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第二十話「ぬいぐるみを捕まえろ」

「すごいね、ここ。この飴……食べれるのかな?」

「リリー。確かに、おいしそうだけど。あんまり怪しいものを口に含まないほうがいいと思うよ?」


 熊のぬいぐるみを探しに、俺達は森へと訪れた。

 広大な平原もそうだったが、森の中もとてもファンシーだ。周りに生えている木からは、なぜか飴玉が生っている。

 しかも、色鮮やか。赤や紫、オレンジなど。

 おそらく、味の色なんだろう。


「さて、目的のぬいぐるみはいるかどうか」


 さっそく森の中を探索しようとした時だった。


「お、お兄ちゃん……! こっち……!」


 声を潜めながら、俺を呼ぶ有奈。

 茂みに隠れているということは、まさか見つけたのか? 俺は、飴玉を取り今にも食べそうだったリリーと、それを止めようとしていた華燐を呼ぶ。


「あれ、そうだよね?」

「……ああ、確かにそうだな」


 視線の先には、俺達が探し求めていたマジシャン風の熊のぬいぐるみを発見した。ぬいぐるみは、他のぬいぐるみ達を集めて、切り株の上でマジックを披露している。

 明らかに、他のぬいぐるみとは違うのがわかる。


「すごい。人間のマジシャンに負けないマジックだね」

「人間と違って、指もないし、隠すところもほとんどない。本当に、タネも仕掛けも無い、だな」


 そして、しばらくしマジックを終えると他のぬいぐるみ達は解散する。そして、一人切り株の上に残った熊のぬいぐるみは、その場に座り込んだまま動かないでいた。

 捕まえるなら今がチャンスだな。


「よし、捕まえるチャンスだ」

「でも、なんだか普通のぬいぐるみじゃないし。なんだか無理やり捕まえるのって」

「うん。まあ、可哀想、だよね。今更だけど、こういう感情を抱かさせるために生きているようにしているとかなのかな?」


 そう言われると、俺も体が止まってしまう。

 確かに、あんな可愛らしいぬいぐるみを無理やり捕まえるっていうのは、ちょっと抵抗がある。だが、そうしている間にも、コトミちゃんはどこかへ行き、ヴィスターラチームが先を越しているかもしれない。とはいえ、女子達は明らかに戸惑っている。

 ……よし、だったらうまくいくかはわからないがやってみるか。


「お、お兄ちゃん?」

「やっぱり、無理やり捕まえちゃうんですか?」

「待って。なんだか、そうじゃないっぽいよ」


 女子達の不安そうな視線を背に、俺はゆっくりと茂みから出て行き熊のぬいぐるみに近づいていく。案の定、熊のぬいぐるみは初めてみるのであろう人間に驚き逃げ去ろうとしていく。

