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第七話「お願い」

「さ、遠慮せずお座りください」


 静音さんの部屋に入った俺は、思わず周りを見渡す。とても清楚、きちっと物も片付いており、無駄な家具はなく、一人部屋とは思えない広さだ。

 そういえば、隆造さんとは部屋は別なんだよな。霊力の塊達が箒やたたきなどを持って掃除をしていた。

 俺が座布団に座ると、霊力の塊達が煎餅と緑茶を用意してくれる。


「お仕事の後で、疲れているところお越し頂きありがとうございます」

「いえ、そこまで疲れていないので。それで、俺にお願いというのは?」

「そうですね。では、さっそくですが格ゲーをやりましょう。新作を買ったので」


 え!? マジで、格ゲーをやるために? 霊力の塊が、テレビの電源をつけようとしたところで静音さんはくすっと笑う。


「冗談です」

「じょ、冗談なんですか」

「あ、ですが。いつかはやりましょう。それまでお預けです」


 冗談だと思わなかった霊力の塊は、そっとテレビの電源を消した。勘違いをしてしまった霊力の塊を、その他の塊達が励ましているのか周りでふよふよ浮いている。作り出した本人である静音さんは気にしていないようだが。

 というか、式神のような存在なのだろうか彼等は。いや、彼等であっているのか? 


「刃太郎さんにお願いしたいことですが。毎年、この時期になるとやっていることなのですが」

「この時期……ハロウィンのことですか?」

「その通りです。夏の時期もそうですが。秋のこの時期。特にハロウィンが近いと霊達はもちろんのこと。この世ならざる者達も活発化してしまうのです」


 それは、咲子のような吸血鬼などが該当するんだろうな。静音さんは、ある手紙を俺に差し出し話を続ける。


「実は、私の知り合いにこの世ならざる者達を集めてパーティーを開いている人がいるのです。普段は、人間社会に隠れている、もしくは紛れ込んでいる者達がそこで日ごろの鬱憤を晴らしたり、こんなことがあったなどの報告会などをしています」

「……なんとなく察してきました」

「あら。それは、説明の手間が省けて助かりますね」

「今年は、特に活発化がすごいから、誰か手伝える人材がいないかってことですよね?」


 これまでの情報や会話。そして、経験から俺は察してしまった。俺の答えに、静音さんはにこっと満面な笑顔を作る。


「さすがですわ。こんなことを頼めるのは、刃太郎さんしかいないと思っていまして。特に腕が立つ方じゃないとあの仕事はやっていけないのです」


 どんだけ危険な仕事なんだよ……。いや、この世ならざる者達が関わっている時点で危険なことは察してはいるんだけど。

 それに、日ごろの鬱憤を晴らすとかも言っていたし。これで危険じゃなければ何なんだと。


「本当なら、我が家から隆造さんや華燐などを選抜するのですが。今年は、特に忙しいので手が回らないんです」

「なるほど。それで、その仕事の日時は決まっているんですか?」

「明々後日の夕方六時半から十一時までになってます。仕事内容は、主に調理と客引きや注文取りなどの接客業ですね。ちなみに、私と御夜と響も行くことになっているんですよ」


 静音さん達も一緒なのか。だったら、幾分かは楽かな。あれ? なんか俺もう働く事が前提で考えてないか? やばいな……いつもの癖で頼まれたことを受け入れようとしている。

 でも、都合の良いことに明々後日はアルバイトがないってな。

 それに、夕方六時半からだから学生でももう学校から帰っている時刻。部活なども早いところでは終わっているだろう。

 それにしても、明々後日って言えば金曜日じゃないか。仕事終わりの人達が大騒ぎする日。居酒屋などがすごい混む曜日。

 この世ならざる者達も、そういう感じでくるんだろうか。というかさらっと人間社会に紛れ込んでいるって言っていたよな。やっぱり、地球は俺達が知らないだけでかなり非現実めいているようだ。


「あの子には、昔からお世話になっているから少しでもお役に立てればって。調理のほうは、私と響で務めることにしています。なので、刃太郎さんと御夜には接客のほうをお願いしたいんです」

