第二十九話「異世界交流バトル閉会」
「リリー!! お、おい大丈夫なのか?」
俺はずっとモニターから三人の走りを見ていた。そして、リリーが勝利した瞬間喜びと共に心配が湧き出てきた。あれだけ派手に頭から突っ込んだんだ。
絶対頭がどうにかなっているはずだ。
「大丈夫なのです。私が、なんとかしておいたのですよ。それに、リリーの頭蓋骨は非常に頑丈だったからちょっと頭から血が流れた程度で済んだのです」
「いや、血が流れたのは程度ってレベルじゃないだろ……まあ、ともあれだ。よくやってくれたなリリー。すごいぞ」
「あ、ありがとうございます! でも、あたしだけの力じゃありません。皆が繋いでくれて。そして、刃太郎さんが与えてくれた力のおかげです。これは、皆の勝利ですよ!!」
皆の勝利。
そうだな。そうだ。これは、俺達地球チームで掴んだ勝利。だからこそ、こんなにも嬉しい気持ちで満ち溢れている。
「確かにそうだけど。もう、無茶して。もし、あれで頭が割れちゃったら」
「私のコースみたいに衝撃吸収性だったらともかくととして。あんな勢いで突っ込んだりして」
「あ、あはは。ごめんって……でも、あたしだって無茶したかったんだよ! 地球チームの最終走者として!」
華燐と有奈は、リリーの無茶な行動に起こりながらも本当に体のどこも異常がないか隅々まで調べている。二人も、結構無茶をしていたと俺は思っているんだが。
まあ、今は言わないでおこう。
今は、勝利の美酒というやつを素直に味わおうじゃないか。
「リリー」
「ナナミ?」
そっと、ナナミはリリーの背後から現れ抱きしめた。
「負けちゃったよ……刃太郎くんだけだと思っていたけど。地球の人って、何者なの? リリーって本当に戦った経験とかないよね? 血反吐吐くほど体を鍛えたことないの?」
「な、ないよ! もう、そんな物騒なこと耳元で呟かないでよ!? ナナミ!!」
「あははは。ごめんなさい。でも……楽しかった。すっごくいい思い出になった。ね? 皆」
リリーに抱きついたまま、ナナミは後ろに待機していた他のチームメイトに問いかける。
「もちろんですよ。華燐さん。是非、今度は僕と一緒に決闘をしてください!」
「え、えっと考えて、おくね」
さすがに、お前と決闘したら華燐が負けてしまう。今回は、剣を抜刀しなかったから華燐がギリギリのところでお前のことを妨害できていたが。
もし、剣を抜刀していれば……。
「では、一緒に特訓などは?」
「それだったら……うん。大丈夫、かな」
大変そうだし。とりあえず、俺がフォローに回っておくか。いくら華燐でも、アデルと特訓をするのは絶対きついだろうし。
「アデルトさん。よくまあ、あれだけ動いてそんな元気が有り余っていますね」
「貴様も元気そうではないか」
「体力的にはまだ余裕がありますが。……精神的には、かなり……」
あー、なるほどな。なんだかんだで、今回リリアはそれほど活躍していないような気がする。それは、横にいるロッサも同じ。
なんだかんだで、ロッサもあまり活躍できていない。第一の試練では、二問間違え。第二の試練では、華燐に足止めされ。
第三の試練では……それなりに活躍していたけど。
「気に病むことはない、というのは無理だろうが。元気を出すが良い。我も似たようなものだからな」
「ま、魔帝に慰められるなんて……あぁ、神よ。私は、私は! どうすればいいのですか!?」
「とりあえず、集合してくれるかしら?」
その神様が登場。
主催者であるオージオにグリッド。お手伝い役の御夜さん、コトミちゃん、コヨミ、そしてずっと裏方だった響も集まっていた。
リフィルは、見慣れたジャージ姿で俺達を手招きしている。
俺達はそれに素直に従い、チーム同士で集まった。
「おほん! さて、お前達。よくぞ、試練を乗り越えた。見ていた俺は、すっげぇ楽しかったぞ。お前達はどうだった?」
「楽しかった……けど、第三の試練。あれについてちょっと話があるんだが?」
第三の試練のことを言うと、華燐と有奈はキスのことを思い出したのかぼっと一瞬の内に顔を真っ赤に染める。
正直、この話をするのはどうかと思ったが明らかに誰かさんの趣味が入っているから講義のひとつやふたつを入れておかなければ。
「あれか? 楽しめただろ? 俺も、すっげぇ考えたんだぜ。試練内容を。でも、キスの件は」
「私が提案したものなのです」
「あれはお前だったんかい!!」
笑顔で、Vサインをするニィに俺ははあっと深いため息を漏らす。まさか、オージオだけじゃなくて、ニィまで関わっていたとは。
ということは、他の神々も? と視線を向けるとグリッドもリフィルも視線を逸らした。
