第十話「パーティー開催」
「それでは、説明します。私達の主な仕事は、お客様に対しての対応。注文取りから始まり、トラブルなどの対応まで。このパーティー会場内でやること全てが私達の仕事となります」
制服に着替えた俺達は、さっそく西山さんから仕事内容について説明を聞いていた。やることは、普通の接客業と変わらないようだが、問題は相手が人間じゃないということだ。
それだけ、トラブルの内容も変わってくる。
「トラブルって主にどんなことが起こるわけ?」
気だるそうに、リフィルが疑問を投げる。
「そうですね……多いのは、お客様同士の喧嘩でしょうか。皆さんは、ここへ溜まった鬱憤を晴らしに来ているので、酔った勢いで喧嘩が毎年のように起こります。口喧嘩だけなら、いいのですが。力と力のバトルが始まってしまうと本気で止めにいかないといけません。まあ、ここに来ているお客様達は、それさえも楽しんでいますが」
と、西山さんは苦笑している。
そういえば、西山さんって力を感じるけど、どれほどの実力者なのだろうか。いかにも見た目は、優しい人なんだが。
「喧嘩の仲裁というと、やっぱり実力行使、になるんでしょうか?」
「はい。もちろんです。でないと、こちらがやられてしまいますからね。お客様達には、より楽しく長くこのパーティーを楽しんで頂きたいと珠季さんや私達一同は思っていますので」
他に何か質問はありませんか? と西山さんが俺達のことを見渡すと、一人の女性が頭を抑えながらこちらに近づいてくる、
格好から考えて、俺達と同じ仕事仲間だろう。
「あらぁ? もう集まってたのぉ? あいたた……」
「北谷さん。また、朝まで飲んでいたんですか? 仕事前は控えるように言ったじゃないですか」
「だって、お酒が私の活力となるのよぉ? 飲まないと死んじゃうわよぉ」
「し、死んじゃうんですか!?」
どうやら、北谷さんという女性は二日酔いの模様。
茶色の長髪で、ものすごい垂れ目、というか見ているだけで若干眠くなりそうな瞳をしたスタイル抜群な女性だ。
そんな北谷さんの言葉に、御夜さんは本気で驚いてしまっている。
「落ち着いてください、御夜様。おそらくあれは言葉のあやというやつですよ。よくお酒が大好きな人達が使うと私の集めたデータにはあります!」
それはいったいどこから集めたデータなんだと突っ込みたいが、まあ間違ってはいないかもな。
「申し訳ありません。こっちは、私と同じく幽場館で暮らしている北谷と言います。お酒が大好きで、よく二日酔いになりますが。仕事はきっちりとこなす人なので。さ、北谷さん。こちらの三人が、今日お手伝いをしてくれる人達ですよ」
西山さんの紹介で、北谷さんはいまだ頭が痛いのか頭を抑えながら自己紹介を始める。
「どうもぉ。北谷でーす。話だけは、聞いてるわよぉ。すごく頼りになるお手伝いさん達なんでしょぉ? あたし、今こんな感じだからぉ。頑張ってねぇ。よろしくぅ」
「こらこら、北谷さん。お手伝いさん達任せにしないでください」
西、北と来たので、もしかしたらこれから残りの東と南が来るのかと思っていたが。そんな四天王みたいには揃ってはいないようで。
この幽場館に住んでいるのは、西山さんと北谷さんだけで。残りの二人は珠季さんが作った簡単な命令を実行する式神達が一緒に働くらしい。
それから、配置も決められた。
バイキングコーナーのところに、リフィルと式神。そこから近い順に西山さん、御夜さん、北谷さん、式神、俺となっている。
それぞれ、視界に入る距離を保ち、いつでもお互いフォローしあえるようにとのことだ。
ちなみに、注文のほうは料理を聞いてから専用の機械にそれを打ち込むことで、厨房のほうへとそれが伝わる。
出来上がった料理は、厨房の誰かが持ってきて、それを俺達が受け取り客に出す。
「俺は、出入り口付近か」
「あなたのことは珠季さんや静音さんから聞き及んでいます。一番の実力者だと。なので、出入り口付近から全体を見渡し、何が起こっても対処できるようにしてください。大変な役回りですが、今回に限っては私達も、対応しきれるか」
やはり、謎の活発化によるものなんだろうか。