「だ、大丈夫ですか? 御夜さんすごく人見知りですよ?」

「あの子も、そろそろ成長する時。それに、さくらも一緒なので大丈夫でしょう」


 確かに、しっかりもののさくらのおかげで御夜さんは色々助かっていると言っていたが。御夜さんが接客業かぁ……すごくあわあわしている姿が想像できてしまった。

 これは、俺が全力でサポートしなければ。


「わかりました。華燐には色々とお世話になっていますし。リフィルのこともありますから。そのお願い、引き受けます」

「ありがとうございます、刃太郎さん。では、さっそくですが」

「さっそく?」


 話が終わったところで、静音さんは立ち上がりテレビの前に座り込む。


「格ゲーをやりましょう」

「結局やるんですね……」


 時刻は夕方六時半前。七時頃には帰ると言ってあるので、まだ時間はある。俺は、霊力の塊にコントローラーを渡されたので素直に受け取りしばらく対戦することにした。

 それから、十五分ほどが経ち俺は儀式を追えた咲子と一緒に鳳堂家を後にする。


「儀式、結構かかったな」

「はい。いつもよりも強力な封印術をかけることになりましたから」


 だが、そのおかげでいつも以上に強力な封印のネックレスが完成したようだ。そういえば、咲子は吸血鬼とのハーフだって言っていたけど。

 親はどんな人なんだろうか。もう、藤原には紹介したんだろうか。

 静音さんの話からの流れで、ふと思ったのでなんとなく聞いてみたところ。


「私の親ですか……父親のほうが吸血鬼なんですが。まだ二郎くんには紹介していませんね。とはいえ、私が初めて好きになった人なので、一度会ってみたいとは言っていましたね。お母さんだけですけど」

「お父さんは、やっぱり厳しい人なのか?」

「は、はい。でも、ハーフで苦労していた私のために色々としてくれている優しいお父さんでもあるんですよ。ただ、そのことがきっかけで過保護になってしまっただけで」


 漫画やアニメなどでよくある娘はやらん! みたいな。しかも、相手は普通の人間ではなく吸血鬼。藤原は色々と大変そうだな。

 そういえば、異種族との付き合いで言えば、卓哉さんとイズミさんもそうだったよな。とはいえ、イズミさんは獣人族。人間と吸血鬼とのハーフである咲子とはちょっと違う。

 だが、相談ぐらいは乗ってくれるだろうあの二人なら。


「藤原の場合は、ちょっとやそっとじゃ諦めないと思うけど。なにせ、べた惚れだしな」

「そ、そうですね……」


 とても恥ずかしそうに頬を赤らめて、俯いている。


「おーい!! 咲子ー!! ついでに刃太郎ー」

「俺はついでかよ」


 そろそろお別れというところで、藤原が笑顔でこっちに近づいてきていた。おそらく、咲子を迎えに着たんだろう。


「だって、彼女が最優先だろ普通」

「それが普通なのかはわからんが、まあわからなくはない」

「だろ? それでどうだった咲子。アルバイトのほうは」

「う、うん。アルバイトは初めてだったけど、店長さん達も威田さんも優しいから」

「手を出したりはしてないだろうな?」


 などと、小声で呟いてくる藤原。大丈夫だってと伝えるのだが、本当なんだろうな? と更に疑ってくる。このメガネは……。


「人の彼女を取るようなこと、するはずないだろ。安心しろって」

「……だよなー。お前には、たくさんの美少女がいるもんなー。あっはっはっは!! すまんな、疑ってしまって!」


 なんとか離れてくれた藤原は、咲子の手を握り締める。突然手を握り締められ、咲子は恥ずかしがるが嫌がっている様子はない。

 むしろ嬉しそうだ。


「そんじゃな! お前も幸せ掴めよ!!」

「はいはい。お前もお幸せになー」

「おうよ!!」

「し、失礼します」


 今日の夕飯は、から揚げだって言っていたし。冷めないうちに、俺も皆のところに帰りましょうかね。

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