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第十話「殴りこみ」

※二十九年八月二十六日。ようやく第十話も改善しました。少しは、まともに……なったかなぁ。

 いったい有奈はどこに行ったんだ?

 これだけ探してもいないなんて。まさか、もう学校に戻ったのか? それとも、俺のことをからかってどこかに隠れているとか。


 買ったソフトクリームもこのままじゃ溶けてしまうし。

 こうなったら直接連絡をしてみるか。

 連絡先は登録してある。

 ソフトクリームを片手に、俺はスマホを取り出した。


「あれ? あなたは」

「あっ。君は確か……」


 そんな時だった。

 偶然コンビニから出てきた少女。有奈と一緒にいた鳳堂華燐と出会う。コンビニ袋には、大量のお菓子が入っている。おやつだろうか?


「あの時は、友人を助けてくれてありがとうございました」

「いやいや。大したことじゃないって」

「あ、リリーもいるんですけど。呼んで来ますか?」


 コンビニ中で未だに商品を選んでいるリリーの姿が見えた。

 あ、そうだ。

 もしかしたら、この子達なら有奈の居場所を知っているかもしれない。見たところ、コンビニの見える範囲にはいないようだけど。


「すまん。ちょっと聞いてもいいか?」

「はい、なんでしょうか?」

「有奈がどこにいるかわからないか? あ、俺、実は有奈の兄で刃太郎って言うんだけど」


 別に隠すようなことじゃない。

 というか、そんな余裕がない。なにか、嫌な予感がする。異世界で何度も、こんなことを体験してきた経験からなのか……。


「あ、有奈のお兄さん?」

「ああ。それで、有奈なんだけど。一緒じゃ、ないのか?」

「は、はい。有奈なら、たぶん学校で授業中じゃないんですか? 私達は、サボリですけど。あ、いつもじゃないんですよ?」


 そうか。二人は、知らないようだ。

 ということは、これは直接連絡をするしかないな。


「ありがとう!」


 一言お礼を残し、俺は去って行く。が、俺はすぐに引き返し、ソフトクリームを華燐に渡す。


「えっと、少し溶けてるけど。これ、有奈と仲良くしてくれているお礼だ」

「ありがとう、ございます」

「これからも仲良くしてやってくれよ! じゃあ!!」


 すまん、有奈。

 お前のために買ったのに。見つけ出したら、新しいものを買ってやるからな! 




・・・★・・・




 俺は、有奈とよく行っていた公園を探そうと訪れていた。

 ここのベンチに一緒に座って、風を感じていたものだ。太陽の日差しが心地よくて、ついつい有奈は眠ってしまっていたっけなぁ……。

 そんな懐かしい思い出を脳内で再生しながら、俺は公園内を走り回っていた。

 草木が続く道を進み、丁度噴水があるところで、俺は発見した。


「よーし。やっぱり、この公園は獲物が集まりやすいな」


 サングラスをかけた男が、二十代ぐらいの美人に手をかざし、眠りにつかせていた。明らかに、この世の力じゃない。

 しかも、あのオーラ……あのリーゼントの時と同じか。

 だが、リーゼントの時よりもかなり冷静だな。

 意識がはっきりしているというか、というかあのザインって奴を倒したはずだが……この感じ、まだ生きているのか?


