第十八話「狼娘達からの頼み」
第一の試練を終えて、俺達は次なる試練の場へと移動している途中のことだった。俺はふとリリーに話しかける。
それは、先ほどの試練についてだ。
「それにしても、リリーすごかったな。全問正解なんて」
「そ、そうですか? えへへ。あたし、昔からお父さんにこの手のクイズをよくやられていたんです。だから、自然と変な名前の生き物とかものとかを覚えれるようになっていて」
「その記憶力が、普段の勉強にも生かせれば良いのに」
「いやぁ、結局あたしは馬鹿ってことなんですよー」
「こらこら」
だが、その記憶力のおかげで俺達は救われた。人には、得手不得手がある。今回の記憶力勝負では、うまい具合にリリーがはまったことで、いい感じに勝利を収められたというわけだ。
さて、こっちはいいがあっちは。
「まったくもう。いいですか? 次の試練では、絶対勝たなくてはなりません。第一の試練でのミスを挽回しなくてはなんです。聞いていますか?」
「ちゃんと聞いている。うるさいシスターだ。我は、負けっぱなしは嫌いだから。その辺は、理解している」
「本当ですか?」
「しつこい奴だな。貴様こそ、大丈夫なのだろうな? 次もミスをしたら、貴様が崇めている神に見限られるかもしれんぞ?」
「そ、そんなことありません! ニィーテスタ様はとても慈悲深き神様! それに、あなたに言われなくともやってやりますとも!!」
予想はしていたが、仲が悪いなあの二人。
一方は、神々を敬愛するシスター、つまり光。
もう一方は、魔界でも頂点に立った限られた魔族、つまり闇。
最初から相性が悪いとは思っていたが、先ほどの記憶力の試練の結果で、更にぶつかり合っているな。アデルも、最後の最後にミスをしまったことを反省し、気を引き締めなおしたようだ。
ナナミは、有奈と一緒に楽しそうに話している。
緊張感がない、ていうのは違うな。
あれで、緊張感を解しているのかもしれない。
「皆さん。第二の試練会場はこちらになります」
サシャーナさんとニィの案内で、辿り着いたのは第二の試練と書かれた表札があるなんだかファンシーなデザインの扉。
なんだこの扉は。夢の国にでも案内されていたのか?
「扉オープン、なのですー」
ニィの声に、反応しファンシーなデザインの扉はゆっくりと開いていく。そして、俺達の視界に入ったその光景とは。
「がおー! 狼だぞー!」
「ようこそ、人間の皆さん。ファンシーワールドへ」
扉と同じくファンシーなデザインの広大な空間だった。色んなぬいぐるみがそこら中に落ちており、中には動いているのもいる。
そんなファンシーな世界に可愛らしい二人が立っていた。
狼娘、と言った感じだろうか。
まあ、同じイヌ科だし違和感はないな。だが、その服のデザインはどうなんだ? へそだし、ノースリーブ、背中も丸出し。
絶対あのおっさんが提案した服だろうな、これ。しかし、コトミちゃんとコヨミは恥ずかしがることなく着こなしている。
おそらく、この服のデッサンとかも響が担当したんだろうなぁ。
「では、第二の試練内容をご説明致します! 第二の試練は……捜索力!! 今から、そこに立っておりますとても! 可愛らしい狼娘さん達から、これを探して欲しいと頼まれます。それを、チーム毎にこの広大な世界から見つけ出し、狼娘さん達にプレゼントしてください!」
「ちなみに、見ての通り。動いている者達も存在するのです。なので、一筋縄にはいかないと理解して欲しいのですよ」
つまり、捜索力と言ったが瞬発力と根気も必要になるってことか。やはり、最初の試練はジャブ。第二の試練は難易度が上がってきたな。
「更に、似たようなものもあるから。ちゃんと確認したうえで、持ってきてね」
「制限時間は、一時間だよ! 地球チームは私!」
「ヴィスターラチームは、僕から探して欲しいもののリストを渡すよ」
「更に更に! 狼娘さん達は、とても気まぐれ! あまり待たせるとどこかに移動しちゃう可能性も!」
「あるかもなのです」
なるほど。狼娘達も、捜索の対象になっているってことか。それにしても、この二人と探すって……これは骨が折れそうだ。
しかも、このファンシーな者達の世界で。
二人の素早さは俺も理解している。
だからこそ、動かれる前に見つけ出し言われたものを渡さなければ。
「あの、ひとつ質問良いですか?」
「はい、どうぞ! アデルト様!!」
ルールを理解したところで、アデルが気になる事があるらしく挙手する。
「もし、制限時間内に指定されたものを見つけられなかった、または二人に渡す事ができなかった場合はどうなるんですか?」
「うむ、それは我も気になっていた」
「いい質問です。では、解説のニィーテスタさんから!」
いや、そこは司会のあなたが説明するべきでは?
