第十七話「天宮遊園地再び」
季節は秋。十一月に入って一層肌寒くなり、見渡す限り紅葉で一杯である。今年も後二ヶ月。
俺は、半年経った時に来たから実質今年は半年しか過ごしていないことになる。
来年は、もっと充実した一年にできるように悔いのないような生活をしたいものだ。そんな俺だが、アルバイト前に街を歩いていた。
そこへ、一本の電話が。相手は、藤原だった。今からファミレスに来れるか? とのことだった。まだ時間はあるし、丁度ファミレスの近くだったのでどんな用事なのかと立ち寄ったんだ。
すると。
「俺、今週の金曜日。咲子と天宮遊園地でデートをすることになったんだ」
「そうか。よかったじゃないか。楽しんで来いよ」
まさかの自慢。開幕の言葉これである。
ご丁寧に隣には咲子も座っていた。
友達にわざわざデートをすることを報告するというのが、咲子にとっては恥ずかしかったのだろう。顔を赤らめながら、もー! と藤原にぽかぽかしていた。
しかしながら、それは藤原には効いておらず、むしろ嬉しそうだ。おいおい、わざわざイチャつくところを見せ付けるために呼び出したのか?
俺がちょっとイラッとしたところで、藤原はこほんっと咳払いをする。
「すまんすまん。でさ、お前天宮遊園地に行ったことあるって言ってただろ? 俺、一度も行った事がないからさ。オススメのアトラクションとかあったら、教えてほしいんだよ」
「だったら、呼び出さなくてもいいだろうが」
「まあまあ。そう言うなって。それよりもさ! お前が体験した中で……っと、すまん。ちょっとトイレ!!」
「早く来いよー! 俺と咲子には時間がないんだからなー」
「わかってるって!!」
とはいえ、アルバイトまでまだ五十分ぐらいは余裕がある。
藤原がトイレで席を外した後俺はふうっとため息を漏らす。
「相変わらず、愛されてるな咲子」
「は、はい。すみません、急にお誘いしてしまって」
「いや、良いんだよ。それに、これからアルバイトなんだし。終わったら一緒に行くことができるだろ?」
咲子もアルバイトには慣れてきているため、明日か早くて今週中には朝のシフトに行くだろう。それにしても天宮遊園地か。
懐かしいな。夏に行って以来行ってはいないけど。いい思い出と嫌な思い出の両方がある場所。今思えば、あそこに行かなければ天宮家との繋がりも得られなかったし。
こんなに騒がしくも楽しい日々を送ることはできなかったかもな。
「あの、威田さん」
「なんだ?」
コーヒーが入ったカップを持った時だった。深刻そうな表情で、咲子は口を開く。
「実は、ご相談があるんです」
「……どういう内容だ?」
「実は、父が私達のデートをよく思っていなくて」
噂の娘はやらん親父か。
一度、カップを置いて真剣に咲子の言葉に耳を傾けた。
「どこで聞いたのかわかりませんが、約束した夜にいきなり言われたんです。あんな男とのデートなど認めない、と」
「吸血鬼だからな。従者とか能力とかそういうので聞き耳を立てていたんだろうな十中八九」
「これまでも、何度もそういうことがあって。それでも、私は二郎くんとデートをしました。でも、今回はお父さんも何かをしてきそうで……」
なるほど、それで事情を知っていて力になってくれそうな俺に相談した、と。娘をやらん親父も、普通の人間だったらまだマシだが。
相手が吸血鬼だからなぁ。何をするか本当にわからない。
「それで、俺に何をしてほしいんだ?」
「……デートを。私達のデートをお父さんから護ってほしいんです!」
・・・★・・・
そして、金曜日当日。
俺は、咲子の依頼で二人のデートを邪魔が入らないように監視し、護る役目をすることにした。だが、俺だけじゃ護りきれないだろうと思い何人か協力者を募ったわけだが。
『こちら、咲子様父監視役のサシャーナであります。応答してください司令官殿』
「誰が司令官ですか」
スマホから聞こえてくるサシャーナさんの声。
そう、今回場所が天宮遊園地ということで天宮家に応援を頼んだ。そうしたら、即決してくれたよ。いや本当天宮家には頭が上がりません。
協力者は、御夜さん、サシャーナさんとコヨミ、駿さん。その他獣っ娘メイドさん達。獣っ娘メイドさん達は、いつも通り天宮遊園地で客寄せなどの仕事をしながら監視をしてもらうことにしている。
ちなみに、今は天宮遊園地に行くまでの道。
そこから俺は二人を追跡している。
「ところで、どうして司令官なんですか?」
『こちらのほうが雰囲気が出ますからね』
さようですか。いつもながら、サシャーナさんは楽しそうで何よりです。
「それで、今咲子父の様子はどうですか?」
