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第十二話「お疲れ様」

「がっはっはっは!! 兄ちゃんやるじゃねぇか!! まさかあのギルダスを一発で沈めるなんてなぁ!」


 筋肉質な男が、ワインを一気飲みし豪快に笑う。

 あれから、なぜか俺に触発されたのか。トラブルを起こしていないのに、客達は自ら闘技戦に続々と参加していった。

 俺も、何度も挑戦を挑まれたので、相手をした。中には、ちょっと変わった戦いを挑む客もいたな。錘を両手に持って一本足で立つ持久戦とか。

 何はともあれ盛り上がってくれているようで、俺としては大助かりだ。


「これなら、革命を起こそうだなんてまだ考えている連中も大人しくなるんじゃないかしら?」

「正直、最近の人間達は底知れねぇからな。昔は、もうちょっと平和だったのになぁ」


 闘技戦は、意外にもあれで好評だったらしい。

 どうやら、ギルダスは人間に縛られるのが嫌な連中の一味だったらしく。同じ志を持った者達を集めて革命を起こそうとしていたようだ。


 このパーティーにも、ギルダスの仲間が参加しているらしく。今では、俺のことをちらちら見ては、視線が合うとすぐ視線を逸らす。

 革命を起こそうとしている連中は、少数で他の者達はもう昔のようにやんちゃをせず、苦しくとも人間界でゆらりと過ごそうと思っているらしい。

 とはいえ、彼等は普通の人間と違い寿命が長い者達ばかり。

 まあそこは、姿を変えたりとかしてなんとか今まで過ごしてきたようだ。


「兄ちゃん。名前はなんて言ったっけ?」


 ワインが入っていたビンを片付けながら、俺は一人の客の問いかけに答えた。


「刃太郎です。威田刃太郎」

「……威田? なんだっけなぁ、どっかで聞いたような名前だなぁ……どこだったっけ?」

「私も聞いた事があるんだけどねぇ。お酒が大分回っちゃって思い出せないわ……」


 そういえば、華燐のお婆さんも最初俺の苗字を聞いた時、こんな風に考えていたっけ。……ま、まさか威田家って何かをやっている家系なのか?

 それとも、俺の父さんだけ? そういえば、父さんの家族については全然聞いていない。実家に帰る時も記憶に残っているのは瀬川家だけ。


「すまんな! 思い出せねぇや!」

「無理に思い出さなくても大丈夫ですよ。さあ、パーティーも残り三十分。存分に楽しんでいってください」

「ええ。楽しませてもらうわ」


 気になりつつも、俺は自分の仕事に集中することにした。

 長かったパーティーも終盤。

 なにやら天狗やら河童やらが、ステージに立ち色んな芸で会場を盛り上げる。そして、なぜかニィまでがステージに立ち可愛らしく踊る。


「盛り上がってるわねぇ」


 北谷さんが、近づいてきてくすっと笑う。そして、なぜか手には酒瓶を持っていた。


「北谷さん。まだ仕事中ですよ?」

「大丈夫よぉ。仕事中は飲まないわぁ。これが終わった瞬間には飲むけどぉ。お片づけのほうはよろしくねー」

「本当、お酒が大好きなんですね」


 ニィの踊りが終わり、パーティーも珠季さんの閉会の挨拶で終わろうとしていた。


「まあねぇ。昔からずっと私の命の水。仕事終わりが特においしいのよぉ。……今回は、やばいって聞いていたけど。あなた達のおかげで、いつもよりも楽が出来たわぁ。ありがとうね、刃太郎くん」

「わっぷ!? あ、あのなぜ抱きつくんですか……?」


 まるで、子供を褒めるかのように抱きついてくる北谷さん。なんだろう、これが大人の包容力というものなんだろうか。

 自然と受け入れている自分がいる。


「頑張った子へのご褒美。よしよし~」


 しかし、頭を撫でられた瞬間ハッと我に返り急に恥ずかしくなってしまう。


「あ、あの恥ずかしいので離れてくれませんか?」

「えー、どうしてー?」

「北谷さん。それぐらいにしておきなさい。刃太郎くんが、このままでは恥ずかしくて失神しかねませんよ」


 いや、さすがに失神はしないと思いますけど。ありがとうございます、西山さん助けに来てくれて。


「もうぉ、しょうがないなぁ。じゃあ、御夜ちゃんに抱きついてこよぉっと。御夜ちゃぁん!」

「ひゃあ!? ど、どうしたんですか? き、北谷さん」

「よしよし~」

「……もしかして、北谷さんもう酔っていたりしますか、あれ」


 解放された俺は乱暴に撫でられ乱れた髪を少し整えながら、全力で撫でられている御夜さんを見詰めながら西山さんに問いかけた。

 しかし、西山さんもわからないような反応を示す。


「ど、どうでしょうか。いつもなら飲まないはずなんですが。今回は、彼女も言っていたように君達のおかげで楽でしたからね。彼女も、少し羽目を外してしまったのでしょうか」


