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第五話「原因は」

「私、実は人間と吸血鬼のハーフなんです」


 場所を移して、山下書店の休憩所。

 俺のバイト時間まで後十分だが、具合の悪い咲子を座らせ事情を聞いている。最初よりは少し落ち着いているようだが、それでも首に下がっているネックレスからは力が漏れ出し続けていた。


「今度は吸血鬼。それも人間とのハーフか……それで、どうして俺になら話しても良いって思ったんだ?」

「それは、威田さんのことを御夜ちゃんから聞いていたから」

「御夜ちゃんて、まさか鳳堂御夜?」

「はい。そうです。昔から仲良くして貰っていて、この力を封じるネックレスも御夜ちゃんから貰ったんです。でも、もう限界みたいで。しかも運の悪いことに、この時期に……」


 まさか、御夜さんと知り合いだったとは。そういえば、彼女も大学生だったな。歳も咲子と近いみたいだし。でも、この時期って一体。


「どういうことなんだ?」

「私、半分だけ吸血鬼だから力をうまくコントロールできないんです。だからよく子供の頃は、コンクリートを砕いちゃったり、地面にクレーターを作っちゃったりしていて」


 その頃、俺は有奈と一緒に楽しく遊んでいた。やっぱり、昔から地球はかなりファンタジーだったようだ。普通に吸血鬼の存在があるっていうね。

 もう、世の中で知られている空想の者達が全部いるんじゃないかって思ってきてしまっている。


「でも、もっと抑えるのが下手だったのは吸血衝動なんです」

「……なるほど。そのネックレスは、そういうのを封じるためのものだったと」

「はい。いつもなら、壊れてもある程度は大丈夫なんです。でも、今の時期は。このハロウィンが近い時期は吸血鬼としての衝動が激しくなってしまうんです!」


 ハロウィン? あぁ、そういえばハロウィンが近いんだっけ。確かに、ハロウィンってなんだか吸血鬼がいるようなイメージがあるもんな。

 カボチャが主だけど、なんかこう、うん。


「なるほど、わかった。とりあえず、今すぐ御夜さんのところに行くべきだな。ネックレスを直さないと」

「でも、まだアルバイトを始めて二日目なのに、そんな」


 確かに、アルバイト二日目で休むのはイメージを悪くするけど。正直、ここの店員二人は他とは違うからなぁ。本来なら、二日目にして休むというのはイメージを悪くしてしまう。

