第十八話「動き出す」
『こちら、サシャーナ。未だ、咲子様父は娘愛! という行動を永遠にとっております!』
それはいったいどんな行動なんだろうか。
「報告ありがとうございます。こっちは、順調ですよ。邪魔をしようとしていた者達は、コヨミを初めとした協力者皆が防いでくれています」
『なるほど。刃太郎様も頑張ってくださいね!』
「あははは。皆優秀過ぎて、俺の出番がないんですけど、頑張ります。サシャーナさんも、引き続き監視の方を頑張ってください」
『了解であります! 司令官殿!!』
数分おきの連絡をサシャーナさんから受け俺は通話を切る。
現在、藤原と咲子は何事もなく楽しそうに天宮遊園地のアトラクションを楽しんでいる。メリーゴーランドから始まって、今はジェットコースターに乗ろうとしている。
俺も一緒に乗るため、ちょっと距離をとったところに並んでいる。
そして、先に行った人達が戻ってきて俺達の出番になった。
俺は二人から二席ほど離れたところに座る。
ジェットコースターは動き出し、この疾走感……久しぶりだ。前回は、ジェットコースターに乗ることができなかったからなぁ。
楽しい叫び、恐怖の色がある悲鳴が混じり合い聞こえる中。
そろそろ中間辺りに差し掛かった時、スマホが鳴る。
だが、現在俺はジェットコースターに乗っている。なので俺は念話に切り替えた。ちなみに、今まで念話しなかったのは、相手に気づかれるかもしれない。
念話は魔力を使うため、もしかしたら感知の邪魔になるかもしれないという二つの理由で使わなかったのだが、今は仕方ない。
『どうかしましたか?』
『おっと、念話ですか。動きました。咲子様父が、今自宅から出て車で真っ直ぐ天宮遊園地のほうへと向かっています』
『ついに動き出したか……わかりました。遊園地内の皆には俺から連絡します』
『了解です。では、私はこのままバイクで追跡をします! それと、なるべくこっちで進行の邪魔をしてみますね』
『よろしくお願いします』
それにしてもバイクに乗れるんですか、あなたは。あの格好でバイクって……なんだかすごくシュールなんだけど。とはいえ、動き出したか。
それもそうか。
邪魔をするように指示した者達が次々に失敗をしていればな。あっちで、進行の邪魔をしてくれるって言ってくれたけど、それも長くは続かないだろう。
いずれはこっちに来る。
その時は、俺達も本気で邪魔を邪魔しないとな。
ジェットコースターが帰還。
俺はそのまま二人を追跡しながら、念話で遊園地内にいる協力者達に通達をした。
『皆! 聞いてくれ!! ついに本元が動き出した! サシャーナさん達がしばらく進行を邪魔してくれるようだが。それも長くは続かないだろう! そして、この遊園地内にいる敵も本気になってくるはずだ! 各員、より一層の警戒を持って動いてくれ!!』
《了解!!!》
よし、これでオッケーだ。時刻はそろそろ十二時か。
「いやぁ、乗った乗った!! 怖くなかったか? 咲子」
「う、うん。大丈夫」
とても大丈夫そうではない。未だに小刻みに震えており、藤原の腕にがっちりと掴まっている。藤原はとてもとてもうれしそうな表情で空を見上げていた。
別に、彼女が怖がっているのを見て嬉しそうにしているんじゃないだろうけど。話の流れから、そんな風に捉えられなくもない。
気持ち悪いぞ、藤原さんや。
「そろそろ昼か。なにか食べに行こうぜ。休憩も兼ねてさ」
「わかった。ここって、何がおいしいの? 二郎くん」
「任せてくれ! ちゃーんと調べてきたぜ! 実はこの先にある飲食店なんだけど。今の時期、ビーフシチューがめちゃくちゃおいしいらしくてさ!」
この先の飲食店か。
駿さんに知らせておくか。
『はい、こちら駿です』
「駿さん。二人は、飲食店みやっこに行くみたいです。今、どこに?」
『そうだろうと思い一足先に、みやっこに来ています』
さすが駿さんだ、行動が早くて助かる。
『そこで、お店の料理に虫が入っていたといちゃもんをつけ挙句の果てには店内で暴れだそうとしていた人物達を見つけましたので、早々に店内から。いえ、園内からご退去してもらいました』
『しかも、その二人。魔力がない普通の人間だったんだ』
とコヨミからの説明を受け俺は眉を顰める。
普通の人間にも邪魔をするように? いや、関係のない本当にただのチンピラだったかもしれないけど。それでも、今の状況を考えると関係性があると考えてしまう。
「その二人から何か情報は?」
