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第二十八話「ただゴールを目指して」

本日、十三時頃にタイトルが変わります。正直、十四日になった瞬間に変えようかと思いましたが……寝落ちしていました……。

「すう……はあ……」


 最終コースのスタート地点で、リリーは深呼吸をする。自分から、最終走者に志願した。そして、三人はそんな自分のわがままを受け入れてくれた。

 自分だけのせいじゃない。

 そう思ってくれている。

 それでも……。


「よし。準備完了。負けないよ、ナナミ」

「私だって負けないから。ここで勝って、最終試練で決着だよ」


 ナナミのことは、刃太郎から教えてもらった。

 第二の試練の時、使った風の魔法は、本来身体能力を上げるためのものではない。ただの風属性魔法を無理やり足に纏わせ走る速度を一時的に上げただけ。


 そう何度も、長時間使える代物ではない。

 だからこそ、ナナミは最初には魔法を使っては来ないはず。純粋な身体能力で勝負をすること。だが、それでもナナミのほうが上手だろう。

 もし、負けそうになったら。


「……頑張ります。刃太郎さん」


 リリーは、左腕をぎゅっと握り締める。


「リリーちゃん!!!」

「ナナミさん!!」


 聞こえた。第三走者の二人の声が。

 リリーとナナミが、同時に振り返ると。


「行って下さい!! ナナミさん!!」

「うん!! 任せて!!」


 先に、バトンタッチをしたのはヴィスターラチームだった。有奈も、頑張っていたのだろうがさすがに、身体能力の差があった。

 リリアがバトンタッチをして、三十秒ほど遅れて有奈がリリーに手を伸ばす。


「り、リリーちゃん!! あ、後は……!」

「わかってる! 絶対」


 パン!! 有奈は、倒れながらもリリーにバトンタッチをした。


(皆が繋げたバトン……! 今度こそ……今度こそ、勝ってみせる!!)


 少し遅れてリリーは全速力で走り出す。だが、すでにナナミの背中は小さくなっている。勇者パーティーの中では一番足が遅いと教えて貰っていたが、それでもファンタジーの世界で魔物と戦いながらも世界を旅した少女と、平和な世界で日常を過ごしていた少女。 

 どう考えても、前者のほうが有利だ。

 リリーも、運動神経には自信があるほうだが。ファンタジー世界の住人達にとっては、まだまだ。


「それでも!!」


 諦めなければ、希望は見えてくる。そう信じて、リリーは必死にナナミを追いかけた。


『皆さん! お待たせしました!! ついに最終コースです!! 最終コースはジグザグ!! しばらく真っ直ぐ走った後、走者達を待ち受けるのは……壁に囲まれたジグザグコース!!』

『そして、最終走者が押すボタンは、ゴールにあるひとつだけ。なので、全速力でジグザグしたコースを走り続け、一気にゴールを目指すのです!』


 それは、かなり助かることだ。

 正直、リリーには途中途中でボタンを押している余裕などない。だからこそ、時計に表示されたボタンの数を見た瞬間、少しほっとした。

 これで、ただゴールだけを目指して走り続けられると。


『先にジグザグコースに入ったのはナナミ選手です!! 一方、リリー選手は少し遅れている模様!! 解説のニィーテスタさん。この勝負、どう見ますか?』

『普通に考えれば、ナナミが勝つのでしょうが……今回は、そう簡単にはいかないと思うのです』

『ほうほう。それは、中々楽しみになりますね!! っと、そんなことを言っている間に、リリー選手もジグザグコースにインです!!』


 ジグザグコースに入った瞬間から、壁が斜めになっている。うまい具合に壁に沿って走り、曲がると更に曲がらなくてはならない。

 これがジグザグコース。ただただ全速力で走るだけじゃだめだ。曲がる時に、緩急をつけながらじゃないと壁にぶつかってしまう可能性がある。


(これだと、ナナミも簡単には進めていないはず! でも、焦っちゃだめ。冷静に、角で曲がる時は転ばないように、壁にぶつからないように少しスピードを落として……曲がる!)


 ジグザグと言われてから、走るまで何度もイメージトレーニングをしていた。試練ということで、並大抵のコースではないことを想定しながら。


『リリー選手。順調にジグザグコースを駆けナナミ選手に追いつこうとしている!! 速い、速いです!!』


 確かに、この速さ。今まで走ってきた中でも一番速いと思っている。

 なんだか体が軽い。

 自分の足が、まるで羽のように。


「あっ」


 見えた。追いついた。丁度、壁に囲まれたジグザグコースを抜け、少しの直線コースに差し掛かったところで、やっとナナミの背中が見えた。

 ナナミも、リリーの気配に気づき視線を向ける。

 この先のコースは、壁がない。でもジグザグだ。先ほどと違うところは、一回一回が大きなジグザグとなっていた。

 吹く風が、火照った体にはとても気持ちいい。


「ほんっとに……地球の人達は侮れない!!」


 巻き起こる風が、ナナミの足に集まっていく。


(きた……!)


