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第六話「似たもの同士?」

 そんなこんなで、アルバイトが終わり俺と咲子は一緒に鳳堂家に向かっていた。アルバイト中も常に、咲子の体調に気を使いながら、やっていたが御夜さんの処置が完璧だったのがふらつくやうずくまるのようなことはなかった。


「すみません。わざわざ一緒に」

「気にするなって。これは性格もあるけど。こんな状態の彼女を放って置いたら彼氏がすげぇ怒るだろうし。あ、そういえば藤原は知っているのか? このことを」


 俺に問いかけに、咲子は首を横に振る。

 ちなみに、今更ながらなぜ藤原と苗字で呼んでいるのか。それは、なんだか慣れてしまったというか苗字呼びから簡単に離れられなくなってしまった。

 そもそも藤原自身が俺のことは苗字呼びで! とか言い出したのだ。原因は名前にあるんだろう。あいつのフルネームは藤原二郎だ。

 奴は初めて会った時にこう言ったのだ。


「二郎って、今時ないだろ?」


 とな。謝れ! 全国の二郎さんに謝れ! と俺は言った。それに、藤原だって結構ある苗字だからあんまり変わらないだろうと言ったら。


「うるせぇ!! お前はいいよな! 太郎だけどその前に刃ってついてるんだもんな! なんかかっこよくなっちゃってさ!! 俺なんてただの二郎だぞ!? なんでこの現代科学が発展している世の中でただの二郎なんだよおおお!!!」


 教室中に響き渡る藤原の叫び。

 さすがの俺も、藤原の叫びに引いてしまったと同時に可哀想に思ってしまった。その後、芳崎と一緒に藤原をなんとか落ち着かせ、学校の帰りに何かを奢ってやり慰めてやったのは今でも覚えている。


「いえ、二郎くんには話していないんです。その、言い辛いっていうか。私の正体を知ったらって思うと……」


 二郎くん、ね。まったく、人には散々名前で呼ぶなって言ってたくせに。可愛い彼女には、普通に呼ばせているのかあのメガネは。

 気持ちはわからなくはないけど。やっぱり、彼女には苗字よりは名前で呼んで欲しいもんな。


「正直、藤原だったら大丈夫だと思うけどな」

「あはは。実は、私もそう思っちゃってるんです。でも、中々。今までずっと隠し通してきたので」


 俺も、最初はそうだったけど。言ってしまったらなんだか楽になった。でもまあ、咲子は生まれた時からずっと隠し続けてきただけあって、俺とは違う。

 俺の場合は、ちょっとの期間だが彼女は生まれてからずっとだもんな。いくら、彼氏でも受け入れてくれそうでも口から中々出てこないんだろう。


「まあゆっくりやっていけばいい。あいつは、君にべた惚れだからな」

「……はい」


 そんな会話をしながら進み、俺達は鳳堂家へと到着。そこで、俺はハッと気づく。


「そういえば、大丈夫なのか? 今、魔除けの結界を張ってるけど」


 俺が初めて鳳堂家に来た時も張られていたらしい。だが、俺がリフィルが張っていた結界を破壊すると同時に魔除けの結界も破壊してしまったらしい。

 ちょっと力を入れすぎたようだ。

 今では、ちゃんと張られている。それもリフィルの協力の下今まで以上に強力な結界だ。

 そして、彼女は半分とはいえ吸血鬼。

 結界に弾かれてしまうんじゃないかと。


「大丈夫です。力を封じている間は、人間の扱いなので。それに、何度も入っていますから」

「あ、そういえばそうか。御夜さんとの付き合いはかなり長いんだよな?」


 階段を上りながら俺は御夜さんとの関係を聞く。御夜さんのほうが年上なのに、咲子はちゃんづけで呼んでいた。

 しかも、俺に対しては敬語なのに御夜さんはそうじゃなかった。これはかなり付き合いが長く、かなり仲がいいという証拠になる。


「そうですね。もう十数年になるでしょうか。私がまだ七歳の頃。小学校で孤立していた私は静かに過ごしたいと思って学校裏にあるウサギ小屋に行ったんです。そうしたら、そこに御夜ちゃんが居て。ウサギさんと会話をしていたんです」

