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星座が導くままに、進め、少女たち。  作者: 大川魚
黄道十二宮を探せ
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第五番 イケメンなお兄さんの正体は

いきなり時が進んでおります。

十二月から二月に進んでおります。空白時間は各自、想像にお任せします。

 時が進むに連れてユメノたち一行は途方に暮れていた。友里亜と別れてから、『黄道十二宮』の情報を手に入れることが出来なかった。それ故に、どこへ向かえばいいのか分からないまま、とりあえず、汽車に揺られ、電車に揺られ、あてもなくどこかの街を転々としていた。

 街の足湯が楽しめる場所でまったりとしていたユメノたちは友里亜を待っていた。今日は二月七日。友里亜の卒業式から四日が経っていた。四日しか経っていなかった。友里亜の街からは結構な距離にあるこの街は、街を転々と旅すると時間がかかるがこの街だけを目的とするとなるほどそんなに時間がかからないということが判明した。後は、友里亜の家の力もあったとかなかったとか……

 「あ、姉さま発見」

 「姉さま、こっちこっち」

 先に友里亜に気づいた双子は友里亜を手招きした。せっかくここまで来たのだからと彼女にも足湯を楽しんでほしかったのだろう。双子は有無を言わさず彼女を誘導する。一方彼女の方も喜んで足湯を体験する。

 「友里亜さん。卒業おめでとうございます」

 深々と頭を下げてお祝いするユメノと。気軽におめでとうと祝う雨音を見て、友里亜は丁寧に返す。

 「ありがとうございます。本日から旅仲間に加わります。どうぞ、よろしくお願いします」

 どうやら几帳面らしく、姿勢の良いお辞儀が帰ってきた。

 「今日は友里亜も合流したてということだし、明日から本格的に行こうか」

 雨音はユメノの肩にもたれかかり、のほほんと口を開く。リラックスしている雨音の身体は意外にも軽く感じられたユメノ。対して彼女も足湯の虜になったのかぐでーんと机に突っ伏し、満足気の表情をしていた。

 「今日限りは致し方ないねぇ」

 こちら、双子の方はというと、友里亜がここに来るまでに手に入れた観光案内雑誌を読んで、これ何?とかどんなところ?とかを話していた。友里亜は丁寧に一つ一つ説明していたが、不意にお隣に座っていたお兄さんに声をかけられた。

 「お嬢ちゃんたち、観光?この街は結構、観光スポット多いからね」

 友里亜は丁寧に声の主を見た。双子はへー、そうなんだと軽く反応している。先程までリラックスしていた、ユメノと雨音は姿勢を正し、声がした方を見た。

 「ええ、まぁ……。そんな感じです」

 さすがのユメノは旅人ですとは言わなかった。今日は緩くいこうと決めたばかりなので、とりあえず観光客を装うことにした。逆に言わない方がいいのではないかとさえ思ったらしい。

 「変わったメンバーだけど子供会か何か?まあ、俺には特に関係ないけど」

 微笑んだ。前髪の位置を整えながら。そう言われればそうだ。年齢も性別もバラバラな集団が観光というのも変な感じだった。幸いにも、お兄さんは興味が無さそうでよかった。

 これ以上このお兄さんとは関わらないだろうと考えたユメノは再び机の上に突っ伏したその時、双子が動き出した。お兄さんを逃がさないように、両隣に座り、腕にまとわりついていた。

 「イケメンなお兄さんはこの街の人?」

 「イケメンなお兄さんはこの街に詳しい人?」

 なんだか嫌な予感がしたが、ユメノは足湯の気持ちよさに、未だ心を奪われていた。雨音も双子を余所目に先程の雑誌をぱらぱらめくっている。友里亜はまるで双子の保護者であると言わんばかりに双子の傍にいた。

