第十三話「ハロウィンまで」
「でっかいジャック・オー・ランタンだな」
「そうなのですねー」
俺の目の前には、でっかいジャック・オー・ランタン。つまり、カボチャの顔が天辺にある城が。
周りも、なにやら不思議な雰囲気でコウモリが飛んでいたり、墓らしきものが一杯ある。
まあ言うなれば、ハロウィンな空間。
なにゆえに、こんな空間にいるのか。それは今から一時間ほど前にさかのぼることになる。
「―――ハロウィンなのです!!」
「うん、ハロウィンだな」
あのパーティーから数日。
今日は、ハロウィンだ。
世界中で、お祭り騒ぎだろう。とはいえ、俺にとってはなんだかうーんっと感じだ。ずっとハロウィンは、舞香さんからお菓子を貰っていた。
世間一般的には、子供達がお菓子を貰ったり、コスプレをして楽しむような時期。
今年は、四年前とは違うので何かが起こる。
そんな気がした朝。
リビングに出るとニィが魔女っ子な格好をして、俺を出迎えた。しかし、俺は静かに椅子に腰を下ろし、スマホを操作し、今日の状況について調べた。
へぇ、やっぱり盛り上がってるなぁ。
「ハロウィンなのです!!」
しかし、諦めないニィ。
俺に抱きつき耳元で叫ぶ。
「……わかった。わかったから。耳元で叫ぶのは止めてください」
「わかったのです」
素直で嬉しいよ。ニィは、俺の目の前に座り再び喋りだす。
「今日はハロウィンなのです。ヴィスターラでは、ハロウィンというイベントがなかったので。私なりに調べてみたのです」
「ふむ」
スマホを置いて、真面目に耳に傾ける。
どこかで見たことのある杖を振り、ハロウィンと光の文字で書く。
「ハロウィンとは何ぞや。ハロウィンとは、どんなことをするのか。雑誌、ネット、人と色んなところから情報を集め、自分なりに考えたのです」
「うんうん」
更に、テーブルの上に立体映像のようにハロウィンっぽい城を出現させる。
「そして、ついに完成させたのです!!」
「完成?」
ニィは、椅子から離れ聖域への空間の穴を出現させた。俺は、そのままニィに誘われるままに入っていく。まずそこで見たのは、相変わらず自堕落な生活をしているジャージ神リフィルの姿。
お菓子、飲み物、ゲーム機、ゲームソフトの山。
大きな薄型テレビで今は、アニメを観賞しているようだ。
「あれ? あんたがこっちに来るなんて珍しいわね」
「ニィに誘われたんだよ」
「あー、もしかしてこれのこと?」
ポッキーを齧りながら、リフィルが指差す方向にはいかにもという扉があった。ご丁寧に、表札にはハロウィンゲートと書かれている。
あの奥に、ニィが見せたいものがあるんだろう。
「毎日毎日、何かを創っているかと思ったらなんなの?」
「ハロウィンなのです」
扉を笑顔で開ける。
俺は無言のまま中へと入っていった。光が消え、視界が晴れるとそこに広がっていたのは……不思議な雰囲気の空間。
ニィがハロウィン、ハロウィンと言っていた意味がわかった。
そんなこんなで冒頭に戻る。
「それにしても、この空間はお前が創ったのか?」
「そうなのです。世界は創ることはできないのですが。これぐらいの空間は私でもちょちょいのちょい! と創れるのです。あ、ちなみにこの空間はハロウィンを過ぎると自動的に消滅するのです」
い、一日限りの巨大空間って。
やっぱり神様のやることは壮大過ぎてついていけない時があるな。これだけのクオリティーの空間がハロウィンが過ぎると消滅するとは。
現在の時刻は、朝の六時半。
まだまだ時間はあるけど……うーん、本当におしいな。
「それで、この空間をどう活用するつもりですか、神様」
