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星座が導くままに、進め、少女たち。  作者: 大川魚
黄道十二宮を探せ
8/39

第六番 美しいもの

今回は楽しい要素がほとんど出てきませんがどうか、読者様が読んでよかったと思える内容になっていますように。願いを込めて。

 少しの沈黙の後、ようやく口を開いたお兄さんは観光案内をしていた時よりも冷たいものになっていた。背筋も凍るような声で。しかし、そこには何かユメノの気がかりとなるものがあったようにも感じる。

 「ああ、よくわかったね。そうだよ、俺が『天秤宮』の枚方だ。そして?君たちは何だい?」

 自分の正体を明かしつつ、隠し続けていた、前髪を左手でかきあげて額を丸出しにした。左側に天秤座のマークがあった。それがお兄さん、つまり枚方が『天秤宮』であるという裏付けとなっている。

 「私は『処女宮』の友里亜。そして、先に部屋に戻った女性が『双魚宮』の雨音。同じく部屋に戻っていった双子が『双児宮』の颯真と楓真です。そして……」

 友里亜が一通り紹介し終わるとユメノの方を振り向いた。続きはユメノ自身で行いなさい。と言っているように見える。

 「私は『黄道十二宮』とは関係ありません。故郷を失い、母も、すでに先立ってしまった父を追うような形で亡くなりました。私の十六歳の誕生日に。」

 「それは……大変だったな。それで?どうして友里亜たちと行動を共に?」

 核心をつくような枚方の問いはユメノの心をざわざわとさせた。なんだかよくない方向に進んでいるような感じである。それでも、ユメノは勇気を振り絞った。

 「『黄道十二宮』の皆さんに、村の復興をお願いするために。彼女たちにお願いしたんです。彼女たちの力を借りたいと……」

 枚方はユメノを一瞥する。すぐに大きなため息をつく。

 「そういうことね。それで友里亜ちゃんたちは同意したと。この流れだとユメノちゃんは俺にもお願いする形になるね」

 「はい。お察しの通り、私はあなたにもお願いしなければなりません。枚方さんどうか、私の願いを聞き入れてはもらえませんか」

 「悪いが断らせてもらう。俺は俺が望むように生きている。俺の望むことは調和だ。つまり、ユメノちゃん。出会ったばかりの俺はユメノちゃんを助けたいと思うだけの何かに出会えていないんだ。だから……」

 言葉が切れた。意図して切ったのだろう。ユメノのことを気遣って。何をしゃべればいいのか分からなくなり、この場をどのように動かせばいいのか考えられなくなったユメノはただただ目を泳がせるだけだった。

 「気を悪くさせたのなら申し訳ない。それにそろそろ雨音ちゃんが心配する時間だから。もう部屋に戻った方がいいよ。明日、ユメノちゃんが楽しみにしているところに行くんでしょ?」

 おやすみ。と手をひらひらさせて帰っていく。

 枚方の背中が遠くなっていく。ユメノはいまだに迷っていた。友里亜がそっと部屋へと促した。



 翌朝、ユメノはなかなか寝付くことが出来なかったらしく、目の下のクマが出来ていた。もさもさと布団から起き上がる。ユメノ以外はすでに布団から出ていたらしく、双子がちょうど顔を洗っていた。トランクの中から自分の歯ブラシを取り出したユメノはゆっくりと洗面所へと向かう。双子とすれ違う。

 「ふう。やっとちょっと目が覚めてきた」

 ふわふわなタオルで顔を包み、肩の力を抜いた。少し、しっかりとした足取りで部屋に戻ると友里亜が昨夜のことを話していたらしく、双子がユメノの両腕に抱きついてきた。

 「ユメねぇ。あきらめないで。僕たちがついてるから」

 「そうだよ。僕たちはいつでもユメねぇの味方だから」

 何度も何度も颯真と楓真の顔を見る。まだ十歳である彼らは私の味方だと言ってくれる。そうだよね。私がくよくよしてちゃダメなんだよね。

 「そうだよ。それにまだ完全に断られたわけじゃないんじゃない?」

 雨音は私の顔を見てにやりとする。なんだか挑戦的な表情である。

 「それって……」

 ユメノは双子をぎゅうっと抱きしめながら、雨音の方を見る。続く言葉を待ちながら。

 「だって、要するに、今日どれだけ枚方さんにユメノのことを知ってもらえるかという話じゃない?これはある意味チャンスでしょ」

 すごいなぁ、雨音は。何にでもポジティブに捉えることが出来るなんて。

 そんなことを考えながらユメノは朝食をとる準備をする。友里亜と双子はすでに準備できたらしくユメノと雨音を待っていた。



 朝食を済ませ、あっという間に約束の時間になった。友里亜たちからはこれはユメノと枚方さんの問題だから直接的な援助は出来ないけれど、頑張って。と言われており、より一層緊張していた。

