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第二十五話「苦難はまだまだ」

 キャロルにつれられた到着したのは、廃ビル近くのボロいバスケットコート。

 以前、俺が小さかった頃に太一という男を助けた場所だ。まあ確かにこの辺りなら、人気がないから何かをするにはうってつけだろうけど。

 それに、今は寒い時期だ。

 わざわざこんなところに来るやつなんていないだろう。とはいえ、念のためニィには人払いの結界を張ってもらっている。

 ついでに視界遮断もな。


「んで、話っていうのは?」

「……明日、母国に帰ることになったわ。お父さんが、迎えに来たの」


 早いな。やっぱり、父親としては心配なんだろうな。初めての嘘をついてまで、自分のために娘が行動したことが。

 青い空を見上げながら、しばらくして再び口を開く。


「初めて、お父さんに嘘をついた。本当は、お父さんの気持ち。理解していたのよ。最初は、突然家庭菜園なんて始めるからどうしたんだろうって思っていたけど。次第にお父さんは、楽しそうに作物を育てていた。なんだか……退魔士をやっている時とはまた違った輝きに見えたの」


 くるっと俺のほうへと振り返り、語り続ける。


「だけど、昔から退魔士としての父を目標にして育ってきたからどうしても認めたくなかった。こんなのお父さんじゃない。私が憧れ、大好きだったお父さんを変えた吸血鬼。あいつのせいで……って、勝手に暴走して挑んだけど、相手にもされなかった。いや、戦おうとしたら急に誰かが来て止めるしかなかってところかしら、本当、運が悪いったら」


 まあ、俺が獣っ娘隊に監視を頼んでいたからな。もし、啓二さんにキャロルが挑んでいった時は、通行人のふりをして邪魔をしてくれって。

 キャロルの性格上、絶対誰かが来る気配を感じ取れば戦いを止めるだろうとな。


「しかも、あんたっていう謎の男の出現で更に私に集中力が続かなくなったわ。どうしてくれるのよ」

「いや、そんなことを言われても」


 あの時は、たまたまそこにいて、体が勝手に動いたわけで。指を指されたまま、俺は頭を掻く。が、キャロルはまあいいわっと指差しを止めた。


「なぜかわからないけど、あの吸血鬼とはそう簡単には戦えないみたいだし……仕方ないから、あんたで妥協することにしたの」

「その妥協はおかしい」


 どうしてそうなるんだ。予想はしていたけど、やっぱりこうなっちまうのか……。後ろで見ているニィとロッサは楽しそうに眺めているだけで、絶対手助けはしないだろうし。


「退魔士として。いえ、一人の人間としてあんたのこと見極めさせてもらうわ。謎の包まれた男。悪魔にも神とも、仲のいいあんたを。さあ、武器を取りなさい!!」


 俺の意見などお構いなしか。

 俺が破壊したはずのあのハンマーを取り出し、片手で軽く持って突きつけてきた。

 仕方ない。

 彼女の願いを叶えてやるか。俺は、ゆっくり一歩ずつキャロルに近づいていく。キャロルも、戦闘体勢を取り俺を迎え撃とうとする。

 そして、俺達の距離が大体三メートルぐらいになったところで、俺は立ち止まり拳を構え。


「最初は」

「え?」

「グー!」

「え? え? ちょっ、なにを」


 突然の宣言に慌てふためくキャロル。だが、俺はお構いなしに続けた。


「じゃんけん! ぽん!!」

「ぽ、ぽん!!」


 俺がグーで、キャロルがちょき。

 静寂に包まれた中、ニィが叫んだ。


「刃くんの勝ちなのですー!」

「よし!! それじゃ、父さんと仲良くな」


 と、立ち去ろうとしたのだが。


「ま、待ちなさい!! なんなのよ!! なんでじゃんけん!? 意味わからないわよ!!」


 呆然としたいたが、すぐに立ち直り俺の前に回りこむ。

 彼女の問いかけに、俺は空を見上げてこう言った。


「なんだか雨が降りそうな雨雲が出てきたよな」

「そ、そうね」

「俺達傘持ってきていないんだ」

「え、ええ」

「だけど、俺達は夕飯の買い物をしなくちゃならない。だから、早く終わるじゃんけんにした」

「なによそれ!? 傘なら近くのコンビニとかで買えばいいでしょ! 買い物だって、スーパーが近いから戦いが終わった後にでもできるでしょ!!」


 うんうん、もっともな意見だ。

 正直に言えば、たまにはこういう解決もいいんじゃないかなって思っている。それに、キャロルは根がいい子だ。

 無理に戦おうとしなくても、丸め込めるんじゃないかって思っていたり。さっきだって、普通にじゃんけんに付き合ってくれたし。


「まあまあ、落ち着くのです。そんなに戦いたいのなら、とりあえず私達に一度付き合ってほしいのです。そうしたら、刃くんもちゃんと戦ってくれるかもなのです」

「……わ、わかりました」

「それじゃ、さっそく買い物に行くか。早くしないとずぶ濡れになっってしまう」

「ちょっと! ちゃんとこれが終わったら戦いなさいよ! 仕方なく付き合ってあげるんだからね!!」

「はいはい。とりあえず、その武器を仕舞ってくれないか? 危険だから」

「わかってるわよ!」


 こうして、キャロルを加えて俺達はスーパーでおでんの具材や、その他足りなくなってきたものをスーパーで買い、そのままマンションへと帰る。

 どうせだから、一緒に作って欲しいのです、とニィが提案したところ普通に承諾。

 そのまま流れ流され、キャロル本人も普通に楽しそうにしていた。リリーや華燐も加え、仲良くおでんを食べて、トランプをしたり、会話で盛り上がったりし……次の日を迎える。


