第十九話「予想外の終結」
最近、悩んでいます。
徐々にお気に入りが減っていくことに……。増えたと思ったら、増えた以上にいつの間にか減っているんです……やはり、お気に入りが減ると書いている身としては堪えます。
過激な感想を書かれるより正直堪えますね。過激でも、ちゃんと読んでくれた上で書いてくれているわけですし。あぁ、どうしたらいいんでしょうか……。
天宮卓哉の秘書にして、その妻イズミの一番の部下。
ウサギ耳とふわっとした洋服が可愛らしい獣っ娘サシャーナ。
普段は、秘書として働きながら数々の仕事をこなす。ただし、料理は味見だけ。そんなサシャーナは、現在とある男を追っていた。
白いスポーツカーに乗っている見た目は五十代ほどの渋いおじさん。
名前を巽啓二と言う。
見た目は、外人のようなに見えるがどうやら日本人らしい。そして、普通の人ではなく吸血鬼。そんな啓二の一人娘咲子のデートを護るため、刃太郎から手伝ってほしいとの依頼が。
サシャーナは、即決し重大な役目である啓二の監視と進行の邪魔を任された。
「こちらサシャーナ。準備はいいですか? 皆さん」
信号で止まっている間、追跡用のバイクの赤いボタンを押し、他のメイド達と連絡を取り合う。それは、これから向かうであろう天宮遊園地へなるべく向かわせないような邪魔をするためだ。
『準備オッケーです!』
『こっちも大丈夫です!』
『いつでも、ばっちこいですよ!!』
「ふふん。皆さん。刃太郎様から任された重大な任です。失敗は許されませんよ」
《はい!!!》
そして、信号が青になり再び追跡が開始される。
ちなみに、サシャーナはいつもの洋服では風の抵抗を受けたり、目立つと思い肌にぴったりと張り付くようなボディスーツを着ていた。
どこからどう見ても彼女がいつもウサギ耳を生やし、フリルの洋服を身に纏った者とは思わない姿。
(さて、さっそく第一の邪魔開始です)
車で天宮遊園地へと向かう場合。
右の道を行くのが一番近いのだが、そこには大型車の荷台から木材が落ちており道を塞いでいた。これには、啓二の車も止まってしまう。
「すみません。今片付けますので」
黄色のヘルメットを深々とかぶった作業員は軽く会釈をして、木材を片付けていく。啓二は、早く片付かないのか? とイライラしているのか窓から顔を出して作業員達を睨んでいた。
そこまで急いでない車は、ゆったりと待っているが、急いでいる車はUターン、もしくは更に右にある細い道に入っていく。
啓二も、さすがに待てなくなり細い道へと入っていった。サシャーナはよくやりました! と親指を立ててから追うように細い道へと行く。
(ふっふっふ。まだまだ邪魔は続きますよ。申し訳ありませんが、これもお仕事なので)
次の邪魔は、予測通り入って来た細い道で起こる。
この細い道を左に進めば大通りに出る。
しかし、そううまくはいかせない。
「大丈夫ですか!? しっかりしてください!?」
そこには、貧血か、それとも他に何かで倒れたという設定の女性と必死に呼びかける女性の二人が道を塞いでいた。
これにも、啓二の車は止まってしまう。
「おい、どうしたんだ?」
更に、車から降りて二人へと歩み寄る。
「わかりません。私がここを通り掛った時にはすでに倒れていて……」
「すみません……ちょっと立ち眩みで……」
という設定である。本当は、なんともないのだがそういう演技をしているのだ。本格的にやるために全力疾走をして汗をかかせてある。
そんな様子をサシャーナは距離を取って覗いていた。
「よし。この近くに小さいが病院がある。そこまで私が運ぼう」
「い、いいんですか?」
「もちろんだ。……実は、私には君ぐらいの娘がいてな。どうにも、放っておけない気持ちになってしまうんだ。さ、私の車に」
「あ、ありがとう、ございます」
そう言って、倒れた女性を抱えて車に乗せ天宮遊園地方面とは逆のほうへと車を走らせていく。
(ふむ。なかなかの紳士っぷりですね。悪い人ではなさそうなのですが)
その後、小さな病院に到着し付き添って病院へと一緒に入っていく。しかし、数分後一人で出てきて病院を後にした。
(やはり、娘さんが一番ということなのでしょうか)
『すみません。もう少し足止めをしておきたかったのですが……』
先ほどの立ち眩みの演技をしていたメイドからだ。
「いえ、十分です。後のことは任せてください」
これでも十分進行の邪魔をできている。
「それに、まだまだこんなものじゃないですよ」
ヘルメットのバイザーを下ろし、サシャーナはとことん邪魔をしてあげますよとバイクを走らせた。
・・・★・・・
時刻はもう一時半を過ぎた。
サシャーナさんのほうはうまくやってくれているようだな。今回は、朝の十時頃から、午後の十四時まで遊ぶ予定らしいからもうちょっとで天宮遊園地でのデートは終わる。
