第十五話「仮装する者達」
そういえばもう少しで連載四ヶ月になるんですね……なんだか一ヶ月経つのが早いように感じます。
「なんと!? では、卓哉さんは刃太郎くんと一緒で異世界を救ったというんですか!?」
「それは素晴らしいですね。しかも、そこでイズミさんと出会って、恋に落ちた……ロマンチックですね。勇者と姫が結ばれるのは」
「最初から気高く、美しいイズミには惹かれていました。とはいえ、恋に落ちたのはもっと先の話だったんですがね」
「こいつと来たら、獣耳の美少女が居ればすぐ目の色を変えて近寄る獣だったからな。私の他の姫騎士にも、色目を使っていたのだ。まあ、今では私だけの卓哉となったがな」
「はっはっはっは! これはお熱い言葉ですな!! 俺達も負けてられないぞ! 静音!!」
「あら、隆造さん。あなたなら、いつも熱いでしょ?」
「そ、そういう意味じゃないぞ静音」
天宮家と鳳堂家の夫婦はなかなかいい感じに仲良く会話をしているみたいだな。
ハロウィンパーティーが始まり早一時間。
各々、楽しく過ごしているようだ。
有奈と華燐、リリー、ナナミの仲良く四人組も仮装ばっちりで笑顔満点。四人とも魔女っ子の格好だが、一人ずつ違うところがある。
色だ。
有奈が赤で華燐が青、リリーが黒でナナミが白とレンジャーものかと思うほどの色違い魔女っ子だ。
「リリア! どっちが高得点を取れるか勝負よ!!」
「は、はい! お相手いたします!!」
「もしあたしに勝った場合は、ニィがご褒美をくれるそうよ?」
「ご褒美……!! 負けられません!!」
その逆サイドでは、リフィルはリリアと一緒に射的で遊んでいるようだ。なんで、こんなところに射的があるのかわからないが。
どうやら、ジャック・オー・ランタンを撃ち抜くものらしく。普通の色から銀、金と二つの色があるらしい。
普通の色が一点で、銀が二点、金が五点となっている。それを制限時間内に撃ち抜き合計点数を競うというゲーム。ただ射的の的をハロウィン使用にしただけみたいだな。
ちなみに、リフィルはセクシー小悪魔の格好をしており、リリアは普段のシスター服のままである。さしずめ悪魔対シスターってところか。
神様なのに、よくもまあ小悪魔の格好をできたものだ。
「皆さんすごく楽しんでいるみたいですね、刃太郎先輩」
「お前も楽しんでいけよ。あっちでは、魔物討伐とかで忙しいんだろ?」
俺の傍によってきたアデルは、まるで勇者。神々しい甲冑に赤いマント、額には赤いバンダナを巻いている。普段は動きやすい服で鎧など装備していないため新鮮だな。
こいつもこいつで楽しんでいるんだろう。
「平和になったとはいえ、まだ魔物達の脅威は治まっていませんから。依頼をされたら、いえ、人々が脅威に晒されていれば助けに行く。それが勇者ですから。先輩の教えです」
「だが、無茶ばかりはしないようにとも教えたよな。勇者だって、休息は必要だ。ほれ、とりあえずこれでも食ってゆっくりしろ」
そう言って、俺は近くのテーブルにあった骨付き肉をアデルに渡す。
素直に受け取ったアデルは、豪快に齧りついた。
「おいしいですね」
「だろ? まだあるから、今日は思う存分楽しんで、英気を養え」
真面目な後輩に、休むように念を押して俺は会場を動き回る。一通り、皆の様子を見たところで俺は舞香さんのところへと歩み寄った。
「あら、刃太郎。もしかして、会場の警備?」
「何かが起こることはないだろうけど、癖っていうかなんていうか」
「はっはっはっは!! 刃太郎くんも、本当に変わったな。昔は、ちょっと真面目だけどやんちゃな少年だったのな」
昔の俺を知っている章悟さんが、骨付き肉片手に笑う。そうだったな……異世界に行く前の俺は、やんちゃなところがあった。
とはいえ、そこまでではなく家族のことを考えてアルバイトも積極的にやっていたし。寄り道だって、数えるぐらいしかやっていなかった。