「……やられたわ」

「やってやった」


 キャリーバックを手に、キャロルは深いため息を漏らす。

 現在は、空港にいる。

 有奈やリリー達も、見送りをしたいと言っていたのが今日は平日。彼女達は、学校に行かなくちゃならない。小休憩時間の時だったら、次元ホールを使って空港に送ることもできたのだが。

 タイミングが悪く、現在は授業中である。

 時刻は十時を過ぎている。後、数分でキャロルの母国であるイギリスへの飛行機が飛び立つ時間だ。

 見送りに来ているのは、俺とニィとロッサ、それと咲子だ。


「普通に楽しんでいた自分を思い出しただけ、恥ずかしさで死にそう……」

「まあそう言うなって。なかなかいい笑顔だったぞ。特に、トランプで一番にあがった時とか」

「う、うるさいわね!!」


 あの中じゃ、一番年下だから彼女が喜んだ時は、普通に微笑ましそうに見つめていたっけ。


「あんたとの決着はまだついていないんだからね! 覚えておきなさいよ!! それと」


 俺のことを睨みつけた後、咲子のほうへと視線を移す。


「父親に伝えておいて。まだあんたのことを、許したわけじゃないからって。またくるからって」

「うん。お父さんも次はどんなお野菜が届けられるか楽しみにしているって」

「ふん! 楽しみにしているといいわ!!」


 あ、普通に野菜届けるつもりなんだ。やっぱり、いい子だな。


「キャロル! ごめんごめん。お土産を買っていたら遅れてしまったよ」


 そこへ両手にお土産の入った袋を持ったとても優しそうなメガネをかけた五十代ぐらいの男性が走ってくる。

 キャロルの父親、アラディン・スミスさんだ。魔なる者と戦う人だから、もうちょっとごつい感じかと思っていたけど、普通に優しい。うん、自然が似合いそうな人だ。


「いいのよ、お父さん。丁度、知人達にお別れの挨拶をしていたところだったから」


 あれが、お別れの挨拶とはとても思えないんだが。完全に、次も襲いにくるから! という物騒な宣告だったぞ。


「おお、そうだったのか。皆さん、娘が大変お世話になりました。できれば、これからも仲良くして貰えると父としては嬉しいです」

「よかろう。その小娘は、なかなか人間としては見所がある奴ゆえ。特別に、我の好敵手として認めてやる。感謝するがよい!」

「え、えっと」

「すみません。こいつの言うことはあんまり気にしないでください」


 困っているアラディンさんに笑顔を向けながら、俺はロッサを叩く。なにをする! と叫んできているが無視無視。

 片腕で、ロッサを押さえつけながら俺はアラディンさんに別れの挨拶を告げた。


「せっかくですから、今度は普通に観光で日本に訪れてください。もちろん、娘さんと一緒に」

「……」

「はい。そうさせて頂きます。最近の日本は、何かと楽しいものがいっぱいあると聞いていますから。今度は、家族で観光に来たいと思います。それに……彼とも久しぶりに酒を酌み合いたいですから」


 結局、アラディンさんは啓二さんとは会ったもののほんのご挨拶程度だったらしい。そんなアラディンさんの表情を見て、キャロルは複雑そうな顔で俯く。


「あ、そろそろ時間なのですよ」

「おっと、これは大変だ。では、皆さん。本当に娘がお世話になりました。また、日本に来た時はよろしくお願いしますね」

「それじゃ、また今度ね。ちゃんと! 覚えておきなさいよ!!」


 二人が去って行った後、俺の隣に啓二さんが姿を現す。

 会社に行っていたために、スーツ姿のまま。

 ニィが、休憩時間に連れて来たのだ。


「よかったんですか? 挨拶とかしなくて」

「彼とは、すでに言葉を交わした。今は、それだけで十分だ」

「でも、お父さん。キャロルちゃんまた襲ってくるよ? ちゃんと話し合ったほうがよかったんじゃない?」

「はっはっはっは! まだまだ私は現役だ。彼女には負けはしない。それに、その時はまたアラディンを呼び出せばいい」


 アラディンさんにとっても嬉しいことだろうけど。娘が親友を襲う度に、呼び出されるって……普通に考えてすごく複雑だよな。

 その辺りは、やっぱり普通の人間とは違った思考をしているよな。迷惑どころか、喜んでいるわけだし。


「さて、私は会社に戻るとしよう。咲子、お前も大学に戻れ。二郎くんが待っているのだろう」

「うん。お父さんも、お仕事頑張ってね」

「娘に応援で、お父さんは元気いっぱい! 一週間休まず仕事を続けられそうだ!!」

「もう、それは言い過ぎだよ」


 この親子も、変わったな。

 色々と起こりっぱなしだったけど、今回も無事に解決……したのか、これ。


「刃くんの苦難はまだまだ続くのです……」

「不吉なことを言わないでくれないか……」

「ええい!! そんなことはどうでもいい!! いい加減、我の頭から手を離せ!! いつまで、抑え込んでいるつもりだ!!」


 おっと、そういえばずっと抑えつけたままだったな。丁度良い位置に、あったものだからずっと置いていた。

そんなこんなで、第六章完結! 今までの章と違ってなんだか大人しいというか、やんわりとした完結でしたが、たまにはこういうのもいいでしょう、ということで。


次回は、しばらく小休憩を兼ねて外伝的なものを投稿しつつ、七章のストーリーをもうちょっと練り直していこうと思います。

それでは、また次回!!

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