第十九話「よく観察し、考えよう」
「えっと、私達が探すものは」
第二の試練。それは捜索力。
だが、開始前に聞いた説明から考えるに、捜索力だけではなく、根気や観察力、瞬発力など色々なものを試されることになるだろう。
ヴィスターラチームは、一度地球チームと距離を取りタブレットを操作する。地球の文化に、この異世界交流バトルが始まるまで多く触れてきたことで、タブレット操作もらくらく。
画面に表示されたのは、馬のぬいぐるみだった。
「これが、僕達の探すものですか。周りには、馬のぬいぐるみはありますが……。よく観察しないとですね」
そうだね、とナナミは立体表示にして三百六十度隅々まで馬のぬいぐるみをアデルトと共に観察する。だが、ふと視線を外す。
その視線の先には、我先にと進もうとしているバルトロッサとそれを止めようとしているリリアの姿が映った。
「何をしているんですか! 勝手に行かないでください!!」
「こうしている間にも、時間は過ぎてゆく。誰かが少しでも、この辺りを探索したほうがいいのではないか?」
「ですから、それは探すものをちゃんと確認してからにしてくださいって言っているじゃないですか!」
またやっている。
最初から何かとぶつかり合うだろうと思っていたが、このままじゃこの試練も次の試練も危ういかもしれない。
そう思ったナナミは、二人の下へと歩み寄っていく。
「まあまあ。ロッサの言い分もわかるよ」
「ナナミさん! あなたは、魔帝の味方をするのですか!?」
「そ、そうじゃないよ。でもほら。私達は、チームなんだよ? 確かに、昔は敵対していたかもしれないけど。今は、いがみ合っている場合じゃないって伝えたいだけなの」
「もしかして、二人とも。先ほどのミスを気にしている、とか?」
二人の間に割って入ったナナミを助けるように、アデルトが的確な言葉を発する。それが、効果抜群だったのか、二人とも口を閉ざす。
「別に我は気にはしておらぬ。ただ、刃太郎に負けたくないだけだ」
「わ、私もです! 私はただ、刃太郎さんに勝ってニィーテスタ様の視線をこちらに向けようとしているだけなんです」
バルトロッサは、本音で言っていると確信できるが。リリアはどうやら気にしているようだ。
「ともかくです。まだ第二の試練は始まったばかり。この探すものをちゃんと確認して、それから迅速にいきましょう」
「あまり焦ると、変なところでミスしてしまうかもだからね」
「別に我は焦ってなどいないが……まあ仕方あるまい」
「私は最初からそうするつもりでしたけどね」
何はともあれ、二人とも落ち着いてくれたようだ。
その後、四人で馬のぬいぐるみの特徴を観察する。大きさは、四十センチメートルほどで。赤いマントを羽織っており、なにやらヒーローを想像させる格好だ。
その他にも、羽が生えたブーツなどを履いており、中々勇敢な表情をしている。
「中々特徴のある馬ではないか」
「これなら、見つけやすいかもだけど。……どうやらここから見渡す限りいないね」
これだけの特徴がある馬のぬいぐるみだ。
いくら、ぬいぐるみが多いこの場所でも、すぐに見つかるだろう。どうやらこの辺りには、猫のぬいぐるみが多いようだ。
「しかし、不思議ですね。ぬいぐるみが自分で動いているなんて」
近くにいた動いている白猫のぬいぐるみを見詰めながらリリアは呟く。
「旅をしている時は、魂がぬいぐるみに入って悪戯してきたことはありましたが。これも同じなんでしょうか?」
ヴィスターラで、刃太郎と共に旅をしている時のことだ。
森の中に建てられていた不気味な屋敷を発見し、一晩泊まらせて貰おうと入ったのだが。そこは、霊魂が住む幽霊屋敷だったのだ。
あの時は、何の変哲の無いぬいぐるみに霊魂が入り込み襲ってくるということがあったが。