『一応お聞きしたのですが、名も知らない人物から金を払うから園内で騒ぎを起こしてくれ、と言われただけの一点張りでして』
「それだけじゃ、証拠は不十分ですね……」
これも今の状況を考えると、咲子父の差し金、と考えてしまうが。園内で何かしらの騒ぎを起こせ、だけじゃ証拠にならない。
もしかしたら、遊園地に不満があった者かもしれない。それか天宮遊園地をライバル視している者かもしれない。日本、いや世界から注目されている遊園地だからな。
「もうすぐで到着します。駿さんとコヨミはそのままみやっこに」
『かしこまりました。では、私は厨房でお料理を作りましょう』
『それじゃ、僕はテーブルで待っているから。一緒にお昼を食べようよ刃太郎』
「わかった。なるべく見つかり難い席を取っておいてくれよ」
『任せてよ。それじゃあね』
そうだ。御夜さんも誘ってみるか。現在、園内から退去してもらった者達はみやっこで暴れようとしていた二人を合わせて十人。
その内の八人は全員魔力を持った者達。
更にその内の五人は、自ら園内から出て行ってしまった。監視をしていたスタッフの話では、人目がないところで蝙蝠に変わって飛んでいったという。
おそらく、分身、のようなものだったんだろう。なので、園内にいる確認できた邪魔者達は三人。
ちょっとは楽になったほうだが、今の内に休憩をしておかないと。
本元が来る前に。
「おーい、こっちだよ」
二人よりも先に、俺はみやっこに訪れていた。ちゃんとスタッフに近い道を教えてもらい御夜さんを回収しつつ走ってきたのだ。
藤原達は、少しでも楽しい時間が続くようにゆっくり歩いているようなので、先回りすることができた。
「すごく落ち着くところだね、ここ」
みやっこの中は、所謂喫茶店のような雰囲気のある飲食店。クラシックが店内に流れ、壁も床も、テーブル、椅子も全部木材でできている。
そんなみやっこの壁で隔てられている席にコヨミは座っていた。
席に座り、しばらくすると藤原達がやってきた。
「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
「は、はい」
「すごいね、このお店……」
みやっこの雰囲気に少し圧倒されているようだが、店員の案内で空いている席に座る。当然、その席は俺達が座っている席から見える位置にある。
位置を説明すると、俺達は入ってすぐ右手の壁がある席。藤原達は入って真っ直ぐの周りを見渡せるような席だ。俺は念のため、背を壁側に向け端っこに座っている。
「……それにしても、咲子の父親は娘が可愛いとはいえ。これはやり過ぎだよな」
水で喉を潤しながら、俺は一呼吸入れて呟いた。
「そうだね。僕のところの父親もすごい娘ラブだけど。ここまでじゃないかな……なんだかあのお姉さんのお父さんは過激っていうか。束縛が激しそうな感じだね」
先にパンケーキを注文していたコヨミはナイフとフォークをうまく使い一口サイズに切り、藤原達を見つめた。
卓哉さんも、娘ラブなのはわかっている。だけど、咲子の父親とは違いなんていうか大事なりによく考えて、見守る時はちゃんと見守っている感じだな。
「昔からそうだったんだ、咲子ちゃんのお父さん。授業参加で、来た時も隣の席の人と会話しようってなったんだけどね。じっと、咲子ちゃんと会話をしていた男の子を見ていた気がしたの」
「気のせいってことは……なさそうだな」
そんな小さい頃から……。
「だから、好きな人ができたって私に話してくれた時も嬉しさと不安が交じり合ったみたいな表情をしていたのを今でも覚えてる……」
と、藤原とメニューを見合っている咲子を心配そうに見る御夜さん。初めて好きな人ができて嬉しい。けど、また父親から何かを言われたり、何かをされるかもしれない。
とても複雑な気持ちだったんだろうな、その時は。
「お待ち致しました。当店特別のビーフシチューでございます」
「とりあえずは、腹ごしらえをしっかりして。これからの戦いに備えましょう、御夜さん」
「うん……わかった。咲子ちゃんのために、私頑張る!」
「おいしそうですねぇ。あっ! 私のために皿とスプーンまで! ありがとうございます!!」
「いえ、当然のことです」
す、すごいな。小さなさくらに合わせた皿とスプーン。まさか、ずっと前から用意していたのか? それとも今用意したのか?
予想外のものに驚きつつ、俺達は本元との戦いに備えビーフシチューを食した。