 常識人だったら、わかることだ。

 というわけで、俺はスマホを取り出しニィへと電話をかける。


『はいなのです。さっそく事件に遭ってしまったのですか?』


 相変わらず早々と電話に出てくれるニィ。俺は、まあなと呟き事情を説明する。


『なるほど。じゃあ、そっちに御夜を連れて行けばいいのですね?』

「そうなんだけど。今の時間帯御夜さん大丈夫か?」


 もう少しで昼だ。

 大学生とはいえ、勉強に集中しているのではないかと。


『大丈夫なのです。御夜なら今頃自宅でゲームをやっているのです』

「なんでわかるんだよ」

『さくらと交信して聞いたのです。今さっき』


 さくらと交信。そうか。さくらは常に御夜さんと一緒にいるから状況などを把握しているのか。それにしても、式神と普通に交信するなんてさすがは神様だな。

 それにしても、御夜さんは相変わらず部屋に篭ってゲームをしているんだな。また新しい恋愛ゲームが出たんだろうか。


「それじゃ、頼めるか? あ、ちゃんと事情を話してからだぞ」

『その辺りはもうさくらに伝えておくようにと言ってあるのです。では、すぐ連れて行くから待っていて欲しいのです!』


 そう言って通話を切る。

 それから、一分も経たないうちに俺と咲子の間に次元ホールが開き御夜さんを連れたニィが現れた。半ば、御夜さんは連れ去られたかのように尻餅をついてしまっているが。

 いや、それとも気になるのは。


「いたた……に、ニィーテスタ様。ひどいですよ。着替える時間さえ与えてくれないなんて……」

「部屋でそんな格好をしているのが悪いのです。それに、見られるのは顔見知りばかりだから何も問題はないのですよ。あ、刃くん! 連れてきたのです!」

「ご、ご苦労様。えっと、御夜さん?」

「ひゃい!?」


 さくらが最近、御夜さんはコスプレにはまっていると言っていたが、本当だったんだな。連れてこられた御夜さんの格好は巫女さんの格好だった。

 よく皆が知っているような白と赤の巫女装束に身を包み、髪の毛は一本に縛っている。その豊満な胸は、素晴らしく強調されており男でも女でも圧倒されるほどのインパクトだ。


「すみません。突然呼び出して」

「う、ううん。事情はさくらから聞いてるから。咲子ちゃん、大丈夫?」

「うん。大丈夫だけど、これ、壊れちゃった」


 御夜さんは、咲子からひび割れたネックレスを受け取り、神妙な表情に変わる。


「聞いていたけど、いつもより一週間も早いね。それにこの壊れ方、初めてかも。何か、原因とかわかる?」

「そ、それは……」


 何かとても言い難そう感じだ。視線を逸らし、もじもじしている。


「御夜さん。どうすれば、そのネックレスは壊れやすくなるんですか?」

「えっとね。これは、咲子ちゃんの吸血鬼としての力を抑えるものだから。例えば、ひどい怒りを覚えるとか。吸血衝動に駆られるほどの……こ、興奮をするとか、かな?」


 ふむ。咲子の今の反応。そして、御夜さんの説明。

 そこから導き出される答えは。


「あ、もしかして。彼氏さんが出来たから、それで興奮してしまったということなのです?」

「え? しょ、咲子ちゃん。彼氏、できてたの?」


 どうやら、御夜さんは知らなかったようだ。俺もなんとなくそうだとは思っていたけど、咲子の反応を見る限り当たっているようだ。


「ごめんなさい……隠すつもりはなかったんだけど。で、でも! それだけじゃないと私は思うの」

「やっぱり、最近の地球の騒がしさも影響しているのですね」


 最近の地球、か。

 もしかすると、俺が帰って来てから更におかしくなったとかなのかな。そうだとしたら、責任は取らないといけないが。


「……理由はどうあれ、咲子ちゃんが苦しんでいるなら。私は力を貸すよ」

「御夜ちゃん……」

「それじゃ、まずは応急処置。ここじゃ、本格的な儀式はできないし。咲子ちゃんもアルバイトがあるんだよね」


 残り時間はすでに五分を切っている。章悟さんや絵里さんには事情を話してあるが、これ以上の時間はかけられない。

 そう思った御夜さんは、咲子の手を握り締める。


「さくら。手伝ってくれるかな」

「了解です! サポートならお任せあれ!」


 御夜さんの肩の上に現れた式神のさくらは、主と共に咲子の手に触れ霊力を解放する。その霊力は、体を包み込むように動き薄い膜へと変わった。


「これで大丈夫。でも、これはあくまで応急処置だから。アルバイトが終わったらうちに来てね。それまで、ネックレスは直しておくから」

「わかった。いつもありがとう、御夜ちゃん」

「良いんだよ。だって、友達だもん」


 本人に言ったら、あれなんだろうけど。こんなにも頼りになる御夜さんは久しぶりかもしれない。さくらと結び直しをした時以来か? 

 普段の御夜さんを知っちゃってるから尚更、なんていうか。


「咲子。大丈夫か?」

「はい。いつでもいけますよ、先輩」

「あ、あはは。その先輩っていうのなんだか慣れないな」

「ですが、こちらでは私は後輩になるわけですし」


 元気を取り戻した咲子の先輩発言に、俺は頭を掻く。なんだか、自分が人間と吸血鬼のハーフだと俺に教えてから距離が近くなったような気がする。

 普段の彼女はこんな感じなんだろうか。

 まあ、それでも藤原の前じゃかなり上がってしまうのかもだけど。


「それじゃ、先輩! 私は御夜を帰してくるのです! また何かあったらすぐ頼ってほしいのです!!」

「はいはい。わかったよ、後輩。頼りにしてるぞ」

「ま、またね!」

「ばいばいです!」


 可哀想に御夜さん。首根っこを掴まれて連れて行かれちゃったよ。ニィ達が去ると、休憩所のドアが開き、絵里さんが入ってきた。


「どう? 咲子ちゃんは、もう大丈夫なの?」

「はい。ご迷惑をおかけしました。まだ二日目なのに」

「いいのよ。迷惑なら、刃太郎くんで慣れちゃったから」

「あ、あははは……すみません」


 まったくもって、申し訳ないです。そして、ありがとうございます。

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