「こいつもなかなかだ。さっさと車に乗せて持ち帰るか。誰かに見つからないうちに。さっきの笠名のガキよりは、濃度が低そうだがな」


 それを聞いた瞬間、俺は身を隠していた木から姿を現し、サングラスの男の肩を掴む。


「おい、おっさん。その人をどうするつもりだ?」

「おいおい。礼儀がなってねぇガキだな。いきなり、人のことをおっさん呼ばわりするとは」

「お前みたいな奴は、おっさんで十分だ。それよりも、その人をどうするのかって聞いているんだ」

「俺は忙しいんだ。彼女を家に連れて行かなくちゃならねぇからな」


 俺が、知らないとでも思っているのか。


「しらばっくれるな。その女の人は、さっきお前が眠らせたんだろ? 誤魔化しても無駄だ。全て、見ていたからな」

「ハッ! 何が見ていただよ。いったい、何を見たって!!」


 素早い拳だ。

 だけど、俺には遅く見えている。振り向き様に、振りかざしてきた拳を俺は容易に受け止めて見せた。


「軽い。それに遅い」

「らあっ!!」


 一瞬、動揺したがすぐに左拳を振りかざす。


「それも遅い!」

「ぐあ!?」


 左拳は受け止めることなく、がら空きの足を払い横転させる。


「お前、ただの人間じゃないだろ? まさかとは思うが、他にもこんな風に誘拐しているのか?」

「知らねぇな。つーか、さっきも言ったが、俺は忙しいんだ」

「だったら、早く話して貰おうか? その人をどこに連れ去ろうとしたのかを」


 そこに、有奈がいるはずだ。今の時間帯、情報を集めた結果。笠名の生徒は、たった一人しか見なかったという。

 それが有奈だ。


「誰が教えるかよ。はあ……こんなガキに使いたくはなかったんだが。しつこいてめぇが悪いんだぜ?」


 別に俺は悪くはないだろ。

 だが、こちらとしては好都合だ。おそらく、特殊な力で気絶させればあのオーラは消えるんだろう。バルトロッサがあのリーゼントを気絶させたように。


「だったら、賭けをしよう」

「賭け?」


 黒きオーラが男の全身を包み込み、生き物のようにうねうねと動いている。男は、怒り心頭しているかと思いきや、まだ少し冷静さが残っている。

 完全に、心頭する前に言っておかなければな。


「おっさんが勝ったら、俺は何でも言うことを聞く。だが、逆におっさんが俺に負けたら誘拐した女のことについて教えてもらおう」

「くっくっく……なんでもか。いいぜ。今の俺は、誰にも止められねぇ! 許してくれって言っても許してやらねぇからな!!」


 叫び、突っ込んでくる。

 約束、したからな。

 騒ぎが起こる前に、叩く! 生き物のように俺へと襲い掛かってきた黒いオーラを、俺は魔力で纏った手で簡単に弾く。


「なにっ!?」

「まだまだ力が弱い。これ以上の力を持った敵と俺は数え切れないほど戦ってきたんだ。今更!」


 ダン! と一踏みし、男との距離を詰める。まずは、情報を聞きだす。だから、気絶しない程度の力を加減して……叩き込む!


「ごはぁっ!?」


 大きくくの字に体が曲がり、地面に崩れ落ちる。

 息苦しそうに、悶えている男を見下すように俺は言葉を吐き捨てた。


「素人相手に手間取るかよ」

「て、てめぇ! なに、者だ……?!」

「妹を大事にしているただ兄貴だ。さあ! 答えろ!! 誘拐した女はどこに連れて行くつもりだった!!」


 胸倉を掴み、睨みつける。


「み、港の……二番倉庫……」

「本当だろうな?」

「本当、だっての」


 気絶しないかするかぐらいの力で腹に叩き込んだことで、相当苦しそうにしている。意識もかなり朦朧としているだろう。

 嘘は、言っていないようだな。


「最後に、誘拐した笠名の女の名前、わかるか?」

「そこまでは、知らねぇ、よ」

「そうか。情報ありがとう、おっさん」


 パッと手を離すと、そのまま仰向けに倒れる。

 そこで、俺は魔力を再度右拳に込めた。


「な、なにを」

「大丈夫だ。死にはしない。ただ、あんたは普通の人間に戻るだけだ」

「なっ!? や、やめ」

「じゃあな!!」

「ぐはあっ!?」


 今度は腹部へ拳を叩きつけた。その衝撃により、サングラスは吹き飛び、床に落ちて砕けた。

 ちなみに、これにはそこまでの身体ダメージはない。

 殴ったのは魔力の波動だ。

 そして、その魔力で外部ではなく内部にダメージを与え気絶させた。あっちの世界でもよくこういう方法で気絶させていた。


「後は、この女の人だが」


 力で眠らされたのであれば、これも魔力でなんとかできるか? そう考え、俺は魔力を込めその場で払う。すると、女性の体から少量の黒いオーラは吹き飛ぶ。


「うっ」

「大丈夫ですか?」

「あれ? 私は、いったい」


 念のため男は、女性から見えないところに。つまり茂みに放り投げておいた。


「こんなところで、眠っていると悪い人に襲われちゃいますよ?」

「あ、はい。そうですね。……どうして眠っちゃったんだろう?」


 記憶が曖昧のようだ。

 耐性のないものに使うと、そういうことが起こるってことか? 


「さて、さっそく倉庫に……ん?」

「うむ。このたこ焼きという丸い食べ物……中々美味!!」


 何をやっているんだ? あの魔帝は。

 観光とか言っていたけど、随分と楽しんでいるじゃないか。公園に突如として現れた魔帝。出来立てのたこ焼きを頬張り、手に提げている袋にはまだまだ食べ物が詰まっている。

 いったい、どこからそんな金を……だが、丁度いいタイミングで現れてくれた。

 喫茶店でこいつが、こっちに来て何をしていたのかを少し聞いた。

 俺を探すために、次元ホールで色んな場所へ行ったらしい。その中に……偶然にも、港が入っている。


「おい、バルトロッサ」

「おお、刃太郎ではないか。何用だ?」

「ちょっと港の倉庫まで、次元ホールを開いてくれ。大至急だ」

「なぜ我が、貴様のために次元ホールを出さなければならんのだ? それに、我は忙しい」


 忙しいって……ただたこ焼きを食べているだけだろ。子供のような言い訳をしやがって。


「どうしても、出して欲しくば供物を我に捧げよ」

「じゃあ、後で好きなものをひとつ奢ってやる。それでいいだろ?」

「好きなものか……ふっ、よかろう。特別に出してやる!!」


 安い魔帝さんだ。だが、これで時間をかけずに港の倉庫にいける。

 頼む有奈、無事でいてくれ!






