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外伝~聖剣使いになりました~

ども。今回のは、もしも刃太郎が異世界に召喚されず、あのとんでも世界にいたら? という話です。

 俺の名前は、威田刃太郎。

 どこにでもいる高校一年生だ。小さい頃に、早くも父さんと母さんを失ってしまった俺は、妹である有奈と共に母さんの妹で、今の育ての親である瀬川舞香さんとマンションで暮らしている。

 最初は悲しくて、いっつも泣いていたけど、俺は有奈の前ではずっと笑顔だった。こいつだけには、弱みを見せたくない、いつでも強くて優しい兄でいたい。

 小さい頃からそう考えていた。

 それは今でも変わらない。


「お兄ちゃん! お待たせ!!」

「また高校側に来ちまったのか? 本当可愛らしい妹だな、おい!」

「へっ! だろう? あ、だけど有奈は誰にも渡さねぇからな」

「そして、このシスコンの兄であるっと。有奈ちゃん! 俺のこともお兄ちゃんって呼んでくれぇ!!」

「え? あ、あの」


 俺達が通っている笠名は、中高一貫校だ。

 俺が迎えに行く時もあり、校門で待ち合わせをしたり。でも、一番多いのは有奈が高校側に来てしまうこと。

 実を言うと、俺はそうやって可愛い妹が迎えに来ているのを待っていたりしている。その度に、クラスメイトの藤原二郎がふざける。

 今も、ふざけるな! お兄ちゃんと言われていいのは俺だけだ! と首を軽く絞めている。


「ふふふ。相変わらず仲がいいんだね。お兄ちゃんと藤原さんは」

「まるで、本当の兄弟みたいだろ?」


 と、もう一人の仲が良いクラスメイト芳崎正人。

 筋肉隆々で、肌は黒くスポーツマンという風貌だ。この三人が、高校でのいつものメンバー。よくゲームセンターに行ったり、買い食いをしたり。

 とはいえ、有奈がいるからそうしょっちゅうではない。

 俺にとっては、友達以上に妹が大事だからな。まあ、有奈も最近は自分だけじゃなくて、友達との付き合いも大事にしてって言ってくるんだが。

 それでも、まだまだ俺にべったりで俺もついつい甘やかしてしまう。


「俺とこいつがか!?」

「馬鹿野郎!! 確かに太郎っていう共通点はあるが! こいつと俺が兄弟とか……あ、いや。だがそうなるあと有奈ちゃんが自動的に俺の妹に……はっ!? いやいや待て。俺には、数え切れない妹や姉、嫁がいるんだ。そうだ! 今日だって、新作の発売日!! うおおお!!」


 いつものやつか。

 あれはもはや病気だな。二次元に生きる藤原。とはいえ、あいつも男だ。三次元になど興味はない!! と言っていたが、俺は知っている。

 声優の写真集を穴が空くんじゃないかと思うほど見ていたのを。最近の声優はレベルが高いからな。マジで、アイドルやってもやっていけるレベルの容姿でびっくりした。


「それじゃ、俺も部活があるから。また明日な」

「おう。また明日」


 芳崎とも別れを告げ、俺は有奈を見つめ、にっこりと笑った。


「俺達も帰ろうか、有奈」

「うん!!」


 手を繋ぎ、教室を後にした。






・・・★・・・






『次のニュースです。またもや、通り魔事件が起こりました。被害者は、無職の男性で、まるで刀で両断されたかのように上半身と下半身が』

「……またこの事件か」

「最近、このニュースばかりだよな。警察も、動いているみたいだけど。まだ見つからないんだよね、犯人」


 学校の帰り道、家電製品店のショーケースに置かれてあるテレビから流れたニュース。それは、一週間半でかなりの頻度で起こっている事件だ。

 通り魔事件。

 名前だけならば、普通に聞こえなくはないが。今の事件は違う。手口が、とんでもないんだ。絶対体が綺麗に両断されている。

 まるで、達人が藁を刀で両断したかのような。今回は、上半身と下半身の二つに両断されたようだけど。最初報道された時は、縦に真っ二つだったらしい。

 これだけ派手に事件を犯しているのに、未だ犯人を見つけられず、人々は不安を抱えながら過ごしている。クラスでも……いや学校、ネット、色んなところで早く捕まってほしい、怖い。次は、自分なんじゃないか? とこのニュースのことを聞かないことなんてないぐらい有名になっている。


