第二十一話「ぬいぐるみを届けろ」
「くっくっく。あいつら思った以上に楽しんでるじゃねぇか」
「ええ。特に、ヴィスターラチームは、心配がありましたが。ナナミがうまい具合に皆を纏めていますね」
第二の試練の途中。
主催の創造神オージオは、補佐役であるグリッドと共に各チームの動向を映像で見ていた。第一の試練からずっと見ていたが、彼らの行動は見ていて飽きない。
「お? どうやら、二つのチームが同じ場所に向かっているみたいだな」
「その先には……なるほど、これは面白いですね」
笑っているとニィーテスタとリフィルが部屋に入ってくる。
「オージオ様。第三の試練の準備万端なのです」
そろそろ第二の試練も佳境に入ってきている。今のうちに第三の試練の準備をしておくようにと伝えておいたのだ。
まだ伝えて数分しか経っていないのに、相変わらず仕事が速くて助かるとオージオはリフィルに視線を向ける。
「いいね。なんだかんだでお前もノリノリじゃねぇか」
「うるさいです。こうでもしないと、地球から連れ帰されるって言うから仕方なくやっているだけです」
第一の試練では、バニーガールの格好で手伝いをしていたリフィルだったが。今度は、バーテンダーのような格好をしていた。
最初のバニーガールとは違い、肌の露出がないが、スタイル抜群のリフィルの曲線美がはっきりとわかるほど、ぴっちりとしたものとなっている。
毎日のようにあれだけの堕落した生活を送っているのにも関わらず、このスタイル。
さすがは、俺が創った一柱だとオージオは頷く。
「あなたも、随分と地球の生活がお気に入りになっているようですね。言っておきますが、こちらが平和になったとはいえ、まだ油断はできません。もしもこちらに危険があった場合は何があっても帰還してもらいますからね」
「はいはい。それで? そろそろ決着がつきそうなのよね。どっちが勝ちそうなの?」
本当にわかっているのでしょうか……と心配になりつつもグリッドは、メガネの位置を直しながら語りだす。
「現在は、両チーム目的のものを確保。後は、狼娘の下へ持っていくだけとなっています。ちなみに、両チームの狼娘達の位置は……こうなっています」
こちらだけでは、狼娘達がどこにいるのかがはっきりわかっている。その位置を、グリッドが表示するととリフィルはへぇっと声を漏らした。
「これは、中々面白い展開になっているのです」
「だろ? さあて、これからどうなるのか。見せてもらおうじゃねぇか」
第三の試練を前に、ヴィスターラの神々は第二の試練のクライマックスを楽しそうに見詰めるのだった。
・・・★・・・
「いたぞ!!」
残り時間は、すでに十分を切っている。
俺達はてっきりどこかへと移動しているのだと思っていた。だからこそ、考え、足で探し回っていた。しかし、結果的にコトミちゃんの居場所は。
「まさか、最初の場所からずっと動いていなかったなんてね」
「しかも見て! ヴィスターラチームも一緒に来ちゃったよ!!」
そう、俺達とほぼ同時にヴィスターラチームがコヨミのところへと向かっていた。コトミちゃんとコヨミは、俺達を見つけるなりお? と声を上げ立ち上がる。
今更逃げようとしても遅いぞ、コトミちゃん。
「ふはははは!! もうここまで来たら、突っ込めナナミよ!! 奴らの妨害は……我がやる!!」
やはり、来るか妨害。
ぬいぐるみを持っているのは、ナナミ。ロッサの言葉通り、ナナミは真っ直ぐコヨミのところへと駆けて行く。
「させるか!! 華燐!! 頼むぞ!!」
「は、はい!!」
俺は、作戦通り華燐に、妨害をしてくるロッサへと向かわせる。
「なっ!? 刃太郎!! 逃げるつもりか!!」
「うっせぇ!! 今は、試練中だ!! 今最優先すべきはこいつをコトミちゃんに渡すことなんだよ!」
「ごめんね、ロッサ。刃太郎さんじゃなくて。さあ、ここは簡単に通さないよ。鳳堂の力、見せてあげるよ!!」
「くっはっはっは!! まあよかろう!! 悪いが、鬱憤が堪っているのだ。貴様で晴らさせて貰うとするぞ!!」
どうやら、ロッサはうまい具合に華燐と対決してくれるようだ。
ロッサが叫び魔力の塊を両手に生成すると、華燐は今まで見せたことの無い霊力により作られし剣を手に待ち向かっていく。
「うひゃぁ……やっぱりすごいな、華燐は」
「リリーちゃん! 余所見している場合じゃないよ! 華燐ちゃんが、止めてくれているのは一人だけ。まだこっちには」
「そ、そうだった!」
まだ三人残っているのは、お互い様。
そして、狼娘達はその場から動かずただただ待っているだけ。だが、欠伸をしている。やばい、このままでは絶対逃げる。
「リリアさん! よろしくお願いします!!」
「はい!!」
今度は、リリアが俺達の邪魔をするために襲いかかってくる。あいつのプロレス技は厄介だ。しかも、加えて関節技まで持っている始末。