いつものこのパーティーがどんなものなのかを知らない俺達だが、任されたからにはやるしかない。
「大丈夫です。こういう厄介ごとには慣れていますから」
「ほんとよねー。もしかして、あんたが厄介ごとを呼び込んでいるんじゃないかってぐらいあんたに降りかかるもんねー」
……そうじゃないかと思ってるから、リフィルの言葉に対して否定できない自分がいる。とはいえ、自分の目の前で起こったことは、俺が出来る限り解決したい。
厄介ごとが、俺が呼び込んでいたのなら尚更だ。
「頑張れ……頑張れ、私」
「ファイトですよ、御夜様。私も全力でサポート致しますので!」
チラッと視線を御夜さんに向けると、自分の頑張れ頑張れと言い聞かせている後姿が視界に入った。
「御夜さん」
「ひゃい!?」
これは、相当緊張しているようだな。
飛び跳ねるように、俺のほうへと振り向いた御夜さんはとても不安そうな表情である。そんな御夜さんに、俺は優しく微笑みかけた。
「もし、なにかあった場合は、俺が助けに行きます。それに、さくらだって傍にいますから。頑張りましょう、御夜さん。一緒に」
「……う、うん! ありがとう、刃太郎くん。なんだか、少し緊張が解れたかも」
「それはよかった」
「あたしのほうもフォローしてー」
「お前は、一人でなんとかできるさ」
「ちょっ!?」
それから、何度もイメージトレーニングをしながら、会場のことを見渡し、ついに時間となった。珠季さんの言った通り、開始二十分前には数人の客が入ってくる。
その姿は、獣耳が生えていたり、鋭い牙が生えていたりとファンタジー世界では見慣れた姿をした者達が次々に会場へと入り、テーブルの前に立つ。
「ようこそお越しくださいました。今宵は、存分にお楽しみください」
まず俺の役目は、出入り口での客達の出迎え。
すでに、他のお手伝いさんがここより前に、受付をしているようだがこういうのも必要のようだ。
「ん? 貴様、新人か? 見ない顔だな」
そんな中、一人の男が俺のことを見て話しかけてきた。
大柄の男で、どこかの資産家のようなきちっとした見た目である。赤い瞳で、俺をじろじろと観察している。
「はい。今日、お手伝いをすることになった刃太郎と言います。若輩者ですが、どうぞよろしくお願い致します」
「……そうか。まあ、励むがいい」
やはり、人間が気になるのだろうか。
顔見知りである、西山さんや北谷さんのことをそれほどではないようだが。来る客達は、ちらちらと俺や御夜さんのことを見ていた。
……違って意味で見られている奴もいるけどな。
わざとらしく、神力を滲み出している馬鹿神。
(馬鹿をしてないで、力を仕舞え)
と、念話で伝えるとしょうがないなーっと言った表情で神力を仕舞うリフィル。大丈夫だろうか、御夜さんよりあいつのことがすごい心配だ。
客達は順調に集まり、あれだけ静かで広々としていた会場も騒がしくなる。
『あー、あー。皆さん! 今年もようこそお集まりくださいました!』
時間になり、珠季さんがマイクを片手に話し出すと、客達は一斉に視線を集中させる。すでに、バイキングコーナーから料理を取っている客達もいて、この挨拶が終わった瞬間一気に弾けるだろう。
そういえば、こういうパーティーは十月以外にも、四月ぐらいにも開催すると西山さんは言っていた。
つまり一年で二回開催するということ。半年溜め込み、このパーティーで。とはいえ、一番人が集まるのはこのハロウィン前の十月らしい。
『今年は、なにやら色々と盛り上がっているようですが。まあ、ここは皆さんにとっての鬱憤晴らしの場。半年。内に溜め込んだものをここで思いっきり吐き出してください。でも! やり過ぎるといつものように対処させて頂きますので、ご覚悟してくださいね?』
ご覚悟を、と言っているのに、なぜか客達は盛り上がっている。やっぱり、普通じゃないな。今のところは、普通って感じだけど。
本番は、客達は酔ってからかもな。
『それじゃ、堅苦しい挨拶はこれぐらいにして。思いっきり楽しみな!! あんた達!!!』
今、この世ならざる者達の鬱憤晴らしパーティーが始まった。