「大丈夫だって。もしもの時は、俺が護ってやる!」

「で、でも相手は大量殺人犯なんだよ? お兄ちゃんがもし、もし……」


 有奈が悲しんでいる。

 くそ、何が通り魔だ。人の命をなんだと思っているんだそいつは。人間として、どうかしている。どうする、有奈に元気になってもらうには……あっ、そうだ。


「有奈。俺についてきてくれ。良い所に案内してやる」

「いいところ?」

「ああ」


 それは、この街にある神社の奥。

 後ろにある林にある地面に突き刺さった剣。まるで、ゲームなどで出てくる伝説の剣みたいな感じだけど、俺達が生まれる前からずっとここにあったらしく、噂ではこの剣に強く願えば病気や厄災、それ以外にも様々な悪から護ってくれるんだそうだ。


「お兄ちゃん、これは?」

「藤原が話していたんだけど。この剣は、江戸時代からずっとこの場所にあるんだってさ。昔の人は、こいつを神様のようにも崇めていたとか。さ、有奈。願おう。俺達を護ってくれって」


 最近だと、ストーカー行為に悩んでいた女性がこの剣に願ったところ、ストーカー行為がなくなったとか。ネットでは、普通に警察に捕まったんじゃないのか? 作り話だろ? という意見もあるけど。

 ここまで、不安になるとこういうものに頼りたくもなる。

 頼む。

 お前が、本当に護ってくれる存在なら、その力で護ってくれ。むしろ、俺に護れる力とかくれるとめっちゃう嬉しいんだけど。

 ……まあ、そんな非現実なことは無理か。


「願ったか?」

「うん。ばっちり。これで、私達はこの剣に護られる、のかな」

「そうだって、信じよう。ま、通り魔になんてそう簡単に会わないって」


 通り魔は、全て夜。しかも、人気のないところで犯行している。俺達は、絶対遅く帰らないし、人気のないところをなるべく避けている。

 とはいえ、今は普通に人気のないところに来ちゃってるけど。






・・・★・・・






「えーっと、卵と玉ねぎとにんじんと」


 あの剣に願ってから数日。

 特に何も起こらず、俺達は変わらない生活を続けていた。現在は、スーパーで舞香さんの代わりに買い物をしているところだ。


「お兄ちゃん。そういえば、シャンプー切れてたよね?