・・・☆・・・






「うっ」


 有奈は、まだ意識がはっきりしない中、目を覚ます。

 ぼやける視界で、捉えたのはドラムなどが大量にあり、天井には鎖が大量にぶら下がっている。いかにも、悪がいそうな場所だ。


「おや、お目覚めのようですね」

「あ、あなたは」


 あのスーツの男だ。

 どうやら、周りにはあのサングラスの男はいない。彼一人だけのようだ。しかし、よく見れば自分以外にも縄で縛られている人達の姿が確認できた。


(縄で縛られてる。結構がっちり)


 縄で腕と足を縛られている。

 これは、簡単には解けそうにない。


「無駄ですよ。あなたは大人しくしていてください。いずれ来る、我らが主の供物になるまで」

「供物?」


 いったい彼は何を言っているのだろう? だけど、冗談を言っているようには見えない。じゃあ、本気で? だけど、供物とは……。

 

「そう、供物です。我らが主は偉大なお方です。ストレスが止まっていた私にこんなにも素晴らしい力を与えてくださったのですから!」


 そう言われても、怪しく笑うスーツの男だが、有奈にはまったく理解できていない。

 まだ意識がはっきりしていない。あの時のあれは何だったのだろう? サングラスに手をかざされた瞬間に、意識が朦朧としていった。

 催眠術? でも、そんなものが本当にあるとは思えない。


 いや、あるのかもしれない。

 少し前までは、信じられなかっただろう。だが、今では異世界から帰ってきたと言っていた兄の刃太郎の存在が、あるのではないかと思わせる。

 ということは、先ほどスーツの男が言っていた力とはそれに似たもの?


(でも、この人達が、お兄ちゃんと一緒とは思えない)

「そうです。威田有奈さん」

「なんで、私の名前を」

「失礼ながら、あなたの個人情報を拝見させて頂きました。そこで、質問なのですが。このお方はあなたの彼氏、でしょうか? 随分と仲が良さそうですね」


 男が手に持っているのは有奈のスマホだった。

 そして、男が言うのはスマホのホーム画面のことだ。まだ誰にも、いや舞香にしか見せたことがない。ホーム画面に設定している、刃太郎が高校生になった時の写真。

 刃太郎の腕に手を絡ませ、笑顔でくっ付いている中学の時の自分が映っている。


「……」

「無視、ですか。まあいいでしょう。ですが、今からあなたはこの冴えない彼氏ともお別れです」


 刹那。

 有奈は、ついカッとなり男を睨みつけ叫ぶ。


「お兄ちゃんは冴えなくなんかない! 優しくて、頼りになって、すっごくかっこいいんだから!」

「おや? 彼氏ではなく兄上でしたか。これは失礼。ですが、そんな頼りになる兄上でも助けにはきてくれませんよ? それに、助けに来たとしても私達のこの力の前には無力! ですから」


 このまま有奈は、男を睨みつけ続けてやる。事実だ。刃太郎は、目の前にいる男よりも見た目はもちろん、中身だってかっこいい。

 それに人を誘拐するような男なんかには絶対負けていない。

 自信を持って言い切れる。


「さて、そろそろですね。騒がしくもなってきましたし。もう一度、眠りについてください」


 まただ。

 あの時は、サングラスの男だったのに。今度はスーツの男。手をかざされただけで、意識が朦朧としてくる。だめだ、このまま意識を失っては。


「もう少しで、主がやってきます。主の供物となれることを光栄に思いなさい」

「うぅ……おに……ちゃ」


 堪えられなかった。

 有奈は、再び深い眠りについてしまう。


「あの人はまだ外をうらうらしているのでしょうか。もうすぐ時間だと言うのに」


 腕時計を見詰め、スーツの男はため息を漏らす。

 

「では、私はそれまで選別でもしていましょうか」


 そう呟き、有奈へと手を伸ばす。

 が、その時だった。


「有奈あああああああああああッ!!!」

「なっ!? 何事ですか!?」


 咆哮と共に、硬く閉ざされていた鋼鉄の扉が吹き飛んだ。少しでも動いていれば、当たっていた。男は、冷や汗が体全身に滲み出て、体が小刻みに震えている。


「おい、そこのサラリーマン。俺の可愛い妹に、手を出してみろ。二度と人前に出れない顔に整形してやる。俺の拳でな!!」


 現れたのは、激怒した刃太郎。

 敵意向き出しで、拳を突きつけていた。

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