「な、なるほど。話しかけたのは、咲子から?」

「はい。初めは年上だとは思いませんでした。だって、私以上に控えめっていうかおどおどしていたので」


 子供の頃からずっと変わらないのは、素晴らしいことだけど。年下の女の子から、年上と思われないほどだったとは。

 だけど、そのおかげで二人は仲良くなったっていうのもあるのかな。


「あ、御夜ちゃん」

「待っていてくれたんですか?」


 家の前で、いまだに巫女装束の御夜さんが小さく手を振っていた。右肩にはさくらもいて、弟の響も傍にいた。

 どうやら、華燐はいないみたいだな。有奈とリリーの二人と寄り道でもしているんだろうか。


「うん。今回は、時期だけにちょっと」

「うっす! お仕事お疲れ様っす! 刃太郎さん!!」

「響も最近はかなり活躍しているみたいじゃないか。聞いたぞ、華燐から。一人で上級の悪霊を倒したんだってな」


 上級の悪霊は、大人の霊能力者、陰陽師でも苦労する相手らしい。それを、まだ中学生の響が一人で倒したんだと華燐が大喜びで知らせてくれた。


「い、いえ! 俺なんてまだまだ!! 俺の目標は、刃太郎さんと肩を並べられるぐらい強くなることっすから!! それに、華燐姉ちゃんは九歳で倒していましたから」


 そう聞くとやっぱり華燐はすごい才能を持っているんだな。異世界交流バトルでも大活躍だったからな。温泉旅行の事件以来、今まで仕方なくやっていた依頼も自分から積極的にやっているって聞いているし、父親の隆造さんも大喜びしていたっけ。


「それでもだ。お前は、お前なりに努力して強くなった。それは、家族だって認めてくれているんだろ? 目標が高いのは良い事だが、素直に喜んでもいいと俺は思うぞ」

「は、はい!! アドバイスありがたく受け取ります!!」


 努力家なのは良いが、ちょっと不器用なところが玉に瑕ってところか。


「それじゃ、さっそくですけど」

「うん。もう準備はできるよ。咲子ちゃんついて来て。今回は、いつもより強力なものにするから」

「大丈夫。いつも通りだとまた壊れそうだから。強力なぐらいが、丁度いいよ」

「俺は、どうすればいいですか? なにかできる事があるなら協力しますよ」


 とはいえ、霊力じゃなくて魔力の俺にはさくらとの結び直しの時みたいに役に立てるかどうか。


「あ、刃太郎さん。実は、母ちゃんが刃太郎さんにお願いがあるらしいんで。一緒に来て貰っていいっすか?」

「静音さんが? なんだろう。また格ゲー勝負でもするのかな」


 御夜さんや華燐、響の母親である鳳堂静音さん。三人の子供を持った人妻とは思えないほどの美人で昔の写真を見せてもらったけど、華燐が生まれた頃から全然老いていない。

 まるで、この人だけ時間が止まっているんじゃないかというほどに。

 家事全般をこなすと同時に、門下生を鍛えあげている。そして、格ゲーが得意という驚くべき趣味を持っていた。

 あの清々しい表情で、想像もつかない激しい応酬には俺も圧倒されてしまったっけ。リフィルも、まだここで好き勝手やっていた頃は、ぎりぎりのところで勝ってもう相手にしたくないと言わせるほど。


「格ゲーではないと思います。とりあえず、母ちゃんのところに案内します。こっちです」


 御夜さんと咲子は儀式へ。俺と響は静音さんのところへと向かった。中に入り、鳳堂のお手伝いさん達などとすれ違うと笑顔で挨拶をしてくれる。


「ここは?」

「母ちゃんの部屋っす」


 今まで、この鳳堂家の屋敷で案内されたところは、大広間などは主だ。響の部屋には行った事があるが、御夜さんや華燐の部屋は行った事がないな。

 それが、まさかいきなり静音さんの部屋に来ることになるとは。

 なんだか変に緊張してしまうな、やべぇ。

 俺は、とんとんっと数回ノックをする。


「どうぞ。入ってきてください」

「それじゃ、俺は依頼に行かなくちゃならないんで。……その、母ちゃんに変なことされたら遠慮なく抵抗してもいいっすから」

「響?」

「ひっ!? じゃ、じゃあ俺はこれで! 失礼します!!」


 こそっと俺の耳元で呟くが、笑顔で出てきた静音さんに怯え響は逃げるように去って行く。女性の笑顔で怖い時があるから油断できないよな……。


「まったく。気にしないでくださいね、刃太郎さん。さ、遠慮せずお入りください」

「し、失礼します」


 さて、いったいどんなお願いをされるんだろうか。

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