第十四話「本番へ向けて」
八月も今日で終わり。
なんだか、今年の八月はそこまで暑くなかった印象でしたねー。
「え!? あたし達が、異世界交流バトルのメンバーに選ばれたんですか?」
オージオのおっさんに異世界交流バトルの日時などを知らされた次の日。俺以外のメンバー。つまり、有奈、華燐、リリーの三人をマンションに集めて事の次第を伝えた。
一応大事な話があると事前に言っておいたので、三人とも覚悟はしていたと思うが。
さすがに、世界を隔てたバトルとなると衝撃も大きいだろう。
ちなみに、ナナミ達ヴィスターラ組みには席を外して貰っている。地球組みだけの大事な話をしたいからな。仲間とはいえ、本番になれば敵同士になる。
俺達は、メンバーがメンバーなのでちゃんとした作戦なども考えなくちゃならない。ニィやリフィルなどは、中立な立場にいるためその場に残している。
「すまん! 俺がもうちょっとメンバーのことを言っておけばこんなことには……」
まず最初に俺は頭を下げた。
自分の不手際でこうなってしまったことに。
「そ、そんな。頭を上げてください。刃太郎さんのせいじゃないですよ」
「そうだよ、お兄ちゃん。それに、危険な試練じゃ、ないかもなんだよね?」
「念のためオージオ様にそのことについて聞きに行ったのです」
「なんて言っていたんだ?」
俺は頭を下げたままニィに視線だけを送り、問いかける。
すると、ニィは親指をぐっと立て笑顔を作る。
「危険はないようなのです。オージオ様もそこまで鬼畜ではないので、スポーツ、感覚で楽しんで欲しいと」
「それって、よくテレビでやっている感じなの?」
色んな芸人や俳優などが集まり、色んなゲームをやっていく。そんな番組を俺も結構見ている。年末などは録画などもして、見返すこともあるぐらいだ。
それと同じような感覚なのだろうか?
「おそらくそうなのです。会場をちらっと見せてもらったのですが。そんなギミックがあるステージがあったのです。あ、ちなみにこれはちゃんとオージオ様の許可を取って言っているので問題ないのです」
「そういう感じなら、うん。大丈夫だよね?」
「うん、そうだね。もし、これで特殊な能力を使った試練なんてあったら、刃太郎さんと私はともかく。有奈とリリーは難しかったかもだから」
それを聞いて、俺もほっと胸を撫で下ろす。
ニィが用意してくれ水を受け取り、くいっと流し込む。喉が潤ったところで、俺は作戦会議を再開する。
「それじゃ、俺の謝罪も終わったところで。明後日に向けての作戦会議なんだが」
「まずは、どんな試練なのかってことだよね」
「あたし的には、頭を使う系はなしにしてほしいなー」
「リリー。見た目だけなら、勉強できそうなんだけどね」
「これは、昔から漫画とかを一杯読んできたからだもーん。知的な感じじゃないもーん」
確かに、リリーはパッと見は勉強ができそうな感じがするもんなだ。だが、実際は運動が得意で、漫画が大好きな女子高生。
漫画家が親だからこそ、小さい頃から漫画を読んで目が悪くなった。俺も、昔は暗いところでは絶対漫画は読むなって言われていたっけ。
父さんも、昔のゲームは画面が白黒で今のように明るくなかったから目を悪くしたーとかそんなことも言っていたな。
「私達のこともあるけど。ヴィスターラチームも気になるよね」
「あ、それはあたしも思ってた。ナナミとはすっごく仲良くなって色々わかってきたけど。他の二人はまだ、かな。どうなんですか? 刃太郎さん」
アデルとリリアのことか。
俺は、自分の知っているアデルとリリアについて色々と説明する。アデルは、見た目通り心優しい少年で、剣の腕もいや今では槍も弓も、色んな武器を扱えるようになったと言っていたな。
魔法は使えないが、神聖剣術という神々の加護を受けし者ではないと使えない特殊剣術を得意としている。頭もそこそこよく、家の手伝いもしているので家事もこなせる。
続いて、リリアだが。
教会に勤めるシスター。孤児院の子供達と仲がよく、昔の生い立ちもあり、孤独な者を見るとついつい助けたくなる性分となっている。
しかし、罪人には容赦がなく、よく俺のことを罵倒してくる。シスターであるが、バリバリの肉体派で得意としているのは、フォンティーナ流戦闘術というもの。
まあ、ぶっちゃけていうとプロレス技である。
俺も最初見た時は、プロレス技だろ! と叫んだが、どうやら先祖代々伝えられてきた戦闘術のようで。確実に、フォンティーナ一族の先祖は異世界人だと俺は確信した。
「なるほど。アデルくんは、なんだか完璧超人みたいな感じなんですね。雰囲気からなんとなく察していましたが、まるで二次元の人みたいだね」