 「イケメン?ありがとう。君たち双子もずいぶん美しいよ。うん。そうだよ。俺はこの街に住んでいる。この街に詳しいよ。その雑誌に載っているところは全部案内できる」

 ぴくっとした。雨音と友里亜が一斉にお兄さんの方を見る。獲物を逃さないといった眼差しを向けている。二人とも顔立ちが整っているためか、動作一つ一つが美しく見える。

 「お兄さん。この後時間あるかしら?」

 「是非とも観光案内を頼みたいのですが」

 ああああああ。そんな気はしてた。雨音も友里亜さんも一度こうと決めたものはなかなか曲げないからこれはお兄さんを巻き込んでしまうぞぉぉぉ。

 ユメノがばれないようにため息をついている傍らでお兄さんは首を少し傾けて、モデルのような雰囲気を醸し出した。それがまた、美しかった。

 「そんな美しい女性たちに頼まれては断れません。いいでしょう。どこに行きたいんだい?」

 ここです!と雑誌に指さしている雨音と友里亜。すぐにお兄さんの顔を窺い、お願いできるかしらという目線を向けている。オルゴール館とお洒落なガラス細工のお店。

 「オルゴール館とガラス細工ね。おっけ、どっちもバスで行ける範囲だよ……と。うん?」

 お兄さんは足を拭き立ち上がる。すると服の裾を誰かに引っ張られた。それはユメノであった。彼女は雑誌の写真を指差して顔をそらしている。お兄さんはくすっと笑い可愛いものを見る目で口を開いた。

 「今の時間からだと難しいから、明日時間があるなら行くかい?」

 明日から本格的に旅を再開する……予定だったが、双子も行きたいと言っていることと、雨音と友里亜もいいんじゃない?思い出作りで、と納得していることからユメノも妥協し、明日も観光することとなった。

 ユメノが何も言わずにこくんとうなずいたのを見ると、お兄さんはよし行こうかと呟いて、再び前髪を整えた。

 


 バスに揺られること二十分。現在の時刻は午後十五時二十分。

 「さあ、ここから少し歩くけど、迷子にならないようにな」

 お兄さんは優しくも歩くスピードを落としてくれている。雨音と友里亜ははぐれまいとお兄さんのすぐ傍を歩く。ユメノは双子に挟まれた状態で手を握って少し離れて歩いていた。

 「ここがオルゴール館か……。一度来てみたかったのよね」

 雨音が来たかった場所、オルゴール館にようやく到着した。ここでは展示物から売り物まで揃う館なのだ。お土産にももちろん人気だが、自分用に買っていく女性が後を絶たないらしい。中でも男性がプロポーズと共に女性に渡したいものランキング一位なのだ。店内はシックな作りで、外の騒音を一切遮断した世界となっていた。オルゴールの心地よい音が所々で流れている。

 「これにしようっと」

 雨音は気に入ったものを手に取り、レジの方へと進んでいく。

 私は相変わらず双子を連れて、館内を見て、聴いて回っていた。そんな中、聞き覚えのあるメロディーが流れてきた。流れてきた方向に振り向くとひと際大きなオルゴールが懐かしいメロディーを奏でていた。ユメノはくぎ付けとなり、リズムに合わせて、口ずさむ。

 「おお、お嬢ちゃん。この歌を知っているのかい?今どきの若い子には知られていないと思っていたが……」

 声をかけてきたお爺さんはどうやらユメノと同じお客人であった。

 「ええ。母がよく歌ってくれたものですから。星座の歌というのは分かるんですけど題名が分からないんです……」

 少し残念そうな顔をしたユメノの顔を見たお爺さんがオルゴールの入ったお土産袋をユメノに手渡した。そしてゆっくり微笑むと再びひと際大きなオルゴールを見た。

 「先に旅だった婆さんのために買ったのだがこれはどうやら君が持っていた方がいい」

 「え、いや、そんな、申し訳ないです。えっと、奥様に渡すべきですよ」

 ユメノは丁寧にお返ししたがお爺さんは受け取ってはくれなかった。ただ、静かに微笑んでいる。

 「一つ、話を聞いておくれ」

 お爺さんは遠い目をする。ユメノは無理に返すことをやめ、話を聞くことにした。

 