 が、俺はすかさず掌から水の塊を出現させる。

 すると、興味を示したようでその場で立ち止まり、じっと見詰めていた。


「更に」


 俺は、水の塊のほかにも火の塊を出現させ、ジャグリングをしてみせた。これは、初級魔法を最小限の魔力で形成することで出来ることだ。

 ヴィスターラの魔法使いならば、まずこういう小さな魔法を覚える。舞香さんにもやってみせたのもこれだ。

 ジャグリングをし、水と火の塊を螺旋状に混ぜ輪を作り上げる。

 熊のぬいぐるみは、もう釘付け。

 目を輝かせる子供のようだ。最後に、光の粒子のように散らせマジックを終えたマジシャンのようにお辞儀をした。


「どうだった?」


 俺が問いかけると、熊のぬいぐるみはその場でぴょんぴょんっと飛び跳ねていた。俺は、そのまま抱き上げ微笑みかける。


「もっと見たいか?」


 すると、熊のぬいぐるみは首を縦に振る。


「じゃあ、ちょっと俺達に付き合ってくれないか? そうしたらもっと見せてやるよ」


 更に、首を縦に振る。

 どうやら、成功したみたいだな。俺は、茂みに隠れている有奈達にもういいぞと呼びかけた。


「す、すごいですね刃太郎さん。あんなこともできるなんて」

「まあ、魔法を覚える時に、師匠がこういうことを覚えていると色々と役立つってさ」


 ちなみに、俺の魔法の師匠はナナミ。

 ある程度の魔法は、なんとなくやって扱えたけど。本格的に覚えようと思ってナナミに教えてもらい、これを勧められたんだ。


「こいつは、マジックが大好きなんだ。格好は伊達じゃなかったってことだな」


 まあ俺がやったことは、マジなマジックなんだけど。

 何はともあれ、これで熊のぬいぐるみを確保できた。 

 後は、コトミちゃんの下に持っていくだけ。

 そんな時だった。


『どーもでーす!! 司会実況のサシャーナでーす!!』

「ひゃっ!? え? え?」

「び、びっくりしたぁ」


 突如として、目の前に半透明な映像が出現。おそらく、俺達が目的のものを手に入れたのをあっちから見ていたのだろう。


『あ、申し訳ありません。こほん……さて、地球チームはどうやら目的のものを手に入れたようですね』

「どうしてわかったんですか?」


 華燐の問いかけに、サシャーナさんはとある機械を取り出す。そこには、俺達が捕まえた熊のぬいぐるみの画像と赤く点滅しているものが。

 やっぱりあっちからは、このぬいぐるみの居場所がわかっていたようだな。


『この通り、こっちからは丸わかりだったんです。さて、目的のぬいぐるみを手に入れたところで補足を! これから皆様は、コトミ様の下へと向かうと思いますが、探す際決して魔力を感知したり気配を探ろうとしたりしないように!』


 そう来たか。

 完全に、頭を使って、足で探せってわけか。


「あの、ヴィスターラチームの状況はどうなっているんですか?」

『それはお教えできない規則となっております! そこも踏まえての試練ですので。さあ、早くしないと、コトミ様が遠くへ行ってしまいますよー!!』


 それだけを伝え、映像は消える。

 静けさが包む森に戻り、俺達はよしっと気合いを入れ直し、森を駆け抜けていく。






・・・☆・・・






「ふはははは!! 我が名は、魔帝バルトロッサ!! この世界を滅ぼす者なり!!」


 ヴィスターラチームは、あれから馬のぬいぐるみの特徴などを色々調べ、探すこと十数分。ようやく見つけ出す事ができた。

 そして、捕まえようとしたのだが。

 なかなか素早く、魔法などで無理やり弱らせ捕まえようとバルトロッサが放ったのだが、謎の障壁に阻まれ弾かれてしまったのだ。

 そこで、サシャーナから補足の連絡が入り、魔法など攻撃は一切効かないとのことだ。捕まえるのなら、知恵を絞り、魔法の力を使わず捕まえるようにと。


「な、何をするんですか! は、離してください!!」

「本当にあれで良いんでしょうか?」

「あのぬいぐるみは、おそらくヒーロー。最初に発見した時も、虐められていた猫のぬいぐるみを助けていたからね。魔法が効かないし、無理やり捕まえようとしても駄目。ということは、こういう方法で捕まえるしかないって私は思う」


 この作戦は、ナナミが立案したもの。 

 作戦内容は、こうだ。

 馬のぬいぐるみの前で、悪者とそれに捕まった女性が現れる。それを見つけた馬のぬいぐるみが、悪者から女性を助け、その女性が助けてくれたお礼をしたいから一緒に来てくれないか? とお願いするのだ。