「そうねぇ。でも、有奈ちゃんや舞香を大事にしているところは全然変わっていないわね」
俺の肩をぽんっと叩く絵里さん。それから舞香さんが、ワインをぐいっと流し込み、こんなことを言う。
「そういえば、刃太郎」
「なに?」
「あなたは、誰と付き合うの?」
「え? いきなりどうしたんだ、舞香さん」
こ、これは相当酔っている。
あの絡みに絡んでくる舞香さんだ。そして、舞香さんの一言で山下夫婦の目もきらりと怪しく光りだす。
「そうね。刃太郎くんもそろそろ真面目に考えてもいいんじゃない? ふふふ」
「そうだな。俺の見たところ、刃太郎くんの周りには世界でも認められるであろう美少女が揃っている。それに」
ワイングラスをテーブルに置いて、章悟さんは言う。
「君は、恋愛に飢えているんだろ? だったら、積極的にいかねばだめだぞ! 俺なんてな、絵里に恋をした時なんてめっちゃくちゃアタックしては、玉砕された! だが諦めなかったんだ!!」
「あー、それとも私と付き合っちゃうぅ?」
ぬるりと俺に絡みつく舞香さんは、女性の人特有のいい匂いと柔らかさ、そこに酒の匂いが混ざり、なんとも言えない気持ちが俺を襲う。
「え? ちょ、舞香さんそれは」
「ひゅー! ひゅー!! いいぞ、舞香ぁ!!」
なんだろう。さっきまで真面目な感じだったのに、ちょっと子供っぽい感じになっている。
「あ、でも舞香とはすでに家族だから、もう結婚しているようなもんじゃないのか」
「ちょ、ちょっと章悟まで何を言ってるんですか!?」
見た感じ二人も相当酔っているようだ。
久しぶりのパーティーだと言っていたからな。羽目を外しているんだろう。舞香さんも酔えばかなりあれだけど、二人も相当だな。
しかしこれは、どうしたら良いのだろうか。下手なことを言えば、またややこしくなるに違いない。だ、だれか救援を!
「ねえ、お父さんお母さん」
そんな時だった。千歳ちゃんが、山下夫婦に声をかける。
「お、どうしたんだ? 千歳」
「あの、コトミちゃん達とお城を探検したいんだけど。いいかな?」
視線を向けると、すでに扉の前にはコトミちゃん、コヨミ、それにロッサの三人が千歳ちゃんを待っていた。
親にちゃんと声をかけるとは、やっぱり出来た子だな。これで本当に小学一年生なんだろうか?
「そうねぇ。ちゃーんと帰ってこれる?」
「うん。大丈夫」
「いや、それでも心配だ! というわけで刃太郎くん!」
うお、近くだとすごく酒臭い。両肩を思いっきり掴まれながら俺は章悟さんに見詰められる。
「娘を頼む。君になら任せられる!!」
「は、はい。わかりました」
「うん。刃太郎くんが一緒なら、心配いらないわねぇ。それじゃ、千歳。迷子にならないように刃太郎お兄ちゃんがついていくことになったから」
と、千歳ちゃんは俺の手を握り締めえへっと笑う。
「よろしくお願いします、お兄ちゃん」
「ああ。それじゃ、行くか」
「うん!」
「いってらっさーい」
「娘を頼んだぞー」
ふう、なんとか抜け出す事ができた。しかし、酒っていうのは本当に人を駄目にしてしまうようだ。
「なんで貴様が一緒にくる」
「仕方ないだろ。千歳ちゃんのためだ。それにお前と一緒なんだ。千歳ちゃんが心配で仕方ない」
俺が来たことで、ロッサは不満そうな表情をするが、コトミちゃんとコヨミは笑顔で迎えてくれた。
「いいじゃん、ロッサ! 探検は多いほうが楽しいよ!」
「それに何かあった場合は、刃太郎が助けてくれるんでしょ?」
「任せてくれ。とはいえ」
廊下に出て、俺は思った。ここは、ニィが作ったところ。いったい何があるかわからない。最初のうちに探索をニィと一緒にやったが。
全部周ったわけじゃない。
探索していないところもある。それに、ニィが言っていた。
「実は、このお城にはちょっとした仕掛けもあったりするのです」
この言葉が意味することは、何なのだろうか。
それを気にかけつつ、俺は、少女達と共に探検を開始した。




