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第十二話「どっち派?」

 やっと、元の姿に戻った。

 俺は嬉しさのあまり、ガッツポーズを取った。これで子ども扱いされずに住む。一人ではいけなかった店にもいけるようになった。

 舞香さんはまだ俺が子供の姿のままであろうと思って、子供の服を買ってきてしまったようで。

 それを見て、俺は申し訳ない気持ちになってしまった。

 だが、皆は素直に喜んでくれた。


「まだかぁ。まだかなぁ」

「もう少しですね。もうしばらくお待ちください、コトミ様」


 十月も上旬。

 なんだか早いなぁっと感じつつ現在は、天宮家の敷地内でなぜか石焼き芋を今か今かと俺達は待っていた。枯れ葉などを集めての焼き芋もよかったが。

 駿さんが用意したのは、なぜか石焼き。

 しかも、結構大きな屋台風で焼いている。天宮家だから、そこまで驚くようなことではないが。


「こんな風に、芋を焼くんだね。始めてみた」

「僕も、木の枝にそのまま刺してそのまま火で焼いたことしかないです。こういうやり方もあるんですね。勉強になります」

「熱を帯びた石の中で焼く……しかも、この銀色の包みですか? とても便利ですね。包んだまま温められるなんて」


 初めて見る石焼き芋に、ナナミ、アデル、リリアは興味津々だ。

 確かに、あっちには石の鍋はあるけど、こうやって石で囲んで焼くっていうことはなかったからな。あるとしたらピザぐらいだろうか?