この後は、天宮遊園地でグッズを買ってから園内から出て喫茶店や駅近くの店でゆっくりと二人の時間を過ごすとか。
「初めて来たけど、楽しかったな。天宮遊園地! 特にVR体験は迫力あってさ!!」
「二郎くん、普段よりもすごく動いていたよね」
「そりゃ、ゲーム好きには堪らないものだからな! 咲子もかなりいい動きしていたけど。なんかスポーツでもやってたのか?」
「え? あ、っと……高校の時ちょっとだけ」
彼女の身体能力は、吸血鬼によるもの。
力を封じているとはいえ、それなりの恩恵を得ている。藤原が息を切らしていたのに、咲子は全然だったからな。
元々、藤原が運動が得意じゃないって理由も要因のひとつだろうけど。
「俺は、全然運動部とかには入っていなかったし。入りたくもなかったからなぁ。もうゲーム! アニメ!! の毎日を過ごしたかったからさ」
「私も、そうだよ。毎日そういう過ごし方をしたいって」
「だよなぁ。お? グッズ店に着いたぞ、咲子! どんなものを買いたい? あ、金の心配はするな。俺が好きなものを買ってやるから!!」
大学生と言っても、そこまで金がないはずだが。見栄を張っているな完璧に。とはいえ、この時のためにちゃんと金を下ろしてきたはずだ。
そうじゃなきゃ、あんなことは言えないだろう。
「だ、大丈夫? ここのグッズって高いよ」
「大丈夫大丈夫!! 可愛い彼女のためだからな!!」
しかし、咲子の性格を考えるとそうも言ってられない。しばらく考えた咲子はあっと声を漏らす。
「それじゃ、私は二郎くんの好きなものを買ってあげるね」
「え?」
「だめ、かな?」
可愛らしく首を傾げる姿に、藤原は全力で首を横に振る。そのせいか、メガネがめちゃくちゃずれてしまっている。
そんな姿を見て、くすっと笑う咲子であった。
『刃太郎様。申し訳ありません、咲子様父が遊園地の駐車場に到着してしまいました』
サシャーナさんからの連絡を受け取り、俺は了解と短く答える。
このまま会わずに遊園地を去れると思っていたんだが、やはりそこまで甘くはないか。二人の護衛を、コヨミとその他のスタッフに任せて、俺は咲子父の元へと走り出す。
なるべく園内に入れないように遠ざけなくちゃな。
スタッフ専用の出入り口から出た方は駐車場は近い。
ドアを開けるとすぐサシャーナさんと鉢合わせる。
すでにバイクから降りており、いつものフリルたっぷりな洋服姿で出迎えてくれた。
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です。それで、咲子父……啓二さんはどこに?」
「あちらにいます。現在、悪あがきとばかりに道がわからない外人という設定で、啓二さんに道を聞いています」
指差す方向には、確かに地図を持って道を聞いている女性がいた。
しかし、啓二さんは地図をその場に投げる。
そして俺達の方を睨みつけた。
やはり、ここまで邪魔をすればバレるか……仕方ない、ここまで来たが強引に邪魔をするか。
「君かね。私の進行の邪魔をしていたのは」
「お久しぶりですね。まさか、あの時のお客様が咲子の父親だとは思いませんでしたよ」
そう、咲子の父親の啓二さんは、幽場館に訪れていた客の一人。来る時、出る時に俺のことを見つめて話しかけてきた人だったんだ。
知った時は、マジかよって思ったな。
「私も、君にここまで人を動かせる力があるとは思わなかった。君はいったい何者なんだね?」
「世界を救った勇者、ですかね」
「勇者か。それで、その勇者様はどうして私の進行を邪魔する?」
「あなたこそ、どうして娘さんの。咲子のデートを邪魔しようとするんですか? 彼女を悲しませるつもりですか?」
張り詰める空気。
俺達は互いに睨み合う。たまたま近くを通り掛った人達は、その威圧感にひっ! と悲鳴を上げて去っていく。
「私が、咲子を悲しませるだと? そんなことをするはずはないだろう」
「自覚がないんですか? 彼女は、今回のデートを楽しみにしていたんです。初めて好きになった人と思い出に残るデートにしたいって。だから、俺に頼んできたんですよ。あなたが、邪魔をしてくるだろうって」
「どこの馬の骨ともわからない男に娘はやれん。私が見極め、こいつは大丈夫だと思った奴ではないと娘を任せられん!! 聞いたところ、そいつはゲームだのアニメだの、二次元嫁だのと言っているオタクだそうだな。そんな男が咲子を幸せにできるはずがない!!」
なんという偏見だ。
オタクと言っても全てのオタクがあれってわけじゃない。ちゃんと働いて、金を稼いでいるオタクだって多くいるんだ。
時々、過激なオタクがニュースで報道されることもあるが……。
そもそも、咲子もそっち系の趣味があるってわかっていないのか?