 瞬間に、ナナミの走る速度が上がる。あっという間に追いついたリリーを引き離しジグザグコースへともう一度足を踏み入れた。


『こ、こ、これは! ナナミ選手の走る速度が上がりました! それも、格段に!! 解説のニィーテスタさん。これはいったい? 私の見立てでは、身体強化の魔法には見えないのですが』

『その通りなのです。あれは、ナナミが生み出した新しい魔法。本来攻撃に特化した魔法を己の体に宿すことで攻撃魔法の爆発力を利用することができるのです。でも、本来体を強化するカテゴリーじゃない魔法を体に宿すことは……己を傷つけることになるのです』

『つ、つまり諸刃の剣。ナナミ選手の切り札、ということですか?』

『そう思っていいと思うのです。そう何度も使うような魔法ではないのです。すでに、第二の試練で一度使っているから、これで二度目。足だけとはいえ、結構きついと思うのです』


 だからこそ、これがチャンスになる。

 刃太郎も、まずは全速力で走り追いつくこと。ナナミは、追いつかれたら必ず突き放すためにその魔法を使ってくるはずだ。

 でも、その魔法が持つのは長くて十五秒が限界だろうと。

 リリーは、左腕の袖を捲くる。

 そこには、羽のエンブレムが填め込まれたブレスレットが装着されていた。


「魔法を使って十秒。このタイミングで……!」


 すでに、ナナミは神殿のような場所に近づいていた。だが、リリーはまだ大きなジグザグコースに差し掛かったばかり。

 このままじゃ確実に負ける。

 そう、このままじゃ。

 腕のブレスレットは、刃太郎から渡されたもの。刃太郎が、言うのはこのブレスレットは……風神の加護を与えてくれる、そうだ。


「お願い! あたしに……加護!!」


 切なる願いが、想いが、ブレスレットを輝かせる。ナナミが纏った力強い風とは違い。とても神秘的な輝きを見せる突き抜けるような風。

 それを全身に纏わせ、リリーは両足に力を込める。


『あ、あれは!?』

『おおっと!! 今度は、リリー選手が……は、はや!?』


 まるで、周りの風が自分を避けていく。そして、自分の背中を押してくれる感覚だ。さっきジグザグコースに差し掛かったばかりだというのに、もうナナミの背中が目と鼻の先に近づいていく。

 ナナミの驚く表情を見詰め、リリーは思い出していた。

 刃太郎が、このブレスレットを渡してくれた時の言葉を。


「いいか? このブレスレットは、有奈に渡したものと同等の力を持っている。こいつは、一時的に使用者の俊敏を底上げする。だが……普通の人じゃ、数秒しか加護を与えてくれないだろう。だから、使いどころは間違わないようにな」


 使いどころ。それはつまり、ナナミの魔法が解ける数秒のところだ。加護が切れる前に、絶対。絶対……。


「追い、抜いたぁ!!!」

「う、嘘……!?」


 ナナミを追い抜き、先に神殿へと入っていくリリー。神殿に入ると天井はなく、ただただ壁に囲まれた真っ直ぐな道。

 その先には、光り輝くひとつだけのボタンが見えた。

 あれを先に押せば、地球チームの勝ち。

 後もうちょっとで。


「あぐっ……!」


 しかし、加護は消える。その瞬間、両足に激痛が走った。当たり前だ。いつも以上に足を酷使し、更に動かしていたのは自分自身の足。

 いくら神の加護とはいえ、何の力もない一般人には受け止められない。

 足への激痛で済んでいるのは、刃太郎のおかげだろう。


『リリー選手! ゴール直前で、転倒!!』

『加護が切れてしまったのです。リリーは、もう足が』


 まるで時間がスローになったような感覚だった。やっと追い抜いたのに、真横から再びナナミが追い抜こうと姿を現した。

 このままじゃ、負ける。

 また……負ける。また、皆に迷惑をかけてしまう。三人は、優しいからそんなこと気にするなと言ってくれるだろう。

 でも、それでもリリーは。


「あたしってば」


 ぐっと両足に力を入れる。

 風が……再びリリーの体に集まっていく。


「すっごい負けず嫌いなんだよね!!」


 すでに、加護は切れていたはずだ。足はもう動かせなかったはずだ。だが、リリーはナナミを再び突き放した。それもものすごい速度で。

 まるでその姿は。


「わあっ!?」

「いっけえええっ!!!」


 弾丸。走るのではなく。リリーは、まるで弾丸のようにボタン目掛け飛んでいった。その勢いにナナミは驚き、動きが止まってしまう。

 しまった! と思った時にはもう遅かった。


「はぐぅ……!?」


 リリーが、すでにボタンを押していたから。

 それも頭で。

 頭が割れたんじゃないか? という音が響き、サシャーナもニィーテスタも思わず声を出すのを忘れていた。

 しかし、会場中に鳴り響きアラーム音によってハッと我に返り、サシャーナはマイクを握り締める。


『け、けっちゃーく!!! 第四の試練。爆走チームレースを制したのは地球チームです!! そしてぇ!! この勝利により地球チームは三勝!! 長かった異世界交流バトルも……これにて終了でーす!!!』


 その終了宣言は、どこまでも響き渡った。

ついに長かった異世界交流バトルは決着。

おそらく、次回辺りでこの章は終わりにできるでしょう。


タイトルが変わっても、この小説はまだまだ続きます!! そんなわけで、次回もお楽しみに!!

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