第十四話「お菓子くれないと」
現在の時刻は十七時半。
そろそろハロウィンパーティーに招待した人達が集まる頃だ。ちなみに、天宮家の皆さんは目立つといけないのでニィが次元ホールで連れてくることになっている。
卓哉さんやイズミさんを初めとした天宮家。
祖父母も招待しようと思っていたのだが、そっちはそっちで今は旅行中だという。夫婦の旅行なので、邪魔したくないとのこと。
「お? 来たかな」
時計の針が動くと同時に、リビングに響くインターホンの音。乗りかかっているリフィルから離れ、俺は玄関へと向かう。
覗き穴から誰だろうと覗くと、私服姿の華燐、御夜さん、響、それに隆造さんと静音さんも。
「待っていましたよ。さあ、どうぞ中へ」
「お邪魔します、刃太郎さん。今日は、家族一同誘ってくれてありがとうございます」
「まさか、神様の創った空間でパーティーを楽しめるなんて滅多に体験できないことだからな! 知らされた時からずっとわくわくしていたぞ!!!」
「隆造さん。あまり騒ぐご近所迷惑ですよ」
相変わらず隆造さんは元気一杯のようだな。ちなみに、リリーはすでに有奈と一緒に到着している。今は、リビングのほうでゆっくりしている。
鳳堂家の人達をリビングへと案内した刹那。
次元ホールが開き、そこからニィが天宮家の人達を連れてきた。
まず出てきたのは。
「やっほー! お待たせ! 刃太郎お兄ちゃん!!」
「今日は、思う存分楽しんでいくよ」
コトミちゃんとコヨミが可愛らしい赤頭巾の衣装で搭乗。それにしても、赤頭巾の衣装に加えてキツネ耳と尻尾の組み合わせ……中々破壊力があるじゃないか。
うん、可愛い。
「やあ、今日は僕とイズミのことを誘ってくれてありがとう」
「いつもは天宮家だけで楽しんでいたのだが、今回は色んな意味で楽しくなりそうだ。おや? そちらは、鳳堂家の皆さんか?」
続いて出てきたのは、黒いスーツに赤いマントを着用した卓哉さんとシスターな格好をしたイズミさん。鉢合わせた鳳堂家の人達を見て手を差し伸べる。
「初めまして。僕は天宮卓哉と言います。普段は社長として世界中を飛び回っていますが、今日はオフです。そして、妻の」
「イズミだ。噂は聞いている。日本を昔から護ってくれている家系だとな。今日は、色々と話を聞きたいものだ」
「こちらこそ、よろしく! まさか、あの天宮家とこうして会えるなんて刃太郎くんに感謝感激だ!! 俺は鳳堂家の当主をしている隆造だ!」
「私は、その妻静音と言います。今宵は、子供達と共に楽しいハロウィンパーティーにしましょう」
世界的に有名な天宮家に、日本を昔から護ってきた鳳堂家。どちらも大きな家系同士がこうしてマンションのリビングで出会い、手を重ね合っている。
なんだか不思議な光景だな。
こんなの普通に過ごしていたら見れないだろう。
「それじゃ、さっそく会場まで案内します。ニィ頼む」
「はいなのです」
聖域への道を作り、順当の中へと案内していく。
「お、おお。ここが、聖域!」
「おや? あんなところに、お菓子やゲームがあるがあれはなんだ?」
普段入ることなどできない聖域に、入ったことで感動したのもつかの間。視界には、リフィルの自堕落な生活跡が。
ちゃんと片付けておけって言って置いたのにこいつは……。
「す、すみません。あれは気にしないでください。さ、あの扉の先に今回の会場がありますから」
「後でお仕置きなのです」
「ひっ!?」
自業自得だリフィルよ。
「あの、あれってもしかしてリフィル様の?」
と華燐がぼそっと聞いてきたので、俺は無言で首を縦に振った。リフィルへのお仕置きのことをすることになったニィはハロウィンゲートをオープン。
真っ白な空間から、更に扉を抜けるとそこは、薄暗くも不思議な雰囲気のある空間。とても大きな満月は美しく輝き、これまた巨大なジャック・オー・ランタンが天辺で輝く城が俺達を出迎えてくれた。
「す、素晴らしい!! なんて立派なジャック・オー・ランタンなんだ!」
「あの城で今日はパーティーが行われるのか。これは、予想以上に楽しめそうだな卓哉」
「それで、刃太郎さん。見たところ城までの道がないように見えるのですが。どうやってあそこまで?」
静音さんの言う通り、城までの道はない。
だが心配することはないのだ。
俺も最初はどうするんだ? と思っていたけど。
「皆さん。一歩前に進んでみてください」
「一歩?」
どういうことだろうと皆は思いながら一歩前に進むと、空間が歪む。
だがそれは一瞬で、先ほどまで外だったのがいつの間にか城の中の風景に変わっているのだ。
「す、すっげぇ! 一瞬にして城の中に入っちまった!!」
「あの風景は、壁絵のようなものなのです。皆さんに風景を楽しんでもらった後、すぐに城へと向かえるようにちゃーんと構成してあるのですよ」
ちなみに、城の窓からも外の風景は見れるようになっている。
転移した先は、今回のパーティー会場前の扉。
石造りの壁がどこまでも続いており、中を探索したがこれもなかなか本格的。本当にこれが一日限りっていうのがおしい出来だった。
「あ、そうだ。隆造さん達はどうしますか?」
「な、なにを?」
と御夜さんは首を傾げる。
見ると、天宮家は仮装をしているようだが鳳堂家は仮装をしていない。ハロウィンと言えば仮装だ。
