第十一話「トラブル解決法」
「おーい! 注文いいかー!!」
「はい! ただいま!!」
パーティーが始まってすでに三十分ちょっとが経っている。
大いに盛り上がっており、料理もどんどん減っていき、あれだけあったバイキングコーナーの料理は、肉だけがなくなっている状態。
しかし、それは長年の慣れ。なくなったと思いきやすぐに追加で用意される。
入ってきた時は、人間の姿をしていた客達も今では酒が入って変身を解いて大騒ぎ。狼男やら天狗やら河童やら……。
なんだか化け物屋敷にいるかのような感じだ。
「お、お待たせしました。ご注文の料理です」
「おう! ありがとうな、嬢ちゃん!」
「あんた、鳳堂の子なんだろう? いやぁ、あそことはやんちゃだった頃、よく戦ったもんだよ」
「はっはっは!! 結局引き分けになって、俺達は大人しく人間に溶け込んで過ごしてるんだよ!! そっちはどうなんだ? 繁盛してるか?」
「あ、えっと。ぼ、ぼちぼちです」
どうやら、あっちのテーブルの客達は昔鳳堂家の人達と戦った事があるらしい。昔の鳳堂もかなりの実力者が多かったって聞いていたけど、そんな相手に対して引き分けか。
角が生えているし、鬼だろうな。
それに隣の女性は、キツネ耳に尻尾が生えているキツネ女ってところか。
御夜さんは、大分慣れてきているみたいだ。
最初は、心配でずっと気にかけていたけど、うまい具合にさくらもサポートしてくれるし、客達も気さくな者達が多い。
そのおかげで、慌てることなく注文を聞いて、その料理を運んでいる。
「いい感じじゃない、あの子」
ワインが入ったグラスを運んでいる途中の北谷さんが、御夜さんのことを見てくすっと笑う。この人も、ずっと御夜さんのことを気にかけてくれていたようだからな。
「ええ。御夜さんは問題ないみたいですけど……」
「あー、あっちね。すごいねぇ、神様なんだっけ?」
視線の先には、リフィルとそれを取り囲むように、複数の男達と女性達が頭を垂れていた。まるで、女王かのように本来客達が食べる料理を食べている。
「リフィル様。ワインです」
「ありがとー。ほら、もうちょっと力入れなさい」
「はい!」
最初の神力を出していたのが原因か。すっかり、リフィルの言い成りになっている。これはこれで客が楽しんでいるからいいんじゃない? と北谷さんは言うがあんまり調子付かせていると鳳堂家の時のようになってしまうだろう。
……まあ、そろそろそれも終わりだろうけど。
「さあ! もっと料理と酒を持ってきなさーい!! 今日は朝まで飲むわよ!!」
ワインが入ったビンを片手に叫びリフィル。
が、背後に突如開く次元ホール。
ハッ!? と一気に酔いが冷めたかのように動きが止まった。
「リフィル? 今日は、飲み会じゃなくて仕事だったはずなのですが?」
あっちでの役目を終えたニィが、満面の笑顔でリフィルの肩に手を置く。その迫力に、リフィルに頭を垂れていた客達は、顔面蒼白である。
「あ、いや。あのですね? 違うんですよ。これは、場を盛り上げようとですね。……ステーキ食べる?」
と、フォークに分厚いステーキを刺して差し出すもニィは。
「そんなものいらないのです。さあ、真面目に仕事をするのですよリフィル。でないと……強制送還なのです」
「はい!! 真面目に働いてまいります!! ちょっと! あんた達! なにそんなところで座ってんの!! さっさと食べなさい! 飲みなさい!! 騒ぎなさい!!!」
「え? え?」
先ほどまで、リフィルに頭を垂れていた客達は唖然。
どうしたらいいのかと固まっている中、リフィルは逃げ出すように他のテーブルへと注文取りへと行ってしまう。
仕事に戻ったリフィルを見送り、ニィは真っ直ぐ俺のところへ走ってくる。
「お待たせなのです、刃くん」
「ああ。珠季さんには言ってあるから。あそこのドアから出て真っ直ぐ行けば更衣室だ」
「ふっ。問題ないのです。自分でメイド服を持ってきたのです!!」
パチン! と指を擦るとまるで魔法少女のように服が変わる。
それもう可愛らしいメイドさんの誕生だ。
その神々しさには、周りの客達も釘付けであるが、この子は男ですからね皆さん。
「じゃあ、さっそくだけどあっちのお客さんが注文を頼んでるから行ってきてくれないか? これが、必需品の機械だ。注文を聞いたら、その品をここから選んで送信。そうすれな厨房に届くから」
「了解なのです! では、ニィーテスタ。お仕事をしてくるのですー!」
元気な子供のように、飛び出していくニィ。俺は、それを見送った後自分も仕事に戻った。それから、なんだかんだで一時間半が経った。
とはいえ、このパーティーは十一時まで。あと三時間もある。
普通に考えて六時半から十一時までって相当な長時間だよな。だけど、お客様達は全然酔っていないようで。酒に相当強いようだな。
「よう! 嬢ちゃん!! 俺達と一緒に飲もうぜぇ!!」
「ひゃあっ!? あ、あの私はお仕事中なので……そ、それにお酒はちょっと」
「こら!! 御夜様から離れなさい!! ちょっ! てめぇ!! なに御夜様のお尻を触ろうとしてやがるんですかぁ!!」