 でもまあ、それだけ役に立てたってことだよな。もう驚くまいと思っていたが、地球にはこういう集会場があり、多くの人達に混ざってこの世ならざる者達が過ごしている。

 それがわかっただけで、静音さんのお願いを聞いてよかったかもしれない。


『さあ! 皆さん! パーティーもそろそろ閉幕です! 十分に飲み! 食べ!! 楽しんでくれましたか?!』

「楽しんだぞー!!」

「今日は最高の夜だったわー!!」

「来年も頼むぞ!!」


 パーティーが終わる十分前。

 ずっと厨房に篭っていた珠季さんがステージに上がり、マイクを手に取る。客達はどうやら存分に今回のパーティーを楽しんでくれたようだ。


『今宵は、もうすぐ終わりです。ですが、この集まりはまだまだ続きます。来年も、再来年も……この幽場館で皆さんのご来場をお待ちしております!! それまで、問題を起こすんじゃないよ!!』

「起こす気にもならないわよ!!」

「そうだ! そうだ!! 今の人間達には、あんまり挑みたくねぇからな!!」


 はっはっはっは!! と馬鹿笑いが会場に広がる。確かに、今の人間は危ないからな。普通に世界を滅ぼしかねない子もいるぐらいだし。

 そういえば、今のところ日本しかしらないけど……外国。つまり、日本の外の国のほうはどうなんだろうか。ギルダスは、四年前に突然出てきたエクソシストにやられたって言っていたけど。

 外国もかなりの魔境なんだろうか。


『それでは、これにて閉幕の言葉は終わりにしますが。まだまだパーティーを楽しみたいという方々は存分に! もう帰るという方々は、出入り口から! ちなみに、いつも通りお泊りになる方々に関してはすでに部屋をご用意していますので従業員が案内致します!』


 そういえば、ここは元は宿屋だったんだよな。

 存分に飲んで、食べて、楽しんだところが宿屋っていうのはかなりいい。無理に帰ることなく、すぐにふかふかの布団の中で眠れるのだから。

 しかも、明日は金曜日。仕事がある人達もいるだろうが、そうではない人達は存分に眠れる。


「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


 俺は、さっそく帰る客達を見送るため出入り口で待機し出て行く度に挨拶を送っていく。そんな時だった、一人立ち止まって俺のことを見下ろしていた。


「なにか、御用でしょうか?」


 その人は、資産家のような格好をしたあの男だった。結構飲んでいたようだが、あまり顔色が変わっていない様子。

 しかし、若干ネクタイやら服が乱れているので酔っているのは確かだ。


「いや。なんでもない。来年も、楽しみにしている」

「はい。またのお越しをお待ちしております」


 なんだったんだろうか。

 気になりつつも、俺は俺の仕事をこなし、ついに会場には従業員達だけになり静寂に包まれた。泊まることになっていた客達を案内していた西山さんが戻ってきたところで、珠季さんが喋りだす。


「お疲れ様! 今日は、いつもより危ないって思っていたけど。無事に終えられてよかったよ! 静音、いいお手伝いさん達を連れてきてくれてありがとうね」

「いいのよ、珠季。昔馴染み。助け合うのは当たり前でしょ? それに、家の子達のスキルアップにも丁度いい仕事だったし、こっちも感謝しているわ」


 御夜さんに関しては、人との関わりのスキルが上がっただろうが。今日は、料理スキルか? なんだかここ最近の響は、そんなのばかりだな。

 響自身は特に文句を言っているような素振りはないが。

 霊能力者って……家事スキルとかが必須なんだろうか。


「響くんは、なかなか筋がいい。どうだい? 正式に家で働いてみないかい? なんだったら、北谷の婿になるとか」

「え!?」

「あらぁ。年下の子は大好きだけど、お婿さんにはまだ年齢的に早いんじゃないかしらぁ」


 確かにな。響はまだ十五歳だ。中学生である。法律的には男は十八歳から結婚することができることになっているからまだ二年半はかかるだろう。


「姉さん。さすがにそれは急すぎます。響くんが困っていますぜ」

「冗談だよ。でも、筋がいいのは本当だ。来年も是非手伝いに来て欲しいぐらいにね」

「か、考えておきますっす」

「それに、刃太郎くんもだけど。ニィーテスタ様もすごかった。従業員自らステージに立って盛り上げるなんて今までなかったからね。来年からはそういうのも取り上げようか……」


 そんなことを言われ、幽場館の従業員達は苦笑い。

 皆、どっちかっていうと裏方なイメージだからな。ステージに立って何かをやるっていうのは難しいのではないだろうか。


「珠季。仕事熱心なのは良いけど。皆疲れているから、そろそろ」

「おっと、そうだったね。皆! 忙しい中、手伝いに来てくれてありがとうね! 桜真!」

「うっす。皆さん、今回のお給料になります。少ないですが受け取ってください」


 渡されたのは、よくある小麦色の封筒。

 そこには、札が何枚か入っているようだが正確な数はわからない。俺は、こういうのは家に帰ってからゆっくり開ける派だから今は放置しておこう。


「それじゃ、片付けのほうはこっちでやっておくから、臨時の人達は帰って良いよ。来年はどうなるかわからないけど。もし、よかったら来年も!!」


 来年か……来年、俺ってどうなってるんだろうな。

 無事に年を越せるんだろうか。

 それを心配しつつ、俺は予定がなければっと答え幽場館を後にした。

ちなみに、まだ作中ではハロウィン前なのでもちろんハロウィンイベントはちゃんとやります。

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