「仮装ですよ。実は、この城の中には衣裳部屋もあるんです」
「仮装か……そうだな。ヒーローの衣装もあるのか?」
「あるか? ニィ」
「あるのですよ。各種揃えてあるのです。ヒーローでも、バニーでも、騎士でも、普通のドレスでも」
ちなみに、それも一日限りだという。ハロウィンの日が過ぎれば、この空間と共に消滅してしまうんだ。
今日のパーティーは二十一時までの予定となっている。それまで着替えて、この空間から出る。そうじゃなきゃ、空間消滅に巻き込まれてしまうからな。
「そういうことなら着替えてくるか! 響! いくぞ!!」
「ま、待てって! 親父! 俺は別に!?」
「もう隆造さんったら。御夜、華燐。私達も行きますよ」
「う、うん。あんまり恥ずかしくない衣装がいいな」
「私もできればそうしたい、かな」
鳳堂家は、ここから見える衣裳部屋へと移動を始めた。その後は全員が集まるまで会場内と待ってもらうことにして、十数分の時が経った。
順当に、ヴィスターラの皆や、山下夫婦も来てくれて、パーティー開催の時間になる。
パーティー開催の挨拶は、提案者のニィが務めることに。
ステージの上に立ち、マイクを手に持った。
『皆さん。今日は、私の招待に集まってくれてありがとうなのです。私は、ハロウィンというものが初めてなので、自分も思いっきり楽しもうと思っているのです。さて、長い挨拶は嫌いなので。これぐらいにして……レッツハロウィンなのですー!!』
会場は、それほど広くはない。
幽場館のパーティー会場よりも半分ぐらいか? まあ人数が人数だからな。とはいえ、参加者達はかなりの豪華さ。
料理も、輝きが違う。いやリアルに輝いている料理もあるんだが……なんだあれは。金色の北京ダック? た、食べられるのかあれ。
「刃太郎お兄ちゃん!!」
お? さっそくハロウィン定番のあれを言いに来たのか? 大人達は、大人達で料理を食べながら、ワインを飲みながら、話に華を咲かせている。
そんな中で、子供達というかコトミちゃんとコヨミに山下夫婦の娘さんである千歳ちゃんが俺に近づいてきた。
千歳ちゃんは、今年で小学校一年生だったかな。親が親なだけに、子供もと思っていたが。まだ七歳なのにかなりのしっかり者。
言葉遣いも丁寧だが、それでもまだまだ子供っぽさがある。それにしても、千歳だけ置いていけない! という気持ちはわかるけど、まさかマジで連れてくるとは。
ちなみに、千歳ちゃんは猫耳に尻尾を生やしており、黒猫な仮装のようだ。
「おう、どうした?」
ハロウィンの定番。子供達が、お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞと言ってお菓子を求める。そんなこんなで、俺もお菓子を準備していた。
今の俺は貰う側じゃなくて、上げる側ってことだ。
『ブレイクオアトリート!!』
「え?」
『お菓子くれないと、壊しちゃうぞ!』
「もちろん、腕を」
「物騒過ぎる!? えっと、はいお菓子」
「ありがとー!!」
驚きつつも、俺は三人にお菓子を上げた。そして、コトミちゃんの頭を撫でつつ気になることを問いかける。
「ところで、そんな物騒な言葉誰から教わったんだ?」
なんとなく予想ついてるけど。
「サシャーナからだよ! 今の大人は、これぐらい言わないとお菓子くれないって!」
「とても勉強になりました」
「千歳ちゃん。本来は、トリックオアトリートって言うんだよ。さっきのは、覚えなくていいからね」
「そ、そうなんですか?」
しっかり者だが、純粋無垢。知らないことを教えてもらい、信じていたようだ。俺は、一呼吸入れてから立ち上がる。
「というわけで、俺ちょっと用事を思い出したから」
「いってらっしゃーい!!」
少女三人に別れを告げ俺は全速力で間違ったことを教えた犯人の元へと駆ける。
すぐサシャーナさんを見つけ出し、思いっきり腕を掴み怒りの表情を向けた。
「いやん。そんな刃太郎さん……皆が見ているところでそんな」
なに言っているんだこの人は。
確かに、この体勢は長く続けるわけにはいかない。俺はすぐに腕を放し、ため息を吐いてから切り出す。
「あのですね、サシャーナさん。純粋な子供達にあんな間違ったことを教えるのはどうかと思いますよ」
「お菓子くれないと、破壊しちゃうぞのことですか?」
「そうです」
「いやいや。今の大人達はあれぐらい言わないとお菓子をくれませんよ。だって、考えても見てください。あんなに可愛らしい子供から悪戯しちゃうぞって言われたらどう思います? 私なら、受け入れますね!」
本日二度目の何を言っているんだこの人は。
……まあでも、確かに特殊な性癖を持っている者だったら、そうなのかもな。とはいえ、あんな物騒なことを言われたら逆に怖くなると思うんだが。
「大丈夫ですよ。あれは、使用回数があるからって言っておきましたから」
「いや、全然大丈夫じゃないんですが」
ハッ!? この気配は。
「ブレイクオアトリート!! さあ、菓子を寄越さぬというなら貴様を破壊してやる!!」
「お前は、子供じゃねぇだろう!!」
そう言って、俺は棒つき飴を吸血鬼風の仮装をして襲ってきたロッサへと投げつけた。