そんなことを思っていると、問題が起こったようだ。
さくらもちょっとの乱暴言葉になるほどの。
どうやら、かなり酒が回っている客の一人が、近くを通りかかった御夜さんに絡んでいるようだ。あの客、そういえば樽飲みしていたっけ。
樽で出てきた時はびっくりしたけど、案の定他の客以上に酔っているな。
「いいじゃねぇかよぉ。おれちゃぁ! 人間界で過ごして鬱憤が溜まってんだよぉ! それともぉ……俺の酒が飲めねぇってぇのかぁ?」
「お客様。従業員への接触行為は禁止となっております」
「あぁん? んだてめぇはよぉ!! おらぁ、この姉ちゃんに一緒に酒を飲もうっつてるだけじゃねぇかよぉ!!」
御夜さんに絡んでいた男の腕を掴み取り、御夜さんを解放。震えながら俺の後ろに隠れた彼女の盾になるように俺は笑顔で睨む。
近くにいるだけでわかる。
すごい酒の臭いだ。
「俺達は、仕事中は一切の飲食を禁じられています。それと、先ほども言いましたが従業員へとの接触。特に破廉恥行為はご法度です」
「ふざけんじゃねぇよ! さっき、赤毛の姉ちゃんが料理も食べてたし、酒だって飲んでたじゃねぇか!! ありゃあ、いいのかよぉ!!」
それを言われると、返す言葉もない。
聞いていたリフィルは知らない風に口笛を吹いて、俺達から離れていく。が、すぐにニィに捕まり間接をキメられていた。
「すみません。お客様。ご不満がおありのようですね?」
「西山さん」
どうしたものかと考えていると、西山さんが現れる。
その手には、何かの契約書? のようなものが。
周りの客達は、それを見た瞬間一層盛り上がる。なんだ? いったい何が起こるって言うんだ?
「その怒り、晴らしてみませんか? この『闘技戦』で」
「おう! いいだろう!! 相手は、当然そこの兄ちゃんなんだろうな?」
「西山さん。これは?」
闘技戦って名前だから、なんとなくは察しがついているけど。
「はい。こういうトラブルは、毎年のように起こっています。それをも楽しみのひとつにするために実施されたのが闘技戦なんです。簡単に言えば、トラブルを起こしたもの同士の戦い。あ、もちろんこれはお客様同士の場合ですので。辞退をすれば、私達の中から戦いに投じることになります。どうしますか? 刃太郎くん」
すでに、御夜さんに絡んでいた牙を生やした男は契約書にサインをしていた。西山さんの説明を聞いた俺は御夜さんを見てから、契約者に手をつける。
一緒にあったペンで俺の名前を書き、西山さんに返す。
「やりますよ。俺は、そのために呼ばれたようなものなんでしょ?」
「畏まりました。それでは! 皆さん! これより今宵最初の闘技戦を開始したいと思います!! 対戦カードはお客様から、ギルダス様!! そして相手は幽場館臨時従業員刃太郎くんです!!」
対戦が宣言された瞬間、契約書と俺達の足元が光り輝く。
これは転移陣か。
一瞬にして、戦いの場へと転移した俺達。そして更に、周りの観客席に次々に客達が会われ酒や肉などを片手にやれやれ! などと叫んでいる。
「おい、ガキ。今更後悔してもおせぇぞ? 俺は、数々のエクソシストどもを退けた凄腕の吸血鬼なんだからな!!」
吸血鬼か。そういえば、咲子の親も吸血鬼だったな。まさか、この人じゃないよな。いや、さすがにそんなことはないか。
「なるほど。だったら、手加減はしませんよお客様。ご心配いりません。……後悔など致しませんから」
封印していた魔力を一段階解放。
周りの空気が一瞬にして変わる。先ほどまで騒いでいた客達も、騒ぐのを止めてしまっていた。
「な、なんだあの坊主。一瞬にして雰囲気が」
「ま、まさか。あんな子供が。相手は、あのギルダスだぞ? 四年前に突然出てきたエクソシストに負けたとはいえ。まだその力は」
四年前ってことは、俺が異世界に行っている間に負けて大人しくなったということか。
「さあ、行きますよ」
「は、ははは!! 多少はできるようだが、それでもまだ俺のほうが!!」
勢いよく飛び出すギルダス。
確かに、スピードはいい。
「上だぁ!!」
連打。鋭く、速い打撃が俺を襲ってくる。
客達も、いけー! やっちまえ!! と歓声を上げていた。
「おらおら!! どうした!! やっぱり、さっきのはただの脅しだったのか!!」
ギルダスの姿が目の前から消える。
「おらぁ!!」
なるほど、残像が残るほどの速さか。本体は、俺の背後から攻撃を仕掛けてきていた。それを読んでいた俺は、魔力が篭った拳を受け止める。
「このガキ!!」
「酔い冷ましです!! お受け取りください! お客様!!!」
氷属性の魔法を解放し、吹き飛ばす。
ギルダスは、壁に叩きつけられ、氷で貼り付けられ気絶していた。
「これでよかったですか?」
戦いが終わったところで、西山さんが現れる。
俺の問いかけに、西山さんは笑顔で拍手をしてくれた。
「はい。ですが、もう少し盛り上げてから倒したほうがよかったかもしれませんね。お客様達が若干引いておりますよ、刃太郎くん」
「す、すみません……」
そんなことを言われても、こういう見世物に対しての戦い方なんてあんまり知らないしなぁ。