「そうだったな。昨日、俺が使った時なんてほんのわずかだったから、まったく泡が立たなかったぞ」

「ご、ごめんね。私が使いすぎちゃったのかも」

「あぁいや! 有奈のせいじゃないって。とりあえず、詰め替え用のやつを買おう」


 平凡な日々。

 朝は、妹と一緒の部屋で起きて、舞香さんを加えた三人で朝食を食べ、学校に行き、友達と会って、授業をして……こういう日常が俺の理想。

 確かに刺激的な生活も悪くはなさそうだけど。やっぱり、俺は平凡がいいかな。


「結構買っちゃったね」

「こういうことがあるから、定期的な確認と買い物は欠かせないんだな」


 スーパーで買い物を終えた俺達は、会話に華を咲かせながらいつもの道を歩いていた。そして、あの剣がある神社前を通りかかったところで、俺は気づく。

 あれ? この辺り、しかもまだ十七時前だぞ。

 いつもなら普通に人が通っているのに……俺達以外誰も居ない。いや、偶然か? だけどなんだか、空気が重苦しいような。

 なんだよ、この感覚は。さっきまで、ふんわりとした空気だったじゃないか。


「お兄ちゃん? どうしたの?」


 俺がずっと立ち止まっていたので、有奈は振り返り問いかけてくる。


「あ、いや。なんでもないよ」


 だめだだめだ。別になんてことはないこういう人気がない時だってある。そう思おう。

 しかし、俺は見てしまった。

 いつの間にか、フードを被った人物が刀を有奈へと振り上げているところを。


「有奈!!!」


 買い物袋を放り投げ、俺は有奈を抱き寄せそのまま地面を転がる。すぐに起き上がり、刀を振り下ろしたフードを睨む。

 刃には、赤い液体がべったりと付着していた。

 不気味。存在自体が。フードを深々と被っているだけじゃ説明がつかないほど、顔が見えない。まるで、元々顔がないかのように。


「大丈夫か? 有奈」

「う、うん。私は……お、お兄ちゃん!?」

「ん? どうし、いつっ!?」


 遅れてきた痛み。まるで焼けるような痛みが俺の足を走る。切られていた。足は残っている。傷もそれほど深くはない。

 だけど……超いてぇ。これは、カッターで指を切った時の痛みよりも数段いてぇ。だけど、堪えるんだ。そして今は。


「に、逃げるぞ有奈」

「ま、待ってお兄ちゃん! あ、あっち見て」

「え? なっ!?」


 逆サイド。そっちに逃げようと思ったのに、そこにはもう一人いた。有奈に切りかかってきた奴と同じくフードを被っており、顔が見えない。

 ゆらりゆらりと、まるで幽霊のように動きながら俺達に近寄ってくる。


「くそっ! こ、こっちだ!!」


 左足の痛みに堪えながら俺は、有奈の肩を借りて神社のほうへと逃げ込んでいく。もう、こうなったら、頼るしかない。

 いや、頼る。

 動くたび、血が流れる。地面へ目印のように落ちていくが、そんなもの気にするな。今は、あの剣のところに!


「はあ……はあ……はあ……」

「お、お兄ちゃん大丈夫?」


 持っていた純白のタオルで抑えているが、もう真っ赤だ。なんとか、あの剣のところへ辿り着いたけど。はっきり言って何の力も感じない。

 人払いでもしてくれると思っていたんだけど、普通に奴らは俺達に迫ってきている。

 ……しかも、なぜか圏外だし。

 まったく、何が起こっているんだよ。さっきまで、普通に、平凡な感じだっただろ。どうして、それが急にこんなハードモードになってやがるんだ。


「……おい。お前、俺達を護ってくれるんだろ。それだけの力があるんだろ」


 血が流れすぎて、ちょっと頭がスーッとしてきた。そのせいなのか、しゃべるはずもない錆だらけの剣に俺は話しかけていた。

 今も尚、奴らは俺達を殺すために近づいてきているのに。

 不思議だな。だけど、止まらないんだ。


「抜けろ……抜けろ! 抜けろって!!」


 柄を力強く握り締め、俺は剣を抜こうとする。

 硬い。まるで、コンクリートで固められているかのようだ。


「こ、来ないで! や、やるなら、私だけをやって! だからお兄ちゃんは……!」

「あ、有奈! 馬鹿!! なにやってるんだ!?」


 俺が剣と格闘をしていると、有奈が震えながらも俺の盾になるような通り魔の前に立っていた。俺が、護られている? 

 ずっと、ずっと護ってやるって思っていた有奈に?

 ついに、一メートルほどまで近づいてきた。

 ゆっくりと刀を振り上げ、有奈へと切りかかろうとしている。だめだ、そんなのだめだ。

 俺が、俺が有奈を護らなくちゃいけない。もし、有奈が死んだら……!


「抜けろ! 抜けろって言ってんだよ!! 抜け、ろおおおおおおっ!!!」


 刹那。

 剣から眩い光が放たれ、すっと剣が抜ける。俺は考えることなく、そのままの勢いで有奈を護るために通り魔達に……切りかかった。


「はあ……はあ……」

「お兄、ちゃん?」


 初めて、初めて人を切った。だけど、なぜかわからないけど。こいつらは、人って感じがしない。むしろ切って当たり前だって思っている自分がいる。

 いや、こいつらは人間じゃない。

 その証拠に、この世から消えるかのように四散していく。そして、俺が抜いた剣。先ほどまで錆ついていたボロボロだったのに、今ではゲームに出てくる聖剣のような輝きを放っていた。


「大丈夫だったか? 有奈」


 なんだろう。知らないはずなのに、知っている。この剣がなんなのか。そして、この剣を抜いた俺がどうなったのか。

 そう、俺はこの瞬間……聖剣使いになった。

小休憩とか言っておきながら、結構書いてしまった……。

次回は、また違った話を書く予定です。

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