「はいなのです~。先ほどの質問の答えは、こうなのです。もし、制限時間内に見つけられなかった、または二人に渡す事ができなければ……ちょっとした罰ゲームが待っているのですー」
予想はできていた。
しかし、ちょっとした? その言葉に俺は疑問を抱く。
「俺も質問いいですか?」
「はい、どうぞ!!」
「そのちょっとした罰ゲームっていうのは、本当にちょっとした、なのか? ニィ」
これは誰もが気になっていることだろう。
ニィは、俺の問いかけを聞いて考える素振りを見せ、にっこりと笑顔作った。
「ひ・み・つなのです」
「……了解だ」
これ以上の追求は意味が無いだろう。罰ゲームの内容とかは、実際に見ない限りはわからない。それに、ちゃんと指定されたものを見つけて渡せば問題は無い。
「それでは、皆さん準備はよろしいでしょうか? 勝負は一回きり! ですが、今度は罰ゲームがある緊張感の中での戦いです!」
「もちろん、俺達はいつでも準備万端です」
「私達もです。刃太郎くん。今度は負けないからね」
ナナミは、第一の試練では全問正解している。だが、チームとしては負けているということで、より強い対抗心を俺に向けていた。
それは、アデルもだった。
そんな目をされちゃ、俺も負けられない気持ちが更に込み上げてくるじゃないか。
火花散る中、サシャーナさんは手を挙げる。
「いいですねぇ、もう負けられない! 今度も負けない!! そんな闘志のぶつかり合い! さあ、第二の試練。捜索力勝負……開始でーす!!!」
瞬間、俺達は一斉に飛び出す。
先ほど言われた通り、俺達はコトミちゃんのほうに。ヴィスターラは、コヨミのほうに。辿り着くとそれぞれにタブレットを渡してくる。
「そこに、探して欲しいもののデータが入ってるの。第一の試練みたいに、立体にして見る事ができるから。ちゃんと隅々まで確かめて見つけ出してね!」
「わかったよ、狼娘さん」
「すぐに持ってくるからね! ちゃんとそこで待っててね!」
「待っててくれたら、後でおいしいアイスを」
「こら、物で釣らない」
ヴィスターラチームもタブレットを受け取り、ほぼ同時に飛び出した。
探すものは、移動しながらでも確認できる。
制限時間は、一時間あるが。
おそらく、それでも足りないかもしれない。少しでも、この広大な空間を移動して色々と調べないと。
「それで、あたし達は何を探すんですか?」
俺は、タブレットを操作し、探し物リストなるものをタッチする。そこには、とある画像が表示された。これが俺達が探すものか。
「帽子を被ったくまさんですか?」
「一見では、そうだろうけど」
右端に立体表示というものはあったので、それもタッチ。すると、見事に立体的に画像は表示された。一度、立ち止まり三百六十度回転させ隅々まで確認していく。
「この子ではないですよね?」
リリーは丁度近くにあった帽子を被ったくまのぬいぐるみを手に持つ。だが、すぐに違うことに気づく。
「よく見て。この子の帽子には赤色のリボンがついているよ。でも、その子にはついてない」
他にも似たようなぬいぐるみが大量に見受けられる。
ちゃんと特徴を見つけ出し、ひとつずつ確認しないと駄目だな。
「とりあえず、この辺りを二手に分かれて探そう。タブレットは、画像を表示したままここに置いておくから。リリーは俺と。有奈は華燐とだ」
「は、はい!」
「それじゃ、捜索開始だね」
「早くしないとコトミちゃんが移動しちゃうかもだから、急がないと」
さすがにすぐには移動はしないだろうが。それでも、素早く、だが正確に探そう。
そんなわけで、第二の試練は、捜索!
昔は、よく川原とかに言って、珍しい形の石とか化石がないかな? って探していました……。