これは確定だな。試練カードの内容はヴィスターラの神々全員が考えたもの、と。
「いいじゃない。大事な妹のファーストキスが女友達だったんだから。見知らぬ男よりはマシでしょ?」
「まあ、確かにそうだけど」
……とりあえず、これ以上キスのことは言わないでおくか。二人が、恥ずかしさのあまりショートしてしまいそうだからな。
「で? 俺達、地球チームは見事三勝してこの異世界交流バトルの勝利チームとなったわけだが。なんかあったりするのか? 賞品とか」
本来ならば、こういう戦いは、勝利した後にあるものために戦うものだ。チームで協力し、掴んだ勝利。勝利の美酒は最高だが、その後も大事だ。
そこまで強欲ではないけど、気になってしょうがない。
俺だけじゃない。
他の者達も気になっているはずだ。なにせ、創造神が主催した催しだからな。
「おう、そうだったな。そうだな……地球チームが勝った場合は」
皆の視線が集まる中、オージオの口から出た言葉は。
「ヴィスターラとの時間の流れを一緒にすることだ」
「ヴィスターラとのって。それじゃ、地球で一日が経てばヴィスターラでも一日が経つってことなんですか?」
これには、皆が驚き開いた口が塞がらない状態になった。そんな中、ナナミが先陣を切り問いかける。
「その通りよ。今までは、時間の流れにかなりの差があったけど。これからは同じ時間の流れをすごすことになるわ」
と、リフィルが答える。
すると、今度はこの異世界交流バトルを終わらせたリリーが疑問を投げつけた。
「え? じゃあ、あたし達が争った意味は?」
そうだ。ヴィスターラが勝ってもそうなっていたのなら、俺達が争った意味がないようなもの。オージオはどうして俺達を。
「意味はある。これは、地球とヴィスターラの今後の関係のために必要な催しだったんだ。この決定は、お前達は予想以上の活躍をしたからこそ」
「ど、どういうことなんですか?」
リリアの問いに、グリッドがメガネの位置を直してオージオの代わりに答えた。
「この戦いを見ていたのは、私達ヴィスターラの神々だけじゃない。地球の神々も、見ていたんですよ」
「そして、地球の神々がお前達の活躍に感動した。その結果、これからも交流を続けたいってな」
それで、時間の流れを一緒に。
時間の流れが違えば、交流も危うい。正直、めんどくさくなる。だが、時間の流れを一緒にすれば大分楽になる。
この催しは、地球の神々を楽しませ、その気にさせるためのものだった、ということか。
「はあ。そういうのは、もっと早くやってほしかったな」
ちょっと文句っぽく言うと、オージオは真面目な表情を俺に向ける。
「すまんな。お前の時間を戻してやることはできねぇが、これからの時間は……守ってやるよ」
これからの時間。
ヴィスターラの勇者としての役目を終えた俺がこれから過ごす新たな時間。ファンタジーがなくなって、平和に暮らしていけるかと思ったけど、結局ファンタジーは俺を逃がしてはくれなかった。
「つーわけで!! 主催者オージオからの閉会の言葉はこれで終わりだ! そして、お前達! これからどでかいパーティーを開く!!」
「場所は、天宮家! 私の屋敷だよー!!」
「すでに料理は、作ってあるから。たくさん食べてよ、皆」
まあ、でも。
「あ、オージオ様。あなたは、これから会場の後始末とこれからの交流について地球の神々と会議をするためすぐには参加できませんよ」
「なんだと!? お、俺の酒は?」
「全てが終わってからです」
慣れてしまった。
この先も、こんな騒がしい毎日が待っているかもしれないが。俺は、楽しく過ごしていこうと思う。
「どうしたんですか? 刃太郎さん。皆行っちゃいますよ」
「刃太郎さん!! 今日の主役はあたし達ですよ!!」
「お兄ちゃん。私達も、急ごうよ」
「おう! 今日はパーっと騒ぐぞ!!」
だって、これが今の俺の日常なんだから。
「ところで、副賞として、ニィーテスタを一日自由にできるというものがあるのですが」
「いらん」
「に、ニィーテスタ様を自由に!? そそそそ、そんな副賞が!?」
「お、落ち着いてくださいリリアさん! 本当にあったとしても勝利チームへの副賞ですから!」
「じゃあ、僕とコヨミは?」
「犯罪になりかねないので、絶対いらない」
とはいえ、適度な平和も……必要かな。 これからのパーティーで思いっきり騒いだら、しばらくはゆっくり休みたいものだ。
というわけでこの章は終わり。
新章の内容も大体考えています。まあ、結構平和? な内容になると……うん、思います。
では、また次回!