「僕達は何もしなくていいんですか?」

「私達は、とりあえず今は見守っているだけでいいの」

「そう、ですか」


 あの馬のぬいぐるみには魔法が一切通用しないし素早い。だけど、体は綿が入ったぬいぐるみそのもの。

 明らかに、魔力が無くともバルトロッサが圧倒するだろう。

 だが、馬のぬいぐるみは勇敢にも立ち向かっていく。


「ふはははは!! 来るか、勇敢なる馬よ!! だが、我はそれほど甘くは無いぞ!!」

「きゃっ!?」


 本格的にやるため、リリアは縄で縛っており身動きが出来ない状態。そんな状態のリリアを、バルトロッサは乱暴に放り投げ立ち向かってくる馬のぬいぐるみを軽く叩く。


「やっぱり、だめみたいですね」

「いや、まだだよ。見て、まだあの子は諦めていない」


 一度、やられた馬のぬいぐるみだがまだ負けていない! という風に立ち上がり再度勇敢に立ち向かっていく。


「ぬるい!」


 しかし、バルトロッサは容赦なく叩き落とす。


「や、やっぱり僕も加勢してきます!」

「ううん、まだだよ」

「え?」


 二度簡単にやられても、馬のぬいぐるみは立ち上がる。その姿は、本物のヒーロー。何度やられても助けを求める者を助けようと諦めないガッツ。


「くっ! なんだこの威圧感は……!」


 本当は、そう思ってはいないがそういう演技をして見せているバルトロッサ。

 どんなに相手が強かろうと、自分が傷つこうと……立ち向かっていく。


「ぐああっ!?」


 その結果、バルトロッサはやられた。

 これも、作戦のうちだった。

 あまりにも簡単にやられてしまっては、礼には及ばない、みたいに立ち去っていってしまうかもしれない。なので、苦戦したうえでやられるようにとバルトロッサには伝えておいたのだ。

 本人は、やる気がなかったようだが、いざやると中々の演技力。

 ちなみに、これから一緒に行くことになるので、バルトロッサには変装をしてもらっている。仮面を被り、素顔が見えないようにしているのだ。


「うん、私達もいくよ」

「は、はい!」


 そして、助けを求めていたのはどこかの国のお姫様という設定。そこへ現れる二人は、誘拐された姫様を探してやっと駆けつけた従者達、ということにもなっていた。


「姫様、ご無事でしたか!?」

「は、はい。この方が、私を助けてくれたのです」


 アデルトは、縄を解きながら馬のぬいぐるみを見詰める。


「おお、それはなんと感謝をしたらいいか……申し訳ありません、姫様。私達が、不甲斐無いばかりに」

「良いんです。それよりも勇敢なるお方。どうか、私を助けてくれたお礼をしたいので、共についてきてはくれないでしょうか?」


 さて、どうなる? とバルトロッサも倒れながらも馬のぬいぐるみの動きを見詰めていた。しばらく、考えた後、ゆっくりとこちらに近づいてきた。


「共に来てくださるのですか?」


 もう一度問いかけると、馬のぬいぐるみは静かに頷いた。どうやら、作戦はなんとか成功したようだ。


『はい! ヴィスターラチームの皆さん! 目的のものの確保おめでとうございます!! さて、これからコヨミ様の下へ行かれるかと思いますが、魔力感知や気配を探るなどはしないようにお願い致します!』


 現れたのは、先ほどと同じく半透明の映像で叫ぶサシャーナ。


「自分でコヨミちゃんの居場所を考えて、自分の足で探せってことですね」

「そこは試練ですから、覚悟はしていました。問題はありません」

『了解です。では、皆さんのご健闘をお祈りしております!!』


 映像がなくなり、変装を解いたバルトロッサを加えナナミ達は、急ごうと頷く。


「もう刃太郎先輩達は、目的のものを捕まえたんでしょうか?」

「刃太郎くんなら、もう捕まえていてもおかしくないかもね。だからこそ、私達も急がないと」


 ここで負けてしまっては、地球チームは二勝でリーチがかかる。だからこそ、それを阻止しなければならない。

 必ず、一勝を掴み取ってみせる。

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