「藤原は違います! あいつは、本気で咲子のことを愛しているんです!」
「上辺だけの愛ならば、いくらでも言える。ふん、これ以上の会話は時間の無駄だ。私は、咲子のところに行かせてもらう」
園内に入ろうと目を逸らすが、俺は逃がさないと啓二さんを阻むように移動する。
「退くんだ」
「退きません。二人のデートを護るのが俺の役目なので」
「退かないというのであれば……仕方あるまい」
魔力を開放した。凄まじい魔力だ……俺が戦ったあの吸血鬼とは桁違いだ。ここでの戦闘はさすがに、やばい。
だが、これ以上二人のところへと近づけさせるわけには。
「お父さん!!」
「しょ、咲子!?」
そんな時だった。まだ園内にいるはずの咲子が、スタッフ専用の出入り口から姿を現す。
「申し訳ありません。どうしても、お父様のところへ連れて行ってほしいと言うので」
後ろから続いて現れた駿さんが頭を下げて事の次第を告げた。どうやら、藤原はいないようだな。何かしらの理由で藤原から離れてここまでやってきたってことか。
それにしてもどうして自分から。
一歩、また一歩と咲子は啓二さんの下へと歩み寄っていく。なんだか咲子から感じたことがない威圧感が……。
「しょ、咲子。よかった。実はな、お父さん」
「馬鹿ぁ!!!」
「はぐっ!?」
啓二さんが何かを伝えようとした刹那。
咲子は、力強い平手を啓二さんの右頬へと叩き込んだ。突然のことだったので、啓二さんはもちろんのこと俺達は唖然である。
赤くなった右頬に触れながら、啓二さんは咲子見つめる。
「しょ、咲子?」
「お父さんの馬鹿あぁっ!!!」
「ぐはっ!?」
なんということでしょう。追撃である。右頬を打ったら、左頬も。しかも、先ほどよりも力が強かったようで啓二さんは軽く吹っ飛んでいく。
咲子は、大粒の涙を流しながら走り出し、その場から姿を消す。静寂に包まれた空間で、啓二さんの背後から近づく女性。
黒く長い髪の毛、赤いマフラーに灰色のコートに身を包み、とてもおっとりとした雰囲気のある美人。魔力は感じられない。ただの人間のようだが……あれ? なんか咲子に似ているような。
「もう、何をやっているのあなた」
「なっ!? お、お前こそどうしてここに!?」
「あなたこそ、仕事はどうしたのかしら? あっ、すみません。私、咲子の母親で巽良子と言います」
立ち上がった啓二さんの胸倉を力強く掴みながら、にっこりと満面の笑顔で自己紹介をしてくれる良子さん。
「いつものことなのですが、今回は咲子も相当怒っているみたいですね啓二さん」
「わ、私は咲子のことを想って」
「言い訳は聞きません。とりあえず、咲子に土下座して謝ってください。それと、彼氏さんともちゃんと話し合ってください」
「そ、それは!!」
「いいですね?」
なんだろう。魔力もない普通の人間のはずなのに、すごい威圧感がある。サシャーナさんも、俺の後ろですごいガタガタ震えている。
あれかな。普段怒らない人が怒るとすごい怖いっていう現象なんだろうか。
「……は、はい」
「よろしい。では、皆さん。夫が大変お騒がせしたようで、申し訳ありません。こっちからきつーく言っておきますので。あ、咲子とはこれからも仲良くしてくださいね」
「わかり、ました」
「ありがとうございます。では、私達は失礼しますね。ほら、帰りますよ」
尻に敷かれている、というのはこういうことを言うのか? 良子さんに連れられ車に乗った啓二さんはそのまま何事もなかったかのように駐車場を後にした。
「……えっと、俺達はどうしよう?」
「と、とにかくお二人の護衛を続ける、ということで良いのではないでしょうか?」
「そう、ですね」
俺は、思った。
さすが、吸血鬼と結婚しただけのことはある人だなって。




