強くなった私を見せ付けてあげるから。あ、でも冒険者ギルドで登録しないとお兄ちゃんには報酬は出ないよ?」
マジか。まあでもいいか。登録は後だ。
今は、久しぶりに有奈と一緒に何かをする。それだけを考えて、前に進む。まさか、あの有奈と一緒に戦うことになるなんてな。
想像もできなかったけど……。
「かまわないって。よし、有奈! 遅れるんじゃないぞ!!」
「もちろん!! お兄ちゃんこそ、私の強さについて来れるかな?」
にかっと笑い、俺達はマンションから飛び降りた。何事もなかったかのように着地し、俺達は走り出す。最初は地球の変化に驚いたけど。
もう慣れた。
それに、世界が変わろうとも。俺には、有奈が舞香さんがいる。
「お疲れ様! 後は俺達に任せておけ!!」
「ちゃんと回復しないとだめだよ? はい、回復薬。それじゃあね!」
俺の戦いは終わったと思っていたけど。まだまだ続くようだ。
さあ、新たな戦い……どんなことがあろうと乗り越えてやる! 妹と一緒に!
次回から、本編に。七章を開始したいと思います。