 「おはよう。みんな準備万端だね。待たせちゃったかな」

 昨日の服装のイメージとは変わり、落ち着いたイメージが枚方から感じられた。そして何より、昨日の夜に見せた冷たいイメージを感じさせない。

 「いえ、私たちもさっき来たばかりですよ。お気遣いなく」

 こちら友里亜の方も普通に枚方と接している。まるで、昨日のことは無かったかのように。

 「さて、今から向かう場所はここから少しだけ遠いから、電車に乗って行こうか」

 すでに切符を買ってくれていたらしく、ひとりひとりに手渡していく。枚方が最後に手渡したのはユメノで……

 「ありがとうございます……」

 遠慮しがちに受け取ると、枚方が気にしたのかユメノの頭をぽんぽんとたたいた。

 「そんなに遠慮しないで。今からユメノちゃんが行きたかったところに行くんでしょ?ほら、楽しもうな」

 この人は悪い人ではない。むしろいい人なのだと思う。まだ十分に分からない人に、はい、わかりましたと簡単に力を貸してしまったら、それこそ世界滅亡の危機にもなりかねないんだもんね。彼らの力って……。

 吹っ切れた。ユメノはぐちぐち悩むよりも行動あるのみだと考えることにした。

 「はい。私が行きたかった場所、私が生まれて初めて行く場所。楽しみです」

 枚方が一瞬驚いたようにも見えた。それでも気にしない。枚方が枚方の生き方を進むように、ユメノもユメノの道を進むだけだと。ユメノの後姿は旅立ちの日よりも大人びたように見えた。



 ようやく到着した。ここはこの街では少々小ぶりな水族館であった。

 ぺんぎんだぁ!とてとて歩いてる姿が可愛い!クラゲがいっぱい!など感動の声が漏れる中、ユメノは一つのことを楽しみにしていた。

 「ジンベエザメ見れるかな」

 「お、ユメノちゃんもジンベエザメ好きなんだ」

 枚方はユメノの独り言を聞き取っていたらしく声をかけてきた。

 「はい!ジンベエザメ大好きです。生で見るのは初めてなのでドキドキです」

 ユメノの本心がダダ漏れ。楽しめるときに楽しまなくちゃ。

 「そうか、気が合うな。まぁユメノちゃんが水族館に来たいといった時点でそんな気がしてたけどな」

笑った。笑った顔の枚方は不思議と美しさがある。この人実はモデルの仕事をしているのではないかと疑うくらいの美しさだ。

 「枚方さんも好きなんですか?その、水族館」

 「ああ、造られた世界でしか生きられないが、それでも自由に生きる姿を見ると美しさを感じられる。だから、俺は好きだ」

 ひとつ、枚方さんことを知れたんだ、と前向きにとらえる。こうやって私のことも知ってほしいと思ったユメノ。思った矢先にジンベエザメが目に映る。

「あ、今泳いでましたね!枚方さんのいうこと、わかる気がします。造られた世界であっても生きていくものは作られたものではない。確かに神によって創られたのかもしれないけれど生きていくのは私たち自身ですからそこから生まれる美しさは作られたものではない……と、なんだか自分でも何を言ってるのか分からなくなるけれど、一つ確実に言えることがあります」

 枚方はユメノが言わんとすることを静かに聞き取っていた。ユメノの言葉から、ユメノの本質を探るように。

「ん?」

 枚方に向き直り、胸を張る。

「枚方さんと一緒に水族館に来れてよかった」



 楽しい時間はあっという間に過ぎ、各々、お土産も済ませ、ただいま電車で揺られている。あと二駅でユメノたちの宿の最寄りに着く。今日は本当に有意義な半日になった。たまには息抜きも大事だと改めて思う。枚方の件は何も進んではいなかったが、ユメノは、ユメノたちは、焦っていなかった。電車の中でゆらゆらと揺られる。

 「さて、無事に宿まで戻ってこれたな」

 電車から降り、宿の前に到着した。枚方はチェックアウトまで付き合ってくれた。

 「枚方さん。この二日間観光案内に付き合ってくださりありがとうございました」

 ユメノはトランクを片手に枚方にお辞儀する。続いて雨音、颯真と楓真、友里亜も感謝を告げる。

 「こちらこそ、楽しい時間をありがとう。俺はやっぱり今は一緒に旅に出ることは出来ない。ごめんな。ただ、一つだけ情報を渡そうと思う」



 枚方と別れてから一週間が経った現在は二月十五日。彼にはもう少し考える時間が欲しいらしく、連絡先と共に一つの情報を貰った。ユメノたちはその情報をもとに、今もなお旅を進めている。

やはり、この物語の男性は何かと影が薄いような、はっきりとしないような……。

しかし、これもきっと何か意味があると信じて……。

次回を楽しみにしていらっしゃる方もそうでない方も、私事ですが次回からいつ投稿できるか分からない状態になります。申し訳ございません。気長にお待ちしていただければ幸いです。


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