二人が電車に電車に乗ったところで俺も電車に乗り込む。咲子父の監視役をしているサシャーナさんは、そうですねぇ……と間を空け。
『特に変わった様子は、いえ! あれは!?』
「どうしたんですか? なにかアクションを?」
慌てた様子のサシャーナさんに、声を潜めていた俺もちょっと高くなってしまう。
『アルバムです』
「はい?」
『咲子様の生まれた時から現在までの全ての写真が収録されてあるスペシャルなアルバムを眺めてにやにやしています!』
「……引き続き、監視をお願いします」
通信を切り、俺は二人の身の回りを監視続けた。
電車内では何も起こらず、そのまま駅から出て行く。駅から出たら、天宮遊園地はすぐそこだ。歩いて大体五分程度だろう。
咲子は一度後ろを見る。
俺と目が合ったところで、大丈夫だという頷きを見せる。
「どうしたんだ? 咲子」
「ううん、なんでもないですよ」
咲子を安心させたところで、俺はスマホを取り出しコヨミに連絡を入れる。
「コヨミ。遊園地内に怪しい人物はいたか?」
『ううん。どこにもいないよ、今のところ』
『もしかしたら、二人が遊園地内に入った瞬間に来るかもしれませんね』
現在、コヨミと駿さんには遊園地内で遊ばせつつ周囲の警戒に当たらせていた。
普通とは違うとはいえ、小さな女の子だけで徘徊するのはちょっとあれなので駿さんを一緒にさせたのだ。まあ、彼女のことは色んな人達が知っているだろうし。従業員も天宮家の人達がほとんどだ。
「そうかもな。もう少しで護衛対象達は遊園地に到着する。警戒を怠らないようにな」
『了解だよ』
コトミちゃんも来たがっていたけど、生憎金曜日だから学生さんは学校に行かなくちゃならない。さて、今は何も起こらないことを祈ろう。
「到着だ! やっぱり、人気あるなぁここ。外からでも人がたくさんいるのがわかるぜ」
「楽しみだね、二郎くん」
「おう! さっそく中に入ろうぜ!」
出入り口ではなにも起きないか。さすがに、ここで問題を起こすようなことはしないよな。問題が起こるとしたら、人気が少ないトイレとか俺と同じようにあの迷宮。
とはいえ、今はここで働く天宮家が総動員で監視をしているため何かがあった場合はすぐ知らせが来る。なにか怪しい力を持った者が近づいているとかそういうのがな。
「ようこそ、天宮遊園地へ。今日は、思う存分楽しんでいってくださいね!」
「は、はい!」
突然、獣耳に尻尾を生やした獣っ娘達に話しかけられ上ずった声を出す藤原。彼女達は、パンフレットを配っている。
藤原は差し出されたパンフレットを受け取りその場を後にした。
「二郎くん。すごく声、上ずってた」
「そ、そうか? いやぁ、前々からこの遊園地で働くスタッフのレベルは高いって聞いていたけど。マジだった……」
「むぅ」
藤原の言葉に、若干頬を膨らませスタスタ歩く速度を上げる咲子。
「お、おい! ち、違うんだ! 違うんだよ咲子!! ほ、ほら! あれは男としてしょうがないっていうか。いや、本当にごめん! 見捨てないでくれ! 咲子ぉ!!!」
護られているという安心感からか、咲子も存分にデートを楽しんでいるようだ。可愛らしく嫉妬までしているのが何よりの証拠。
そんな嫉妬する咲子を追いかける藤原に、魔力を感じる男が近づいていた。
だが、何もないところで壮大に転んで尻餅をつく。
男は何が起こったのかわからず、一瞬静止するもすぐ立ち上がり藤原達が歩いていった方向を見詰めた。しかし、もう二人の姿はなく、その場で地面を蹴る。
「こ、こんな感じでよかったかな?」
「バッチリです御夜さん、さくら」
「ふふん。私の手にかかればこんなものですよ!」
やってくれたのは、御夜さんとさくらだ。先ほどの男が何もないところで転んだのは、さくらの力だった。彼女達には遊園地を巡回しながら、魔力などの特殊な力を持った者達が藤原と咲子に近づいている場合、何かしらの対処をするようにと言ってある。
おかげで、男は二人を見失った。
あまり騒ぎを起こすと二人のデートも、他の人達にも迷惑をかけるからな。
「俺は、引き続き二人を追うから。御夜さん達は、俺とは逆方向をお願いします」
「うん。わかった」
「それでは、さっそくあの船に乗りましょう!」
「さ、さくらあれはさすがに……」
護衛をさせつつ、遊んで貰っている。せっかく遊園地に来たのに、遊ばないっていうのは損だからな。他にも、護衛はいることだしそこまで気を張ることはない。
まあ、俺はずっと気を張っていかなくちゃならないんだけどな。
二人は……メリーゴーランドのほうか。