 あっちでは、芋を焼くと言ったら細かくして、皮を向き色んな食材と一緒に。それは、アデルも言ったように焚き火などでそのまま焼くしかなかった。

 地球のように、アルミに包んで焼くという方法はなかったんだ。


「ところであんた。今までどこに行ってたの? 別に、心配はしているわけじゃないけど」


 焼き芋がもう少しで焼きあがるというところで、優夏ちゃんが今までどこに行っていたのかと問いかけてきた。


「あぁ、こいつなら今までち」

「県外に行ってたんだよ! 舞香さんの知り合いに頼まれてさ! 急に人手が足りなくなったからって!」

「そうだったんですか。お疲れ様です、刃太郎さん」

「ふーん。案外頼られてるんだ、あんた」

「あ、あはは。そうなんだよー、案外頼られているんだ、俺」


 ふう、なんとか誤魔化せたか。

 俺は、本当のことを口走りそうだったロッサの頭を軽く叩き、一息。何をする! と睨んでくるが俺はそれを華麗に無視。

 そんな俺の背中をナナミは、ぽんっと叩き大変だねっと苦笑する。彼女達には、普通の生活を送って欲しいからな。


「リリー。食べたいのはわかるけど、涎。はしたないよ」

「あわわ!? いつの間に……!」

「でも、気持ちはわかるよ。やっぱり秋って言ったら食欲の秋。絶対焼き芋は、食べるもん私」


 そういえば、昔から有奈は、焼き芋が大好きだったなぁ。ほくほくして、甘い焼き芋をおいしそうに食べている有奈は、可愛かった。


「そうだ! 皆はさ、焼き芋は皮ごと食べる派? それとも皮を剥いて実だけ食べる派? ちなみに、あたしは皮ごと食べる派!!」

「いきなりだね、リリー。んー、でも私も皮ごと食べる派かなぁ」


 薩摩芋の皮か。

 そんなことを考えたこともなかった。俺は、りんごと同じような感覚でいつも皮ごと食べていたな。


「わ、私は皮を剥いて食べています」

「あたしもそうね。めんどくさいけど」

「私は皮ごとがぶっと食べる!! コヨミもだよね?」

「そうだね。僕は、皮ごとかな。ロッサはどう?」

「我は、当然皮ごとだ。皮を剥きながらなど、めんどくさい」


 小さい女の子チームは、優夏ちゃん、そらちゃん以外は皮を剥いて食べるようだ。


「私は、皮ごと、かな? お姉ちゃんは、皮剥くよね」

「う、うん。りんごも、皮を剥かないと食べられない、かな」

「俺は、気にせず皮ごと食べるな」


 鳳堂家の三人は、御夜さん以外皮ごと食べると。


「私は、皮ごとだね。なんだかもったいないっていうか」

「私もそうですね。よく、孤児院の子供達とおいしく頂いていました」

「僕も皮ごとですね。刃太郎先輩も確か皮ごと食べていましたよね?」

「もちろんだ」


 んで、勇者一行は全員が皮ごと食べる派となった。


「私は、皮を剥いて、実と皮で料理をする派ですかね」


 まさかの三つ目の派閥誕生。

 さすが、駿さんだ。

 そのまま食べるのではなく、料理をするという発想に行くとは。


「私もそうなのです。でも、私の場合はスプーンで実をくり抜きながら食べて、余った皮をチップスにしたり、きんぴらにしたりなのです」


 ニィは、ちゃんと芋の実は単品で食べてから料理をするのか。もはや、神様ではなくただの主婦……いや主夫になってきているな。

 舞香さんも、学ぶ事が多くあるって言っていたし。


「薩摩芋の皮には、色んな栄養が詰まっていますからね。余すことなく食べるのが一番です。なので、バターでさっと焼いても大変おいしいですよ」

「私は、皮を器にしたグラタンが最近はお気に入りなのです」


 なんだか主夫の会話に発展してしまっているな。そんな薩摩芋料理の会話を聞いて、有奈、リリー、ロッサ、コトミちゃんの四人は目を輝かせ涎を垂らしていた。

 ああ見えて、結構食べるからな有奈は。


「では、こういうのも……おや? 会話に華を咲かせている内にいい具合に焼けたようですね」


 トングでアルミに包まれた薩摩芋を取り出し、串を突き刺すと簡単に突き刺さった。そして、火傷をしないように、しっかりと軍手をしてアルミから取り出し半分割る。

 そこには、黄色で湯気立ち、おいしそうな実が飛び出してきた。


「うまそうに焼けてるな! 早く食おうぜ!!」

「ま、待って響ちゃん。今食べたら、火傷しちゃうよ?」


 焼きたては確かにおいしい。しかし、高熱の石の中で今まで焼いていたものだ。冷まさず食べれば口の中が火傷するのは確実。

 とはいえ、この肌寒さだとあまり時間を置いてもすぐ冷たくなる可能性もある。

 まあでも、ほくほくのまま食べるのが焼き芋のおいしい食べ方だ。


「では、全ての焼き芋を取り出ししばらく冷ましてから食しましょうか。それまで、会話に華を咲かせましょう」

「そういうことなら、この前の有奈なんだけど!」

「あ、あのことは言っちゃ駄目!」


 なんなんだろうか、有奈の言ってはいけないようなこととは。あれから、すでに有奈は更生されなんちゃって不良行為はしていない。

 とはいえ、未だに髪の毛は染めたままであるが。


「じ、刃太郎さまぁ……」

「あ、サシャーナ! お帰りー!!」

「なにしてるんですか、サシャーナさん」


 今まで秘書としての仕事をしていたサシャーナさんが、帰ってきた。帰ってきたと思いきや俺に抱きつきぷるぷると震えている。

 もしかして、寒いのが苦手、とか?


「暖をとっているんですよ。私、寒いの苦手なので」

「そこに、ストーブがありますよ」


 十月上旬とはいえ、ずっと外にいるのは冷えるものだ。そこは、さすがの準備。テントのようなところに俺達は入り、そこはストーブで温められている。

 最初は、ストーブなのかと驚いたが。

 てっきり、天宮家のことだからもうちょっとハイテクな暖房機を使うかと思っていたんだ。そしたら、やかんなどを置いているイメージのあるストーブが二つほど。

 当然、やかんの中には温かいお茶が入っている。

 コップもあるので、ナナミはすぐお茶を注ぎサシャーナさんに手渡してきた。


「あ、これはどうも」


 コップを受け取ると、アデルが用意した椅子に腰を下ろしほっと一息つく。


「サシャーナさんがここにいるってことは、仕事終わったんですか?」

「そうですねぇ。焼き芋が食べたくて、いつもの二倍の力を出してきましたよ」


 そこまでして、焼き芋が食べたかったのか。


「ねぇ、ところでサシャーナは焼き芋の皮を剥く派? それともそのまま食べる派?」


 と、コトミちゃんの問いかけにサシャーナさんは、考える素振りを見せこう答えた。


「他人の口にねじ込む派ですかね」


 自分で食べるんじゃなくて、他人に食べさせる派ってことでいいのか? それって。

 誰もがネタだろう。そう思っていた。

 がしかし、本当に俺へと焼き芋をねじ込もうとしたので、びっくりしたよ。

 まあ、しばらくじゃれ合った後は、普通に焼き芋を食べたんだけど。

記念すべき百話目が芋回だったでござる。

あぁ……焼き芋食べたくなってきました。

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