第八話「物騒な歓迎」
「はあ……なんであたしまで行かなくちゃならないのよ」
「そりゃ、お前。鳳堂家に散々迷惑をかけたからだろ」
「それは結界を張ったりとかそういうので清算したはずでしょー。それなのに、あたしがタダ働きに借り出されるなんでおかしいと思うんですけどー」
静音さんに頼まれた金曜日になり、俺は人手は多いほうがいいだろうとリフィルを連れてきている。ニィも途中で参加するようで、今は舞香さんや有奈。そして、遊びに来るナナミとリリアのために夕飯の買い物をしている最中だ。
まだ時刻としては、二時間ぐらい余裕がある。
が、俺達が今からやるのは料理などを提供する仕事。仕込みやら、テーブル、食器の準備で時間がかかるはずだ。すでに静音さんと響が先に行って、仕込みの手伝いをしていると連絡があった。
俺達は、御夜さんと合流して後から行くことになっている。
「あの程度じゃ、清算されていないってことですよーリフィルさまー」
「ただ遊んでいただけじゃないのー」
「その遊びが度が過ぎていたんだよ馬鹿神様」
「今日は、朝までゲーム三昧しようとリリアを呼んだのにー」
そのためにリリアを呼んだのかよ。シスターとして、神々の頼みは断れない! とか断言していたリリアだからな。
本当に朝までゲーム三昧していそうだ。
「それは、いつものことだろう」
「違いますー。あたしは、ちゃんと寝ていますー」
とはいえ、毎日のようにゲームを長時間しているのは事実だ。かなりのぐーたらで、久しぶりに外に出たと思えば、ジャージから着替えないという。
でも、美人であることには変わりないので、すれ違う男達はもちろんのこと女子も思わず視線を向けてしまう。そしてその視線は、美人なのにジャージ? とちょっと反応に困るようなものだった。
「歩くの疲れたー」
「寄りかかるな。歩き難い」
「いいじゃないですかー。目的地まで背負ってくださいよー」
最初会った時は、もうちょっとまともだったんだけどな……。あの時は、なんて美人な神様なんだと最初の印象はよかった。
しかし、いざ接してみるとめんどくさがり屋で、神様なのにすげぇラフ。こいつが最初に会った神様だったから残りの神様に会うのがすごく不安になったんだよなぁ。
「さすが刃太郎ぉ。なんだかんだ言って、あたしの言うことを聞いてくれる。このツンデレめ~」
「誰がツンデレだ。背負うのは、御夜さんのところまでだ」
「ちぇー」
いつまでも、寄りかかられると歩き難いし、人の視線も気になってしまうからな。……いや、背負っていても気になってしまうか。
ずっと思っていたけど、俺の知り合いって綺麗どころが揃っているよな。まあ、かなり癖のある美人ばかりだけど。
「お待たせしました、御夜さん」
「う、ううん。大丈夫だよ。えっと……リフィル様、どうしたの? どこかお怪我でも」
マンションから移動して数十分。
待ち合わせ場所の駅前に到着した。相変わらず、御夜さんはマフラーを忘れていないようで。御夜さんじゃなくても、もう寒い時期だから防寒着の人達は増えている。
到着早々、リフィルが背負われていることに気づき、心配そうに問いかけてきた。
「怪我はしていませんよ。ただ歩くのだるくなって俺に背負われていただけです」
「御夜ー。次はあんたが背負って~」
「そ、そんな! リフィル様を背負うなんて恐れ多いです!!」
「こらこら。御夜。声が大きいわよ」
「す、すみません……」
御夜さんの大きな声うえに、ここは駅前。それに金曜日の夕方だ。人がぞろぞろといるので自然と聞こえてしまう。
様、という単語に人々はちらっと視線を向けていた。
「あー、気にしないでください! このジャージの人がそう言わせているだけなので-!」
「ちょっ!? それじゃ、まるであたしがそういう趣味の人みたいに聞こえるじゃない!!」
「す、すみません! すみません!! 私が余計なことを言ったばかりにぃ!!」
「お、落ち着きなさい御夜。それじゃ、逆効果よ!!」