 五十年も前のこと。わしと婆さんは子どもが出来ない中でお互い三十代になっていた。その時にな、村に不思議な力を持っている女がいるという噂が流れてな。どこからともなく現れたカルト教団が村の女どもをさらっていったんじゃ。どうすることもなかったわしら村の男は途方に暮れていた。しかし、数日後、何事もなかったように村の女たちが帰ってきたんじゃよ。みんな無事だったんじゃ。しかしもっと驚くことに、カルト教団を追い払ったんは当時九歳の女の子じゃったんじゃよ。不思議な力で追い払ったとか。婆さん曰く……。

 今思えば彼女がカルト教団の狙っておった女だったってことだろうな。さて、その不思議な力とはどうやら星座の力だったらしいんだが、知名度の低い星座でな。当時誰も把握していなかった星座で、うむ。なんじゃったかな。蛇という言葉が入っていたんじゃが……。すまないね。ちょっと思い出せんわ。それで、わしらも含めて村の連中は少女に感謝を告げるために歌を作ったんじゃ。星座の歌を……。その少女は嬉しそうにその歌を歌ってくれて、わしらも嬉しかった。



 お爺さんは話を聞いてくれてありがとうと言って、ユメノより先にオルゴール館を後にした。先に進んでいた双子がひと際大きいオルゴールに見惚れていたユメノを迎えに来てくれた。

 「ユメノおっそーい」

 先に館から出ていた雨音は先程購入したオルゴールを大切そうに鞄にしまい込んでいた。

 「まさかユメノさんが迷子になったのではないかと心配したんですよ」

 友里亜は少し心配気味にユメノの顔色を窺った。

 「ごめんなさい。魅力的なオルゴールに見惚れちゃって」

 「これで全員そろったな。よし、バス停に向かおうか」

 お兄さんは人数確認をし、バス停まで誘導してくれた。

 バスの中で先程のお爺さんの話をしてみるとみんな興味津々に聞いてくれたが、お兄さんは話を聞き終えるまで始終何かそわそわしていた。何度も何度も窓に映る自分の姿を確認するかのように。



 「さて、ここが友里亜ちゃんの来たかったガラス細工のお店だよ」

 バスを降りてすぐ、目の前にその店があった。来店してみると、透き通るようなガラスで作られた物が沢山売られていた。ユメノたちが店内を眺めていると、友里亜は目的のものを手に取り、宅配サービスの方に迷いなく歩いて行った。

 お勘定近くに貼られてるチラシには『天文学 zodiac』と書かれていて、ユメノの気を引く何かがあった。

 「天文学者のフェニックス……」

 チラシに書かれている人の名前を読んでみるとすでに目的を済ました友里亜が迎えに来た。

 「お待たせ。さあ、行こうか」

 店を出ると先程と同じようにお兄さんが人数確認をしてくれた。



 お兄さんはユメノたちを宿まで送り届けてくれた。きちんとお礼を言い、明日、何時に待ち合わせるか決めた。

 夜も遅く双子がすでにうつらうつらしていたので、雨音が連れて、先に部屋に戻っていった。話すことももうないので、お兄さんも帰ろうとした時だった。

 「待ってください。お兄さん。あなた、『天秤宮』の方ですよね」

 友里亜は先程とは打って変わっての表情になっていた。確信があるかのように。目の前のお兄さんの秘密を握っているかのように。

 お兄さんは答えない。ただまっすぐに友里亜を見つめ返した。いや、睨み返したのである。ユメノだけが、何事か分からないままその場に立ち尽くしている。

皆様は見知らぬ方に観光案内を頼まないでくださいね。物を貰わないでくださいね。

さて、じつはじつはの話でありますが、この物語を考えている間、テレビで足湯の映像が流れていたためにふと、物語に組み込んでみました。そして、オルゴール館ですが、こちらは私が北海道に行ったときに友人とふらりと足を踏み入れた店をモデルに考えてみました。

イケメンなお兄さんは一体何を考えどのように動くのか、今後楽しみにしていただければ幸いです。

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