まったくどこがシスターなんだか……。
が、これも想定済み。
俺は、有奈に視線を向けて頭を優しく撫でる。
「が、頑張ってくるね!!」
「有奈さん。いくらあなたが一般人でも容赦はしません。我が、フォンティーナ一族の技……かなり痛いですよ!!」
普通なら、一般人の有奈を凶悪なリリアに当てるはずが無い。いくら、有奈が運動神経がいいほうでもリリアは世界を救った者の一人。
なら、なぜ有奈を残したのか? その答えは、すぐわかった。
早めに有奈を落とし、こちらへと向かってくる予定だったのだろうが。
「我を護りたまえ!!」
「なっ!?」
有奈が呪文を唱えると、光の鎧がリリアを阻む。それを見て、リリアはもちろんのことナナミ達も驚きを隠せないでいた。
それもそのはずだ。だって有奈を護ったのは……。
「【聖鎧の指輪】!? ひ、卑怯ですよ!! 刃太郎さーん!!!」
叫ぶリリアの声など無視して俺はコトミちゃんを追い続ける。
聖鎧の指輪。
それは、神々の加護を受けし神聖具のひとつ。聖なる鎧が盾となり、ドラゴンの一撃すらも防いでしまうという護りの指輪だ。
本来であるなら、使用者の俺しか扱えないのだが、俺が許可を出せばその者は扱えるのだ。
まあそれでも、有奈は一般人だから百パーセントの力は出せない。でも、時間稼ぎには最適だ。いくら、リリアでもあの護りは簡単に崩せないだろうからな。
更に言えば、聖鎧の指輪には敵に注意を引くという効果もあるため、もうリリアは有奈から逃れられない。
「や、やってくれたね刃太郎くん」
「こっちは、戦力的に不利だからな。ああいう便利な道具は、遠慮なく使わせてもらうぞ」
とはいえ、今の俺はほとんど旅で手に入れた便利道具をヴィスターラに置いてきている。実際、もうこの二人に使えそうなのは、ひとつしかない。
「そういうことなら、僕達も容赦はしません!! いでよ!! 我が剣!! 【エルメリアス】!!!」
「やっぱり、出してきたか!! だったら、俺も! 来い!! 【アイオラス】!!!」
アデルが手に取った翡翠色の輝く剣は、俺が持っているアイオラスの兄弟のような剣だ。どこまでも真っ直ぐ、自分の信念を曲げないアデルに与えられた神聖具。
アイオラスのようには喋らないが、その力は本物。
『おお! エルメリアスじぇねぇか! つか、なんでお前達戦ってんだ?』
「説明している暇はない!!」
『了解だ、相棒。まあ、俺も久しぶりにエルメリアスと戦えてめっちゃ嬉しいぜぇ!!』
剣と剣がぶつかり合いながら、俺達は突き進む。
ぬいぐるみは、安全のためリリーに持たせてあるが。このままでは、埒が明かない。
「後はよろしくね、アデルトくん!!」
「はい!!」
やっぱり出たか! アデルがうまい具合に俺のことを妨害している間に、残ったナナミが馬のぬいぐるみを持って駆け出す。
だが、この距離なら。
「リリー!!」
「はい!! 全速力で行きます!!」
俺もすぐに追いかけたいところだが。
「強くなったな、アデル。これは、追い越される日も近いんじゃないか?」
「ありがとうございます!! ですが、僕はまだまだ強くなって見せますよ!!」
「それは、先輩としては嬉しいが……今は、すげぇ厄介で困りものだ」
あっちでは、それほど経っていないがアデルはアデルで修行を重ねて強くなっているようだ。これは、あの魔帝よりも厄介だな。
一番の強敵は、仲間ってパターンか。
俺が、ナナミを止めようと動くも共に修行をし、共に旅をして戦ってきたからなのか。俺の行動パターンを読んで、前に立ちはだかる。
「コヨミちゃーん!! 馬のぬいぐるみだよ!!」
「コトミちゃん!! こっちは熊のぬいぐるみだよー!!」
刹那。
ナナミは、一気に距離を詰めるために風属性の魔法を足に集中させ加速。やはり、走る速度が互角でも、魔法の差でリリーが不利か。
ならば。
「やらせるか!!」
アデルの攻撃を全力で上に弾き、その一瞬の隙にアイオラスの白の力をナナミ目掛けて解き放つ。
「僕もさせません!!」
が、さすがはアデル。すぐに体勢を立て直し、俺が解き放った白の力にエルメリアスの翡翠の力をぶつけてくる。
完全にはかき消せなかったが、片足の風を消すことは出来た。
でも……。
「は、はいこれ」
「ありがとね、確かに受け取ったよ」
転びながらも、リリーよりも先にコヨミのところに到着し、馬のぬいぐるみを渡した。
「ま、負けちゃった……」
リリーも間に合わなかったことに、落ち込みつつもなんとかコヨミちゃんに熊のぬいぐるみを渡す事ができた。
しかし、第二の試練は……俺達の負けだ。
『決着ー!! 激闘を乗り越え、勝利を掴み取ったのはヴィスターラチームでーす!!!』
そして、ファンシーな世界に、サシャーナさんの声が高らかに響き渡った。