「う、うん。対して、リリアさんは意外だったね。まさか、プロレス技を使うなんて……でも、納得したかも。ネットで、なんでプロレス動画を観ていたのかって」
そういえば、家にあるタブレットを使って観ていたなぁ。丁度リフィルが据え置きのゲームに夢中だった頃に、ちゃんと許可を得てから使っていた。
すごく大はしゃぎしていたからよく覚えている。
「後、そこにロッサも入るんだもんね。今更だけど、すごいメンバーだよね」
思わずリリーは体をぶるっと震わせた。
バランスは取れていると思う。
うまい具合に、知的なナナミとアデル。肉体派なリリアにロッサ。魔帝とまで言われているロッサだが、ああ見えてちょっと馬鹿なところがある。
だから、よく俺に負けているんだ。
「勝てると、思いますか?」
真剣な表情で問いかけてくる華燐に対し、俺は一度考える素振りを見せ、口を開いた。
「勝って見せるさ。俺達が力を合わせれば乗り越えられるはずだ。もうここまで来たのなら、互いに信じあって突き進もうぜ。俺は、お前達を信じる!」
「じ、刃太郎さん……そこまで、あたし達のことを!」
「なんだか、真っ直ぐそんなこと言われちゃうと照れちゃうね……」
本当に恥ずかしいのか、有奈はクッションで顔を埋めている。華燐も、リリーもなんだか顔が赤い。俺は当たり前のことを言ったんだが……やっぱりちょっとかっこつけすぎたかな?
こほんっと咳払いをし、話を続ける。
「とりあえずだ。相手が強敵でも、頑張ろうってことだ」
今までだってそうしてきた。だからこれからもそうだ。これが命をかけた戦いでなくとも、やるからには全力を尽くす。
いい感じに纏めたところで、有奈がふとこんなことを呟く。
「あ、そういえば。気になったんだけど。この戦いって、勝利チームになにか賞品とかってあるの?」
有奈の発言に、この場にいる者達は目を見開く。
そういえばそうだな。
そのことを考えていなかった。紙にも、そういうことは書いていなかったしなぁ。
「そのことに関しては、ちゃんと聞いてきているのです。ですが、オージオ様もそれに関しては私にも秘密と言っていたのですよ」
「でも、賞品、はあるんだよね? それじゃ、なんだかやる気が出てきたかも。賞品は、やる気を出すために重要だからね!」
だが、いったいどんなものを用意しているというのだろうか。ただ、思いつきで始めたから賞品なんて最初からないものとばかり思っていた。
やっぱりやるからには、そういうのもきっちりしているんだな。
「作戦会議、終わったかな?」
何もない空間からナナミが顔を出す。作戦会議をしている間、三人にはニィ達が作った聖域に入っていてもらっていたのだ。
「終わったのですよー」
「よかった。それじゃ、さっそく今日買ってきたお洋服なんだけど」
「あ、これ可愛い。しかも、雑誌で取り合えげられていた服だよね?」
「うん。それとこっちのぬいぐるみなんだけど。クレーンゲームで一発で取れたんだぁ」
女子高生トークが始まった。いやぁ、仲良くなってよかったよかった。さて、アデルとリリアが出てこないけど、なにやっているんだ?
「せ、先輩! ちょっと手伝ってください! リリアさんが!!」
声が響いた。どうやらリリアがなにかをしているようで、アデルが困っているようだ。俺は、ニィと一緒に聖域へと入っていく。
するとそこには、鼻血を流し倒れているリリアがいた。
「……幸せそうな顔で倒れてる」
「も、申し訳ありません。聖域を私の血で汚してしまい」
「いいのですよ。これぐらいなら、ほいなのです!」
指を一振りすると、一瞬にしてリリアの鼻血で出来た血溜まりが消える。俺は、そのままリリアを背負い聖域から出て行った。
まったく、こんなので明後日のバトル大丈夫なのか? いや、こいつらよりも心配な奴が一人いたなそういえば。
ニィのほうから話はつけたと言ってたけど……本当に大丈夫なんだろうか。
「はうぅ、ニィーテスタしゃまぁ」
「はいなのですー」
「せ、せめて罪深き私に、に、ニィーテスタ様の裁きをぉ」
「放置なのです~」
「ほ、放置プレイってことですか……なんて、甘美なしゃばきなんでしょぉ、うへへ」
だめだこいつ、早く正気に戻さないと。
ちなみに、ナナミが普通に出てきたのは決して放置をしていたわけではない。ナナミがいた時は、まだ普通だったようだ。
いや、若干挙動がおかしかったが本人はなんでもないと言っていたようで。
しかし、聖域が開きニィーテスタの声が聞こえた瞬間、鼻血を出し倒れたとアデルが証言してくれた。いったい、何を考えていたのか……。