「皆を誘ってハロウィンをエンジョイするのです。聞くところによると刃くんは、ハロウィンというものをそこまで楽しんでいなかったのですよね?」
「まあ、お菓子を貰う程度だったな」
飴だったり、チョコレートだったり、ハロウィン限定のものだったり。でも、家では舞香さんや有奈と一緒に楽しいパーティーをしていた。
それだけでも、俺はすごく楽しかった。
今年は、それ以上のことの楽しさがあるんだろう。
「なので! 今年は、思う存分ハロウィンを楽しませるためこの空間活用するのです!」
「も、もしかして俺のために創ったのか?」
「そうなのです!」
「あー、えっと……ありがとう」
「どういたしましてなのです。ささ! お城の中もすごいのですよ! 一緒に見に行くのです!」
「お、おう」
その後、俺はニィに案内され城の中を一通り探索した後、元の空間に戻った。なんというか、すごいの一言だった。
俺がヴィスターラに召喚された時の城の中に似たようなところもあり、もしかしたらそこを模して作ったのかもしれない。
「あれ? お兄ちゃんどこに行ってたの?」
リビングに戻ると、有奈が朝食をテーブルに置いている最中だった。味噌汁のいい匂いが腹の虫を刺激する。
「まあちょっとな。今日はハロウィンだろ? そのための準備ってところか。そういえば、今夜予定はあるのか?」
「えっと、特に……ないかな」
「華燐とリリーはどうだ?」
「ないと思うよ。二人も毎年ハロウィンは特別に楽しんではいないって言ってたし。あ、でも華燐ちゃんはどうかな。今年は、特に忙しいって言っていたから」
そっか。華燐は、依頼で忙しいから来れないかもってことか。とはいえ、一人だけ誘わないのも可哀想だしな。
よし、ちょっと俺も手伝いにいこうかな。
「あ、そうそう。ちゃーんとナナミやアデルも誘っているのです」
「そうなのか?」
いつの間に。ということは、これから誘う人は……まず山下夫婦と天宮家の人達。それに鳳堂家の人達に……ロッサも誘うか。
あいつのことだから、誘わなかったら騒ぐだろうし。いや、誘わなくてもどこからか嗅ぎつけて自分から参加しに来るかもしれないけど。
人数を考えると、軽いパーティーになるかもな。
「そうだ、ニィ。料理とかそういうのはどうするんだ?」
「心配いらないのです。すでに根回ししてあるのですよ」
そういうことなら、大丈夫か。今日はアルバイトがないから、山下夫婦には直接伝えに行くか。
「朝ごはんー」
味噌汁のいい匂いに誘われて聖域からのっそりと出てくるリフィル。あいつ……あれだけお菓子を食べていたのに普通に朝食を食べるのか。
案外こいつも大食いだよな。
「味噌汁か。朝はこの一杯に限るな」
「なんでお前までいるんだよ」
「味噌汁の匂いに誘われた。というのは、嘘で今日はハロウィンというイベントがあるのであろう? 貴様のことだ。何か面白い催しを考えているのではないか? と思ってな」
この魔帝、こういうことに関しては勘が鋭いな。
玄関から普通にやってきたロッサは、慣れたように椅子を用意してその場に座る。有奈も有奈で普通にロッサの分を用意しているし。
「はあ、しょうがねぇ奴だな。今日の夕方六時。このマンションに集合だ。ついでに光太も誘っておけ」
「ふむ、夕方六時か。いいだろう。楽しみしているぞ、ハロウィンというものを」
「それじゃあ、さっそく朝食にしましょうか」
舞香さんも随分と慣れたものだな。
普通に考えるとこの食卓はすごいことになっている。勇者に、神様二柱。それに魔帝という。よくわからない食卓に。
『いただきます!!』
そんなすごい食卓に今日も食への感謝の言葉が響いた。
次回、ハロウィンイベント突入! リアルではまだ一ヶ月ぐらい先ですがね……。




