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星座が導くままに、進め、少女たち。  作者: 大川魚
黄道十二宮を探せ
9/39

第七番 どちらも加害者であり被害者でもある

今回は文の量は少なめです。読者様も桔梗の話を一緒に考えてみてはいかがでしょうか。

さて、今回の話も読者様の読んでよかったという感情に結びつきますように。

 小さな街に到着した。今まで訪れた街が比較的大きなところばかりであったためか、ことさら小さく感じられる。また、建物も簡素なものが多く、静かな印象を与える。

 「ここに、『巨蟹宮』の女性がいるんだよね……」

 ユメノはすぐに小さな教会を見つける。誰でも入ることが可能らしいその教会はどうやら観光客がよく訪れるのか入り口が開けっ広げになっていた。自然と足がそちらに向かう。

 「教会か、私の住んでたところにはなかったな」

 雨音は教会を見て呟く。

 「私のところはありましたけど、ほとんどが無宗教なので一部の人しか使われてませんでしたよ」

 友里亜も呟く。雨音に話しかけるように。

 「あ」

 中に入ってみると、一人の女性がこちら、扉の方に向かっていた。重そうな車椅子を進めながら。経鼻カヌーレをつけながら。

 「あら。お客さん?それとも神が遣わさった私の話し相手かしら?」

 車椅子の女性はゆっくりと私たちの近くまでやってきた。ゆっくりとお辞儀をし、ゆっくりと私たちを中まで誘導する。

 「あの、私はユメノと言います。あなたは?」

 誘導され、立ち話もなんだからと椅子に腰かけることとなったユメノはこの女性に話を聞こうと思った。颯真が雨音の膝の上に、楓真が友里亜の膝の上に座っている。

 「ユメノちゃんね。私は桔梗。よろしくね。えっと……」

 桔梗はちらりと雨音たちをみる。名前が聞きたいようだ。

 「私は雨音です」

 「友里亜といいます」

 「颯真と……」

 「楓真です」

 一通り自己紹介が終わると桔梗の顔から笑顔がこぼれた。桔梗という名の通り、花のような美しさを醸し出す笑顔である。それもまた儚げでもある。

 「雨音ちゃんと友里亜ちゃん、颯真君と楓真君ね。しっかり覚えたわ」

 名前と顔を一致させるように桔梗は名前を呼んだ。

 「あの、桔梗さん、聞きたいことがあるのですが……」

 「それよりも先に私の話し相手になってくださいな。あなたが聞きたいことのおおよそはついています。私の話を聞いてくださったらお答えします。それでよろしいですか?」

 私の質問は桔梗の言葉で遮られた。先程までの儚げからは想像もつかないほどの勢いでユメノに同意を求めてきた。それでも、桔梗の言葉を信じて、彼女の話を聞くことにした。

 「旧約聖書に出てくるカインとアベルの話は知っているかしら」



 アダムとイヴの息子たちである兄のカインと弟のアベルが人類最初の殺人の加害者・被害者とされているわよね。嫉妬にかられた兄のカインが弟のアベルを殺害するという物語。

 「ユメノちゃん。ユメノちゃんはこれだけの情報でどちらが被害者でどちらが加害者か想像できる?」

 ふと質問が投げかけられる。答えのないような質問。

 「私は……これだけの情報ではやっぱり、兄のカインが加害者で、弟のアベルが被害者だと考えます」

 自信がないように答える。あっているのか。間違っているのか。分からない。

 「そうよね、そう。この情報だけだとそうなるわ」

 「桔梗さんはどのように考えますか」

 分からないユメノは質問をそのまま返してみることにした。もしかしたら、新しい視点からの答えが出てくるんじゃないかと期待して。

 「私には、どちらも加害者でどちらも被害者だと考えるわ。だって、殺害を重点的に考えるともちろん兄が加害者で弟が被害者になるでしょ。もう一つ、嫉妬を重点的に考えると加害者は弟、被害者は兄になるじゃない?」

 桔梗は指を使ってカインとアベルに見立てて話す。自分の考えをユメノにぶつける。

 「どちらも被害者であり、加害者でもある……ですか」

 ユメノは桔梗の話にのめりこむ。まるで話でも彼女に誘導されているかのように。

 「そう。とは言え、嫉妬は今の時代だと日常茶飯事なんですけどね」

 桔梗は一瞬遠い目をする。

 「要するに、私が言いたいのはね、ユメノちゃん。一つの視点に捕らわれないで欲しいということよ。だって、一つの視点で物事をすべて把握したつもりになって、そこから行動を起こしてもつまらないじゃない?」

 桔梗は笑う。楽しそうに、無邪気な笑顔が零れ落ちていく。色の薄い肌がほのかにピンク味を帯びている。

 「様々な視点から物事をとらえると今まで見えなかったものが見えてくる。そういうことですね」

 先程まで黙って聞いていた友里亜は桔梗に確認する。

 「そう。さすがね。友里亜ちゃん。さて、本当はもう一つ話をしたかったのですけれどちょっと厳しくなってきたわね」

 車椅子に乗り経鼻カヌーレをつけている桔梗は身体的に少し辛くなってきたらしく、話はここで終わった。

 「大丈夫ですか。えっと、自宅まで送ります」

 ユメノたちが立ち上がり彼女の車椅子を押そうとしたその時、教会の中に女性がまた一人入ってきた。なんだか機嫌が悪いようで言葉に棘がある。

 「またこんなとこにいたのかよ。ったく。街人はともかく私に迷惑かけんなって何回言ったよ」

 目つきが悪く、口もなかなか悪かった。

 「迷惑かけたってことは心配してくれたのね。ありがとう」

 桔梗にはどうやら通じなかったらしく、桔梗自身はふふっと笑顔になっている。

 「は。心配なんてしてないっつの。てか、誰だよ、また変な奴に声かけられたとか笑うぞ?」

 ツンデレのようにも取れるが、しかし口が悪いのが勝っているのでユメノたちは何も話せなかった。

 「あ、そうそう。ユメノちゃんの質問に答えるって言ってたわね。ちょうどいいタイミングだわ。彼女よ。『巨蟹宮』の撫子。私の妹よ」

 驚いた。まさか本当に質問したいことが分かっていたとは。それよりもまず、このいかにも性格悪そうな彼女が桔梗の妹とは……。桔梗と撫子。どちらも花の名前なので、かろうじて姉妹のように感じられるぐらいであった。


分かっているかもしれませんが、経鼻カヌーレとは酸素投与器具の一つであり、鼻腔挿入部分から酸素が供給されるようになっています。こちらは、装着中でも会話や食事が可能というメリットがありますが、低流量の酸素供給かつ、口呼吸など、鼻呼吸が困難とされる方にはデメリットになります。

そして、もう一つ。桔梗の車椅子は電動ではありません。なので、段差などは誰かの手を借りなければならず、撫子がそれを担っているという設定になります。

いろいろとややこしいですが、今後ともこの物語に目を通していただければ幸いです。

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