「少し違うと思うよ。あの時は、ただ単純に襲ってきただけだけど。この子達は、なんだか本当に生きているみたい」
「にゃー」
ナナミも近くにいたトラ模様の猫を撫でると本物のように鳴く。しかし、体がぬいぐるみ。ちゃんと縫い目もあるし、触った感触が綿が入ったぬいぐるみそのものだ。
「ここは、あの創造神が作ったところだ。こいつらも、命を持ったぬいぐるみ、というカテゴリーで生み出されたのだろう」
「確かに、そうかもだね。さて、そろそろ探しに行こうよ。こうしている間にも、刃太郎くん達が先に見つけちゃっているかもしれないし」
「その通りだ。では、ゆくぞ! 貴様ら!! 奴よりも先にぬいぐるみを見つけ出し、コヨミに届けるのだ!!」
「なんであなたが仕切っているんですか!!」
凸凹なチームだが、これからだ。
勇者一行と、魔帝という不思議な組み合わせ。オージオは何を思ってこんな組み合わせにしたのかは、彼女達にもわかっていない。
ただチームとして共に行動することになったからには、最後までこのチームで勝利を掴み取りに行くまでだ。
ナナミは、地球チームが走り去っていった方向を見詰めぐっと拳を握り締める。
・・・★・・・
「……見つからない」
「見つかりませんね……」
「熊さんのぬいぐるみは結構いるんですが、私達が探しているのは中々見つかりませんね」
あれから、すでに十五分ほどが経っている。
しかし、見つかるのは普通の熊のぬいぐるみや、よく似ているがよく見れば違うものばかり。こうしている間にも、ヴィスターラチームが先に探し出して、コヨミに持っていっているかもしれない。
「ねえ、犬さん。この熊さんがどこにいるかわからない?」
ついに、有奈は動いている犬のぬいぐるみに、俺達が探しているぬいぐるみについて聞いてしまっている。
しかし、犬のぬいぐるみはその場で駆け回るだけで、案内などしてくれる気配なし。
やっぱりだめか……とため息を漏らしその場に座り込む。
「捜索力の試練って言っていましたけど、これだけ広大なところで、更に似たようなぬいぐるみがいる中……簡単に見つかる気がしませんね」
「そこも踏まえての捜索力なんだろう。もう一度、観察してみるか」
と、俺は有奈からタブレットを受け取り帽子を被った熊のぬいぐるみを確かめる。被っている帽子は、マジシャンなどが被ってそうなものだ。
格好も、どこかマジシャンっぽいけど。
近くを通りかかった熊のぬいぐるみを見るも、少し違う。俺達が探しているのは、黒い燕尾服を着ている。だが、近くを通りかかったのは白い燕尾服だ。
「あれ?」
「どうかした? リリー」
そんな時だった。
リリーが何かを発見したようで、指を差す。
「ねえ、あっちになんだか森が見える気がするんだけど」
「森?」
俺達は、リリーが指差す方向へと振り向き目を凝らす。
確かに、森のような緑が見える。
……ん? 待てよ。
そういえば、熊って。
「まさか、本物の熊みたいに、生息している場所が関係しているのか?」
俺達が、さっきまで捜索していたのはこの広大でファンシーな大地。だが、一向に見つかる気配が無い。だが、もしこのぬいぐるみ達が本物の動物のように生息地があったら?
「なるほど。もし、その熊さんが森に生息しているなら。これだけ探しても見つからないのも頷けるね」
それに、画像をよく見たら背景が森だ。
俺達は、ぬいぐるみばかりに目がいっていた。そうか、この背景も関係しているんだとしたら、やっぱり森に可能性があるな。
「さっそくあの森に行ってみよう」
「よーし! なんだかやる気が戻ってきましたよ!!」
見つかるかもしれない。
可能性が高まってきたことで、俺達のテンションが戻り、いや上がってきた。さあ、絶対見つけ出してやるぞ。
待っていろよ、熊のぬいぐるみ!