まさにその通り。俺の説明の後に、リフィルに対して全力で頭を下げることで、更に視線が集まってしまう。さすがのリフィルも、慌てふためいている様子。
このままこの場に止まるのはやばいかもな。
ここからは、電車で移動となるのだが、俺は二人を連れてタクシーへと乗り込んだ。
「すみません。幽場館前までお願いします!」
「幽場館ですか? お客さん達、物好きだね。あんなボロ屋に行くなんて」
そう俺達が今から向かう場所は、幽場館という場所。以前は、有名な宿屋だったのだ。時代が進むに連れて高級ホテルなどに客を持っていかれ、今では以前の従業員の寝屋となっている。
「いいから! さっさと行きなさいって言ってるのよ!!!」
未だに、こっちに視線が向けられている中リフィルは、タクシーのぽっちゃりな運転手に掴みかかる。
「は、はい。わかりました」
背後からの視線を気にしつつ、俺達は幽場館へと向かうことに。その間、申し訳なさそうにしている御夜さんをさくらと、それに珍しくリフィルが慰めていた。
「と、到着しましたよ。お客さん達」
タクシーで移動すること三十分ぐらい。タクシーの運転手さんは、いまだにリフィルの勢いに押されたままのようだ。
御夜さんとリフィルが先に下りて、俺は料金を払いつつすみませんっと一言謝る。
「ここが、幽場館ねぇ。なるほど。結構いい雰囲気してるじゃない」
俺が、初めて幽霊と戦ったあの屋敷も結構なボロ屋敷だったが、ここもかなりだな。あそこと違って、異質なオーラが滲み出ているけど。
それは、ここに住んでいる従業員のものなんだろうか。
「おかしいな。玄関前で、人が待っていてくれる予定だったんだけど」
約束の時間十五分ぐらい前に到着したから、まだいないのか? 俺は、屋敷の玄関周辺を見渡し、気配を探ってみたが人の気配はない。
中には、数人いるようだけど。
俺が、頭を掻きながら仕方ないとドアにノックをする。
「すみませーん!! 今日、お手伝いに来ることになっていた威田刃太郎です!! 誰かいませんかー!!」
……しかし、反応がない。
気づいていないんだろうか。俺は、もう一度ノックをし、叫ぶ。
「すみませーん!!! 今日お手伝いに来ることになっていた!!」
刹那。
こっちに急接近してくる気配を感じる。しかし、これは歓迎をしているような勢いではない。来る! と思った時には、木製のドアが飛んできた刃物により突き破られ、俺の顔面目掛け真っ直ぐ飛んできた。
これぐらいなら余裕で避けられる。
すっと、身を動かし回避するも。
「え?」
後ろにいた御夜さんへと突き進んでいく。しまった! と俺はすぐに手を伸ばし、回避した刃物を掴み取る。
しかし、更に追撃とばかりに四本の刃物がドアを突き抜けてくる。
なんなんだよこれは……と思いつつも刺さると痛いので、追撃の四本も掴み取った。
「随分と物騒な歓迎ね。地球ではこれが普通なの?」
「普通であってたまるか」
俺は、掴み取った刃物。包丁を見詰めると、かなりの霊力が込められていた。しかも、ドア越しから正確に俺の額、両目、喉、心臓を狙ってきていた。
なんて投擲力だ。
いったい誰がこんなことを。
「いいねぇ、合格だよ!!」
「はい?」
穴だらけのドアが開き現れたのは、長い茶髪をオールバックにしている女性。腰には幽場館と刺繍されている前掛けをしており、口にはタバコを咥えていた。
「静音の言っていた通り、中々やる子じゃないか。今回は、かなりあれだったんでどうなるかと思ったけど、あんたなら安心して任せられるね」
「もしかして、あなたがここの?」
「そうだ。あたしが、この幽場館の主にして静音の古い友人。浅間珠季だ。今日は、よろしく頼むよあんた達!!」
覚悟をしていたとはいえ、まさかいきなり包丁を本気で投げつけられることになるとは。御夜さんとさくらなんて突然のことガクブルだぞ。
リフィルは相変わらずマイペースな感じだけど。




